近年、経営者や事業責任者のビジネスパートナーとして、人と組織の面から事業成長をサポートする「HRビジネスパートナー(HRBP)」という言葉が注目を集めています。
これまで人事の業務内容は、労務管理や人材育成などのオペレーション業務が多く、企業の経営戦略とはあまり関わりのない業務がほとんどでした。
しかし、従来の管理業務中心の人事から、経営者に寄り添い、事業戦略をサポートする立場としてより人事に戦略性を持たせた「戦略人事」の必要性が問われており、「HRBP」は戦略人事を実現する上で不可欠な存在です。
そこで本記事では、「HRビジネスパートナー(HRBP)」の役割と目的について解説し、日本企業での導入事例をご紹介します。
目次
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1.「HRビジネスパートナー(HRBP)」とは
「HRビジネスパートナー(HRBP)」とは、企業の経営者や事業責任者のビジネスパートナーとして、経営層と同じ視点に立ち、経営戦略に最適な組織形成や人的配置などの人事戦略を考える人事のプロフェッショナルを指します。
従来のオペレーション業務ではなく、企業全体の動きや問題を捉えて、人事面における施策を立案することから、戦略人事を実現する上で重要なポジションとされています。
1-1. CHROとの違い(12文字)
HRBPとよく似た概念としてCHROが挙げられます。CHROとはChief Human Resource Officerの略語で、最高人事責任者という意味合いがあります。
HRBPとCHROはいずれも人事の視点を持ち合わせる役職ですが、その立ち位置や役割は異なります。CHROは経営陣として人事業務を直接的に統括する立場にある人のことです。CHROには、経営戦略を踏まえて戦略的な人事を実行する手腕が求められます。
これに対してHRBPは人事部の1人として現場で人事の問題を解決する役職です。HRBPには経営陣と従業員とを結ぶような役割を求められることもあります。
人事に関する課題の解決のためには、CHROが経営の人事戦略を策定し、HRBPがそれを具体的な行動として現場に浸透させるという連携が効果的です。
1-2. 「HRビジネスパートナー(HRBP)」が求められる背景
HRBPは、元々ミシガン大学ビジネススクールの教授であるデイビット・ウルリッチが1997年に提唱した概念です。
欧米の企業では一般的ですが、日本では認知度も低く、導入している企業も多くありません。
しかし、人口減少に伴う労働力不足である現代では、旧来の年功序列や終身雇用に代表される日本型雇用システムは崩壊しつつあります。
VUCAと言われるように、社会が目まぐるしく変化する中では、経営戦略や事業戦略は、見直しや修正がおこなわれているため、日々変化していきます。
これは人事戦略においても同様であり、従来のように労務管理や法対応などではなく、より会社の経営に直結する有効な制度や施策を実現する必要があります。
そこで、経営者や事業責任者と人事をつなぐ役割を持つHRBPが日本企業から求められています。
1-3. 戦略人事を実践するための4つの人事機能
デイビット・ウルリッチは、戦略人事を実践・成功させるためには、人事機能を4つの役割に整理することが必要だと提唱しています。
①HRビジネスパートナー(HRBP)
企業の事業成長のために、HRBPは経営者や事業責任者のビジネスアドバイザーとして、人的配置や組織形成について人事戦略を構築する。
②チェンジエージェント
人事戦略を効率的に実行するために、必要な人材を育成し、組織の変革を導く。
③人材管理エキスパート
組織の生産性を上げるために、人事施策の管理、遂行、運営などをおこなう。
④社員チャンピオン
メンタルケアやキャリア開発、社員の意見を代表して経営者側に伝えるなど、社員に対する支援をおこなう。
このように、HRBPは、戦略人事を実現する4つの人事機能の1つとして、重要な役割を担っています。
2. HRBPと従来の人事との違い
HRBPの業務は従来の人事の業務とは、大きく異なります。
従来の人事の業務は、労務管理や人員配置などのオペレーション業務が中心であり、社員を束ねるための仕組みや制度を整えることが業務の目的でした。
