災害が発生した際には、さまざまなライフラインや物流がストップしてしまう可能性があります。それに伴う企業の活動も止まってしまうかもしれません。
労働基準法では、災害や緊急事態が発生したときの時間外労働や休日労働についてルールを設けています。今回は、労働基準法第33条で規定されている「災害時の時間外労働等」について解説します。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 労働基準法第33条「災害時の時間外労働等」とは?
労働基準法第33条では、災害時の時間外労働等について定めています。普段であれば残業や休日出勤の時間数には上限が設けられていますが、災害をはじめとした緊急事態の際には制限がなくなるため、例外的に時間外労働や休日労働を依頼できます。
1-1. 普段の時間外労働には36協定の締結が必須
労働基準法第32条では、1日8時間、週40時間までと労働時間に制限を設けています。
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
この制限を超えて時間外労働を依頼するには、労働者と36協定を締結しなければなりません。なお、36協定を締結しているからといって時間外労働を無制限にできるわけではありません。36協定を結んでいても時間外労働には上限があります。
関連記事:36協定とは何かわかりやすく解説!特別条項や新様式の届出記入方法も紹介!
1-2. 労働基準法第33条の条文
労働基準法第33条には、以下のような内容が記載されています。
(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)
第三十三条 災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。
上記の通り、災害などが発生した場合は、1日8時間・週40時間という法定労働時間を超えた労働や、法定休日における労働を命じることが可能です。
基本的には行政官庁の許可が必要ですが、余裕がない場合は、事後に届け出ることも認められています。
2. 労働基準法第33条の対象となる災害
労働基準法第33条の対象となる災害として、以下などが挙げられます。
- 地震
- 津波
- 風水害
- 雪害
- 爆発
- 火災
たとえば、地震によって影響を受けた水道や電気、ガスといったライフラインの復旧作業は労働基準法第33条が適用されるでしょう。また、災害が発生してからの対応だけではなく、差し迫った恐れがある場合であれば事前の対応にも適用されます。天気予報から事前に把握できる台風や雪害が当てはまるでしょう。
2-1. サイバー攻撃への対応も第33条が適用される
労働基準法第33条の対象となるのは災害だけではありません。「災害その他避けることのできない事由」として、事業を運営できないほどの突発的な機械や設備、システムの故障が発生した際も対象となる可能性があります。
たとえば、何者かに攻撃されたことによるサーバーのダウンが挙げられるでしょう。なお、普段から予見できるような修理や、定期的なメンテナンスは労働基準法第33条の適用外となります。そのため、普段からわかっていた修理や定期的に発生しているメンテナンスでは、制限のない時間外労働は認められません。
2-2. 新型コロナウイルスへの対応にも第33条が適用される
労働基準法第33条は災害や機械や設備、システムの突発的な故障に適用されます。これら以外にも、厚生労働省は新型コロナウイルスにも労働基準法第33条が適用可能であることを通達しています。
ただし、対象となり得るのは次のようなケースです。主に病院や医療品メ―カーといった医療分野や介護分野が対象となると考えられます。
- 新型コロナウイルス感染症に感染した患者の治療
- 新型コロナウイルスの感染、蔓延を防ぐために必要なマスクや消毒液などの緊急増産・製造
- 看護が必要となる高齢者がいる施設で新型コロナウイルス感染症対策をおこなう場合
今後も新型コロナウイルスのように、感染症が拡大した場合は、労働基準法第33条の対象となることが予想されます。
参照:新型コロナウイルス感染症の発生及び感染拡大による影響を踏まえた中小企業等への対応について|厚生労働省
3. 労働基準法第33条を適用するときの注意点
労働基準法第33条を適用することで、時間外労働に制限がなくなります。しかし、該当の業務に適用されるかどうかをしっかりと把握しておくことが必要です。それ以外にも、適用にあたっては次のような注意点を覚えておきましょう。
- 労働時間延長・休日労働許可申請書の届出
- 割増賃金の発生
- 適用される業務
- 従業員の健康への配慮
- 安全配慮義務
以下、それぞれのポイントについて解説します。
3-1. 労働基準監督署長に届出をする
労働基準法第33条を適用させるには、労働基準監督署長に「非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働許可申請書・届」を提出して、適用の許可を得る必要があります。
基本的には事前に届け出ることが必要ですが、急に災害などが発生して、許可を得る時間がないケースもあるでしょう。
その場合は、事後に提出することも可能です。労働基準監督署長に届出をせず、36協定も結ばれていないまま不当に時間外労働や休日労働をさせた場合、6ヵ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科せられる恐れもあるので注意しましょう。
3-2. 割増賃金は発生する
従業員が時間外労働や休日労働をした場合、割増賃金が発生します。これは労働基準法第33条が適用される災害時などでも同様です。そのため、労働基準法第33条が適用される状況であっても必ず割増賃金を支払いましょう。
なお、時間外労働に対する割増率は25%以上、休日労働に対する割増率は35%以上です。
関連記事:割増賃金とは?計算方法や残業60時間超の割増率をわかりやすく解説
3-3. 災害時のなかでも必要な業務にのみ適用される
労働基準法第33条では災害時の時間外労働や休日労働を認めていますが、すべての業務に適用されるわけではありません。災害や急な機械のトラブルがあっても、必要範囲内の業務だけに労働基準法第33条が適用されます。必要範囲外の業務において、制限のない時間外労働は依頼できません。
3-4. 従業員の健康に配慮して休憩を与える
労働基準法第33条を適用する場合であっても、休憩については通常通りに付与するのが基本です。しかし、災害や急な機械・設備のトラブルによって時間外労働や休日労働を依頼した場合、その後の健康面に配慮しましょう。必要であれば医師との面談を設けるなど、心身に問題が起きていないかを確認して、経過をみていく必要があります。
3-5. 安全配慮義務を果たす
使用者である企業は、労働者が安全に業務できるようにする安全配慮義務を負っています。これは普段から守るべき義務です。
災害のような緊急事態であれば、なおのこと安全に配慮しましょう。使用者の責めに帰すべき事由でない自然災害であっても、安全配慮義務を怠らないようにする必要があります。実際、東日本大震災で被災した労働者やその遺族が、使用者である企業を安全配慮義務違反で訴訟したケースもあります。
万が一に備えて、自然災害発生時であっても安全配慮義務を果たしましょう。
4. 労働基準法第33条を理解していざというときに備えよう!
今回は、労働基準法第33条に記載されている「災害時の時間外労働等」について解説しました。災害が発生したときは、通常よりも緊急の仕事が増える可能性が予想されます。そのため、同条では災害時の一部の業務に対しては、時間外労働や休日労働の制限を設けていません。また、災害だけでなく、機械や設備の急な故障、新型コロナウイルスへの対応などにも適用されます。
ただし、同条を適用させるには、労働基準監督署長に届出をする必要があります。また、労働基準法第33条に基づき時間外労働や休日労働をさせた場合も、割増賃金を支払わなければなりません。このような対応は、いざというときに必要になる可能性があります。そのため、万が一に備えて、労働基準法第33条について理解を深めておきましょう。
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