こんにちは。ヒトテク研究所の村山です。
今回は、科学的なアプローチをもとに採用活動を実施していることでも知られている、セプテーニグループの採用方法について、その一部をご紹介。
採用企画部の江崎さんと斎藤さんにお話をお伺いし、セプテーニグループが取り組んでいる「5つの採用施策」について、その実施背景や具体的な内容を記事にまとめました。
2、オンライン自己分析ツール
3、AIアドバイザー
4、キャリアフィードバック
5、VRインターンシップ
【人物紹介】江崎 修平 | 株式会社セプテーニ・ホールディングス 採用企画部 次長
2005年、新卒入社。以来、一貫して人事総務部にて採用・人材育成を担当。2014年、採用企画部次長に就任。
【人物紹介】斎藤 純平| 株式会社セプテーニ・ホールディングス 採用企画部 採用企画課
2012年、新卒入社。入社当初より一貫して新卒採用に従事。現在は、採用戦略を担当。
目次
「マネー・ボール」からはじまった、科学的な採用への挑戦
村山:まず、セプテーニグループが科学的な観点から採用を実施されるようになった背景から教えてください。
もともとは当社代長が、「マネー・ボール」という本を人事担当役員に渡したことがきっかけです。
資金力のない弱小球団が、独自の野球理論により、豊富な資金力をもつ強豪チームを打ち負かし、メジャーリーグを制覇した実在のジェネラルマネージャーの活躍を描いたノンフィクション書籍です。
「こういうことが当社の人事システムでもできたらいいよね」という話になり、ここから構想がスタートしました。
構想自体は、約10年前から人事担当役員が練り上げていき、2016年に「人的資産研究所」という専門の組織を立ち上げました。
そこでピープルアナリティクスに関する研究活動に取り組んでおり、研究の結果、採用活動において「正しく合理的である」と判断されたものは積極的に取り入れています。
村山:セプテーニグループの採用の特徴はなんですか?
一般的な採用活動は、面接官の主観によって判断することが多く、その時々によって判断軸が変わってしまうことがありますが、当社の採用活動では定量的なデータをもとに客観的に判断していることが一つの特徴ですね。
また、応募してくれる学生が、できるだけストレスなく選考に参加でき、入社後も有意義なキャリア形成を築いてもらえる採用を意識しています。
従来の採用構造にとらわれず、研究結果をもとに学生にとって良いものはどんどん取り入れて実施してきた結果、現在では主に以下の5つを採用活動に取り入れています。
- 1、オンライン・リクルーティング
- 2、オンライン自己分析ツール
- 3、AIアドバイザー
- 4、キャリアフィードバック
- 5、VRインターンシップ
当社の採用において、基本的な概念としてあるのが「育成方程式」という考え方です。
当社では、「社員ひとりひとりのパフォーマンスを最大化すること」が考えの根底にあり、採用、育成、配属などすべてこの考えに基づいておこなっています。
村山:採用においては、「P」の個性を見ていくのしょうか?
そうです。
当社では、2009年より蓄積した約6000名のデータを用いて「活躍予測モデル」を設計しており、この活躍予測モデルをもとにその人の入社後の活躍度を予測し、採用判断の材料にしています。
この活躍予測モデルを活用した採用は、4年前くらいからです。モデルの構築やアップデートは、人的資産研究所が実施しています。
村山:社内で活躍しているメンバーをモデル化して落とし込んでいくのですね。では次に、現在採用で実施している5つの施策について詳しく伺わせてください。
1、オンライン・リクルーティング|採用にかける工数が9割減
村山:まずは、オンライン・リクルーティングについて教えてください。
オンライン・リクルーティングとは、選考プロセスを全てオンライン化した選考方法です。
前述の活躍予測モデルをもとに、定量的かつ客観的な採用ができるようになったため、この取り組みを導入しています。現在のところは、地方学生を対象としておこなっています。
選考の流れとしては、学生にマイページにエントリーいただいた後、オンライン選考、オンライン面接を実施していきます。
まずは、性格診断テストやアンケート、本人確認をおこないます。
本人確認は、WEB面接プラットフォームHireVue(ハイアービュー)を通して、所属大学、氏名、学生証などを確認していきます。全部で30分くらいで終わるものになります。我々にとって選考に必要な情報を集めることに、“履歴書”や“エントリーシート”は必要なくなりました。
そして、取得した情報をもとに活躍度を算出し、合否の判定を出します。
また、会社理解に必要な情報もすべてオンライン上で提供しており、学生が内々定後、実際に会社に来なくても、会社や入社後のイメージを深く理解できる仕組みをつくっています。
村山:オンライン・リクルーティングを実施しようと思った背景は何ですか?
