固定残業代とは、あらかじめ決められた時間分の残業代を含めて、固定給を支給する仕組みです。
世間でよくある定額制のように、決まった時間を超えても追加で賃金を支払う必要がないといった認識もありますが、それは違法です。では、固定残業代制度にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
本記事では、固定残業代制度を導入する前に会社が知っておきたいメリット・デメリット、導入時のポイントについて解説します。
関連記事:固定残業代について周知の義務や上限など基本を優しく解説
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目次
1. 固定残業代とは?
固定残業代とは、あらかじめ月の残業時間を設定しておき、その時間分の残業代を定額で支払う仕組みです。たとえば、固定残業時間を30時間と設定した場合、実際の残業時間が5時間であっても30時間分の固定残業代を支払う必要があります。逆に、実際の残業時間が35時間になった場合は、5時間分の残業代を追加で支給しなければなりません。
うまく活用すれば残業代の計算を簡略化できますが、労働時間の把握が不要となるわけではないため注意しましょう。
1-1. 固定残業時間に上限はある?
固定残業時間そのものに関する明確な制限はなく、労使間の話し合いにより決定することが可能です。ただし、労働基準法による残業時間の上限規制には注意しなければなりません。
そもそも、1日8時間・週40時間という法定労働時間を超えた残業を命じるためには、36協定の締結が必要です。36協定を締結した場合、月の残業時間の上限は45時間となるため、固定残業時間は45時間以内で設定するとよいでしょう。
2. 固定残業代を導入する会社側のメリット
会社にとって固定残業代制度を導入することで期待できるメリットは3つあります。
- 人件費を的確に把握できる
- 無駄な時間外労働の抑制につながる
- 残業時間の管理コストを抑えられる
それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
2-1. 人件費を的確に把握できる
人件費を把握しやすくなることは、固定残業代の大きなメリットです。基本的に、月や従業員によって残業代は異なるものですが、人件費が大きく変動してしまうと、会社にとっては資金繰りの計画が立てにくくなります。
固定残業代制度を導入すれば、毎月の残業代がどのくらいかかるのか把握しやすくなるでしょう。また、長期的に必要となる人件費を予測しやすくなるため、資金繰り計画や事業計画の精度を高めることも可能です。
2-2. 無駄な残業を抑制し生産性を上げる
従来の賃金制度では、残業をすればするだけ残業代が増えることから、無駄に残業を長くするケースも考えられます。
その点、固定残業代制度を導入すれば、残業代はもともと含まれているため、給与額にあまり変化はありません。早く仕事を終わらせようという意識が生まれ、無駄な残業時間は抑えられ、生産性の低い労働の改善につながるでしょう。
2-3. 残業時間の管理コストを抑えられる
固定残業代制度を導入することで、固定残業時間内であれば残業代を一律計算できるため、管理コストが抑えられるでしょう。ただし、固定残業代制度は残業代を完全に定額にするわけではありません。
想定以上の時間外労働が発生したときは、その分の賃金を支払う必要があります。その場合は各労働者の実労働時間を確認し、それに基づいた割増賃金を計算をしなくてはなりません。
3. 固定残業代制度の導入における3つのデメリット
固定残業代制度の導入には次のようなデメリットもあります。
- 残業代を正しく支払わず違法となる可能性がある
- 残業が少なくても一定の人件費が発生する
- 世間からブラック企業と疑われる可能性がある
各デメリットの詳細は以下の通りです。
3-1. 正しく残業代を支払わないと違法になる
固定残業代制度は、一定の残業時間分の賃金を固定給に加えて支給するものですが、固定残業代の範囲を超えた時間の残業に対する賃金を支払わないと違法になります。
また、求人票の記載内容の見栄えをよくするために、基本給に固定残業代を上乗せした賃金を記載するなど、労働者との間にトラブルが発生する可能性もあります。
固定残業代については会社と労働者の間でトラブルが発生しやすく、裁判に発展することも少なくありません。
そのなかで固定残業代が無効とみなされ、会社にとって以下のような大きなダメージを受ける結果となるケースもあります。
- 賃金未払いとなり、今まで支払った固定残業代は取り返せないまま新たに残業代を支払うことになる(会社にとっては二重払い)
- 今までの固定残業代は基本給と見なされ、残業代計算に必要な基本給の単価が高くなる
- 付加金の支払いを命じられる可能性もあり、最大で未払い残業代の2倍の額を支払う必要がある
- 残業代の消滅時効は5年あり、未払い残業代の請求額は高額になる可能性がある
このようなトラブルを防止するためにも、固定残業代は適切な計算によって算出し、規定しなければいけません。
最低賃金を下回る固定残業代にならないように計算する、労働形態について従業員に理解できるように説明するなどの対処が必要です。当サイトでは固定残業代制の基本を確認したいという方に向けて、「固定残業代制度ルールBOOK|残業代の計算方法や導入する際の注意点を解説!」という無料ガイドブックをお配りしています。
