労働基準法による平均賃金とは、労働基準法第12条の条文に記載されており、算定期間の賃金総額をその算定期間の暦日数や労働日数などで除した賃金のことです。平均賃金を計算するにあたり、通勤手当や住宅手当といった各種手当は含めるのか、端数処理はどのようにするのかなどの注意点があります。また、平均賃金には最低保障額のルールが設けられています。この記事では、労働基準法の複雑な平均賃金の計算方法をわかりやすく解説します。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 労働基準法の平均賃金とは?
ここでは、労働基準法における平均賃金の意味やその役割・目的について詳しく紹介します。
1-1. 平均賃金とは?
労働基準法の平均賃金とは、労働基準法第12条の条文で定義されており、直近3カ月以内に支払われた賃金の総額をその期間の日数で除した1日あたりの賃金のことです。
第十二条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。
1-2. 平均賃金の役割や目的
労働基準法における平均賃金の役割の一つとして、労働者の生活を保障することが挙げられます。たとえば、年次有給休暇を取得した日を考えてみましょう。もしも、その月の支払われた賃金と日数を基に有給休暇取得日の賃金が支払われる場合、その月にあまり出勤をしていなければ、有給休暇取得日に支払われる賃金は通常と比較して大きく下がってしまいます。これでは生活していけないため、有給休暇を積極的に取得できない可能性が生じます。
平均賃金やその最低保障額を定めることで、特別な事情があっても、一定の賃金が支払われるようになり、労働者を守ることが可能です。このように、平均賃金は従業員の生活を保障することを目的に導入されています。平均賃金は法律で定められているので、企業は正しく算出して支給する義務があります。
2. 労働基準法の平均賃金が必要になるケース
労働基準法の平均賃金は、さまざまなケースで用いられます。ここでは、労働基準法の平均賃金が必要になるケースについて詳しく紹介します。また、最低保障額などのルールが設けられている場合、それについても解説します。
2-1. 解雇予告手当のケース
労働基準法第20条により、企業が従業員を解雇する場合、少なくとも30日前に解雇の予告をしなければなりません。ただし、30日前に解雇の予告をしない場合でも、平均賃金を基に算定した解雇予告手当を支給すれば、即時解雇することが可能になります。
【最低保障額】
- 30日分以上の平均賃金
- 1日あたりの平均賃金を支払うごとに解雇するまでの日数を短縮可能(例. 10日分の平均賃金を支払えば、少なくとも20日前に解雇予告をおこななえばよい)
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。(省略)
② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
2-2. 休業手当のケース
労働基準法第26条により、企業の都合によって休業となる場合、従業員に対して休業補償を支払わなくてはいけません。たとえば、部品調達が間に合わず、生産量を調整するために工場の製造ラインを停止する場合がこれにあたります。休業手当も、労働基準法の平均賃金を基に計算されます。
【最低保障額】
- 1日につき平均賃金の60%以上
(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
2-3. 年次有給休暇手当のケース
年次有給休暇は、労働基準法第39条に定められた労働者の権利です。従業員が有給休暇を取得した場合、法律に従って平均賃金や標準報酬月額を基準に賃金を支払わなければなりません。
⑨ 使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇の期間又は第四項の規定による有給休暇の時間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、それぞれ、平均賃金若しくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金又はこれらの額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した額の賃金を支払わなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その期間又はその時間について、それぞれ、健康保険法(大正十一年法律第七十号)第四十条第一項に規定する標準報酬月額の三十分の一に相当する金額(省略)又は当該金額を基準として厚生労働省令で定めるところにより算定した金額を支払う旨を定めたときは、これによらなければならない。
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2-4. 災害補償のケース
労働基準法の第8章(第75条から第88条まで)では、「災害補償」について記載されています。従業員が業務中にケガや疾病を負ったり、万が一死亡したりした場合に支払われるものを災害補償とよび、次のような種類があります。
- 休業補償
- 障害補償
- 遺族補償
- 葬祭料
- 打切補償
- 分割補償
これらの災害補償を支払う場合も、労働基準法の平均賃金を基に計算されます。
【最低保障額】
- 規定によって異なる(例. 葬祭料は最低でも最低賃金60日分の支給が必要【労働基準法第80条】)
(休業補償)
第七十六条 労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。