もともと、「首都圏での採用難易度が上がってきている」「毎年同じような傾向の母集団形成になっている」ということが課題になっていました。そこで、母集団形成に何かしらの変化を起こしたく、地方の学生にアプローチしようとなったのです。
最初の何回かは、地方に出向いて説明会を実施していたのですが、その後、東京での面接となると離脱率が一気にあがってしまうのです。
まだそこまで志望度があがりきっていない会社に、地方の学生が無理をして頑張って来ようとは思わないのです。移動工数や交通費も多くかかりますしね。
そんな中、議論を重ねていくうちに、「オンラインで選考をしよう」となっていきました。
村山:実施していく上で苦労したことや工夫したことはありますか?
オンライン・リクルーティングの存在を学生に知ってもらい、メリットを感じて使ってもらうために、最初は、オンライン・リクルーティングの考え方などを全国各地に説明をしに行くなど、結構地道な普及活動を実施していました。
去年でいうと200名くらいの学生に会って、学生に直接「こういう選考があるよ」という説明だけをするんです。
そしてその場では選考をおこなわず、後日興味を持ってもらった学生にオンライン・リクルーティングを受けてもらっていました(笑)。
村山:Face to Faceでの面接に比べてやりにくさなどはあるのでしょうか?
見極めなどに関しては、活動予測モデルを活用しながら実施しているので、問題はないと感じています。
学生を惹きつける施策は、選考プロセス内ではあまり実施していません。内々定を出してからが勝負だと思っていて、その辺は割り切ってやっています。
村山:オンライン・リクルーティングを実施してどんな変化がありましたか?
オンライン上で完結する選考プロセスを構築できたことで、採用活動においていくつか効果を上げることができました。
1、選考時間が9割削減
選考プロセスを短縮化し、選考時間を9割削減することができました。
その分、内々定を出した学生に対して会社理解や入社後のキャリアについて手厚くフォローすることができるようになっています。
2、地方学生の内定承諾率が4倍に増加
2017年度卒採用では、内定承諾者における地方学生の割合は全体の5%程度でしたが、2018年度卒採用では全体の約20%に増加しました。
3、地方大学の採用実績校が20校に増加
同時に、地方大学の採用実績校も2017年度卒採用では4校だったのに対し、2018年度卒採用では20校に増加しています。
幅広い地域から採用できるようになり、国内だけでなく、海外大学からの採用実績も増えました。
村山:実際に参加した学生からはどのような感想がありますか?
学生の方々からは、以下のような声をもらっています。
「自宅ですべての選考を受けることができたので地方からでも受験しやすかった」
「オンラインの面接では、実際に対面しないので社内の雰囲気を感じにくいという不安があったが、内々定後のオンライン面談や、本社訪問の機会を十分にしてくださったので、不安を解消できた」
「実施に、大学に行きながら東京に選考にいくのは、移動や交通費がすごく負担になっていたが、非常に効率的に選考ができて良かった」
「正直、期待半分、不安半分だったが、選考後に丁寧にフィードバックをしてくれた。その正確さに驚き、自分自身への理解が深まった」
これは、選考参加者に対してWEBアンケートを実施した回答なのですが、このような非常に満足度の高い感想をもらうことができ、実施して意味があったと感じています。
2、オンライン自己分析ツール|一気通貫でキャリア支援を実施
村山:次に、オンライン自己分析ツールについて教えてください。
自己分析ツールは当社独自の技術をベースに開発したもので、このツールを使うと、学生が自身の個性や適性を客観的に把握でき、PRポイントを言語化できるものになります。
当社の新卒採用サイトのマイページに登録してもらい、性格診断テストを受けると、自動で分析結果が出てきます。
当社の採用では、性格診断テストの結果や活躍予測モデルから、各々の強みや向いているキャリアを導き出すことができ、また、人的資産研究所の研究から、「就職活動に費やす時間や成果は入社後の活躍・成長に大きく寄与するものではない」ことが検証されているため、エントリー時や面接などで自己PRを求めることはありません。
一方で、一般的な採用では、自身の強みやキャリアについて質問されるケースが多々あります。そうした中で「自己分析のやり方がわからない」「自分のキャリアってどう描けばいいの?」「就活が終わってもキャリアに悩みそう」「やりたいことがわからない」といった悩みを持つ学生は多いと思います。
そこで、この自己分析ツールを学生のみなさんに活用していただき、キャリア形成、また効率的な就職活動に役立てもらえればと考えています。
村山:他社ツールとの差別化ポイントはどこでしょうか?
