世界中で愛されている玩具「LEGO®」。LEGO®で遊んだ経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
一方で、実はビジネスでもLEGO®は活用されています。
「LEGO® SERIOUS PLAY®(LSP)」という研修・ワークショップでは、LEGO®を通して各メンバーが持っている抽象的な思考を具体化し、他のメンバーにアイディアを的確に伝えることができます。
そんなLSPはタイ国内の企業でも取り入れられており、LSPファシリテイターとして活躍しているのが、Eureka InternationalのPoomさんです。
今回は、Poomさんと、同様にLSPファシリテーターでもある組織人事コンサルティング会社Asian Identity CEOのJack中村さんとの対談記事をご紹介。日タイの観点から「教育方式がビジネスに与える影響」や「LSPを活用した組織課題の解決方法」についてお伺いしました。
Narudee Kristhanin(Poom) | Eureka INTERNATIONAL Director of Inspiration Strategy Facilitator
現在は人材開発領域のコンサルタントとして企業や大学、行政機関など、幅広い領域で活動。
www.LSPThailand.com を立ち上げ、企業が抱える人材開発、組織開発の課題を支援。
Katsuhiro Nakamura(Jack) | Asian Identity Co,Ltd. CEO&Founder
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。
海外での経験が教えてくれた、議論することの重要性
豊富な国際経験を積み重ねてきたPoomさん
私自身の経歴を簡単に説明しますと、17歳の頃、交換留学生としてアメリカに留学しました。
高校卒業後はチュラロンコーン大学のコミュニケーションアート学部に入学、大学卒業後は海外企業など数社の就労経験を経て、アメリカの大学院に院生として入学しました。
現在では、チュラロンコーン大学で人材開発について指導する一方、エウレカコンサルティングでファイシリテイターとして、従業員の能力開発、組織開発、リーダーシップに関する分野で企業の支援をおこなっています。
またLEGO® Serious Play®を活用して、企業の成長を実現するためのワークショップを開催しています。
引用:http://www.seriousplay.jp/seriousplay/
「議論を通してお互いの違いを認め合う」。タイとアメリカの文化の違いを実感
女子高校に在学していたときは、「常に正しいふるまいをしないといけない」雰囲気があり、他人と調和をはかる考え方が当たり前でした。
みんな自分の意思や考えを持っているはずですが、他人の意見に同調し、話す時にも無意識に少し距離を置いていることが多かったと思います。
一方、アメリカでは状況が大きく変わり、教室の中で友人同士があらゆる話題について議論してるような環境でした。
真剣に議論をするほどでもないトピックに対しても、お互いの意見を主張し合うんですね。
「なぜそこまで意味のないことを話し合うのか」と疑問に感じますが、彼らは議論を通して、お互いの違いを見つけようとしました。
自分の考えを建設的に主張すると同時に、相手の意見に対してもリスペクトを持って聞く。
そうすることで本当の調和を生み出し、より良い意見や、アイディアが生まれやすくなります。当時のその経験は、いまの私の仕事にもつながっていると思います。
「過去受けてきた教育」が、仕事の価値観に大きな影響を与える
「常に答えが用意されている」日タイの教育方式
アメリカ留学を経験して実感したことは、アメリカでは「個人の能力」を最大に引き出す教育方式を取り入れていることです。
例えば美術の講義では、教室にある画材や美術道具などを、自由に使えることができました。なので「実践したいと思ったことがすべてできる」環境でした。
一方タイでは、クラスに「先生」と「生徒」がいて、先生が常に答えを持っています。
プログラムが決まっていて、「この絵をこのペンで描いてください」「この課題を提出してください」「評価はABCDのいずれかです」というような工程で授業が進んでいきます。
でもその授業内容は必ずしも、生徒がやりたいことと一致しないと思います。
タイと日本の教育方式は似ていると思います。背景としてはもともと中国の影響もあると思うのですが、Poomさんがおっしゃったように、日本でも生徒が「先生の答え」をメモしなければいけなかったり、知識を暗記して試験に受からなければいけません。
この教育システムを長く取り入れていたので、日本人は規則を律儀に守り、同じ製品を同じ品質でつくることに長けています。
一方で「常識を超えたイノベーションを起こす人材」または「既存の規則を破壊してまでリスクを冒す人材」が生まれにくい土壌になっているように感じています。
そういった背景から、近年は教育システムが変わりつつあり、クリエイティブな人材を創出しようとする動きが見られます。
タイでも教育方式は変わりつつあります。最近のタイの学生はインターナショナルの学校に通ったり、海外で勉強したりするようになりました。
その流れが少なくとも現在の教育方式に影響を与えていると思います。
例えば、大学の授業では座学だけではなく、大学と企業が提携し、学生が企業でインターンシップを経験。その過程が単位取得にもつながるなどの講義を取り入れるケースもあります。
教科書からは学べない「リアルな体験」にフォーカスした教育方式を重視するようになってきたと思います。
「両親のしつけ」も、個人の価値観形成に影響を与える
学校の教育だけでなく、生徒たちのご両親のしつけや考え方も、価値観を形成する上で影響を及ぼすと思います。
タイでは、両親が「子どもの教育方法」で何か重視されるものはあるのでしょうか?
