
HR NOTEの読者のみなさん、こんにちは。
沖縄で老人ホーム運営とデイサービスを提供している、なんじょう苑グループ代表の新垣です。

執筆者新垣 憲良氏株式会社日南 代表取締役社長
沖縄県南城市に本社を構え介護事業を運営。異業種でのビジネス経験を経て家業を承継し、2014年に本格的に介護事業へ参入。住宅型有料老人ホーム「なんじょう苑」を中心に、訪問介護・訪問看護・デイサービスなど地域密着型の複合介護サービスを展開。「介護を誇れる仕事にする」をビジョンに、業界平均を上回る処遇改善やキャリア設計の仕組みづくりに注力。現場と経営の両視点を持ち、PDCAと数値管理による再現性ある組織運営を実践。現在はM&Aや新規事業にも積極的に取り組み、沖縄から介護業界の価値向上を目指す。
介護業界における人材確保の難しさは、多くの事業者が抱える共通の課題かと思います。不人気業界と言われ、かつ求人倍率も4倍という厳しい環境の中、私たちも試行錯誤を重ねながら、離職率の改善と採用力の強化に取り組んできています。
今回は、なんじょう苑グループが取り組んでいる具体的な施策や、それがどのような成果に結びついたのか、お話ができればと思います。
目次
なんじょう苑グループが抱えていた課題

2014年になんじょう苑グループを立ち上げてから数年は、私たちも例外なく高い離職率に悩まされていました。正直に申し上げると、直近3年のデータでは離職率は10%〜15%となっていますが、さらに以前はこの数値よりももっと深刻な状況でした。
離職率が30%を超えることも珍しくなく、採用活動も思うように進まない日々が続いていました。その結果として、現場のスタッフが疲弊していき、入居者の方々にも質の高いサービスをお届けできないという悪循環に陥っていました。

「介護を誇れる仕事にする」というビジョンを掲げて事業をスタートしたにも関わらず、そのような状態に陥り、「さすがにこのままでいけない。抜本的な改革が必要だ」と、思い立ちました。
その原因を探っていくと、いくつかの構造的な問題が見えてきました。ワンオペ夜勤による職員の負担、子育て世代の定着、給与水準、そして人間関係のストレスなど…。こういった要因が複雑に絡み合い、悪循環を生んでいたのです。
そして、これらの課題に一つひとつ向き合い、改善を重ねた結果、現在では離職率が大幅に改善でき、介護業界の厳しい採用環境の中でも安定的に人材を確保できる組織へと変わることができました。
ここからは、具体的に何をしたのかご紹介していければと思います。
改善のために実践した4つの施策
施策1 ワンオペ夜勤体制の見直し
当時は看護サービスはまだ展開しておらず、介護サービスのみを提供していました。そういった背景の中、ワンオペ夜勤は現場スタッフにとって大きなストレス要因でした。
というのも、夜に一人で何十人もの入居者を見守る責任の重さ、何かあったらどうしようという心理的プレッシャー。さらには確実な休憩時間すら取れないという現実があり、職員からは「精神的につらい」「しっかりとした休憩が取れない」という声が絶えず寄せられていました。
そこに対して複数名体制への転換を模索していくのですが、経営判断として簡単ではありませんでした。介護報酬と施設コストだけでは、複数夜勤の人件費をまかなうことが困難だったからです。

