こんにちは、HR NOTE編集部 働き方改革プロデューサーの井上です。
今回は、働き方改革において欠かせないICT(Information and Communication Technology)ツールの活用についてご紹介。
テレビ・WEB会議システム、チャットツール、ナレッジ共有ツール、ファイル共有ツールなど、生産性向上に向けて、さまざまな目的でICTツールは活用されています。しかし、効果的に導入・活用できている企業はそこまで多くないのではないでしょうか。
そこで本記事では、「ICTを活用したワークスタイル変革のために必要な考え方」についてコクヨの曽根原氏にお伺いし、記事にまとめました。
【人物紹介】曽根原 士郎 | コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部 スペースソリューション事業部 ワークスタイルイノベーション部 ワークスタイルコンサルタント
1989年の入社後すぐに新規事業(OA・ICT)営業・企画の部署に配属。2001年より研究開発部で、新規事業・新領域商材担当。結果、6本上市・頓挫多数。2014年より企画部門で新たなコラボレーションクラウドサービスの開発・立上げに従事。2016年からはコンサルティング部門で「働き方改革」コンサルと同時に新規ITサービス開発に携わる。2017年より同部隊にて、さらに新たな「働き方改革」ITサービスを立ち上げ中。
目次
働き方改革で重要なのは「自社のグランドコンセプト」を描くこと
働き方改革の「特徴的な2つの実例」と「計測方法」
働き方改革で「オフィス空間づくり」は重要なのか
「意味のあるフリーアドレス」にするために必要な考え方
健康経営による4つのメリットと、その取組み方法とは
「テレワーク導入」は社員の働き方にどんな影響をもたらすのか?
市場の変化に合わせて、ICTツールで「仕組みの改革・創出」を!
-働き方改革の中でのICTツールの重要性が高まっていますが、どのような背景があるのでしょうか?
曽根原氏:働き方改革において重要なのは、「企業はなぜ働き方改革をするのか」という「Why(なぜ)」を第一に考えることだと思っています。
そしてその「なぜ」が明確になってはじめて、生産性向上や利益率アップ、効率的に働くには・・・といった、ビジネスモデルの見直しをしていきます。
そこから、「企業としての目指したい姿」を描きながら具体的な戦略と戦術・施策を考えて仕組み化することで、うまく回るようにしなければなりません。
しかし、現在は市場変化のスピードが激しく、働き方の多様化も進んでおり、単なる売上げや利益率アップだけを目的とした改革では、現在の社会変化に対応するのは難しくなってきています。
今の「働き方改革」において最も重要なのは、企業の人的資産である「社員」をどう活かせるか、そして、その社員の働きがいを高められるよう、企業の在り方全体を変えていくことだと感じています。
そのためにも、取り組むべき「仕組み化」は、単なる業務改善だけでなく、社員が生き生きと個人の強みを発揮しながら働くことのできる「仕組みの改革・創出」であり、そこで力を発揮するのがICTだと思っています。
ICTの種類と目的別の活用シーン
-実際にICTのツールには、どのような種類のものがあるのでしょうか?
曽根原氏:まず、多くの働き方改革の施策・「仕組み化」では、以下の5つを意識しICTツールの検討・導入に取り組む企業が増えています。
- 作業の効率化、省略化
→ロボティクスプロセスオートメーション(RPA) - 報連相の精度向上、スピードアップ
→SNS、チャット、TV/WEB会議、BYOD - 各種情報・記録の蓄積、共有、再利用
→社内ポータル、グループウェア、検索エンジン、ファイル共有 - 状態の「見える化」による判断の支援
→ビジネスインテリジェンス(BI)、位置情報 - 多くの情報をもとに、新たな知識を習得する、新しい発見を生み出す
→ビッグデータ、AIツール
それぞれについて、簡単に説明させていただきます。
1、ロボティクスプロセスオートメーション(RPA)
RPAは「ロボット(ソフトウェア)による業務自動化」のことを指します。作業の効率化、省略化ツールに関して、今最先端なのがこのRPAでしょう。
24時間365日稼働が可能であり、かつ正確なため、ルーティン業務においては人間よりも圧倒的なパフォーマンスを発揮しますので、ルーティン業務をRPAに任せることで、社員が「より創造的で、新しい挑戦に取り組む時間」を生み出すことができます。
2、SNS、チャット、TV/WEB会議、BYOD(Bring your own device)
SNS、チャット、テレビ会議、ウェブ会議、BYODは、「報・連・相」をスピーディにおこなうことに貢献できます。
今や「同じ時間に、同じ場所に集まり会話する」ことを前提とした働き方・ビジネスモデルは、市場のスピード・お客様の要求・競合との差別化などの点から、優れた仕組みとは言えなくなってきています。
いつでもどこでも働けて、タイムリーに報連相をおこないながら、社員同士の経験や知識を重ね合わせた価値の創出・提供を「日常のあたりまえ」にしていくことが重要になってきています。
大量に送られてくるメールの中から、必要なメールを探したり、長文を読んだりするだけでも一苦労ですし、会議のたびに外出先からオフィスに戻っているようでは、生産性高く働けているとは言えないでしょう。
SNS、チャット、TV/WEB会議、BYOD(Bring your own device)といったICTツールは、そんな社員の「意識や行動=働き方・価値の作り方・出し方」を、根本から変えてくれます。
3、ポータル、グループウェア、検索エンジン、ファイル共有
社内ポータル、グループウェア、検索エンジン、ファイル共有といったツールは、情報・記録の蓄積、共有、再利用という点で大きな効果を発揮します。
