今回は、京都発のAIスタートアップ株式会社ハカルスが取り組む外国人採用についてご紹介。
ハカルスは2014年に創業した会社ですが、3分の1が外国人で組織構成されており、国籍も欧米・アジアと非常に多様な人材が多く所属しています。
ハカルスでは、どのように海外人材をと出会い採用に結びつけているのでしょうか。その採用ノウハウや惹きつけ方、ダイバーシティに対応した人事制度のつくり方などをお伺いしました。
【人物紹介】菊本 知美 | 株式会社ハカルス HR & Chief Health Officer
目次
ハカルスが外国人採用に力を入れる2つの理由
−ハカルスではなぜ、外国人採用を積極的におこなっているのでしょうか?
菊本さん:主に2つの理由があります。
1つ目は、日本だけでなく世界の市場を相手に事業を進めていきたいという想いがあるからです。
グローバルな事業展開を前提とするのであれば、会社内部もグローバル化できている方が自分たちも外に出やすく、海外のお客様からも受け入れてもらいやすいだろうという考えがあります。
2つ目は、既にグローバルな組織づくりができているので言語の問題にとらわれることなく外国人を採用できるからです。
−どのような職種の方を採用されているのですか?
菊本さん:組み込みエンジニア、データサイエンティスト、セールス、マーケター、など、多種多様な職種の方を採用しています。
現状、アメリカ、スウェーデン、ドイツ、フィリピン、中国、台湾など、管理系の職種以外で日本人以外のメンバーが在籍しています。
「京都ブランドは強い」外国人採用を成功させるための方法
−それだけ多様な海外人材を、どのように見つけて採用しているのですか?
菊本さん:メインで使っているのはLinkedInです。弊社が契約しているプレミアムプランだと月1万円ぐらいで運用ができます。
ただ、プレミアムプランでは「転職意欲」などの情報は全く取れないので、「この人マッチしそうだな」と思ったら、とにかく積極的にメッセージを送るようにしています。
−メールの文面は何か工夫されているのですか?
菊本さん:1つ工夫しているのは、なるべくハカルスのメンバーが現地にいくタイミングに合わせてスカウトを打つことです。
たとえば、「CTOが丁度そちらに行く予定があるので直接お会いして話しをしませんか?」みたいに。
−直接その場で会う、というアプローチなのですね。
菊本さん:技術者の方であれば技術的なことについて詳細を聞いてみたいと思いますし、HRと話すよりも、CEOやCTOと話せるというのはプレミアム感につながるので、レスポンスは良いですね。
−海外で戦うためには、やはり英語力は欠かせませんね…!ちなみに、LinkedIn以外だとどのような採用活動をされているのでしょうか。
菊本さん:特に今、弊社ではフィリピンや台湾での採用に注力をしているのですが、現地でポピュラーな採用媒体や人材紹介会社を利用することもあります。
[104人力銀行のサイト]
菊本さん:また、採用活動の一環として、海外の方向けに日本のカルチャーを伝えることもしています。
たとえばコーポレートサイトに「Hacarus work in japan support」というブログがあるのですが、「日本のカルチャーはこんな感じです」「外国人が日本で働く時はここに気をつけたほうがいい」といったコンテンツをつくり紹介しています。
実際にハカルスで働いているメンバーが、「なぜ日本企業のハカルスに入ったのか」ということも打ち出したりして、働くイメージを湧かせるための工夫をしています。
−テレビの「YOUは何しに日本へ?」みたいな感じですね。
菊本さん:はい。笑 採用活動をしていると感じますが、日本の漫画やアニメといったサブカルチャーが好きな外国人って本当に多いんですよね。
日本のカルチャーに触れたことがきっかけで日本のことが好きになって「日本で働きたいです!」と、はじめから日本に興味を持っている方が多いです。
また、ハカルスの本社がある「京都」というブランドも一役買ってくれていると思います。
ご存知の通り、京都には古い建物や伝統的な文化が数多く存在し、東京や大阪とは異なる魅力を持っています。日本国内はもちろん、世界でも根強い人気を誇る日本の観光地です。
この前の面接でも「京都で働くことはどうですか?」と伝えると、「Oh, It’s my dream」って言われました(笑)。
−「京都惹きつけ戦法」みたいな(笑)。
菊本さん:京都惹きつけはすごいですね。海外人材の採用においては、京都という独特のイメージは採用にはかなりプラスになっていると思います。
台湾採用で出会った、業界レジェンドクラスの人材
−そもそも、台湾やフィリピンの採用に力を入れている理由は何でしょうか?