一概には言い切れませんが、タイでは大人を敬う文化があり、子どもは大人が「常に答えを持っている存在」として認識しています。また大人も自分の子どもに、これまでの経験や知識を引き継ごうとしますよね。
常に大人から「答え」をもらっているために、子どもたちが持つ独自のクリエイティビティを発揮したり、自分の意見を述べたりすることに対して、苦手意識を持っていると思います。
日本では家庭にもよりますが、「他人と協力しましょう」「他人とトラブルを起こしてはいけません」「他人といい関係を保ちなさい」といったことがよく言われていて、他者との衝突をなるべく避けるように教育されてきたと思います。
だから、人と議論をする際にもはっきり言わずに、あいまいな表現を使うことが多いですね。
家族のルールや規則は子どもの価値観や幸福の定義にも影響すると思います。
例えば両親があまりにも学歴や学校の成績を重要視してしまうと、子どもたちはその親の期待に応えようとして、「学歴や階級だけを重視するべき」と勘違いしてしまいます。
試験や立場のために知識を得るのではなく、人生全体を通して役に立つ知識やスキル、考え方を身につけるべきだと思います。
ビジネスで重要な「ライフスキル」を身に着けているか?
タイの教育を経て、いざビジネスの世界に飛び込んだ際に、多くの方は「ライフスキル」が足りないことを実感すると思います。ライフスキルとは学校では、学ぶことができない、生きていく上で重要なスキルです。
特にタイの方はクリティカルシンキングとシステムシンキングを改善する必要があると感じています。
クリティカルシンキング:あらゆる物事の問題を特定して、適切に分析することによって最適解に辿り着くための思考方法である。
システムシンキング:事象を体系的に見ることであり、事象の要素細部を見るのではなく、全体のシステムを構成する要素間のつながりと相互作用に注目し、その上で、全体の振る舞いに洞察を与える。
ビジネスでは、チームのミーティングなどお互いの意見を共有しあいながら目標達成のためにプロジェクトを進めていきます。
グループワークでは、他者から新しいアイディアを得るだけでなく、そのアイディアの発信者が、そのアイディアに至った経緯まで汲み取るスキルが重要になります。
タイ企業では徐々にグローバル化が進み、海外の方と仕事をするようになったものの、まだまだこのスキルが足りないように感じます。
スキルを習得するために研修をおこなっている企業も多くありますが、ここでいうスキルとは業務に必要なスキルのみです。
組織でも多く見られるコミュニケーションの課題などは、このような研修では解決しにくいのではないでしょうか。
日本の教育は、企業のリーダーシップの育成にも影響してきます。
日本企業では「リーダーシップを発揮できる人材が少ない」といわれていて、管理職の仕事はこなすものの、いざ社長になり、「ビジョンを出してください」といわれると、どうしていいのかわからないという方が多いんですよね。
日本人は優れたノウハウを持っていて、製品が果たす目的を明確に意識していると思います。
ただJackさんがおっしゃられたように、何かを新しく創り出したいけど、何を創ればいいかわからない方が多いかもしれません。
またそれを実現するためにどのように遂行していくべきかを想像することが難しいのでしょう。
潜在的な考えをビジュアル化するLSP|LEGO®の意外な活用方法
さきほども言いましたが、日本人は「人間関係をなるべく壊したくない」という思いがあるので、他者に対してはっきりと意見を言わない傾向にあると思います。
ただそれは、場合によってはあいまいな表現となってしまい、考えや意図が正確に伝わらず、誤解が生まれやすくなります。
そういったコミュニケーションの課題を支援するためにも、LEGO® Serious Play®(以下LSP)は、すごく効果的だと考えています。
LSPでは何かを組み立てながら考えます。そしてつくり上げたものに対して即座にアウトプットを出します。
直感的に考えアウトプットを出すので、自分のコアな考えを簡単に引き出すことができます。結果として自分の意図やアイディアを普段の会話よりも明確に伝えることができます。
タイの国民性においても、シャイではっきり意思を伝えられない傾向があるので、ビジネスで人に対して意見をすることが得意ではない方も多くいらっしゃいます。
「自分の意見が間違っていないか」と、不安になることもよくあると思いますが、タイ企業がグローバルになりつつある今、解決するべき課題になっているともいえます。
Jackさんもおっしゃったように全員が自然にお互いの意見やアイディアを引き出すためには、このLSPはかなり効果的だと思います。
実際にLEGO® Serious Play®で利用するブロック
実際に私もLSPを日本人のエンジニアだけのグループで実践しました。
