日本ではすべての国民が社会保険や国民健康保険などの医療保険に入り、病気や事故にあった際の高額な医療費の負担を軽減する保険制度がとられています。
社会保険と国民健康保険の加入条件などの違いは何なのでしょうか。
当記事では、社会保険と国民健康保険の違いについて、さらに切り替えの方法について詳しく取り上げます。
目次
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
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1. 社会保険・国民健康保険のおさらい
社会保険と国民健康保険とは、それぞれどのような保険制度なのでしょうか。
「社会保険」とは、厚生年金保険、健康保険、介護保険を総称した保険制度を指します(さらに雇用保険・労災保険を加えて「社会保険」と総称することもあります)。一定の条件を満たした企業勤めの方は、加入が義務付けられています。
「国民健康保険」とは、上記の社会保険に加入していない方を対象とした医療保険制度を指します。
以下からは、社会保険と国民健康保険を比較した際の違いについて詳しく解説していきます。
関連記事:社会保険とは?代表的な4つの保険と今さら聞けない基礎知識
2. 社会保険と国民健康保険の違い
社会保険と国民健康保険とでは、以下の5つの違いがあります。
- 運営者の違い
- 含まれる保険の違い
- 加入条件の違い
- 扶養の有無の違い
- 保険料の計算方法と金額の違い
これらの違いを理解しておくと、それぞれにどのようなメリットがあるのかを理解しやすくなるでしょう。
では、社会保険と国民健康保険の違いを詳しくみていきましょう。
2-1. 運営者の違い
社会保険と国民健康保険の大きな違いのひとつは、運営者です。
社会保険の場合、運営者は全国健康保険協会や会社の健康保険組合となります。これらの団体に加入して社会保険の保険証を受け取ることができます。
一方、国民健康保険の場合、運営者は都道府県や市区町村です。
2-2. 含まれる保険の違い
社会保険と国民健康保険では、含まれる保険の内容が違います。
そもそも、「社会保険」という言葉は、2つの意味合いで用いられることがあります。
広義の意味での「社会保険」は、健康保険、介護保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険が含まれた総称のことです。
一方で健康保険、厚生年金保険、介護保険のみを「社会保険」と総称することもあり、こちらは狭義の「社会保険」といわれています。
「国民健康保険」に関しては、社会保険の健康保険と介護保険にあたるものであり、厚生年金保険、雇用保険、労災保険は含まれていません。
国民健康保険はけがや病気になった場合に業務上・業務外という区別をおこなわないため、保険適用のけがや病気であれば、仕事中に発生したものにも使うことができます。
また、国民健康保険には年金保険が含まれていないので、国民年金に加入することになります。
2-3. 加入条件の違い
社会保険と国民健康保険は加入条件も異なります。
適用事業所に雇用されている正社員であれば、全ての従業員が社会保険に加入することになります。
短期労働者に関しても、一定の条件を満たすと社会保険の加入対象となります。
一方、「正社員として雇用されていない」、「短期労働者の加入条件を満たしていない」、「自営業である」などの理由で社会保険に加入できない場合は、国民健康保険に加入する必要があります。
また、2022年の10月には社会保険の適用拡大がおこなわれました。社会保険の加入条件に変更が発生するので、不安な方は変更点をしっかりと把握しておきましょう。
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2-4. 扶養の有無の違い
社会保険と国民健康保険とでは、扶養に関する概念が異なります。
狭義の社会保険では、「扶養」という考え方があり、配偶者や子供がいても保険料は被保険者本人の分だけ支払えば問題ありません。被保険者の配偶者や子供は、条件を満たせば基本的に費用をかけずに健康保険に加入できるのです。
一方で、国民健康保険では、扶養という考え方はありません。加入している被保険者一人ひとりが、自分の保険料を支払わなければならないのです。
そのため、夫婦で国民健康保険に加入している場合、社会保険では扶養となる条件だったとしても、保険料は二人分支払う必要があるので、世帯として支払う保険料は高くなります。
2-5. 保険料の計算方法と金額の違い
社会保険と国民健康保険は保険料でも違いがあります。
狭義の社会保険の保険料は、標準報酬月額と社会保険料の料率によって決定され、社会保険料は会社と従業員が折半して支払うことになります。
しかし、国民健康保険の場合には、別の方法で保険料を計算します。
国民健康保険の保険料は、加入者の医療費にかかる保険料、後期高齢者支援、介護納付という3つの金額を考慮して決定されます。
国民健康保険の保険料は市区町村のホームページなどで計算方法を確認することができます。
3. 企業側がおこなうべき社会保険・国民健康保険の切り替え方法
社会保険と国民健康保険では、切り替えが発生することがあります。
例えば、社会保険に加入していた従業員が脱サラして自営業をおこなうケースは、国民健康保険への加入が必要となります。
一方で、アルバイトで生計を立てていた人が、就職して社会保険に加入するのであれば、国民健康保険からの切り替えが必要となります。
まず、企業側で対応が必要な社会保険と国民健康保険の切り替え方法についてみていきましょう。
3-1. 国民健康保険から社会保険への切り替え
企業は、一定条件を満たした入社する従業員に対しては、社会保険の加入手続きをおこなう必要があります。
