労働基準法には最低賃金に関する定めがあります。しかし、細かい規定は最低賃金法によって定められています。最低賃金以上の給与を支払わなければ違法になり、罰金などの罰則を受ける恐れがあります。この記事では、労働基準法に基づく最低賃金の定義や、最低賃金を下回っていないかの確認方法、法律に違反した場合の罰則について解説します。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 労働基準法における最低賃金とは?
労働基準法には、最低賃金に関する定めがあります。ここでは、労働基準法における最低賃金の定義や、最低賃金の規定に違反した場合の罰則について詳しく紹介します。
1-1. 最低賃金の定義とは?
最低賃金とは、使用者が労働者に支払わなければならない賃金の最低額の基準のことです。なお、労働者には、労働の対価となる賃金が支給されていれば、正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイト、派遣社員なども含まれます。労働基準法第28条に則り、最低賃金に関しては、最低賃金法の定めに従うとされています。
最低賃金法第4条により、使用者には、労働者に最低賃金額以上の賃金を支払う義務があります。また、労働契約で最低賃金に満たない賃金を支給することを定めた場合、その部分は無効になり、無効になった部分は最低賃金が適用されることになります。
(最低賃金)
第二十八条 賃金の最低基準に関しては、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)の定めるところによる。
(最低賃金の効力)
第四条 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
1-2. 最低賃金に含まれる賃金とは?
最低賃金に含まれる賃金は、通常の労働の対価として支給される賃金です。つまり、基本給と諸手当が該当します。一方、最低賃金法第4条に則り、次のような賃金は、最低賃金に含めません。
- 臨時的に支払われる賃金(結婚手当や慶弔手当など)
- 1カ月を超える期間に支払われる賃金(賞与やボーナスなど)
- 所定外労働に対する賃金(残業代や休日割増手当、深夜割増手当など)
- 皆勤手当、通勤手当、家族手当
たとえば、毎月基本給に加算して受け取る住宅手当は、最低賃金に含めて計算することになります。このように、最低賃金には、時間外労働や休日労働などに対する賃金や、特別支給される手当などは含まれないので注意しましょう。
3 次に掲げる賃金は、前二項に規定する賃金に算入しない。
一 一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
二 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
三 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
1-3. 労働基準法における最低賃金に違反すると罰則がある
労働基準法には、最低賃金に違反したことに関する罰則の定めはされていません。一方、最低賃金法に、最低賃金の定めに違反した場合の罰則が細かく記されています。たとえば、従業員に地域別最低賃金以上の給与を支払わなかった場合、最低賃金法第4条に違反することになり、最低賃金法第40条に基づき、50万円以下の罰金の罰則を受ける可能性があります。
最も重い罰則は、最低賃金法第39条に基づく、6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金です。これは、最低賃金法などに違反している事実があったことを労働者が都道府県労働局や労働基準監督署に申告した際に、そのことを理由として当該労働者を解雇するなどの不当な取り扱いをしたときに課せられます。このように、労働基準法に基づく最低賃金の定めに違反すると、最低賃金法に則り、懲役や罰金といったペナルティが課せられるので注意が必要です。
第四十条 第四条第一項の規定に違反した者(地域別最低賃金及び船員に適用される特定最低賃金に係るものに限る。)は、五十万円以下の罰金に処する。
第三十九条 第三十四条第二項の規定に違反した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2. 労働基準法に基づく最低賃金の種類
労働基準法に基づく最低賃金には、次の2つの種類があります。
- 地域別最低賃金:都道府県ごとに異なる(原則毎年改定)
- 特定(産業別)最低賃金:特定の産業が対象
ここからは、それぞれの最低賃金の種類について詳しく紹介します。
2-1. 地域別最低賃金
地域別最低賃金とは、業種に関係なく、各都道府県で定められている最低賃金のことです。最低賃金に地域差が生じてしまうのは、住宅や食料などの生活費の地域差を反映させているからです。
また、地域別最低賃金は、毎年更新されているので、定期的に見直すことが大切です。令和6年度(2024年度)の地域別最低賃金において、最も高いのは東京都の1,163円で、最も低いのは秋田県の951円です。
2-2. 特定(産業別)最低賃金
特定(産業別)最低賃金とは、特定の産業を対象として、地域別最低賃金よりも高い水準の最低賃金を定める必要が認められる産業に対して設定される最低賃金のことです。たとえば、北海道の鉄鋼業で働く労働者に対しては、1,100円の最低賃金が適用されます。
2-3. 最低賃金が2種類以上適用される場合はどうする?
