「人事制度改革の目的とは?」
「人事制度改革の適切なタイミングがわからない」
「人事制度改革が失敗する原因を知りたい」
上記の悩みを抱えている労務担当者は多いでしょう。
人事制度改革は、企業が経営目標を達成するために経営資源であるヒトの制度や仕組みを変えることです。
本記事では、人事制度改革の目的、進め方、失敗する原因について解説しています。人事制度改革を効果的に進めるための参考にしてください。
目次
1. 人事制度改革の目的
人事制度改革の目的は、企業の経営目標を達成することです。
経営目標の達成には、経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」のうちヒトが最も重要といえます。ヒトがそのほかの経営資源を活用し、目標達成に向けて取り組むためです。
例えば、予算を十分に用意しても、従業員が予算をうまく活用できなければ目標を達成できません。
そのため、ヒトが資源を効果的に活用して経営目標を達成できるよう、人事制度を最適化する必要があります。
人事制度改革により、従業員一人ひとりを適正に評価・教育し、能力や適性を最大限に引き出す環境づくりが可能です。
2. 人事制度改革に適したタイミング・時期
人事制度改革に適したタイミング・時期は以下の2つです。
- 企業方針を変更するとき
- 従業員数が大幅に増加したとき
2-1. 企業方針を変更するとき
人事制度改革に適したタイミングの1つ目は、企業方針を変更するときが挙げられます。
現在使用している人事制度は企業方針を元に作成されているためです。企業方針の変更に合わせて人事制度の見直しをしなければ、企業と従業員との間で重視する基準に差が生まれ、不具合が生じます。
例えば、企業方針として売上高の向上を目標としていたが、企業方針の変更により新規顧客開拓数を目標の基準にしたとしましょう。
従来の人事制度であれば、従業員の評価基準も売上高のままであるため、従業員は引き続き売上高を意識して業務にあたることになります。従業員目線では、売上高を向上させることが自身の評価につながり、キャリアや報酬に反映される状態です。
企業方針に合わせて人事制度を改革しなければ、企業が従業員に求めることと従業員が注力することにずれが生じます。そのため、企業の経営目標達成が困難となるでしょう。
上記のようにならないためにも、企業方針を変更した際には人事制度も合わせて変更することが大切です。企業方針と人事制度に一貫性を持たせることで、経営目標に効果的に取り組めます。
2-2. 従業員数が大幅に増加したとき
人事制度改革に適したタイミングの2つ目は、従業員数が大幅に増加したときです。
従業員が増えると現在の人事制度では対応しきれない可能性があります。
例えば、部長1人に対して評価対象の従業員が5人だった状況から従業員が大幅に増加し、何十人もの評価が必要になるケースです。
評価対象者が増加することで、部長の業務量も比例して増えるでしょう。さらに従業員一人ひとりを観察することが困難となり、従業員は適正な評価が受けられなくなるおそれがあります。
従業員が増えた段階で人事制度改革を進めて評価体制を整えることで、部長の負担は減り、従業員も適正な評価を受けられるでしょう。
3. 人事制度改革における見直しの4つのポイント
人事制度改革における見直しのポイントは、以下の4つです。
- 評価制度は公平性を保つ
- 評価基準を明確に示す
- 従業員にフィードバックを実施する
- 定期的に人事制度を見直す
3-1. 評価制度は公平性を保つ
ポイントの1つ目は、評価制度は公平性を保つことです。
評価制度が公平でないと従業員から不満が生まれます。
例えば、同じ業務をしているのにアルバイトと正社員で評価が異なる状況は避けましょう。アルバイト側は正社員や企業に対して不満を持ちます。さらに、正社員側もアルバイトに対して気まずさを感じるでしょう。
従業員が納得する人事制度改革にするためにも、公平な評価制度を作成してください。
3-2. 評価基準を明確に示す
ポイントの2つ目は、評価基準を明確に示すことです。
評価基準がバラバラだと、従業員は何を指針に行動するべきかわかりません。反対に評価する側の従業員や幹部社員も判断に迷うでしょう。
明確な基準がなければ公平な評価もできません。従業員から評価基準を尋ねられた際にだれが答えても同じになるように、明確な評価基準を作成しましょう。
3-3. 従業員にフィードバックを実施する
ポイントの3つ目は、従業員にフィードバックを実施することです。
従業員へのフィードバックがないと、従業員は業務を改善しようがありません。そのため、人事制度を改革する際は、従業員に対していつ、だれが、どのように従業員へフィードバックするかあらかじめ決めておきましょう。
適切にフィードバックすることで、従業員のモチベーションが上がったり、帰属意識が生まれたりと良い効果が期待できます。
3-4. 定期的に人事制度を見直す
ポイントの4つ目は、定期的に人事制度を見直すことです。
人事制度を見直すことで、現在の環境に合わない制度のまま運用することを予防できます。
企業方針や規模など現状と比較し、合わない人事制度は変更しましょう。見直した結果、問題がなければ人事制度を変更する必要はありません。
大切なのは、定期的な見直しにより、企業や社会の変化が生じた場合でもスムーズに対応して適切な人事制度を保つことです。1年や3年おきなど、あらかじめ見直す時期を決めておくとよいでしょう。