具体的には、入社日から5日以内に管轄の年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出することが求められます。新たに被保険者となる従業員に扶養家族がいる場合には、「健康保険被扶養者(異動)届」も提出しなければなりません。
3-2. 社会保険から国民健康保険への切り替え
ある従業員が退職したり、配偶者の扶養から外れて社会保険への加入ができなかったりする場合、社会保険から国民健康保険への切り替えが必要となります。
従業員が社会保険の被保険者の資格を失った場合、企業側は資格を失った翌日から5日以内に、健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届を年金事務所に提出しなければなりません。
そして被保険者と扶養家族の保険証を返却します。
企業側は、社会保険資格喪失証明書を発行しなければなりません。国民健康保険への切り替えをする際に必要なので、ミスなく発行手続きをおこないましょう。
4. 従業員側がおこなうべき社会保険・国民健康保険の切り替え方法
ここからは、社会保険・国民健康保険の切り替えをおこなう際に従業員側で必要な手続きについて解説します。
手続き方法について、従業員に伝えられると親切でしょう。
4-1. 国民健康保険から社会保険への切り替え
企業に就職し、社会保険への加入が認められた場合には、住民票のある市区町村役場にて、に行き、国民健康保険脱退の手続きをおこなう必要があります。
さらに、入社する企業に対して年金手帳とマイナンバーが確認できる書類を提出します。
4-2. 社会保険から国民健康保険への切り替え
社会保険の脱退に関しては、企業側で対応しなくてはなりませんが、国民健康保険への加入は従業員が自分でおこないます。
通常は、退職後14日以内に手続きをすることが推奨されています。
社会保険資格喪失証明書は発行申請をしなければ発行してもらえないため、企業に希望を出すようにしましょう。
勤務先もしくは勤務していた企業に申請する方法のほかに、年金事務所か年金事務センターに「健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失等確認請求書」を提出することで、「健康保険被保険者資格取得・資格喪失等確認通知書」を交付してもらうことができます。
申請方法は年金事務所の窓口で申請するか、年金事務センターに郵送で申請する方法があります。
社会保険を切り替える際にポイントとなるのは、できるだけ早く手続きをおこなうことです。
健康保険の加入状況に空白が生じると、その分の医療費を返還しなければならない可能性もあります。
参考:健康保険の資格喪失証明等が必要になったときの詳細説明|日本年金機構
5. 社会保険と国民健康保険の二重加入に注意
社会保険と国民健康保険の切り替え手続きをおこなっていなかった場合、社会保険と国民健康保険の二重加入をしてしまう場合があります。
二重に入っていることで二重の保険料を支払わなくてはならなくなるため、社会保険の資格喪失をした場合は企業が速やかに手続きをおこないましょう。
5-1. 国民健康保険を滞納したまま(未払い)社会保険への加入は可能?
結論からお伝えすると、国民健康保険を滞納したまま、社会保険に加入することは可能です。とはいえ、未払い分は支払わなければいけません。
支払い能力があると判断された場合、給与が差し押さえられる可能性もあるため、滞納分はしっかりと支払うようにしましょう。
関連記事:社会保険の滞納により発生する問題や対策を詳しく解説
5-2. 国民健康保険と社会保険を二重払いした際の返金をしてもらうには?
国民健康保険と社会保険を二重に支払ってしまった場合には、過払い分は返金されます。
過払いが生じると、しばらくすると「還付通知書」が届きます。振り込まれるまでにも1ヵ月程度かかり、振込後に通知されることはないため留意しておくとよいでしょう。
6. 社会保険の任意継続制度とは?
社会保険に加入していた従業員は、退職後も任意継続制度を利用して社会保険に加入し続けられる可能性があります。
では、社会保険の任意継続制度についてみていきましょう。
6-1. 社会保険の任意継続制度
社会保険の任意継続制度とは、従業員の希望によって退職後も条件付きで社会保険に継続加入できるという制度です。
社会保険の任意継続制度を利用するためには、2つの条件があります。
ひとつは、社会保険の資格喪失日までに、被保険者としての期間が継続して2ヵ月以上であることです。
もうひとつは、資格喪失日から20日以内に任意継続被保険者資格取得申出書を提出することです。
これらの条件を満たした場合に、最長で2年まで社会保険に加入し続けることができます。
6-2. 社会保険の任意継続制度を利用するメリット
社会保険の任意継続制度を利用すると、いくつかのメリットがあります。
ひとつは、それまで社会保険で受けていた恩恵を退職後もそのまま受けられる点です。
とくに扶養家族がいる場合には、保険料がひとり分で済む点もメリットといえます。
さらに、転職の際の無保険状態を避けるのにも有効です。
加えて、社会保険料を算出する標準報酬月額には上限があるので、場合によっては国民健康保険よりも保険料が安くなる可能性があります。
6-3. 社会保険の任意制度を利用するデメリット
社会保険料の任意制度を利用すると、メリットの一方でデメリットも生じる可能性があります。
まずは、保険料全額が自己負担となってしまう点です。さらに、2年間継続する義務があるため、自己都合でやめることができない点も挙げられるでしょう。
とはいえ、国民健康保険も全額負担であるため一概に負担が大きくなるとはいえないでしょう。
7. 社会保険と国民保険の違いを正しく理解しましょう
社会保険と国民健康保険には、保険料や加入条件などにさまざまな違いがあります。
社会保険と国民健康保険を切り替える際には、従業員側も雇用企業側も手続きが必要であることを覚えておきましょう。