すべての労働者に地域別最低賃金が適用されますが、特定の産業で働く労働者は特定(産業別)最低賃金も適用されることになります。このような場合、最低賃金法第6条に則り、適用を受ける最低賃金額のうち、いずれか高い額が最低賃金として適用されることとなります。
(最低賃金の競合)
第六条 労働者が二以上の最低賃金の適用を受ける場合は、これらにおいて定める最低賃金額のうち最高のものにより第四条の規定を適用する。(省略)
3. 労働基準法に基づく最低賃金の計算方法
最低賃金法第3条に基づき、最低賃金は時間によって定めます。しかし、日給制や月給制を採用している企業も少なくないでしょう。ここでは、労働基準法に基づく最低賃金の計算方法について詳しく紹介します。
(最低賃金額)
第三条 最低賃金額(最低賃金において定める賃金の額をいう。以下同じ。)は、時間によつて定めるものとする。
3-1. 時給制の場合
最低賃金は時間によって定められているため、時給制の場合であれば、示されている最低賃金以上の金額を賃金として支払っていれば違法になることはありません。たとえば、東京都で働く労働者の時給が1,200円であれば、東京都の地域別最低賃金1,163円以上に該当するので、正しく賃金が設定されているといえます。
3-2. 日給制の場合
日雇労働者などには、日給制を採用するケースがあります。最低賃金は時間で定義されているので、日給を時間換算する必要があります。この場合、日給を1日の所定労働時間で割った額が最低賃金以上に設定されていれば違法になりません。
たとえば、日給16,000円、所定労働時間8時間の場合、時給に換算すると2,000円になります。この値が最低賃金以上であれば、その賃金は法律に違反することなく正しく適用されます。
3-3. 週給制の場合
短期アルバイトなどには、週給制を採用するケースもあるかもしれません。週給制の場合も、日給制の場合と同様で、時給に換算して計算をおこないます。この場合、週給を週の所定労働時間で割った額が最低賃金以上に設定されていれば法律の要件を満たします。
たとえば、週給6万円、週の所定労働時間40時間の場合、1時間あたりの賃金は1,500円になります。この金額が最低賃金以上であれば、賃金として有効です。
3-4. 月給制の場合
月給制の場合も、月給を時給に換算して計算をおこないます。月によって所定労働時間が変わる場合、次の式で1年あたりの月平均所定労働時間を計算しましょう。
月平均所定労働時間 = 年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12カ月
その後、次の式によって、1時間あたりの賃金を算出します。
1時間あたりの賃金 = 月給 ÷ 月平均所定労働時間
たとえば東京都で基本給が15万円、職務手当が2万円、合計17万円の月給で、年間所定労働日数が255日、1日の労働時間が8時間だった場合の時給は以下のとおりです。
- 月平均所定労働時間:170時間 = 255日 × 8時間 ÷ 12カ月
- 1時間あたりの賃金:882.3円 = 15万円 ÷ 170時間
この場合、東京都の地域別最低賃金を下回るため、早急に差額を支払い、賃金条件を変更する必要があります。
3-5. 出来高払制ほか請負制の場合
出来高払制ほか請負制を採用している場合も時給換算して計算します。この場合、賃金算定期間(賃金締切期間)における出来高払制ほか請負制で算出された賃金の総額を、総労働時間数で除した値が最低賃金以上であれば、賃金として法律に違反することなく問題ありません。
3-6. 日給制と月給制の組み合わせなどの場合
賃金は日給制、手当は月給制のように、複数の支払方法を組み合わせているケースもあります。そのような場合は、それぞれの時給を算出し、合算した金額が最低賃金以上であれば違法になりません。
4. 労働基準法に基づく最低賃金の適用例外
最低賃金はすべての労働者に適用され、時給換算で最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。しかし、最低賃金には、最低賃金法第7条に基づく減額特例があります。減額特例を用いる場合、条件を満たす範囲で、最低賃金に満たない賃金を支払っていれば違法になりません。
ただし、都道府県労働局長の許可を受けていない場合、最低賃金の減額特例は利用できません。そのため、減額特例を利用する場合、自社を管轄する労働基準監督署長を経由して、都道府県労働局長に特例許可申請書を提出する必要があります。ここからは、労働基準法に基づく最低賃金の適用例外に該当するケースについて詳しく紹介します。
4-1. 最低賃金の減額特例を適用できる労働者
最低賃金法第7条の最低賃金の減額特例は、次のような労働者に対して適用することができます。
- 精神や身体の障害により著しく働く能力が低下している労働者
- 試用期間中の労働者
- 職業訓練を受ける一定の労働者
- 軽易な業務に就く労働者
- 断続的労働に就く労働者
それぞれ適用できる要件や減額率は異なるため、最低賃金法や最低賃金法施行規則などの法律をよく確認して、賃金を設定することが大切です。また、事前に都道府県労働局長の許可が必要な点もきちんと押さえておきましょう。
(最低賃金の減額の特例)
第七条 使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。
一 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
二 試の使用期間中の者
三 職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)第二十四条第一項の認定を受けて行われる職業訓練のうち職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であつて厚生労働省令で定めるもの
四 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者
関連記事:試用期間中の給料設定のルールを徹底解説!最低賃金以下の設定も可能なの?