しかしHRBPでは、経営目標を人事と組織の面から達成させるために、経営戦略と人事マネジメントを連動させることが業務の目的になります。
それぞれの業務内容の比較は以下の通りです。
HRBPと従来の人事の業務内容比較
HRBP | 従来の人事 | |
スタンス | 攻めの人事 | 守りの人事 |
職務 | 経営目標を人事と組織の面から達成させる | 社員を束ねるための仕組みや制度を整える |
業務内容 | 経営戦略と人事マネジメントを連動させる | 労務管理や人員配置などオペレーション中心 |
経営者との 関係 |
パートナーとして人事戦略を一緒に構築する | 経営者が決めた人事戦略に従って業務をおこなう |
社員としての 立ち位置 | 社員チャンピオン | 社員の1人 |
アウト ソーシング化 | 企業の根幹となるため、基本的に不可 |
可能 |
HRBPは、経営層のビジネスアドバイザーとしてのアドバイスをおこなうために、社員の声を集めて経営層に伝える「社員チャンピオン」である必要があります。
経営層や事業部長と同じ目線に立つことも重要ですが、同時に社員一人ひとりがどのような考えをしているのか、どのような個性があるのかを理解することもHRBPは重要です。
HRBPには、社員と経営層をつなぐ架け橋としての役割が求められます。
3. HRBPに求められる能力やスキル
HRBPはこれまでの人事とは異なるスキルが求められます。
労務管理や人材育成、採用管理といった管理業務のスペシャリストでなく、HRBPにはより戦略的なスキルが求められます。
以下ではHRBPにとって重要なスキルを3つ紹介します。
3-1. 経営層と同じビジネス感覚が必要
前述したように、HRBPは経営層のビジネスアドバイザーです。
そのため、経営層と対等に議論するだけのビジネス感覚が必要不可欠といえます。
企業が置かれている状況を理解し、市場動向の見極めをおこない、経営者が考えるビジョンに間違いがないかどうかを判断しなければなりません。
3-2.高いコミュニケーション能力
HRBPは、社員チャンピオンとしての役割があるため、高いコミュニケーションスキルが必要です。
客観的に社員を見るだけではなく、現場に足を運び社員の生の声を聞く、本音を引き出すなどをおこない、現場の課題や問題点を洗い出すことが求められます。
現場の社員と距離があれば、本音は引き出せないため、社員一人ひとりと向き合うことができるコミュニケーションスキルがHRBPには必要です。
3-3.変革を推し進めるリーダーシップの発揮
近年、年功序列や終身雇用に代表される日本型雇用が世界に通用しなくなっています。
そのため、HRBPが経営層と打ち出す人事戦略は社員にとって、変革となる場合も少なくありません。
HRBPには、経営層のビジョンと変革が企業にとって必要だということを社員に伝えて、自ら先頭に立つリーダーシップが求められます。
4.HRBPを採用するポイントと社内で育成する方法
ここまで、HRBPの目的と役割を解説してきました。
本章では、企業がHRBPを導入するためのポイントを確認していきます。
HRBPは、経営層と社員の架け橋になる存在なので、社内事情に詳しい人材を採用するパターンがありますが、今まで日本で知名度が低い職種のため、外部から採用してくることが多いです。
本章では、社内からHRBPを採用する方法と、社外から採用する際のポイントについて解説します。
4-1.HRBPを社内で採用・育成する方法
社内からHRBPを採用する場合は、人事のスペシャリストである必要はありません。
HRBPには、現場の社員と対話して組織の課題を明らかにして、その課題を経営層とともに解決することが求められます。
そのため、内向きの仕事が多い従来の人事出身者よりも、他部署出身で企業全体に目を向けている人材の方が良いケースもあります。
また、社内でHRBPを育成する場合「この人をHRBPに育てる」と決め打ちしないことも重要です。
複数の人にHRBPを経験してもらい、現場の意見を吸い上げて経営層と対等に議論する機会を作ることは、企業全体の力を底上げすることもつながります。
4-2.HRBPを採用する際のポイント
中途採用となるHRBPがどのようにして現場の意見を吸い上げるかという点が重要になるためHRBPには、高いコミュニケーションスキルが求められます。
