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新卒採用では、AIの普及によりエントリーシートや「ガクチカ」の内容が似通う中で、「候補者の本質が見えにくい」と感じる採用担当者は少なくありません。
加えて、選考の効率化が進み、1社あたりが学生と向き合える時間は短くなっています。こうした状況に対して私たちが取り組んだのが、「推し活採用」です。
“好きなものを語る面接”というシンプルな設計変更により、面接満足度が向上し選考継続率や内定承諾率の改善につながりました。
本記事では、私たちが取り組んだ新卒向け採用手法「推し活採用」導入の背景から具体的な設計、得られた成果までをご紹介します。

執筆者伊藤 宗一郎氏株式会社マーキュリー コーポレートコミュニケーション部コーポレート企画課 課長
2016年に株式会社マーキュリーに新卒入社。2年間の通信商材営業を経て人事部へ異動。新卒・中途採用の担当者として、求人媒体の運用やスカウトの活用、データ分析による精度向上を推し進め、年間2,000名の採用を支える体制を構築した。現在は、DX推進をはじめとする各種コーポレート企画に従事。現場、人事の両面を見てきた経験を活かし、「採用をもっと面白く」すること、そして働く人が輝ける組織設計に取り組む。
目次
1|実施の背景
推し活に着目したきっかけ
コミュニケーションが苦手な学生の話を、どうすれば引き出せるのか。面接官として学生と向き合う中で、常に意識していました。
そのような中で、面接の中でアイスブレイクとして趣味の話題に触れると、場の空気が大きく変わることがよくありました。特に「推し」の話になると、コミュニケーションが苦手な学生でも自然と会話が弾むケースが多く見られました。
つまり、能力や志向性の問題ではなく、緊張や面接という形式そのものへの苦手意識によって、本来の魅力や考えが十分に伝わっていないケースが一定数あります。
そこで、「いかに話しやすい状態をつくるか」という観点から、面接設計そのものを見直すべきではないかと考えていました。
母集団への影響
当社はこれまでも多様な個性を持つ人材を採用してきました。入社後も特定のキャリア観に限定せず、幅広い選択肢を提示しているため、「さまざまな価値観を持つ人に入社していただきたい」という採用方針もあります。
そのため、「推し活採用」による母集団への影響はそこまで懸念していませんでした。
実際に、入社後の社員同士のコミュニケーションでも、関係性の構築において趣味の話題が起点になることが多く、「推し活採用」は当社のカルチャーとも親和性が高いのではという直感がありました。
さらに、新卒3年目までの採用担当者にアンケートを実施したところ、8割以上が「推し活採用」について肯定的だったことも、導入の大きな決め手になりました。
従来の選考での課題
タイムパフォーマンスを重視する学生に合わせ選考フローを簡略化する中で、「いかに人物像を見極めていくか」というところに課題を感じていました。
従来の選考フローでは「話し上手が有利になりやすい構造」が生まれてしまいがちであり、また「回答が画一化して学生の人物像や個性が見えづらい」という課題がありました。
現在、以下のような選考形式を導入しています。
- 通常選考(説明会⇒選考2回⇒内定)
- スピード選考(説明会⇒選考1回⇒内定)
- 1DAY選考(説明会+選考会⇒内定)
その結果、面接時間は短縮され、限られた時間で判断する必要があります。
いかに短時間でも候補者の本質を捉えるかが、より重要な課題となっていました。
2|選考フローと運用設計
推し活採用の設計
選考フロー自体は大きく変えず、以下の形で実施しました。
- 説明会
- 1次面接:推し活面接
- 最終面接:通常面接
- 内定