関連記事:労働基準法の第76条「休業補償」とは?支給金額や支給期間をわかりやすく解説
2-5. 減給のケース
無断遅刻・欠席や貸出品の紛失などが多い場合、それを防ぐため、減給の定めをしている企業も少なくないでしょう。労働基準法第91条により、減給の規定を設ける場合、平均賃金を考慮して減給額を定めなければなりません。
【減給の制限ルール】
- 減給1回あたりの上限は平均賃金1日分の半額
- 複数回にわたる減給の場合、減給総額の上限は1度の賃金支払期における賃金総額の10%
(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
2-6. 転換手当のケース
労働基準法の平均賃金は、労働基準法以外でも用いられるケースがあります。じん肺法第22条により、従業員が常時粉じん作業に従事しなくなった場合、その日から7日以内に平均賃金を基に計算された転換手当を支給しなければなりません。
このように、平均賃金はあらゆるケースで用いられます。そのため、どのようなケースで平均賃金が必要になるのかを把握したうえで、正しい計算方法を理解することが大切です。
【最低保障額】
- 平均賃金30日分(原則)もしくは60日分(例外)
(転換手当)
第二十二条 事業者は、次の各号に掲げる労働者が常時粉じん作業に従事しなくなつたとき(省略)は、その日から七日以内に、その者に対して、次の各号に掲げる労働者ごとに、それぞれ労働基準法第十二条に規定する平均賃金の当該各号に掲げる日数分に相当する額の転換手当を支払わなければならない。ただし、厚生労働大臣が必要があると認めるときは、転換手当の額について、厚生労働省令で別段の定めをすることができる。
一 前条第一項の規定による勧奨を受けた労働者又はじん肺管理区分が管理三ロである労働者(次号に掲げる労働者を除く。) 三十日分
二 前条第四項の規定による指示を受けた労働者 六十日分
3. 労働基準法の平均賃金の計算方法【原則】
ここでは、労働基準法の平均賃金の原則的な計算方法について紹介します。
3-1. 平均賃金の計算式
平均賃金は、次の計算式により算出することができます。
たとえば、直近3カ月間の賃金総額90万円、その3カ月間の暦日90日であれば、平均賃金は1万円と計算することが可能です。
3-2. 平均賃金の計算の仕方
ここで、「直近3カ月間の賃金総額」や「その3カ月間の暦日」はどのように算定するのか疑問に思った人も少なくないでしょう。
直近3カ月間の賃金総額とは、「算定すべき事由の発生日」から3カ月以内に支払われた賃金のことです。たとえば、8月10日に算定すべき事由が発生したとします。6月10日から8月9日まで(90日間)に支払われた賃金が「直近3カ月間の賃金総額」に該当します。この場合、算定すべき事由が発生した日の前日から起算します。
ただし、賃金締切日を設けている場合は、直前の賃金締切日から起算して計算することになります。たとえば、同様に8月10日に算定すべき事由が生じたとします。給与の締日(賃金締切日)を毎月末日としている場合、5月31日から7月31日まで(92日間)に支給された賃金が「直近3カ月間の賃金総額」に該当します。この場合、賃金締切日の当日も含めるので注意が必要です。
文言上は算定すべき事由の発生した日も含まれると読めますが、その当日は労務の提供が完全になされず賃金も全部支払われない場合が多いので、当日は含めません。なお、賃金締切日がある場合は、算定すべき事由の発生した日の直前の賃金締切日が起算日になります(このときは直前の賃金締切日当日を含めます。)
3-3. 平均賃金の具体的な計算方法
ここからは、次のような休業手当のケースを例に、平均賃金の具体的な計算方法や、実際に支給される金額を紹介します。
- 平均賃金を算定すべき事由:企業の都合による休業
- 平均賃金を算定すべき事由の発生日:8月17日
- 賃金締切日:月末
- 休業手当:原則1日5,000円(就業規則より)
- 5月~7月の期間における賃金支給額などは次の通り
月分 |
期間 |
暦日数 |
賃金支給額 |
5月分 |
5月1日~5月31日 |
31日 |
290,000円 |
6月分 |
6月1日~6月30日 |
30日 |
320,000円 |
7月分 |
7月1日~7月31日 |
31日 |
310,000円 |
合計 |
直近3カ月 |
92日 |
920,000円 |
この場合、賃金締切日(月末)が設けられているため、7月31日から起算して、平均賃金を計算します。直近3カ月の賃金総額は92万円、暦日数は92日であるので、平均賃金は1万円と計算することが可能です。
この企業では1日5,000円の休業手当が支給されることになっています。しかし、平均賃金の60%は6,000円です。労働基準法第26条の休業手当の最低保障額のルールにより、就業規則に記載された休業手当5,000円ではなく、平均賃金の60%である6,000円を支給しなければならないので注意が必要です。
4. 労働基準法の平均賃金の計算方法【例外】
入社してすぐの従業員などは、3カ月間勤務していないので、先ほど紹介した方法では平均賃金を計算することができません。ここでは、労働基準法の平均賃金の例外的な計算方法について詳しく紹介します。
4-1. 入社して3カ月に満たない従業員
新卒社員や中途社員のように、入社して3カ月に満たない従業員の平均賃金は、雇い入れ後の期間から計算します。たとえば、4月入社の従業員の場合で考えましょう。平均賃金を算出しなくてはならない事由が5月15日に起きた場合、4月1日~4月30日(賃金締切日は月末)の1カ月の賃金をもとに平均賃金を算出することになります。
雇入後三箇月に満たない者については、第一項の期間は、雇入後の期間とする。
