労働者を解雇するには、労働基準法に基づいた方法で対応します。なぜなら「不当解雇」に該当するからです。また、不当解雇によって労働者とトラブルになり訴訟に発展するケースも考えられます。
本記事では、労働基準法に基づく解雇の方法や注意点、解雇をさせる前に企業側が対応することを分かりやすく解説します。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 労働基準法に基づく解雇の方法
企業側は解雇を簡単にはできません。労働者は労働基準法によって守られているからです。ですが労働者を解雇する理由と法律にそった方法であれば、解雇は認められます。
ここでは、労働基準法に基づく解雇の方法を紹介します。
1-1. 解雇する場合は30日前に予告する
労働者は企業から支払われる給与で生活をしています。ですので、突然解雇を宣告されたら生活ができません。
よって、労働者の生活を守るために労働基準法第20条では「解雇する場合は30日前に予告する」ことを定めています。[注1]
解雇の30日前に予告する理由は、労働者が再就職先を探すためであったり、後任に仕事の引き継ぎなどをしたりするためです。
一般的にはトラブルを防ぐため、解雇日、解雇理由、解雇予告通知日などが記載された「解雇予告通知書」を用いて労働者に通知します。
[注1]労働基準法|e-Gov法令検索
1-2. 30日前の解雇なら解雇予告手当の支払いが発生
30日前の解雇予告をせずに解雇をするときは、解雇予告手当の支払いが発生します。理由としては労働者の生活を守るためです。
たとえば、20日前に労働者に解雇を通知した場合、10日分の平均賃金を支払うことで解雇が認められます。
2. 解雇予告手当の計算方法と支払日
解雇予告手当は月給制・時給制で計算方法が異なります。解雇予告手当は基本的に労働者の平均賃金で計算します。
2-1. 解雇予告手当の計算方法・支払日
解雇予告手当の計算方法は、平均賃金×解雇予告期間(30日)を不足した日数で算出します。
また、平均賃金の計算方法は、直近3ヵ月の賃金の合計÷対象期間日数(暦日数)です。
つづいて、月給制の正社員の例を紹介します。
① 正社員のケース(月給制)
正社員の手当を算出する場合について、以下のように仮定してご紹介していきます。
- 月給:30万円
- 解雇される直近3ヵ月の対象期間日数:92日
- 解雇の20日前に予告
平均賃金=90万円÷92日=9,783円
解雇予告手当=9,783円×10日(30日-20日)=9万7,830円
② アルバイトやパートなどの時給制の場合
平均賃金の計算方法は2種類になります。
- 月給制と同じ計算方法
- 直近3ヵ月の賃金総額÷対象期間の実労働日数×0.6
上記2つの計算で金額の大きい方が、平均賃金として計算に使用されます。
計算方法が2種類ある理由は、月給制と同じ計算式だと金額が少なくなり、労働者側に不利益になるからです。
2-2. 解雇予告手当の支払日
解雇予告日 | 解雇予告手当の支払日 |
即日解雇の場合 | 解雇日に支払う |
解雇予告をした場合 | 解雇日までに支払う |
上記の支払い日が、厚生労働省の通達で適切とされています。[注2]
しかし、実際には最後の給与と合わせて解雇予告手当を支払う企業もあります。
ただし支払いが遅れたりすれば、トラブルに発展するかもしれません。最後まで丁寧な対応を心がけましょう。
3. 解雇手当は退職所得
解雇予告手当は退職所得にあたります。よって、退職金と同じく所得税・復興特別所得税の金額が源泉徴収されます。
ですが全額が課税の対象ではありません。退職所得は、以下の計算式で課税されます。
退職所得=解雇予告手当ー退職所得控除額×0.5
なお、退職所得控除額は80万円が最低額のため、源泉徴収の対象になることはまれでしょう。
4. 解雇予告手当の対象外となるケース
解雇予告手当の支払いには、例外として支払いが発生しないケースもあります。
下記2項目に該当する場合、労働基準監督署の認定を受けることで、即時解雇が例外として認められます。このとき解雇予告手当の支払いも発生しません。
4-1. 天災事変・その他やむを得ない事由で事業継続が不可能になった
震災の影響で工場や施設が崩壊し、結果として事業継続が不可能となった場合などにおいては、即時解雇が認められるケースがあります。
なお、労働者を複数解雇することで事業継続が可能であれば、対象外とは認められません。
4-2. 労働者の責に帰すべき事由があるとき
経理担当者が企業のお金を横領したり、経歴詐欺が判明したりした場合には、解雇予告手当の支給対象外となることがあります。
上記以外にも色々なケースが考えられるため、その都度判断する必要があります。
5. 例外的に解雇予告手当を認めない労働者
