
近年の新卒採用市場や若手育成の現場において、
- 若手は管理職になりたがらない
- 責任あるポジションを避ける
という言葉を耳にする機会が増えました。
「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉が流行し、世間ではプライベートを最優先する姿勢が強調される中で、企業側は「どのように若手の意欲を引き出せばいいのか」という課題に頭を悩ませています。
しかし、その「定説」は本当に正しいのでしょうか?
株式会社ベースミーが24〜27卒の学生450名を対象に実施した「出世欲と理想のマネジメント」に関する調査からは、これまでのイメージを覆す「新卒世代のリアルな上昇志向」が見えてきました。
本記事では、最新の調査データをもとに、Z世代・新卒世代のキャリア観を深掘りし、彼らのエンゲージメントを高めるためのマネジメントと採用戦略のアップデートについて解説します。

執筆者勝見 仁泰氏株式会社ベースミー 代表取締役CEO/Z世代キャリアラボ 所長
ここに人物紹介文が入ります。幼少期より実家の八百屋での手伝いの経験から「商売や働くこと」「ものづくり」に関心を持つ。大学1年次よりインターネットに没頭し、文科省日本代表プログラム「トビタテ留学Japan」に選出され、ドイツにてAI領域で学生起業に挑戦するが事業撤退。その後、複数のIT企業でのインターンを経験し、米国と日本での就活の原体験から、2020年11月にCTOの大橋とアレスグッド(現:株式会社ベースミー)を在学中に共同創業。Forbes 30 UNDER 30 Asia 2024(世界を変える30歳未満のアジア人)ビジネス部門にて選出。Z世代のインサイト及び就活生の悩みや課題感をインタビューを通じて分析、蓄積してきた情報を元に、2026年「Z世代キャリアラボ」を立ち上げ。勝見自身もZ世代。
目次
「管理職離れ」は誤解?6割が持つ「出世意欲」の正体
売り手市場が続く新卒採用において、内定辞退や早期離職を防ぐためには、彼らの深層心理にある「キャリア観」を正しく理解することが不可欠です。一般的に「若手は出世を望まない」「管理職になりたくない」と判断される傾向が高いですが、今回の調査結果はその認識を覆す意外なものでした。
「出世したい」層は過半数を超える

調査によると、「働く会社で出世したいですか?」という問いに対し、「したい」「ある程度はしたい」と回答した学生は合わせて約6割に達しました。
「出世について考えたことがない」層を除けば、明確に「したくない」と答えた層は少数派です。この結果は、Z世代が決して「成長や昇進に無関心」なわけではなく、むしろ「健全な野心」を持っていることを示唆しています。
彼らが「出世」に求めるもの:給与と裁量権

では、彼らはなぜ出世を望むのでしょうか。
彼らの動機として最も多かったのは「給与や待遇を上げたい」という回答でした。これは世代を問わず普遍的な欲求と言えます。
しかし、注目すべきは2番目に多かった「裁量を持って仕事をしたい」という回答です。彼らにとっての出世とは、単に地位や名誉を得ることではありません。「自分の意思で仕事をコントロールできる状態」や「自己実現」を手に入れるための手段として、ポジションを求めているのです。
また、「転職や独立の際に役立ちそう」という回答も一定数見られ、終身雇用を前提とせず、自身の市場価値を高めるためのステップとして出世を捉えているドライかつ戦略的な視点も浮き彫りになりました。
「出世したくない」層が抱えるリアルな不安

一方で、出世を望まない層は何を懸念しているのでしょうか。
トップは「プライベートの時間を大切にしたい」でした。次いで「責任を負いたくない」という回答が続きます。
ここで重要なのは、彼らが「仕事が嫌い」なわけではないという点です。「管理職=長時間労働・過度なプレッシャー」という旧来のイメージが、心理的なハードルとなっている可能性があります。
企業側には、一律に「管理職」を目指させるキャリアパスだけでなく、「専門職としてのスペシャリスト」や「ワークライフバランスを保ちながら貢献する」といった、多様で柔軟なキャリアステップを提示することが求められています。
彼らが求める「理想のマネジメント」:キーワードは“成長の伴走”
採用後の定着・活躍において、上司のマネジメントスタイルは極めて重要な要素です。調査結果から見えてきたZ世代が求める「理想の育成」には、明確な特徴がありました。
「褒め」と「フィードバック」の両立

