【執筆者】川内 正直 | 株式会社リンクアンドモチベーション 取締役
「『鬼滅の刃』には、キャリアにおける大切な考え方が詰まっている」と力説するのは、株式会社リンクアンドモチベーションで取締役を務める川内正直さん。
そんな川内さんとの『鬼滅の刃×キャリア論』連載企画第四弾のテーマは「リーダー」。
リーダーに求められるポイントは一体何か…。
今回も『鬼滅の刃』のシーンを振り返りながら、リーダーが大切にすべき考え方をお伝えする。
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メンバーの可能性をメンバー以上に信じる
前回までは「若手の成長」をテーマにお話をしてきましたが、今回のテーマは「リーダー」。
『鬼滅の刃』では、若手だけではなくリーダーとして大切にすべき考え方も描かれています。
今回も、『鬼滅の刃』のシーンを振り返りながらお話できればと思っています。
『鬼滅の刃』にはあらゆる人と人との関係性が描かれていますが、その中でも、善逸(ぜんいつ)と善逸の育手(そだて)※であるじいちゃんとの関係性が好きな方は多いのではないでしょうか。
※育手とは…鬼殺隊員を育成する役割
善逸は修行が辛くて、すぐに泣いて逃げてしまうのですが、じいちゃんは何度も何度も逃げ出す善逸を引き止め、叱り、根気よく教え続けていましたよね。
親がいない善逸は、誰にも期待をされることがない人生を送ってきましたが、唯一じいちゃんだけは善逸を見限ることはしませんでした。
メンバーを率いるリーダーにとって、じいちゃんのように「期待をかけ続けること」はとても大切です。
私もこれまで何人ものリーダーを見てきましたが、メンバーを活かせるリーダーは、メンバー以上にメンバーの可能性を信じている人が多かったように思います。
メンバーは、リーダーが思っている以上にリーダーを見ており、リーダーの期待に応えようという想いが成長の原動力になることも多々あるのです。
実際、那田蜘蛛山(なたぐもやま)編で、善逸が鬼に襲われ蜘蛛にさせられそうな絶対絶命な瞬間で思い出したのは、じいちゃんでしたよね。
「善逸極めろ、泣いても良い逃げても良い、ただ諦めるな」(じいちゃん)
じいちゃんの言葉がきっかけで最大限の力を発揮し、見事鬼を斬ることに成功しています。
正直、人はそれぞれ成長速度が異なるので、すぐ芽が出る人もいれば、何年もかかってしまう人もいます。
しかし、“必ず開花するはずだ”とメンバーを信じ続けることは、リーダーにとって大事なスキルではないかと思っています。
タイプに別コミュニケーションを意識する
『鬼滅の刃』を読んでいて、マネジメントが上手だなと思ったのは、胡蝶しのぶさんです。
映画編直前の蝶屋敷での機能回復訓練でのシーンが印象的なのですが、練習に身が入っていない伊之助(いのすけ)と善逸(ぜんいつ)に対して、2人の特徴を上手く捉えながらコミュニケーションをしていましたよね。
負けず嫌いな伊之助に対しては、
「これはまぁ基本の技というか初歩的な技術なのでできて当然ですけれども会得するには相当な努力が必要ですよね。まぁ…できて当然ですけれども仕方ないですできないならしょうがない しょうがない」(しのぶさん)
これに対して伊之助は、
「はあーん!?できてやるっつーの当然に!!」
と大奮起しましたよね(笑)。
逆に女性に応援されると燃えるタイプの善逸に対しては、
「頑張ってください善逸君、一番応援していますよ」(しのぶさん)
と声をかけ、善逸は顔を赤くしながらこれもまた大奮起しています。
このように、相手に合わせてコミュニケーションを変えることは、マネジメントでは重要です。
リンクアンドモチベーションでは、思考・行動・特性を踏まえ、人には大きく4つのタイプがあると考えています。
アタックタイプ (達成支配欲求) |
アタックタイプは、自力本願で強い意志を持ち、成功を収めたい、人の上に立ちたいという欲求を強く持つタイプの人です。 このタイプでは、数字など明確な目標が設定されると強いエネルギーが生まれ、加えて同じ目標を追いかけるライバルがいるとさらに頑張ることができます。 |