労働基準法21条では、解雇予告手当を認めない労働者を定めています。理由としては「労働期間が短い」からです。[注1]解雇予告手当対象外の労働者は、以下になります。
- 日雇い労働者
- 2ヵ月以内の期間労働者
- 季節的業務で4ヵ月以内の期間を定めている労働者
- 使用期間中の労働者
これらの労働者は「臨時」で雇用しているため、解雇予告手当の適用が困難です。ですので解雇予告は必要ありません。
[注1]労働基準法|e-Gov法令検索
6. 労働基準法に基づく解雇の種類
企業が労働者に対して行う解雇には3種類あります。それぞれの解雇を分かりやすく説明していきます。
6-1. 普通解雇
普通解雇は労働者側に解雇の原因がある場合に適用されます。普通解雇の主な理由は以下のとおりです。
- 能力不足・成績不振
- 病気やケガによる就業不可
- 協調性の欠落
ただし、普通解雇にあたる正当な理由があったとしても、労働者に対して30日前に解雇予告をしなくてはなりません。
6-2. 懲戒解雇
労働者が重大な過失や規律を犯したときに、制裁として罰するのが懲戒解雇です。具体例を以下にあげています。
- 企業の所有物を勝手に転売していた
- 職場内で暴力行為を行い逮捕された
- 職場内で重大なハラスメントがあった
① 懲戒解雇は労働者に厳しい処分
懲戒解雇をする際、基本的な処分内容は以下のようになります。
- 即日解雇
- 解雇予告手当なし
- 退職金の支給なし
懲戒解雇は労働者にとって厳しい処分であるといえるため、相応の理由がなければ認められることは難しいでしょう。
6-3. 整理解雇
整理解雇は余剰人員の削減を主とした解雇です。労働者に解雇の原因はなく、企業側の都合という点では誰にでも可能性があるといえます。
7. 労働基準法に基づき解雇するときの注意点
企業側が労働者を解雇するときは十分に注意する必要があります。なぜなら、労働者から「不当解雇」として訴訟などのトラブルにつながる恐れがあるからです。
ここでは、労働者を解雇するときの注意点を紹介していきます。
7-1. 解雇できない期間がある
一定の条件にある場合は、労働者を解雇できません。解雇できない事項は、以下になります。
- 仕事中に発生したケガや病気での休業期間(その後30日)
- 産前産後の休業期間(その後30日)
上記に違反して解雇すると解雇無効になることに加えて、法律違反として罰則を受ける可能性があります。[注1]
[注1]労働基準法|e-Gov法令検索
7-2. 要件を満たしていない場合は解雇が無効に
労働契約法第16条では労働者を解雇する際、以下の要件が揃わないと解雇できないと定めています。[注1]
- 客観的合理的な理由
- 社会通念上相当であること
具体的に該当するケースの一例をあげます。
- 信条・国籍・社会的身分を理由とした解雇
- 労働基準監督署に企業の不正を告発したことを理由にした解雇
- 結婚・妊娠・出産を理由とした解雇
- 育児・介護休業を理由とした解雇
以上のようなケースでも、「不当解雇」にあたり解雇が認められません。
7-3. 解雇予告の有無
先述のとおり、労働者を解雇するときは30日前の解雇予告、または解雇予告手当の支払いが必要になります。
8. 解雇する前に労働者を改善させる努力が必要
労働者を解雇するのは企業側としても非常に苦しい決断といえます。できれば労働者に仕事を続けてほしいのが企業の本音でしょう。
ここでは、解雇する前に労働者に対して企業側ができる対応を2つ紹介します。
8-1. 体調不良で休みがちな労働者への対応
体調不良で休みがちな労働者に対しては面談を行い、体調不良の理由を確認しましょう。職場でのストレスが原因、または病気の可能性もあるからです。
ストレスや病気の場合、産業医に相談しながら完治に向けて取り組めば、職場復帰できるかもしれません。
8-2. 社内ルールを守らない労働者への対応
自分勝手な都合で社内ルールを守らない労働者は、企業としては悩みの種です。職場の規律がゆるくなることで、周りにもよくない影響を及ぼします。
体調不良のケースと同じく、面談の回数を増やして丁寧に説明していきましょう。それでも改善がみられない場合、企業側として以下の対応をしておくとよいでしょう。
- 指導記録・面談記録を残しておく
- 労働者の了承のもと、面談内容を音声データとして残す
指導記録や音声データは、労働者を適切に指導した証拠になります。日付や面談者など細かく内容を残しておきましょう。
9. 労働者の解雇は慎重に検討しよう
企業が労働者を解雇するときは、労働基準法に基づき解雇をすすめなければなりません。ですが、現在の日本では労働基準監督署も厳しくなり、安易に解雇ができなくなっています。
解雇は労働者の人生を大きく変化させてしまいます。トラブルにならないよう、法律にそって丁寧に対応していきましょう。
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