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3-2. 残業が少なくても一定の人件費が発生する
固定残業代を導入すると、仮に残業が少なくても一定の人件費が発生してしまいます。たとえば、固定残業時間を20時間と設定している場合、残業がまったく発生しなかったとしても、20時間分の固定残業代を支払わなければなりません。
残業が少ないからといって固定残業代を減額したり、固定残業時間分の労働を強制したりすることはできないため注意しましょう。
3-3. 固定残業代はマイナスのイメージを持たれやすい
固定残業代制度は以下のような誤解を持たれやすく、固定残業代制度を導入している会社=ブラック企業と誤解されやすいのもデメリットの1つです。
- 月にどれだけ働いても一定の残業代を支給するだけで、それ以上は支給されない
- 業務が多忙で常に残業が発生する
前述の通り、固定残業代制度においては、あらかじめ定めた固定残業時間を超えた分に関して、会社は労働者に割増賃金を支払う義務があります。しかし、従業員や求職者が正しく理解しておらず、一定の残業代しか支給されないと誤解しているケースも多いでしょう。
また、固定残業代に含まれる時間と賃金は明確に記載され、従業員に明示するよう法律で定められています。上記のようなマイナスイメージを与えないためにも、会社は固定残業代制度についてはっきり説明する必要があるでしょう。
4. 固定残業代制度を導入する際のポイント
固定残業代制度には、ここまで解説してきたようにデメリットもあるため、導入に消極的になってしまう会社のあるでしょう。しかし、固定残業代制度について従業員にわかりやすく説明することでマイナスイメージも払拭できますし、トラブルも防げます。
そのためにも固定残業代制度を導入する際は、以下のような要件を押さえておくと安心です。
- 固定残業代制度の導入について従業員との間で合意を得る(個別合意の要件)
- 労働契約における基本給などの定めにおいて、通常労働時間の賃金にあたる部分と割増賃金にあたる部分とが判別できるようにする(明確区分化の要件)
- 固定残業代でカバーされている時間を超えた分の時間外労働について、別途割増賃金を支払うことに従業員の同意を得る(差額精算合意の要件)
以下、その他のポイントを紹介しますので、チェックしておきましょう。
4-1. 雇用契約書などで具体的な金額を明示する
従業員との間で合意を得る場合には、雇用契約書や就業規則などの書面で以下のように明記する必要があります。
- 固定残業代の金額、その金額の計算方法
- 固定残業代に相当する残業時間(最大で月45時間以内)
- 固定残業時間を超えた残業について、超過時間の残業代を支給すること
- 深夜割増残業代と休日割増残業代も固定残業代に含む場合はその旨も明記(別途支払う場合はその旨を明記)
関連記事:固定残業代の45時間超が認められる場合と認められない場合をケース別に解説
4-2. 休日・深夜労働に対する割増賃金に注意する
固定残業代を導入している場合でも、通常の時間外労働だけではなく、休日労働・深夜労働に対する割増賃金を支払わなければなりません。休日労働に対する割増率は35%以上、深夜労働に対する割増率は25%以上です。
割増賃金が発生する条件や従業員ごとの勤怠状況をしっかりと把握し、給与を正しく支給できるように注意しましょう。
4-3. 基本給が最低賃金を下回らないようにする
基本給が最低賃金を下回ることは違法です。固定残業代を除いた基本給は、地域別に決められている最低賃金よりも高く設定しなければなりません。
合計の支給額だけに注目していると、知らないうちに法律に違反してしまう可能性もあります。固定残業代を設定するときは、最低賃金についても配慮するようにしましょう。
4-4. 残業を強制しないようにする
固定残業時間を設定しているからといって、残業を強制できるわけではありません。仕事が早く終わった場合、従業員は残業せずに帰宅することも可能です。
無駄な残業が増えることは、モチベーションや生産性の低下にもつながります。また、残業を強制することでハラスメントになる可能性もあるため十分に注意しましょう。
5. 固定残業代のメリット・デメリットを把握してから導入しよう!
今回は、固定残業代のメリット・デメリットなどを紹介しました。固定残業代は、基本給とは別に一定時間分の残業代を固定給として加えるものです。
ただし、残業代を定額にしても、一定時間を超えた分については別途残業代として割増賃金を支払う必要があります。固定だからといって、超過分を払わなくてよいわけではありません。
従業員との間でトラブルが発生しないためにも、導入の際は固定残業代にどのくらいの時間・金額が含まれているのか、超過した場合は別途割増賃金を支払うことを雇用契約書や就業規則などに明記し、従業員に周知させる必要があります。
トラブルで裁判に発展すると、固定残業代が無効とみなされて2倍近くの賃金を支払わなくてはならないケースもあります。トラブルを未然に防ぐためには、本記事でも解説した要件にあった対応が求められるでしょう。
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