4-2. 日雇労働者
日雇労働者は、稼動状態の変動が大きく、勤務先が変わるケースも多いため、通常の労働者と区別して平均賃金が算出されます。日雇労働者の平均賃金の計算式は、原則として次の通りです。
なお、この計算式でも平均賃金を算出するのが困難な場合、同種労働者を基準にして平均賃金が計算されます。
日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。
日雇労働者の平均賃金
- 本人に同一事業場で1か月間に支払われた賃金総額÷その間の総労働日数×73/100
- 同種労働者の賃金総額÷その間の同種労働者の総労働日数×73/100(当該事業場で1か月間に働いた同種労働者がいる場合)
5. 労働基準法の平均賃金を計算するときの注意点
ここでは、労働基準法の平均賃金を計算するときの注意点について詳しく紹介します。
5-1. 端数処理にはルールがある
労働基準法の平均賃金を計算する際、端数が生じるケースもよくあります。平均賃金の金額に1銭未満の端数が生じた場合、それを切り捨てて平均賃金とすることが可能です。そして、実際に平均賃金を基に計算された手当を支給する場合、1円未満の端数を四捨五入します。なお、特約がある場合、この限りではありません。このように、平均賃金には端数処理のルールが定められているので、きちんと理解しておくようにしましょう。
5-2. 平均賃金の計算に含めない手当や賃金がある
平均賃金を算出する際の賃金総額には、算定期間のすべての賃金が対象になるので、基本給だけでなく、残業代や割増賃金、通勤手当、住宅手当なども含めます。また、締め日と支払日の関係で、賃金の支払いが遅れている場合、その未払賃金も含めることになります。ただし、次のようなものは除外して計算するので注意が必要です。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当や退職手当など)
- 3カ月を超える期間ごとに支給される賃金(賞与やボーナスなど)
- 通貨以外で支払われる要件を満たしたもの
このように、平均賃金の計算に含める手当と含めない手当があるので、正しく理解を深めておきましょう。
④ 第一項の賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないものは算入しない。
⑤ 賃金が通貨以外のもので支払われる場合、第一項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。
5-3. 平均賃金の算定から除外される期間がある
平均賃金を算出するにあたって、次に該当する日数とその賃金額は除外して計算するので注意が必要です。
- 業務上負傷した場合や疾病にかかり療養した場合の休業期間
- 産前産後休業期間
- 企業の都合により休業した期間
- 育児休業や介護休業に該当する期間
- 試みの使用期間(試用期間)
たとえば、直近3カ月(91日)のうち、企業の都合により休業した期間が10日間あった場合、平均賃金を計算する際の分母は「81日」になります。また、休業期間に賃金が支給されたとしても、その賃金総額は、平均賃金を算出する際の分子から控除します。
前二項に規定する期間中に、次の各号のいずれかに該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前二項の期間及び賃金の総額から控除する。
一 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間
二 産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間
三 使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間
四 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業(省略)をした期間
五 試みの使用期間
5-4. 平均賃金には最低保障額が設けられている
賃金が時間や日単位で支払われる場合や、出来高払制やその他請負制を採用している場合、平均賃金に最低保障額が定められています。通常に計算された平均賃金が最低保障額を下回った場合、最低保障額が平均賃金として用いられることになるので注意が必要です。なお、最低保障額は次の計算式により算出されます。
また、日給制を採用しているけれど、通期手当や住宅手当といった賃金の一部が月単位で支払われるなどの混在しているケースにおける最低保障額は、まず上記の式で日給制の最低保障額を求め、月単位で支払われるものの平均賃金を算出して、それぞれを合算したものになります。
ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない。
一 賃金が、労働した日若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十
二 賃金の一部が、月、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前号の金額の合算額
6. 労働基準法の平均賃金を正しく計算できるようにしよう!
労働基準法の平均賃金は、休業手当や年次有給休暇手当などに支払うべき賃金を算出するために必要になります。平均賃金の計算方法は、その人の勤務期間や労働形態などによって異なります。平均賃金の計算ミスに悩まされている場合、勤怠管理システムや労務管理システムといったITツールの導入を検討してみましょう。
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