日本ではすべての国民が社会保険や国民健康保険などの医療保険に入り、病気や事故にあった際の高額な医療費の負担を軽減する国民皆保険制度がとられています。
では、社会保険と国民健康保険にはどのような違いがあるのでしょうか。
当記事では、社会保険と国民健康保険の仕組みや加入条件の違いについて、さらに切り替えの方法や二重払いの還付対応についても詳しく取り上げます。
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
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目次
1. 社会保険・国民健康保険のおさらい
社会保険と国民健康保険とは、それぞれどのような保険制度なのでしょうか。
1-1. 社会保険・国民健康保険の種類と加入対象者
「社会保険」とは、厚生年金保険、健康保険、介護保険を総称した保険制度を指します(さらに雇用保険・労災保険を加えて「社会保険」と総称することもあります)。一定の条件を満たした企業勤めの方は、加入が義務付けられています。具体的には、会社勤めのサラリーマンや加入条件を満たすパート・アルバイト従業員が加入する保険制度です。また、社会保険は配偶者や三親等以内の親族も加入することもできます。
「国民健康保険」とは、上記の社会保険に加入していない方を対象とした医療保険制度を指します。国民健康保険に加入するのは、自営業や年金受給者などです。
社会保険・国民健康保険の種類と加入対象者は以下の表を参考にしてください。
種類 | 主たる加入対象者 | |
社会保険 (健康保険) |
協会けんぽ | 中小企業の従業員とその扶養家族 |
組合健保 (組合管掌健康保険) |
大企業の従業員とその扶養家族 | |
共済組合 | 公務員や私立学校の教職員とその扶養家族 | |
国民健康保険 | 市町村国保 | その地域(特別区を含む)に住む社会保険加入者および、国保組合加入者以外の人 |
国保組合 (国民健康保険組合) |
個人事業所を対象に、同種の事業や業務に従事する人とその家族 | |
後期高齢者医療制度 | 75歳以上の人、または65歳以上75歳未満で一定の障害を抱える人 |
1-2. 社会保険は企業にも加入条件がある
社会保険は、企業にも加入条件があります。企業が社会保険に加入していなければ、当然のことながら従業員も社会保険に加入することはできません。
まず、すべての企業は、国が指定した保険への加入義務を果たさなくてはなりません。
保険に加入した企業のうち、社会保険の適用を受けるところを「適用事業所」と呼び、以下の2種類に分けられます。
- 強制適用事業所:社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられた事業所
- 任意適用事業所:強制適用事業所に該当せず、厚生労働大臣(日本年金機構)の認可を受けて社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入した事業所
強制適用事業所は、常時5人以上の従業員を使用する事業所に適用され、以下の事業をおこなっている必要があります。
・製造業
・木建築業
・鉱業
・電気ガス事業
・運送業
・清掃業
・物品販売業
・金融保険業
・保管賃貸業
・媒介周旋業
・集金案内広告業
・教育研究調査業
・医療保健業
・通信報道業
・士業など
・常時、従業員を使用する国、地方公共団体または法人の事業所
「強制適用事業所」に該当しない事業所でも、以下の条件に対応できれは「任意適用事業所」となることが可能です。
- 従業員の半数以上が適用事業所となることに同意している
- 事業主が事務センターまたは管轄の年金事務所で申請をおこなう
なお、「任意適用事業所」の場合は、健康保険と厚生年金保険のどちらかひとつだけ加入することもできます。
従業員の社会保険加入条件については、このあと解説します。
関連記事:社会保険とは?代表的な4つの保険と今さら聞けない基礎知識
2. 社会保険と国民健康保険の違い
社会保険と国民健康保険とでは、以下のような違いがあります。
社会保険 |
国民健康保険 |
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運営者 (保険者) |
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含まれる保険 |
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加入条件 |
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扶養の有無 |
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保険料の計算 方法と金額 |
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給付条件 |
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その他 |