他社の自己分析ツールなどとの違いでいうと、就活の開始から内定といった入社を目的としたアドバイスだけではなく、入社後の活躍イメージや未来のキャリア形成にまで目を向けた長期的なサポートができる点だと思います。
そのため、診断結果はかなりボリューミーです。学生の個性に合わせた20~30ページにのぼる診断結果がメールで届きます。
自分の個性を客観的に把握できるだけでなく、それをどのように自己PRにつなげればよいか、就活シーンを想定して、強み・弱みなどの特徴を言語化します。
さらに、就活のタイミングに応じて、最後までアドバイスが届きます。選考中のアドバイスはもちろん、内定後の入社を決める時期や、入社までの準備期間に至るまでサポートは続きます。
現在、2000名以上の方が利用しており、以下のようなコメントをいただいています。
「自分の個性の言語化、客観的に知ることができてよかったです」
「納得感満載の内容でした」
「単なる診断結果だけでなく、それをどうキャリアに活かすまで教えてもらえた」
「理系で就活に多くの時間を割けなかったので、このツールの存在はありがたかったです」
「これからの就活に活かせる内容で、やって良かった」
村山:こういったアドバイスをもとに自分の個性にあった会社に入社できれば、納得感はもちろん、自信を持って働くことにつながりますね。
3、AIアドバイザー|学生の知りたい情報を集めることができる
村山:次はAIアドバイザーについてお聞かせください。
AIアドバイザーは、AIチャットボットを活用し、学生の個性に応じた情報提供をおこなうコンテンツです。
こちらも自分の個性を把握した上で、採用サイト内の専用ページから自分のタイプを選択し、そこから聞きたい質問を入力すると、性格タイプに応じた回答が返ってきます。
タイプは「攻め/アナログ」「攻め/デジタル」「守り/アナログ」「守り/デジタル」の4つに分かれています。
説明会で聞きたいことが聞けなかった学生もいるかと思いますし、例えば「有給消化率」「残業時間」など、直接聞きにくい質問もあるかと思います。そのような内容でもいつでも気軽に質問できるのがAIアドバイザーです。
また、これも人的資産研究所の研究結果で「個性に合わせた適切なワークスタイルが存在する」ことがわかっています。
その考えをもとにすると、気になる点や質問内容も性格タイプによって異なると言えます。そのため、個性に応じた適切な情報を提供できる仕組みにしています。
村山:専用ページからは、いつどういう質問があったのかという情報も取れるのでしょうか?
はい。こちらでは「いつ・どんな質問があったのか」ということがわかります。学生の生の声が聞こえてくるので、非常に興味深いです。
また、どの選考フェーズで、どんな質問が出てきたなど、質問の傾向もわかってくると思うので、今後学生のニーズに合ったタイミングで情報提供をしていきたいと考えています。
ここで得た情報も今後採用プロセス設計に活用していき、採用の競争力を上げていきたいと思っています。
4、キャリアフィードバック|学生ごとのキャリアグラフを算出
村山:キャリアフィードバックとはどのような取り組みなのでしょうか?