菊本さん:まずフィリピンでいうと、きっかけとしては別に最初から「フィリピンに行こう」と思っていたわけではなく、たまたま最初に採用したエンジニアがフィリピン人だったんです。
−なるほど(笑)。台湾はいかがですか?
菊本さん:現在、組み込みエンジニアの採用を進めているのですが、台湾にはハードウェアを扱う企業が非常に多く、組み込み系のエンジニアの方も優秀な方が多いです。
たとえば、以前大手家電メーカーで、皆さんもきっとご存知の家庭用ゲーム機をつくっていた日本人エンジニアと台湾出張中に運命的に出会ったんです。
そこから「京都で働きませんか?」とお声かけして、採用しました。これまでに多くの著書も出されていて、業界的にはレジェンド級の方です。
台湾には、ハードウェアの仕事がたくさんあって、優秀な技術者も多くいらっしゃいます。
一方で私たちは「エッジAI」という、半導体にAIを組み込む開発をしています。これをできる方を日本で探すことはなかなか難しい。特に関西だと、転職市場になかなかでてこない人材です。
ですので、引き続き台湾では、データサイエンティストや半導体エンジニアの採用を実施しています。
−ハカルスでは採用面接において意識されていることはありますか?
菊本さん:「本当に日本で働きたいのか」、また「なぜハカルスなのか」という点は日本人以上に徹底して聞くように意識しているかもしれません。
海外からの移住・就職は、候補者にとっても会社にとってもそれなりのリスクを伴います。日本に来てから、“やっぱりだめだった・・・” ということは出来る限り避けなければなりません。
そのため、カルチャーマッチするかどうか、入社後しっかり活躍してもらえそうかどうかについては、事前にお互いがきちんと確認する必要があります。
また、面接では言語スキルの確認を徹底しています。どういうことかというと、アジア圏などから英語が母国語ではない方も応募してくださったり、こちらからスカウトすることがあります。
そういった方としっかり英語もしくは日本語でコミュニケーションが取れるかどうかが重要になってきます。
たとえば英語も日本語も第二言語的に学習していて、どちらも十分に仕事が出来るレベルでない場合、チームと理想的なレベルでコミュニケーションをとることが難しくなるからです。
そのため面接では、英語か日本語、候補者の方の得意な言語で実施するようにしています。実際、言語が原因でお見送りしたケースもあります。
−採用競合ともバッティングするかと思いますが、それでもハカルスを選んでもらえるのはどういったところにあるとお考えでしょうか?
菊本さん:まずは、他とは違うやり方をしている、という点でしょうか。
私たちは本拠地を東京ではなく京都に置き、東京とは異なるビジネスの進め方をしています。また、スパースモデリングという独自のアプローチで課題を解決しています。
加えて、多くの候補者に言っていただくのが優秀な技術者が揃っているということ。弊社のエンジニアがカンファレンス等で登壇しているのを見て、ハカルスを知っていただいた、ということも少なくありません。
また、外国人の候補者に対して日本語の能力は必須で求めている訳ではなく、英語が話せる方であれば問題ありません。
外国人の方からすると、言語的な不安は非常に大きいと思います。現在外国人のメンバーが3分の1の割合を占めていて、これからチームをグローバル化させていくというよりかは、もうすでにそういう環境があるので、そういう意味では候補者の方から安心していただけていると思います。
「まずは日本・京都を好きになってもらう」ハカルス流、受け入れ術
−次に、外国籍の方の受け入れに関してお伺いしたいのですが、どのようなことをされていますか?
