
近年多くの企業が共通して直面している現実があります。それは「優秀なキャリア入社者を採用したのに、期待した成果が出ない」「思ったより早く離職してしまう」という課題です。この連載では、キャリア入社者のオンボーディングと組織適応を効果的に支援していくための実践的なポイントをご紹介していきます。
前回の第4回では、キャリア入社者が所属する組織において、リーダーやサブ・リーダーなど、これまでよりも一つ上の役割を担うようになる中で直面する「適応中期の壁」について紹介しました。最終回となる今回は、キャリア入社者が入社した組織に適応していくうえでの最後のステップとなる自分らしさの発揮と会社文化への適応について詳しく解説します。

執筆者内藤 淳氏株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 技術開発統括部 研究本部 主任研究員
1989年、東京大学文学部社会心理学専修課程卒業後、リクルートに入社。1994年、人事測定研究所に転籍。以来、法人向けの心理アセスメント、組織診断ツールの研究開発および各種人事データの解析に携わる。近年は、新卒およびキャリア入社者の組織適応、中堅社員のキャリア・離職などについての研究を行っている。2014年より、立教大学現代心理学部兼任講師。
目次
1. キャリア入社者が自分らしさを発揮して活躍できるようになる時期
一般にキャリア入社者は、入社後しばらくの間、自分の所属する会社のことを「うちの会社」と自然に呼ぶことが難しいものです。
しかし、入社後2~3年ほど経つと、会社の文化や組織風土への理解が深まり、徐々に適応が進みます。その結果、「うちの会社」という言葉が自然に出てくるようになるなど、心理的にも組織の一員としての実感が高まっていきます。
またこの時期になると、職務面でも、前職で培った知識やスキル、専門性といった自分ならではの強みを生かしながら成果を挙げ、組織に貢献できる段階に入っていきます。
キャリア入社者は、前職での経験や専門性を持っているとはいえ、入社直後の段階では、その会社で長く続いてきた仕事の進め方や慣習に対する改善や新たな提案を行おうとしても、社内の文化や風土の理解がまだ十分でないため、うまくいかないことが少なくありません。
しかし、この時期になると、その会社特有の仕事の進め方や組織風土への理解が深まっているため、周囲に受け入れられやすい形で、現実的かつ実効性の高い提案ができるようになります。
2. キャリア入社者にとって節目となる時期でもある ―定着か、離職かの分岐点
この時期、組織適応が順調に進んだキャリア入社者は、会社の一員として、自分ならではの強みを生かしつつ活躍できるようになっていきます。
しかし、すべてのキャリア入社者が滞りなく仕事や組織に適応し、立ち上がっていくわけではありません。なかには、会社や職場に対する違和感を解消できないまま、「自分に何が期待されているのかがわからない」「組織風土がどうしても自分に合わない」といった理由から、再び転職を考え始める人もいます。
このように、組織適応に向けての最後のステップとなるこの時期は、キャリア入社者にとって、良い意味でも悪い意味でも一つの区切りとなりやすいタイミングといえます。
図表1は、入社後3年以内の30~49歳のキャリア入社者1109名を対象に、現在の会社での就業継続や離職に関する意向を尋ね、その結果を入社時期別に集計したものです。
N=1109
図表1 キャリア入社者の勤続・離職に関する意向
※「キャリア入社者のオンボーディングと組織適応に関する現状把握調査2025」 (リクルートマネジメントソリューションズ)
これを見ると、「今の会社・現在の組織で働き続けたい」と回答した人の割合は、入社後「2年目」までは減少傾向にありますが、「3年目」になると再び増加しています。
一方で、「今の会社で働き続けたいが、他の部署に異動したい」という人は、入社後「半年~1年」の時期に最も多くなっていますが、「2年目以降」は徐々に減少しています。
そしてこれとは対照的に、「近い将来、他の会社への転職も考えたい」と回答する人は、「2年目以降」に増加していきます。
この結果は、入社してからの約2年間がキャリア入社者の適応における一つのサイクルとなっている可能性を示しています。
そして3年目に向かう時期は、「この会社で働き続けよう」と定着の意思を固める人が増える一方で、社内での異動機会が限られるなか、「この会社や仕事は自分に合わないのではないか」と考え、再び転職を視野に入れる人も増えていく、いわばキャリアの節目となりやすいタイミングといえます。
この時期には、少し冷静になって自分自身を振り返る余裕も生まれ、「今の仕事で自分らしく働くことができているか」「自分ならではの価値を発揮できているか」と自問したり、今後のキャリアについて改めて考えたりするなかで、社内に留まり働き続ける意思を固める人と、再び社外に目を向ける人とに分かれていきます。
3. この時期に求められる周囲の関わりとフォロー