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社会保険と国民健康保険の違いを理解しておくと、それぞれにどのようなメリットがあるのかを理解しやすくなるでしょう。
では、社会保険と国民健康保険の違いを、特に重要な5つの項目にフォーカスして詳しくみていきましょう。
2-1. 運営者の違い
社会保険と国民健康保険の大きな違いのひとつは、運営者です。
社会保険の場合、運営者は全国健康保険協会や会社の健康保険組合となります。これらの団体に加入して社会保険の保険証を受け取ることができます。
一方、国民健康保険の場合、運営者は都道府県や市区町村です。
2-2. 含まれる保険の違い
社会保険と国民健康保険では、含まれる保険の内容が違います。
そもそも、「社会保険」という言葉は、2つの意味合いで用いられることがあります。
広義の意味での「社会保険」は、健康保険、介護保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険が含まれた総称のことです。
一方で健康保険、厚生年金保険、介護保険のみを「社会保険」と総称することもあり、こちらは狭義の「社会保険」といわれています。
「国民健康保険」に関しては、社会保険の健康保険と介護保険にあたるものであり、厚生年金保険、雇用保険、労災保険は含まれていません。
また、国民健康保険には年金保険が含まれていないので、国民年金への加入も必須です。
2-3. 加入条件の違い
社会保険と国民健康保険は加入条件も異なります。
適用事業所に雇用されている74歳までの正社員であれば、全ての従業員が社会保険に加入することになります。
短期労働者に関しても、一定の条件を満たすと社会保険の加入対象となります。
社会保険(健康保険)の加入条件は以下の通りです。
- 社会保険(健康保険)の加入対象
- 週の所定労働時間が20時間以上であること
- 賃金月額が月8.8万円以上であること
- 2ヶ月以上雇用されることが前提であること
- 学生でないこと
- 従業員101名以上の企業で働いていること
なお、法改正により、2024年10月から社会保険の加入条件が変更になります。従業員数「101人以上」から「51人以上」の企業が加入対象になるので注意が必要です。この場合の従業員数とは、加入条件を満たした被保険者数のことを指します。
一方、「正社員として雇用されていない」「短期労働者の加入条件を満たしていない」「自営業である」などの理由で社会保険に加入できない74歳以下の方は、国民健康保険に加入しなくてはなりません。
また、2024年の10月からは社会保険の適用範囲が拡大されます。社会保険の加入条件が変更されるので、不安な方は変更点をしっかりと把握しておきましょう。
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2-4. 扶養の有無の違い
社会保険と国民健康保険とでは、扶養に関する概念が異なります。
狭義の社会保険では、「扶養」という考え方があり、配偶者や子供がいても保険料は被保険者本人の分だけ支払えば問題ありません。被保険者の配偶者や子供は、条件を満たせば基本的に費用をかけずに健康保険に加入することが可能です。
一方で、国民健康保険には、扶養という考え方はありません。加入している被保険者一人ひとりが、自分の保険料を支払う必要があります。
そのため、夫婦で国民健康保険に加入している場合、社会保険では扶養となる条件だったとしても、保険料は二人分支払う必要があるので、世帯として支払う保険料は高くなります。
社会保険の被扶養者の範囲と、収入の基準は以下の通りです。
被扶養者の範囲 |
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被扶養者の収入の基準 |
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2-5. 保険料の計算方法と金額の違い
社会保険と国民健康保険は保険料でも違いがあります。
社会保険(健康保険)の保険料は、標準報酬月額と社会保険料の料率によって決定され、社会保険料は会社と従業員が折半して支払うことになります。
しかし、国民健康保険の場合には、世帯単位で保険料を計算します。そのため、保険料には被保険者の人数・収入・年齢が反映されます。
また、国民健康保険の保険料は、加入者の医療費にかかる保険料、後期高齢者支援、介護納付の3つで構成されることを覚えておきましょう。
国民健康保険の保険料は市区町村のホームページなどで計算方法を確認することができます。
なお、令和5年度の世田谷区の国民健康保険料の計算方法は、下記の通りです。
令和5年度世帯の国民健康保険料の計算方法
区分
所得割額
均等割額
1.基礎(医療)分(最高限度額65万円)
加入者全員の賦課基準額×7.17%
加入者数×45,000円
2.支援金分(最高限度額22万円)
加入者全員の賦課基準額×2.42%
加入者数×15,100円
3.介護分(最高限度額17万円)
40歳~60歳の方の賦課基準額×2.30%
40歳~60歳の方の加入者数×16,200円
3. 企業側がおこなうべき社会保険・国民健康保険の切り替え方法