菊本さん:まずはVISA取得のサポートです。日本でできるサポートに関しては全てこちらで対応しています。
−住むところの手配はどうしているんですか?
菊本さん:最寄りの不動産屋さんと連携して物件のサポートをします。
当然、土地勘が無い場合が多いので生活するのに便利な地域の物件を中心に提案します。日本語が話せないメンバーの場合は、契約のところまで英語でサポートしています。
敷金・礼金などは日本独特の賃貸契約のルールだったりして、そういったことを説明して理解してもらうのが少し大変ですが、こちらも勉強になっています。
−住むところは重要ですもんね。その他、入社後の受け入れで実施していることはありますか?
菊本さん:情報伝達に関しては日英両方でおこなうようにしています。言語のせいで情報の取得に不平等が出ないようにするためです。
日頃のちょっとしたアナウンスだけでなく、さまざまな規定やルールに関しても日英両方で用意しています。
基本的に英語を話すメンバーがいる場面では英語で会話を進めます。たとえば全社員が参加する、週に一度の営業定例は議事録もトークも全て英語です。
ただ日本人の英語のスキルに差があることも事実なので、英語で話すことが難しい場合は日本語で発言し、誰かが翻訳する、というスタイルをとっています。
また、月に一度のペースで日本の文化を体験する「Cultural Activity」を実施しています。これまで座禅や茶道の体験、直近では大文字焼きで有名な大文字山を登りました。
日本・京都を感じて、自分が働く土地を好きになってもらうという意味でも大切にしている活動です。
外国人スタッフが多いと、スピーディーな会議が実現する
−これだけ外国人スタッフが多いと、商慣習や文化の違いを感じる場面は多いのではないでしょうか。
菊本さん:この環境に慣れてしまったのであまりないですが・・・強いて言えば英語を使って仕事をすると会話の進むスピードが加速する気がします。
−具体的にどういうことですか?
菊本さん:話す言語が変わると性格も変わると言われたりすることがあるじゃないですか。
まさにそんな感じで、日本語で会話していると「遠慮」であったり「低姿勢」という言葉が当てはまる日本人のメンバーが多いんです。
しかし、英語を話しているときは「行動的」とか「ポジティブ」といった印象に変わる。多分、英語という言語の力を借りているからだと思います。
英語だと人の意見に対して、「いいね!」や「自分はそうは思わない、こう考えてる!」というようにはっきり答えるようになるんです。
−日本語は曖昧な表現が多いですもんね。
菊本さん:そうですね。ある意味、日本語の良さ、「奥ゆかしさ」というか、これも1つの文化だとは思います。
ただ仕事では、英語式の会話の方が物事が進むスピードが早い気がするし、向いていると思います。また、お互いに誉めあったり、称え合うというようなことも英語だとなぜか恥ずかしがらずに出来てしまいます。
−それはおもしろいですね。
菊本さん:ですので私は英語を使って仕事をすることに対してはポジティブな印象しかありません。外国人メンバーのポジティブなマインドに私たち日本人が引っ張ってもらっているという側面も大いにあります。
−すごく生産性が高そうですね。一方で、仕事とプライベートの線引きなどはいかがでしょうか。休暇制度なども外国人スタッフに合わせているのでしょうか。
菊本さん:ナショナリティによって、働くことに対する考え方はそれぞれ異なります。
日本のように進学や就職のタイミングで故郷を離れることがベーシックな国もあれば、家族と一緒に住むことがスタンダードの国もあります。
家族3世帯で生活を共にしているといったケースも少なくないです。そういった場合、都心にあるオフィスに通うことが一部のメンバーにとっては難しかったりします。
−特に東南アジアは、家族第一主義ですよね。
菊本さん:もちろん同じ国でも人によって考え方はことなるので一概には言えませんが、そのようなケースは多いです。また、ヨーロッパ出身のメンバーはクリスマスを家族と過ごすために年末年始にまとまった休暇を取ります。
こういった背景を理解した上で休暇の制度をつくる必要があります。日本人的に「有給は10日しかないから」とやってしまうと、彼らにとってすごく働きにくくなるため、帰省休暇制度をつくったり、いろいろ工夫は必要ですね。
−日本的な人事制度だと、海外の方にとっては窮屈になってしまうのですね。
菊本さん:めちゃくちゃ窮屈になると思います。
いくら日本が好きだと言っても、「日本の会社だから、日本のルールに則って働いてくれ」と、こちら側の慣習を押し付けるような設計だと、おそらく外国人はそこまで多く採用できないと思います。
−ハカルスではそのような人事制度はどのようにつくりあげていったのですか?