中途採用でも現場の社員1人ひとりと積極的に会話することが必要であり、時にはその場で社員にアドバイスしなければなりません。
HRBPを採用する場合は、その人の能力だけでなく、現場の社員と柔軟なコミュニケーションが図れるかがポイントになります。
5. HRBPを導入する際の注意点
HRBPを導入する際にはその役割や立ち位置を明確にしておくことが大切です。
HRBPは経営陣の1人であるCHROとは立ち位置が異なります。経営者寄りの人材をHRBPにしてしまうと、思うような効果が見込めないこともあります。
HRBPは経営者と従業員とを結ぶような存在です。現場の意見を吸い上げ、経営者と議論をしながら課題解決を目指せるような人材を起用しましょう。
日本国内では、HRBPを導入している企業はまだ少ないのが実情です。十分な準備を行わないままHRBPを導入すると、従業員からの理解を得られないおそれもあります。
まずは従来の人事スタッフに現場の問題点を上げてもらい、実地的に課題解決を行うなど、HRBPを部分的に導入するのもいいかもしれません。
6. HRBPの導入事例
ここまで、HRBPの役割や採用手法について解説してきました。
本章では、実際にHRBPを導入した日本国内の企業を2つ取り上げて、具体的な事例を紹介します。
6-1. DeNA
DeNAでは、最も規模の多いゲーム・エンターテインメント事業部に、全社HR本部とは別で、独自のHR機能としてHRBPが所属する「組織開発部」があります。
このHRBPは、HR本部の方針や考え方を踏まえて全社視点を持ちつつ、事業の考え方を継承しながら、事業リーダーや各メンバーと協力してHRができる課題解決を通じた事業貢献をしていきます。
DeNAでは、ゲームクリエイターの退職が相次ぎ、一方で採用がなかなか進まないという状況が起きていました。
HRBPは、課題解決のために、採用強化とマネジメント強化が重要だと考え、そのためにできる戦略を考えて事業部に伝えました。
具体的には、リファラル採用の強化と選考フローの整備を実施し、選考プロセス変更や給与水準を見直したことで、クリエイターに魅力的な環境をつりました。
また、マネジメント強化では、マネージャーの数を増やし、一人のマネージャーが見るメンバーを減らすことで、メンバーのグリップを高めました。
課題解決の成功要因として、組織開発部部長の菅原さんは、「事業部から依頼を受ける前に、人事が戦略を立てて事業部に提案できたこと」であると語っています。
6-2. DMM.com
DMMは、動画配信・電子書籍・エナジー事業が収益化しており、次の柱を育てる基盤の役割として、既存事業のグロース/DX推進、新規参入、M&Aなど、幅広く展開しています。
現在DMMに求められることは、収益の柱と化した事業基盤をキープしつつ、0から1、1から10となる事業を多く生み出すことです。
そして、HRBPはその実現に向け、社員の能力と意欲を最大化していくための事業戦略・採用戦略を考えていくことが求められています。
DMMのHRBPは、「事業責任者が感じる組織課題に対して、人事として何か支援できることはないか」というヒアリングを実施しました。
しかし、事業責任者の人事に対する期待値はほとんどなく、支援を求めるのは顕在化している「労務問題」か「部下への教育問題」のどちらかだけでした。
そこで、上記の問題の進捗共有を目的として最初は隔週や毎月の頻度でミーティングをし、そこから徐々に「組織」をどうするか、「事業」をどうするかなど、より事業に直結した会話が増えてきました。
HRBPグループのマネージャーである大嶋さんは、「そういう目に見えにくい小さい変化ではあるのですが、事業の一員として認められていく感覚があった」と語っています。
7. まとめ
グローバルで競争力を高める必要がある日本企業にとって、今後は経営戦略から人事戦略を考える、「戦略人事」が求められます。
そのため、事業の成長と合わせて人事戦略を立案するHRBPは今後注目される職種となるでしょう。
オペレーション業務を中心とした「守りの人事」から、より戦略的な「攻めの人事」に移行するために、HRBPを導入することは不可欠です。
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