転機となったのは、入居相談において医療的ケアが必要な方々が増えてきて、看護サービスを提供するようになったことです。幸運にも、パートさんの中に看護師をやっていた方がいて、このニーズに応えるため、その方を中心に看護のサービスを立ち上げていったんです。
新規採用を進めていき、看護職の体制を強化して、徐々に入居者向けにも看護サービスを提供できるようになっていきました。その結果として、介護報酬だけでなく医療保険報酬を得られるようになり、看護職の方も夜間に配置できる体制を整備できるようになったのです。
これにより、結果として介護職員・看護職員の複数による夜勤体制が構築できるようになりました。現在は施設ごとに3〜4名の夜勤体制を敷いています。医療的ケアの必要度が高い施設では看護師を含む4名、それ以外の場合は3名という配置です。
複数体制になったことで、職場環境は劇的に改善しました。決められた時間に確実に休憩が取れるようになり、介護職員は判断に迷ったときに看護師へ相談できるようになりました。看護師側も介護職員に指示を出して分担することで、効率的なケアが実現しています。
重度の方々のケアは一定の緊張感を伴いますが、複数人いることで相談し合える安心感があります。そして何より、入居者の方にしっかりと寄り添えることが、スタッフ一人ひとりの自信とやりがいにつながっています。
施策2 子育て世代の定着
介護・看護の現場は、もともと女性が多い職場で、子育て世代のスタッフも多く在籍しています。そのため、急な子どもの発熱や学校行事など、予定外の休みが発生することは避けられません。
しかし、急な休み・早退をする際に人員に余剰がなかったために、気軽に言い出しにくい空気感があったのです。
この状況に対し、「これからの時代に必要な組織のあり方」を考えて、シフト体制を直すことにしました。これまでは、組織全体の人員設計として、ギリギリの人員体制での運営・採用をしていたのですが、そこに対して人的リソースに余剰がでるくらいの組織設計に変えました。
人材が一時的に過剰になり、ダブつくこともありますが、これは必要経費として受け入れています。その分のリソースは、訪問介護の件数を増やすなど、柔軟にサービスを調整することで対応しています。
今では急な欠勤が出た場合は、LINEグループで呼びかけを行っていますが、「お互い様精神」があるのか、すんなりと穴を埋めてくれるスタッフが名乗り出てくれます。以前は私を含めた管理者であるメンバーが、休日返上で出勤することも少なくありませんでしたが、今では誰かしらが対応してくれる体制が整いました。
最も大きな変化は、先述したように、職場に「お互い様」の雰囲気が醸成されたことです。
自分が急に休んだときに誰かが入ってくれた経験があるからこそ、他のスタッフが困っているときには自然と手を差し伸べる。そんな文化が育っています。産休・育休を取得する職員も多いのですが、この体制があるから、みんな職場に復帰してくれています。
「急な対応でもみんなが協力してくれる」「以前よりも休みを取りやすくなって助かっている」という感謝の声を、日常的に聞くようになりました。さらに、採用の募集要項に「子育て世代歓迎」「急な変更OK」と明記したのですが、これにより応募数が確実に増えました。
施策3 業界水準10%の給与アップの実現
創業当初、私たちの収入源はデイサービスがほとんどでした。この状態では、どう頑張っても給与を大幅に上げることは困難でした。
しかし、私は当初から「社員がしっかり稼げないと意味がない」と考えていました。「稼ぐ」ためには、提供サービスの幅を広げることと、介護報酬をあげることが重要です。
介護報酬は国が定める仕組みで、介護保険には「要介護1〜5」と区分があるのですが、それに応じて報酬が変わっていきます。箱型ビジネスだけでは収入の限界が見えています。この構造を変えるために、訪問介護・訪問看護へと事業を広げ、さらに重度の方々を積極的に受け入れる方針を固めました。
というのも、私たちの地域では、医療的ケアが必要な方々のニーズが増えていましたが、対応できる施設や事業所が不足していました。そこで私たちは、この課題の解決に対して、正面から取り組むことを決意したのです。
自社の有料老人ホームで訪問看護・訪問介護を提供することで、一定の効率化を実現でき、重度の方々へのケアは基本報酬が高く、それに処遇改善加算が上乗せされることで、配分できる給与総額も増えていきます。結果として、沖縄県平均より10%以上高い給与水準を実現することができました。
採用活動においても、「周りと比べて給与が高い」ことは明確な強みになっています。応募者からも、その点を評価する声が必ず挙がります。
また、スタッフの意識にも変化が生まれました。他社が断るような重度の入居者であっても、「収入に直結する」という理解があるため、前向きに受け入れる姿勢が定着しています。
負担が大きいことは事実ですが、みな誇りを持って仕事に取り組んでくれています。最初から給与アップありきではなく、社会的課題を解決していく決意をしたからこそ実現できた。私はそう確信しています。
施策4 2名の出戻り社員が生まれるくらいの雰囲気のよい職場づくり

私たちの組織は、比較的若い世代が多いという特徴があります。無資格から働き始め、長く続けている職員も多数います。その背景には、組織カルチャーとして話しやすい雰囲気があり、相談もしやすい環境があるからだと感じています。
もちろん、人間関係の問題がゼロではありません。介護の仕事は人とのコミュニケーションが中心ですから、摩擦が生じることもあります。しかし、2名の出戻り社員が生まれたのは、「やっぱりなんじょう苑での人間関係が一番良かった」という理由からでした。
なぜそのような組織ができたのか。正直に言えば、気づいたらそのような雰囲気ができていた、という部分もあります。ただそんな中でもいくつかポイントをあげると、中間管理職の育成には、特に気を配っています。退職理由の多くは、直属の上司との関係性に起因するからです。
そのため、部下に対して上から目線で物を言うタイプの管理職は、私たちの組織には合いませんし、登用しないようにしています。また、各管理職と毎週ミーティングを実施しており、現場の状況を常に把握するようにしています。問題が深刻化する前に、私が直接現場に入って話を聞くこともあります。
中間管理職には「まずあなたが話してみて、難しければ私が対応する」という安心感を持ってもらえるよう心がけています。採用においても、極端にネガティブな印象の方は避ける傾向がありますし、カルチャーフィットを重視しています。
ただし、人手不足の際には、どうしても「ひょっとしたら合わないかもしれない」と感じた方を採用することもあります。でも不思議なことに、そういった方々も、私たちの職場文化に触れるうちに変わっていくケースが多いのです。
私も含め、上位レイヤーの職員から気持ちの良い対応を意識していくことで、それが組織全体にプラスの影響を与えているかもしれません。
さいごに
介護業界では小規模経営が多く、経営的に余裕のある事業者は決して多くありません。しかし、一定の規模がなければ脱属人化は実現できないと考えています。
私たちは、M&Aや新規開業を含め、計画的に規模を拡大していく方針です。その過程で、成長意欲のある社員をどんどん昇格させ、権限移譲していきます。今年からは、リーダー候補者を対象とした定期的な研修もスタートさせました。
また、上記に加えて理念経営も徹底したいと考えています。一般社員は理念を完全に理解していなくても構いませんが、リーダーになる人材には、何のために会社が存在し、どこを目指しているのか、そのために何が必要なのかを腹落ちしてほしい。同じマインドを持つリーダーが各現場で意思決定をすることで、組織全体の成長が加速すると信じています。
顧客に対しては、退院後の在宅ケアが困難な方々を中心にサービスを提供し続けます。他社が断るような重度の方々にこそ、私たちの価値を発揮できる場があります。
そして最終的には、沖縄県内でナンバーワンに選ばれる施設を目指しています。それは単に規模や売上の話ではありません。「入居するならなんじょう苑」「働くならなんじょう苑」「報酬もなんじょう苑が一番」──すべての面で一番に思い浮かべてもらえるブランドになることが、私たちの目標です。
介護業界の人材不足は、一朝一夕には解決しません。しかし、一つひとつの課題に真摯に向き合い、現場の声に耳を傾けながら改善を続ければ、必ず道は開けます。私たちの取り組みが、同じ課題に悩む全国の介護事業者の皆様にとって、少しでもヒントになれば幸いです。