4. 人事制度改革の進め方
人事制度改革の進め方は、以下の流れになります。
- 企業方針の確認
- 現状の把握
- 課題のリスト化
- 人事制度の変更
- 従業員への周知
4-1. 企業方針の確認
最初に企業方針を確認しましょう。企業方針に沿った人事制度改革にすることで、経営目標の達成を目的とする一貫した体制を整えられるためです。
具体的には、企業が今後どういう経営にしていきたいのか、従業員にどういう姿になってほしいのかを把握しましょう。
企業方針を確認しておくことで、人事制度改革の方針も定まります。
4-2. 現状の把握
次に現状の把握です。
企業の状態がわからないと人事制度改革が必要なのか、不必要なのか判断できません。
現状把握には、客観的な数値と現場の声を参考にしてください。客観的な数値は、直近の売上や従業員の残業時間などで計測できるものです。
さらに、現場の声も調査しておきましょう。経営陣のみで人事制度を改革すると現場の状況に合わない可能性があります。
従業員の希望をすべて叶える必要はありませんが、アンケートを実施するなどデータを収集しておきましょう。
4-3. 課題のリスト化
さらに課題のリスト化を実施します。
現状把握でわかったことから課題といえるものをリストにしましょう。課題をリスト化することで、現状の人事制度の問題点が導き出され、改革すべき点が明確になります。
リスト化することで優先順位を検討できるようになることも利点です。企業にとって優先度の高い項目から改革していくとよいでしょう。
4-4. 人事制度の変更
4つ目は、人事制度を変更しましょう。
課題が見つかれば、実際に解決するために人事制度を改革してください。実際に変更することで、はじめて浮き彫りになる課題や新しい発見があるでしょう。
もちろん事前の検討や準備は大切ですが、リスクを恐れすぎて行動できないことも失敗につながる可能性があるため注意してください。
4-5. 従業員への周知
最後は、従業員への周知です。
人事制度が変更になることを急に知らされると、従業員が不信感をもつおそれがあります。人事制度改革が決定した段階で早めに周知しておきましょう。
周知の期間が短すぎると従業員が混乱する可能性があるため、半年や1年後など余裕のあるスケジュールが望ましいです。
5. 人事制度改革が失敗する3つの原因
人事制度改革が失敗する原因は、以下の3つです。
- 評価項目が細かすぎる
- 従業員への周知が足りない
- 人事制度が管理者の負担になる
5-1. 評価項目が細かすぎる
失敗する原因の1つ目は、評価項目が細かすぎることです。
評価項目が細かいことでチェック内容が複雑になり、管理が難しくなります。適切な評価がなされないと、従業員は勤務に対してのフィードバックがなされず不満が募るでしょう。
公平性や明確さを意識しすぎるあまり、評価項目を細かくしすぎないようにしてください。
5-2. 従業員への周知が足りない
失敗する原因の2つ目は、従業員への周知が足りないことです。
周知をおろそかにすると、従業員の気持ちを無視した人事改革と捉えられるでしょう。結果、従業員の企業に対する帰属意識が薄くなります。
従業員が納得したうえで勤務してもらうために、なぜ人事制度を改革するのか、改革の目的は何かを共有しましょう。
人事制度に関して質問がある従業員向けに窓口を設けておくと、対応がスムーズにできます。
5-3. 人事制度が管理者の負担になる
失敗する原因の3つ目は、人事制度が管理者の負担になるためです。
管理者は通常業務に加えて人事制度改革に取り組むことから、負担が大きい傾向にあります。
人事制度改革は短期間で完了できるものではなく、長期間にわたって様子を見ながら推し進めていくものです。負担が長期にわたらないよう管理者の業務量の調整が必要になります。
人事制度改革を開始する前には、管理者への負担について検討しておきましょう。
6. 人事制度改革における2つの事例
人事制度改革の事例を2つ紹介します。
- A社|定期的なフィードバック
- B社|KPI評価シートの公開
6-1. A社|定期的なフィードバック
人事制度改革の事例の1つ目は、定期的なフィードバックを取り入れたA社です。
当初、A社では従業員へのフィードバックの機会として年に一度の面談を実施していたものの、面談後に離職する従業員が多くいる状況でした。
面談で「一年間努力してきたが、企業から正当な評価が得られない」と感じる従業員が大勢いたためです。企業が期待することと従業員の働きにミスマッチが生じている状態でした。
そこでA社は人事制度改革として、年に一度ではなく3ヵ月おきの定期的なフィードバックを実施します。面談する機会を増やしたことで、従業員は企業から何を期待されているのかを明確に理解でき、それに応じて自身の能力を発揮したりアピールしたりできるようになりました。
適正な評価を受けられること、コミュニケーションの機会が増えたことで帰属意識が生まれ、離職率の低下を実現した事例です。
6-2. B社|KPI評価シートの公開
人事制度改革の事例の2つ目は、KPI評価シートを公開したB社です。
B社は、目標に対する従業員の進捗状況が不明瞭でした。そこでKPI評価シートを公開し、全社員がいつでも確認できる仕組みに変更したことで、途中経過の透明化を実現しています。
その結果、所属部署内で目標を共有できたり、目標設定が明確になったりしました。全社員がKPI評価シートを確認できるようになることで、評価基準の透明性にもつながるでしょう。