社会保険と国民健康保険では加入条件が異なるため、それぞれへの切り替えが発生することがあります。
例えば、社会保険に加入していた従業員が会社を退職して自営業をおこなうケースでは、国民健康保険への加入が必要となります。
一方で、アルバイトで生計を立てていた人が就職して社会保険に加入するのであれば、国民健康保険からの切り替えが必要です。
まず、企業側で対応が必要となる社会保険から国民健康保険への切り替え方法についてみていきましょう。
3-1. 国民健康保険から社会保険への切り替え
企業は、一定条件を満たした入社する従業員に対しては、社会保険の加入手続きをおこなわなくてはなりません。
具体的には、入社日から5日以内に管轄の年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出することが求められます。新たに被保険者となる従業員に扶養家族がいる場合には、「健康保険被扶養者(異動)届」も提出しなければなりません。
3-2. 社会保険から国民健康保険への切り替え
従業員が退職したり、配偶者の扶養から外れて社会保険への加入ができなかったりする場合、社会保険から国民健康保険への切り替えが必要となります。
従業員が社会保険の被保険者の資格を失った場合、企業側は資格を失った翌日から5日以内に、健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届を年金事務所に提出しなければなりません。
そして被保険者と扶養家族の保険証を返却してもらいます。
また、企業側は、社会保険資格喪失証明書を発行しなければなりません。国民健康保険への切り替えをする際に必要なので、ミスなく早急に発行手続きをおこないましょう。
4. 従業員側がおこなうべき社会保険・国民健康保険の切り替え方法
ここからは、社会保険・国民健康保険の切り替えをおこなう際に従業員側で必要な手続きについて解説します。
手続き方法について問い合わせがあった際、従業員に正しい情報を伝えましょう。
4-1. 国民健康保険から社会保険への切り替え
企業に就職し、社会保険への加入が認められた場合には、住民票のある市区町村役場に行き、国民健康保険脱退の手続きをおこなう必要があります。
さらに、入社する企業に対して年金手帳とマイナンバーが確認できる書類を提出します。
4-2. 社会保険から国民健康保険への切り替え
社会保険の脱退は企業側で対応しなくてはなりませんが、国民健康保険への加入は従業員が自分でおこないます。
通常は、退職後14日以内に手続きをすることが推奨されています。社会保険資格喪失証明書は発行申請をしなければ発行してもらえないため、企業に希望を出すようにしましょう。
勤務先もしくは勤務していた企業に申請する方法のほかに、年金事務所か年金事務センターに「健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失等確認請求書」を提出することで、「健康保険被保険者資格取得・資格喪失等確認通知書」を交付してもらうことができます。
申請は年金事務所の窓口か、年金事務センターに郵送で申請するか選択できます。社会保険を切り替える際にポイントとなるのは、できるだけ早く手続きをおこなうことです。
なお、健康保険の加入状況に空白が生じると、その分の医療費を返還しなければならない可能性もあるので注意しましょう。
参考:健康保険の資格喪失証明等が必要になったときの詳細説明|日本年金機構
4-3. マイナ保険証の義務化で切り替え手続きに変更点はある?
マイナンバー法の改正により2024年12月2日から、現行の保険証発行が終了、医療機関へ受診する際はマイナ保険証か資格確認書の提示が必要になります。
※ 猶予期間の間(最長で2025年12月1日まで)は、現行の保険証でも受診可能
それに伴い、保険証の交付はなくなりますが、資格取得・喪失の届け出は依然として必要となるため、注意しましょう。
保険証は従業員の生活に関わるものであり、12月に近づくにつれて問い合わせが増えると予想されます。
労務担当者はあらかじめ変更点を理解しておき、対応方法やよくある質問集などを用意しておくと良いでしょう。
変更スケジュールは当サイトで無料配布している「社会保険手続きの教科書」の資料でも解説しているので、参考にしてみてください。
5. 社会保険と国民健康保険の二重払いを還付する方法
社会保険と国民健康保険の切り替え手続きをおこなっていなかった場合、社会保険と国民健康保険の二重加入となる可能性があります。
退職者の資格喪失手続きをしないと退職者の保険料を支払い続けることになります。後日返金はされますがキャッシュが減少してしまうので速やかに手続きをおこないましょう。
5-1. 国民健康保険を滞納したまま(未払い)社会保険への加入は可能?
結論からお伝えすると、国民健康保険を滞納したまま、社会保険に加入することは可能です。とはいえ、未払い分は支払わなければいけません。
支払い能力があると判断された場合、給与が差し押さえられる可能性もあるため、滞納分はしっかりと支払っておく必要があります。
関連記事:社会保険の滞納により発生する問題や対策を詳しく解説
5-2. 国民健康保険と社会保険を二重払いした際の還付方法とは?