レシーブタイプ (貢献奉仕欲求) |
レシーブタイプは、周囲の要求に応え、他者に尽くすことで自分の存在意義を感じるタイプの人です。 このタイプは、ゴールに到達するかどうかよりもそのプロセスで自分が貢献できているかどうかが重要であり、他者から必要とされていると実感するとモチベーションが上がります。 |
シンキングタイプ (論理探求欲求) |
シンキングタイプは、あらゆる物事を分析的に捉え、真理を追求することに喜びを感じる学者肌のタイプの人です。 このタイプは、合理的だと感じられることについては努力できるのですが、逆に理不尽な努力や非合理的な行動にはモチベーションを感じません。 |
フィーリング タイプ (審美創造欲求) |
フィーリングタイプは、想像力や自由な発想に基づいて物事を感覚的に捉えるのが得意なクリエイタータイプの人です。 このタイプは常に新しいことを追い求めるのが好きで、自分の個性を発揮でき、それが認められる環境だとモチベーションが高まります。 |
この4タイプの中で分類すると、伊之助はアタックタイプ、善逸はレシーブタイプです。
しのぶさんは、メンバーの特性を把握したうえで、最適なコミュニケーションを取り、各人の成長促進につなげていたことが分かりますね。
リーダーの失敗例でよくあるのが、「自分が教えられたことをそのまま伝えてしまうこと」です。
自分がこの方法で成功したと分かっているからこそ、よかれと思ってメンバーにも同じ方法で導こうとしてしまうのですが、それは大きな落とし穴です。
当たり前ですが、他人と自分は違います。
まずは、メンバーが4つのタイプのどれに当てはまるのかを知ることから始めてみると良いでしょう。
コロナで増す“情報収集の重要性”
そして、最後にお伝えしたいのが「情報収集」の機会を自らつくることの重要性です。
『鬼滅の刃』の中で、柱は絶対的な存在であり、怖い存在だとも言われていますが、下級生に自ら歩み寄って話しかけるなど親しみやすさも持ち合わせています。
機能回復訓練中の夜、屋根の上で座っていた炭治郎に、しのぶさんが話しかけるシーンもありましたね。
「頑張ってますね、お友達二人はどこかへ行ってしまったのに一人で寂しくないですか?」(しのぶさん)
私はこの会話からしのぶさんは「情報収集をしている」と捉えましたが、これは非常に重要なことです。
そもそもリーダーには4つの機能が求められますが、リモートワークの影響で、重要度と共に“難易度”も高まっているのが「情報収集」です。
情報提供 | 会社の方針などの戦略情報や、自部署の使命・目標など役割情報の提供など |
情報収集 | メンバー各人の特性や業務の進捗状況の収集など |
判断行動 | メンバーに求める行動の基準やポイントの提示、各種業務の判断など |
支援行動 | ノウハウの伝授や迷っている際の適切なサポートなど |
出社して直接コミュニケーションが取れていた頃は、メンバーの成長課題を把握することはもちろん、ふとした言動や表情からコンディションの好不調も感じ取ることができていました。
しかし、リモートワークによってメンバーの状況が見えず、これまでと同様の方法での「情報収集」がしにくくなっています。
この状態が続くと、適切な「判断行動」や「支援行動」につなげていくことができません。
重要度に加えて、難易度が高まっている「情報収集」。
これを担保するためには、オンライン朝会・夕会や、1on1など、メンバーから情報収集できる「場」をつくることや、メンバーが情報発信しやすい「風土」を作るなど、定期的に情報収集ができる状態を意識的につくっていくことがポイントとなるでしょう。
リーダーの役割は、組織成果の最大化に加えて、メンバーの成長促進など、実に多岐に渡ります。
今回は善逸のじいちゃん、胡蝶しのぶさんにフォーカスをしましたが、『鬼滅の刃』には、参考にできるリーダーたちがたくさんいます。
ぜひ、学べることはないかという観点で、再度読み返してみてはいかがでしょうか。