菊本さん:外国人メンバーに話を聞いてつくってきた側面が大きいですね。特にフィリピンだと、最近、子会社化をしてフィリピンの会社独自のルールをつくっています。
最初は、「日本とフィリピンでダブルスタンダードをつくるのはどうなのか」という議論があり、「日本のルールに合わせようか」という話も出てきました。
でも、それだと100%無理だなということに気づきました。完全にワークしなくなるな、という感じがしました。
−どういったことでしょうか?
菊本さん:フィリピンはまだまだ交通網が発達しておらず通勤に非常に大きな負担がかかります。
たとえば、同じ1時間かけて通勤するにしても、私たちは決まった時間にやってくる快適な電車に乗り、会社に行くことができます。
これがフィリピンだと鉄道はまだ未整備なので、バスやバイクでの通勤がベーシック。バスも混雑しているので快適とは言えません。仕事前にストレスフルな状態になってしまいますよね。
このようなことに配慮してフィリピンでは基本、試用期間が終わったら週に1日、入社後1年経てば週に2日リモートをOKにしています。もちろん、働きぶりを見てOKするようにはしています。
そういう事情は、現地を見ていないと分かりません。私も最初は「単純に1時間かけたら来れるんだから別にリモートなんかいらない」と考えていました。
しかし実際に現地様子を見ると「私たちの1時間とはちょっと違うな」と理解した上で制度を作る必要があるなと痛感しました。
これからのHRに求められるのは、経営陣と一緒にスタートアップマインドを啓蒙すること
−今後もますます外国人スタッフが増えるかと思いますが、人事としてどのようなことをお考えでしょうか。
菊本さん:今後も引き続き、国籍を問わず採用を進めて行きます。
−多様な人材を採用していく中で、会社としてのカルチャーや価値観をそろえていくことも難しくなってくると思います。
菊本さん:そういう意味では、経営陣やリーダーシップメンバーから会社の想いを共有をする機会は多いです。
たとえば週に一度の営業会議や月に一度の全正社員が集まる総会。そこでCEOやCTOから、会社のビジョンや想い、求められるマインドセットの話をすることも多いです。
スタートアップで働く人に求められるマインド、たとえば「できない理由を他責しない」であったり、「面白い仕事は自分でつくろう」など、全メンバーに共有する時間は意図的に取るようにしています。
−ハカルスとして働く上で持ってほしいマインドを揃えにいっている感じなのですか?
菊本さん:“揃える”というより、あくまで“考えを開示する”という感じでしょうか。
経営陣の考えや会社が向かっている方向、マインドを定期的に共有することは大切にしていますが、たとえばどこかのタイミングでそれらに賛同できないことでモチベーションを維持できなくなる社員が今後出てくるかもしれません。
そのような場合、議論することはあっても、無理に説得したり囲い込むということはしないと思います。社員それぞれの考え方があって当然で、そういった意味でも多様性のある組織づくりをしていきたいと考えているからです。
これまでも徹底してやってきたこととしては、選考の段階で候補者の方に「ハカルスはこういう考え方の会社で、こういうマインドセットの人と一緒に働きたいと思っている」ということを伝えることです。
スタートアップで働くことは簡単なことではありません。ミスマッチによって入社してからお互いが不幸にならないためにも入社前の段階でこうしたことを徹底するようにしています。
−経営陣に寄り添って、経営と一緒にHRからも発信していこうと。
菊本さん:はい。経営陣の考えをいろんな方法で伝えていくこと。がHRに求められていることだと思います。