国民健康保険と社会保険を二重に支払ってしまった場合には、過払い分がは返金されます。
過払いが判明した場合、しばらくすると日本年金機構から「還付通知書」が届きます。必要事項を記入して返送すれば、過払い分が返金されます。
ただし、振り込まれるまでに1ヵ月程度かかり、振込後に通知されることはないため留意しておくとよいでしょう。
6. 社会保険の任意継続制度とは?
社会保険に加入していた従業員は、退職後も任意継続制度を利用して社会保険に加入し続けられる可能性があります。
では、社会保険の任意継続制度についてみていきましょう。
6-1. 社会保険の任意継続制度
社会保険の任意継続制度とは、従業員の希望によって退職後も条件付きで社会保険に継続加入できる制度です。
社会保険の任意継続制度を利用するためには、2つの条件があります。
ひとつは、社会保険の資格喪失日までに、被保険者としての期間が継続して2ヵ月以上であることです。もうひとつは、資格喪失日から20日以内に任意継続被保険者資格取得申出書を提出することです。
これらの条件を満たした場合に、最長で2年まで社会保険に加入し続けることができます。
6-2. 社会保険の任意継続制度を利用するメリット
社会保険の任意継続制度を利用すると、いくつかのメリットがあります。
ひとつは、それまで社会保険で受けていた恩恵を退職後もそのまま受けられる点です。特に扶養家族がいる場合には、保険料がひとり分で済む点もメリットといえます。
さらに、転職後の無保険状態を避けるのにも有効です。
加えて、社会保険料を算出する標準報酬月額には上限があるので、場合によっては国民健康保険よりも保険料が安くなる可能性があります。
6-3. 社会保険の任意制度を利用するデメリット
社会保険料の任意制度を利用すると、デメリットが生じる可能性もあります。
任意制度のデメリットは、保険料全額が自己負担となってしまう点です。退職前は保険料を企業と折半していたため、全額自己負担となると大きな負担となるでしょう。
6-4. 社会保険の任意継続と国民健康保険はどっちのほうが負担が少ない?
先述の通り、社会保険の任意継続は全額自己負担になります。そのため、国民健康保険のほうが負担が少ないのでは?と考えてしまいがちですが、国民健康保険も全額負担であるため、どちらのほうが負担が大きいか一概に判断することはできません。どちらのほうが負担が少ないかは、人によって異なるというのが結論です。
なお、以前は任意継続を選択すると2年間は特別な理由がない限り、資格の喪失が認められていませんでした。しかし、法改正に伴い、自己都合により任意継続の資格喪失を喪失することが認められています。資格喪失の条件は以下の6つです。
- 任意継続の被保険者となった日から起算して2年を経過
- 被保険者が死亡
- 被保険者が保険料を未納
- 再就職などにより社会保険(健康保険)の被保険者となった
- 後期高齢者医療の被保険者となった
- 自己都合で資格喪失をしたい(国民健康保険への切り替え希望)
ただし、任意継続の資格を途中で喪失できるのは全国健康保険協会(協会けんぽ)に限られます。健康保険組合の任意継続は途中での資格喪失ができないので注意が必要です。
退職する従業員から、全国健康保険協会(協会けんぽ)と健康保険組合のどちらに加盟しているか問い合わせを受けることもあるかもしれません。自社がどちらに該当するか確認しておき、正しい情報を伝えるようにしましょう。
7. 社会保険と国民健康保険の違いを正しく理解しよう
社会保険と国民健康保険には、保険料や加入条件などにさまざまな違いがあります。
社会保険と国民健康保険を切り替える際には、従業員側も雇用企業側も手続きが必要です。従業員が退職・再就職する場合などは、早めに手続きを進めましょう。
従業員の入退職に伴う社会保険の加入や国民健康保険への切り替え手続きは、企業にとって大きな負担となります。また、手続きの遅れやミスなどが生じやすいのも事実です。
これらの手続きの効率化を図るなら、労務管理システムなどのクラウドサービスの導入がおすすめです。社会保険の加入手続きに必要な情報収集や届出などをクラウド上で完結でき、スムーズな処理が可能となります。
社会保険や国民健康保険の違いを理解するとともに、業務システム・フローなどの見直しも進めていきましょう。