フローを増やさないことで、現場の負担を抑えつつ導入できる設計としました。
設計上の工夫
面接の進め方をあらかじめ設計したうえで、レクチャー会や動画撮影を実施、当日の流れをイメージした上で本番に臨めるように工夫しました。具体的には以下の施策を実施しました。
- 事前アンケートで「推し」を把握
- 面接官向けレクチャー会の実施(面接官のスタンス統一)
- 選考内容の事前開示(YouTube動画など)
特に事前アンケートは重要で、面接官が事前に会話の切り口を準備できるため、面接の質が安定します。
また、学生の話に関心を持ちながら丁寧に聞き、深掘りしていくように面接官にはレクチャー会を実施。
レクチャー会では全国の採用担当向けに、以下のポイントを重点的に伝えました。
| 面接時間の区切り | 推し活の話で時間が終わってしまわないよう、「推し語り」「深掘り」「就活ヒアリング」と時間を明確に区切りました |
|---|---|
| 仕事への接続 | 「推しへの向き合い方」を「仕事への向き合い方」にリンクさせて質問するよう指導しました |
| 3つの評価基準の言語化 | 単なる雑談にならないよう、「熱量」「表現力」「共感力」という独自の評価基準を設けました |
| 「教えて!」のスタンス | 面接官が知らないジャンルの話題が出ても事前に調べすぎず、「それってどういうこと?教えて!」という姿勢で、絶対に否定せず話を聞き出すことをルール化しました |
その結果、学生が安心して話せる状態につながったと感じています。
3|成果:面接体験の質が数値に直結
導入後の成果
応募者数は376名から611名へと増加し、前年比162.5%となりました。(※2)
また、応募後の指標も以下の通り改善しています。
- 選考予約率:75.7% → 92.5%
- 内定率:24.7% → 50.0%
- 内定承諾率:15.8%→61.5%

※2…2025年9月~12月の2026年卒応募数(マイナビ、リクナビ、キャリタス、自社採用サイト経由等)の前年同時期比。前年は「推し活採用」未実施。なお、ほかの要因も影響し得るため、単純比較ではなく傾向値としてご参照ください。
数値改善の要因
推し活を取り入れたことで、選考全体を通じた満足度が高まり、結果として最終選考まで進んでいただける方が増え全体的に移行率(※3)が改善したと捉えています。
面接を通じて、
- 通常の面接よりも話しやすかった
- 面接官が自分に興味を持ってもらえて、理解してもらえたと感じた
という体験が、「自分を受け入れられている」という印象につながり、志望度の向上に結びついたのではないでしょうか。
また、1次面接で話した内容を最終面接に引き継ぐことで、一貫した体験設計ができるよう工夫をしたことも効果的でした。
※3 ここでは選考において次のフェーズに進む割合のことを指す。
4|取り組みから見えてきたメリット・デメリット
メリット
主に以下の3点です。
- 他社との差別化による母集団形成
- 面接満足度の向上による承諾率改善
- 「推し」を取り入れた自己開示による人物像の理解促進
まず感じたのが、推し活というテーマ自体が目を引き、応募のきっかけになっているということです。この傾向は、先ほどの応募者数の増加にも表れていると感じています。
次に、面接で楽しく話せた経験が満足度につながり、そのまま選考継続にもつながっている点です。内定率は約2倍、内定承諾率は約4倍に向上しました。
最後に、「推し」の話題から自然と会話が広がることで、その人らしさが見えやすくなることです。
実施後の面接官向けアンケートでは、「学生が活き活きと話すので人柄が見えやすい」といった意見が多くあがりました。推し活というテーマは心理的ハードルが低く、短時間でも多くの言葉と熱量を引き出せます。その結果、人物理解の精度が高まりました。
デメリット
一方で、予約後の選考参加率のみ微減しました。
これは、通常の選考フローに加えて、推しについて回答していただく事前アンケートを追加したことが一因と考えています。
また、今年推し活採用に参加した学生が入社しますが、特に定着率については、今後継続的にモニタリングしていく必要があると考えています。
好きなことと仕事の接続
課題は残りつつも、この取り組みを通じて改めて感じたのが、「好きなこと」と仕事の関係性です。
私自身、もともとは「好きなことを仕事にしたい」という軸でエンタメ業界を志望していた経験があります。その時は直接的には希望が叶いませんでしたが、現在はさまざまな企画をする中で、自分の好きを活かせている感覚はあります。
また、好きなものがあることで、余暇の時間を楽しめて、リフレッシュができ、それが結果的に仕事への集中やモチベーションにつながる人も多いのではないでしょうか。
「好きなものを好きと言えること」自体が、その人らしさや価値観を表します。当社の企業風土とも重なりカルチャーマッチにつながると考えています。
5|今後の展望/今後挑戦したいこと
今後は「推し活採用」された人が、より活躍しやすくなるような環境整備にも挑戦していきたいと考えています。
例えば、
- 推し活応援ギフト
- 推し活休暇
といった施策も検討しています。
また、現在の採用市場では「どのような体験ができる会社か」という視点の重要性が高まっています。推し活採用は単なる施策ではなく、企業の価値観を体現する取り組みとして、今後も進化させていきたいと考えています。