「どのようなマネジメントを受けたいか」という問いに対し、「良い点・改善点を具体的にフィードバックしてほしい」と「褒めて育ててほしい」が拮抗する結果となりました。
「Z世代は打たれ弱いから、とにかく褒めればいい」というのは短絡的な解釈です。彼らは承認欲求を満たしてほしい一方で、「自分の市場価値を高めたい」「成長したい」という強い意欲を持っています。
そのため、「なぜ良かったのか」「次はどうすればより良くなるのか」という、成長のための具体的なフィードバックを強く求めているのです。キーワードは「成長への伴走」と「心理的安全性」の両立と言えるでしょう。
理想の上司像:属性よりも「関係性」

「理想の上司」に関する調査では、「年齢に関わらず、仕事の実力がある人」や「年齢が近い・話しやすい」が支持されました。
しかし、特筆すべきは「特に気にしない」という層の多さです。これは、彼らが年齢や性別、社歴といった「属性」で上司を判断しているのではなく、「個としての実力」や「自分との関係性(話しやすさ、信頼感)」を重視するフラットな視点を持っていることを示しています。
特に「出世意欲が高い層」ほど、上司との「フランクな関係」を求める傾向が強いことも判明しました。上昇志向のある学生は、上司を「管理する人」というよりは、「成長を加速させてくれるパートナー」として捉えていることを示唆しています。
採用・育成における「ミスマッチ防止」と「意欲醸成」の鍵
ここまで見てきたように、新卒世代は「出世意欲」も「成長意欲」も持っています。しかし、なぜ入社後に「入社後ギャップによるエンゲージメント低下」や「早期離職」が起きてしまうのでしょうか。
その原因の一つは、入り口時点での「スキル偏重の選考」と「価値観マッチングの欠如」にあります。つまり、「スキルマッチ」だけでは見落としてしまう優秀な人材がいるということです。
「何をやってきたか(What)」だけでなく、「なぜ、どのように取り組んだか(Why/How)」というプロセスや価値観に企業が寄り添うことで、学生は「評価される場」ではなく「理解される場」として選考に臨むことができます。
この「心理的安全性」が、入社後の高いエンゲージメントの土台となるのです。
新卒世代を惹きつけるための「マネジメント・採用戦略」のアップデート
最後に、今回の調査結果を踏まえ、企業が明日から取り組める具体的なアクションを提案します。
① 採用:「多様なキャリアパス」の提示
求人サイトや説明会で、「幹部候補」としての訴求をすることに加えて、「専門性を極める道」や「プライベートと両立しながら長く働く道」など、複数の選択肢があることを示しましょう。
これにより、「責任を負いたくない」層の心理的ハードルを下げつつ、「裁量権」を求める層には将来のチャンスをアピールできます。
② 育成:「具体的」かつ「ポジティブ」なフィードバックの習慣化
マネージャー層に対し、「フィードバック研修」を実施することをお勧めいたします。
単に「よかったよ」「頑張ったね」で終わらせず、「〇〇という行動が、チームの××という成果に繋がった。次は△△に挑戦すると、より君の強みが活きる」といった、「承認+成長示唆」の型を身につけることが重要です。
③ 組織:「ナナメの関係」や「メンター制度」の活用
「年齢が近い・話しやすい」先輩社員との接点を増やすことも有効であると考えられます。
直属の上司には言いにくい悩みも、少し年上の先輩(5〜10歳差の“程よい距離感”の先輩)になら相談できるケースは多々あります。
公式なメンター制度だけでなく、社内座談会やランチ会などを通じて、フラットに話せる場を設計しましょう。
Z世代は「出世」したくないのではなく「納得」したい
「最近の若者は……」と否定的な見方をする前に、まずはZ世代の変化に注目してみませんか。彼らは、意味のない苦労や理不尽な責任は拒絶しやすい傾向にありますが、「自分の成長に繋がる」「納得感のある」挑戦であれば、意欲的に取り組む準備ができています。
6割が「出世したい」と考えているこの事実を、企業はどう活かすか。それは、Z世代を新卒採用者という「枠」に当てはめることよりも、彼らの「意欲」の根幹を理解し、伴走するパートナーとして迎え入れられるかどうかにかかっています。