入社2年目以降になると、上司や周囲は「もう十分に慣れただろう」と考え、新卒入社の社員と同じ接し方をしてしまいがちです。しかし実際には、この時期は組織への適応が順調に進むかどうかの分岐点となりやすい重要なタイミングです。
そのため、相手がキャリア入社者であることを改めて意識した関わりが求められます。
具体的には、本人が持つ強みや専門性、入社の動機やキャリアに対する志向を再確認しながら、今後のキャリアの方向性について一緒に考えていこうとする姿勢が重要です。
以下では、上司や周囲の関わりとして大切なポイントを2点紹介します。
1)改めてキャリア入社者ならではの強みを生かすことを意識する
この時期には、本人が前職で培ってきた、その人ならではの専門性や知識・スキルに改めて目を向け、それらを生かした業務改善や企画提案を行えるよう、上司や周囲が背中を押していくことが求められます。
多くのキャリア入社者は、「社内にはない専門性や知見、ノウハウを期待されて採用された」という自負を持っています。
しかし、入社から数年が経ち、周囲から新卒入社の社員と同じように扱われるようになると、人脈の少なさや社内事情への理解の差を感じ、「自分はプロパー社員よりも仕事の能力が劣っているのではないか」と感じてしまうことがあります。
その結果、「自分は何のためにこの会社に採用されたのか」「自分には何が期待されているのだろう」といった迷いを抱くケースも少なくありません。
またキャリア入社者のなかには、「この仕事の進め方は非効率ではないか」「こう変えればもっと良くなるのではないか」と感じていても、これまでとは勝手が異なる新しい組織環境では、簡単には口に出せない場合もあります。
だからこそ、上司や周囲が本人の問題意識や改善の視点に丁寧に耳を傾け、それを引き出し、実際の行動や提案につなげていくのを後押しする関わりが求められます。
このような関わりは、キャリア入社者の意欲や誇りを高め、組織への貢献意識を強めることにもつながります。
キャリア入社者が自分自身を「単なる欠員補充としての人材」と捉えるのか、それとも「新しい視点や専門性を期待されている存在」と捉えるのかは、この時期の経験によって大きく左右されるのです。
2)本人の入社動機や志向に改めて向き合う
キャリア入社者が会社の風土や仕事の進め方にある程度慣れてくると、「自分はなぜこの会社に入社したのか」という意味を改めて問い直すようになり、今後のキャリアの方向性や社内での異動の可能性にも意識が向くようになります。
そのため上司や周囲は、本人が自身のキャリア形成や今後の異動についてどのように考えているのかについて、このタイミングで再確認しておくことが重要になります。
図表2は、入社後3年以内の30~49歳のキャリア入社者1109名を対象に、キャリアの目標と異動に対する考えを尋ねた結果です。
N=1109
図表2 キャリア入社者のキャリアの目標と異動に対する考え
※「キャリア入社者のオンボーディングと組織適応に関する現状把握調査2025」 (リクルートマネジメントソリューションズ)
これを見ると、キャリアの目標について「今の専門領域にこだわらず、より幅広い経験を重ねていきたい」と回答した人は全体の18%にとどまり、8割以上の人が「現在の専門領域を軸にキャリアを形成していきたい」と考えていることがわかります。
また、異動についても、「専門領域にこだわらず異なる領域への異動を希望する」と回答した人は20%と少ない一方で、「専門領域は維持しつつ、周辺領域への異動であれば受け入れられる」と回答した人が60%となっています。
このことは、多くのキャリア入社者が、専門性を軸にキャリアを発展させたいと考えつつも、その領域の中で経験を広げていくための異動には前向きであることを示しています。
上司や人事としては、キャリア入社者が自身の専門性を今後どのように高めたり広げたりしていきたいと考えているのか、また今後の異動についてどのように考えているのかに丁寧に耳を傾けることが重要です。
その上で、考えられる複数のキャリアパスを本人に示しながら、今後のキャリアについて共に考えていく姿勢が求められます。
また入社3年目に差し掛かる前後の時期に、会社として、キャリア入社者を対象にした「キャリア研修」を実施するのも有効な支援策です。こうした施策や関わりは、キャリア入社者の会社や組織に対する信頼を高めるとともに、定着意向の向上にもつながると考えられます。
以上、今回はキャリア入社者の組織適応の最終段階である「自分らしさを生かしながら会社文化に適応していくプロセス」と、この時期に重要となる上司や周囲によるフォローについてご紹介しました。
最後に
本連載ではこれまで全5回にわたり、一般にはあまりよく理解されていないキャリア入社者特有の組織適応上の課題や心理の状態、また上司・人事や周囲がどの時期に、どのような視点でフォロー・支援を行うとよいのかについて解説してきました。
本稿が、キャリア入社者のオンボーディングや組織適応、育成支援に携わる皆さまの取り組みの一助となれば幸いです。