4-2. 特定(産業別)最低賃金が適用されない労働者
特定(産業別)最低賃金は、特定の産業の基幹的労働者に適用されるため、次のような労働者は適用除外となります。
- 18歳未満又は65歳以上の方
- 雇入れ後一定期間未満の技能習得中の方
- その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方
たとえば、18歳未満の高校生などをアルバイトとして雇用する場合、特定(産業別)最低賃金よりも低い賃金でも問題ありません。また、事前に行政の許可を得る必要もありません。ただし、地域別最低賃金は適用されるため注意が必要です。なお、特定(産業別)最低賃金の適用除外は、最低賃金の減額特例と異なるため、正しく理解を深めておきましょう。
5. 労働基準法に基づく最低賃金に関連する注意点
最低賃金には、ほかにもいくつか気を付けるべき点があります。ここでは、労働基準法に基づく最低賃金に関連する注意点について詳しく紹介します。
5-1. 賃金の支払い方法に気を付ける
賃金の支払いについては、労働基準法第24条「賃金支払いの5原則」で細かく定められています。賃金は、原則として現金で直接労働者に全額を支払わなければなりません。また、毎月1回以上、期日を定めて賃金を支払う義務があります。
そのため、労働者の家族に賃金を支払ったり、3カ月分の賃金をまとめて支払ったりするのは、労働基準法第24条に違反することになります。この場合、労働基準法の罰則規定に基づき、30万円以下の罰金のペナルティを受ける恐れがあるので気を付けましょう。
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(省略)
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。(省略)
関連記事:賃金支払いの5原則とは?違反したときの罰則や例外を詳しく紹介
5-2. 最低賃金に関して従業員にきちんと周知する
最低賃金法第8条に則り、最低賃金の適用がある事業主には、最低賃金に関して、作業場の見やすいところに掲示するなどしたうえで、適切に労働者に周知する義務があります。また、労働基準法では、就業規則などの周知義務も定められているので、あわせて押さえておきましょう。
(周知義務)
第八条 最低賃金の適用を受ける使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該最低賃金の概要を、常時作業場の見やすい場所に掲示し、又はその他の方法で、労働者に周知させるための措置をとらなければならない。
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5-3. 派遣社員には派遣元でなく派遣先の最低賃金を適用する
派遣社員は、派遣元と労働契約を結びますが、派遣先で働くことになります。そのため、派遣元と派遣先のどちらの最低賃金が適用されるのか気になる人も少なくないでしょう。最低賃金法第13条により、派遣労働者には、派遣元でなく、派遣先での最低賃金が適用されるので、正しく理解しておきましょう。
(派遣中の労働者の地域別最低賃金)
第十三条 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第四十四条第一項に規定する派遣中の労働者については、その派遣先の事業の事業場の所在地を含む地域について決定された地域別最低賃金において定める最低賃金額により第四条の規定を適用する。
6. 労働基準法に基づく最低賃金以上の給与を正しく支払おう!
労働基準法に基づく最低賃金は、最低賃金法に従うことになっています。最低賃金には、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金があります。どちらか高いほうの最低賃金以上の賃金を労働者に支払わなければ、違法となり、最低賃金法に基づき罰金などの罰則が課せられる恐れもあります。最低賃金の計算方法を正しく把握し、適切に労働者に給与を支払いましょう。
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