彼らは計画力があって、物事を進めることは得意なんですが、一方で、計画を練りすぎて行動に移せないことがあります。
いわばアタマで考えすぎている状態です。
LSPで「では早速〇〇を作ってみてください」と計画なしに物事を進める状況になったとき、何をすればいいかわからない方が多くいらっしゃいました。計画にどれほど依存していたかということを知るきっかけになったんですね。
「まずは計画せずにやってみた結果、期待以上のものが手に入った」という体験は、つい計画主義に陥りがちな日本人にとって重要なことではないかと思います。
これを理論的に説明すると「コンストラクショニズム理論」というものと関係しています。
人間は頭で考えるよりも、手を使って考えることで、右脳と左脳を使い、より多くの考えを引き出すことが出来るのです。
結果として、より創造的なアウトプットを導いたり、自らが言語化できていなかったビジョンなどを描くことが可能になります。
LEGO®で相互理解を促進し、組織全体の能力を最大化する
まずはやってみること。「行動して考える」を繰り返すことでより深い知識にたどり着く
先ほどJackさんがおっしゃられた「まずはやってみる」。これが重要なんですね。
まずはやってみて、その経験から学んで、またやってみて。これを繰り返すうちに学びのサイクルはどんどん短くなり、速くなると思います。
そして、学びに対して柔軟性が生まれて、迅速に学び、すぐに変化することができます。
まるで結婚式のドレスのようにまずは試着してみて、気にいらなければまた別の物を試着する。それを繰り返すうちに一番似合うドレスに出会うことができます。
LSPも同じプロセスで、まずはやってみることで、自分の中にあるコアな考えを引き出し、これまでたどり着けなかった知識に近づくことができます。
ストーリーテリングではなく、「ストーリーメイキング」でコアなアイディアを導き出す
Jackさんが無意識につくった2羽のアヒル
たとえば、いまJackさんがつくったこの作品、2羽のアヒルは同じ方向を向いていますね。何か意味があるのですか?
彼らは兄弟ですね。同じ家庭で育っていて、似ている価値観や夢を持っていますが、向上心は弟のほうが高いんです。彼らは常に前に進みたいと思っている一方で、兄は弟のことについて心配しています。
だから少し一歩下がったところに兄がいて弟が無事に前に進めるように見守っています。
ブロックを見て得られる情報としてはただ兄弟のような二人がいること。でもそれ以上の情報がJackさんから自然と出てきました。
これが直感的に考え、つくりながら話をつなげていく「ストーリーメイキング」です。
ここで重要なのは僕がこれをつくる前は、このストーリーをまったくイメージしていなかったということです。
でもブロックを組み立てている間に、ストーリーを直感的につくっていました。
このストーリーメイキングによって普段意識していない95%の潜在意識に触れることができます。
普段、我々はいろいろなことを考えていますが、脳はその「考るプロセス」をショートカットします。
LSPではこのショートカットが習慣化した「考るプロセス」を一度壊し、彼らの深い思考の部分を導き出すことができるんですね。
つまり普段のコミュニケーションでは、その人の考えの氷山の一角しか見えていないということです。
LSPを通して、本音で議論できる文化をつくりたい
LSPは組織開発、つまり組織の文化形成やコミュニケーション促進にも有効です。私はタイおよびASEAN地域において、企業理念の浸透にLSPをよく使います。企業理念という目に見えない概念を可視化し、コミュニケーションしていくうえでLSPというビジュアルツールは大変有効です。
また、日本語スピーカー、英語スピーカー、タイ語スピーカーに関係なく、LEGO®という「非言語」を使ってコミュニケーションができるので、多国籍企業の組織作りにも適していると思っています。普段は意思疎通が難しかったのに、こうしたツールの助けを借りることで、「相手がどんなことを考えているのかが初めてわかった」という瞬間が生まれる、というのはとても素晴らしいことだと思っています。
現在は変化の激しい時代なので、これからは柔軟な考え方が重要になるでしょう。
年齢、立場、国籍などに関係なく、彼らの本音で議論できるような関係性をLSPを通して構築したいと考えています。
LSPを通してこれまで思いつかなかった画期的な解決策などにたどり着くことができます。
結果として組織内のコミュニケーションを改善し、切磋琢磨できるようなる関係になります。また全員が同じ目的を明確に意識して働くことができ、全員が幸福になる。
そんな世界観をこれからも実現したいと思います。
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。