先ほど、オンライン・リクルーティング実施の結果として、業務の9割が削減できたと言いましたが、その空いた時間をどう学生に還元していくかが重要です。
その一つの取り組みがキャリアフィードバックです。内々定後、学生の個性に応じて、セプテーニグループでのキャリアや働き方を個別にフィードバックする機会を設けています。
学生ごとに、それぞれ違ったキャリアグラフが算出され、その全てを説明していくと2時間くらいのボリュームになるのですが、働く環境やキャリアに対するイメージを明確にしてもらうために実施しています。
村山:このデータは、どういった内容をもとに算出しているのですか?
性格診断テストをはじめとし、エントリー時や選考時に取得する活躍予測結果なども含め、100くらいの項目以上の情報から、個人に合った適切なキャリアフィードバックしていくのです。
当社は「社員ひとりひとりのパフォーマンスを最大化する」ことを目的として、科学的な人材育成に取り組んできましたが、この取り組みにおける採用フェーズでの集大成が、キャリアフィードバックだと思っています。
村山:このグラフをもとにフィードバックをしてもらうだけで、就活での納得度はもちろん、入社後も意欲高く頑張ってくれそうですね。
5、VRインターン|会社に来られなくても、会社を体感できる
村山:VRインターンはどのように活用されているのでしょうか?
VRインターンシップは、「就業体験」コンテンツです。自分が1年目の社員になったつもりで先輩に相談したり、クライアント先に商談に行くなど、一日の仕事の流れを体験できるものとなっています。
オンライン・リクルーティング経由で採用された地方学生からすると、一度も直接足を運んだことのない会社に入社することになるため、どうしても不安はあると思います。
ですので、オンライン上でも入社後の具体的なイメージを持ってもらうためにつくりました。
■内々定者には専用のVRパッケージを送付
■VRコンテンツの流れ
[サンプルムービー]
一つひとつが2分程度のムービーになっていて、全体で15分程度のコンテンツとなっています。
村山:VRでのオフィス紹介や、VR研修なども出てきていますが、今後、VRを活用した採用もどんどん増えてきそうですね。
そうですね。会社に来ることができなくても、来た場合と同じようなイメージをもってもらえるコンテンツをどう実現するかが重要だと思っていて、そのためにVRの活用はとても効果的だと思います。
実はこれも、「インターンシップの経験が入社後の活躍・成長に一定の影響を与えている」という、人的資産研究所の研究結果に基づいた取り組みになっています。
VRインターンシップを学生に実施してもらうことで、入社後の活躍を促していけるのではないかと考えています。
最後に|セプテーニグループ発、新しい採用のあり方をつくっていきたい
村山:最後に、御社の採用に関する今後の展望や想いをお聞かせください。
今、オンライン・リクルーティングをはじめとした地方学生向けの採用サービスを提供していて感じていることは、一般的な採用活動では企業側都合の採用構造になっていることが多いのではないか、ということです。学生からしてみたら、時間や交通費がかかって不都合な部分が非常に多い。
それでも学生は就職するために、選考プロセスが不合理だとしても従わざるを得ない状況になっています。
そうではなく、実際にその企業の採用に参加することで、今後の役に立ったり、キャリアがしっかり見えたり、無駄に足を運ぶ必要を無くしたり、より学生側に立った採用の構造をつくりたい。今はそのように考え取り組んでいます。
そのうえで、適切な会社に入社し、適切なパフォーマンスを上げるキャリアが形成できる。最終的に、当社が掲げる育成方程式につながるための活動になっていることが重要だと思います。
今はまだまだ試行錯誤している段階ですが、学生の就職活動自体がキャリア開発の出発点として意義のあるものにしてもらえるようにしていきたいと考えています。
セプテーニグループは、WEBサービスを中心に事業を展開していますが、人事としてはこのような取り組みを通して、世の中に貢献していきたいですね。
産業の変化、社会の変化が加速している中で、働き方も多様化しています。就職活動において、そういった変化をしっかりと捉えながら、そのうえでキャリアを考え、行動に移せるような期間にしてほしいと思っています。
最近は、私たちのテクノロジーを活かして、学生のキャリア形成の一助となれるようなサービスをいかに提供できるかを考えています。
その結果、良い反響が得られれば非常に嬉しいですし、まだまだやれることはたくさんあると思います。