これらを駆使することで、必要な情報を簡単に見つけ出すことができ、素早い作業や行動、価値の創出につながっていきます。
また最近では、企業の枠を越えて共有・コミュニケーションが取れるツールが盛り上がってきています。
たとえば、500MB(メガバイト)の設計図面のやり取りをするとします。先方に共有しようにも容量が大き過ぎてメールに添付できないため、一回一回ファイル転送サービスなどを使って送ることになりますが、非常に手間がかかります。
それが同じシステム上でリアルタイムに共有・共同編集できるようになれば一気に効率性が増し、より早く成果に結びついていくでしょう。
4、ビジネスインテリジェンス(BI)、位置情報
データから経営戦略の意志決定を支援するBIや位置情報などのツールは、状態の「見える化」により、判断の精度を上げてくれます。
急速な市場の変化や多様化により、自分の経験則だけでは正確な状況の把握とそれに対する予測が難しくなってきていますが、ビジネスの現場では常に意思決定が求められます。そんな中で、より確実で素早い意思決定をするために、現状を「見える化」することが重要です。
また、働いた時間を「見える化」することも利益率や効率化、もしくは問題の早期発見の上で重要です。
たとえば、コンサルティングの案件で500万円を受注したとします。利益率5割だとしたら、250万円分の時間工数で終わらなければ赤字ですよね。日々、自分がその案件に何時間かけているかが見えないと、だらだらやってしまい「最終的に赤字だった」となってしまうでしょう。
同時に、組織や社員に対して「振り返りの機会」を促せる点もとても大切です。「今日も昨日と同じことを繰り返していればいい」と言う意識からは、改善や改革の芽は生まれません。
また、特に近年、IoT技術を使った様々な位置情報の見える化が進んできています。
たとえば、社員の位置情報が分かることで、今、誰と誰が近くにいてサポートが可能なのか、関係者がすぐに集まれるミーティングポイントはどこなのか、といった臨機応変な行動・働き方を定着させていくことにも役立ちます。
5、ビッグデータ、AIツール
ビッグデータやAIツールを上手に活用できている企業はまだ多くはないと思います。
その理由としてコストが高いこともありますが、それ以上に「仕組み化」の難しさと、利用できるデータの質と量が問題になってくるからです。
しかし今後は、「気づいていないことに、いかに気づけるか」「過去から蓄積してきた情報や知識、市場に大量にある二次データを、どう自社の強みに活かしていくか」が、他社には真似できない革新的なビジネスモデルの構築や「社員一人ひとりの成長、能力の開花・発揮」にとって重要な時代となるでしょう。
これから必ずやってくる労働力減少を補うためにも、ビックデータ・AIツールの活用は企業成長の鍵になると考えています。
ICTツール導入後は、効果が出るまで我慢強く使い続けることが重要
-ICTツールの導入や活用の際によく起こりがちな問題などはありますでしょうか。
曽根原氏:最初にお話ししたように、「企業はなぜ働き方改革を実行するのか」といった、「Why(なぜ)」を一番に考えます。
そして具体的な戦略としての「What(何を)」を決め、その方法である「How(どのように)」を検討する中で、ICTが選択肢の一つとして出てくるのです。
そのため、戦略である「What(何を)」によって選ぶべきICTツールは変わります。どれだけ適切なICTツールを選べるか、そして活用の仕組みをどれだけ上手く構築できるかによって導入の効果は大きく変わってしまいます。
また、ICTツールによっては導入後すぐに効果が出るものと、効果が出るまでに時間がかかるものがあります。すぐには効果が出なくても、我慢強く活用し続ける意識を持つことも大切です。
さらに、社内での運用を軌道に乗せた後は、「関係会社やパートナー、さらにはお客様をどう巻き込んでいけるか」までを考えて取り組んでいくことが、本当の意味での働き方改革につながると思っています。
たとえばコクヨでは、社員の大多数にiPhoneを支給しているので、同じ場所に集まらなくても、FaceTimeを使ってサッと打ち合わせができますし、会議についてもテレビ会議やWEB会議ができる環境が整っているので、移動の手間を省いた効率的な会議が日々色々な場所でおこなわれています。
しかし、お客様との打ち合わせや会議で同様のことができるかというと、難しくなります。慣れている方であれば「大丈夫です」と許可を得た上で、WEB会議などに招待していただきますが、すべての企業様がそのような対応ができるわけではありません。
ただ、今の時代、1社だけで成立する仕事はありません。お客様も含め、多くの社外パートナーの方と一緒に仕事をしています。
ですから、働き方改革においても、仕事上関わりのある多くの方たちの理解と協力が必要になってくるのです。
-ICTツールを社員に活用してもらうために何かポイントはございますか?
曽根原氏:ICTツールの活用を社内に浸透させるにあたり、社員のリテラシーや経験値、ジェネレーションギャップが大きく関係してきます。
そのため導入にあたりポイントが3つあります。
1つ目のポイントは、何か1つをやめることです。ICT導入にあたっては、かならず何らかの手間や覚える・慣れるための時間が必要です。「ただでさえ忙しいのに、面倒だ」とならないために、現状業務の何か1つをやめ、”変化する負担”を軽減することが大切です。
2つ目のポイントは、ICT導入に対して柔軟に対応できそうな社員を最初に巻き込む、またはテストターゲットを絞るなどで、スモールスタートさせることです。
たとえば、初期導入の対象をプライベートでもICTに慣れ親しんでいる30代の社員に絞れば、準備するデバイスの数を限定することができ、初期コストも抑えられますし、早い段階で課題を見つけ改善することができます。
また、「まずは30代でテストします」とすることで、選ばれた社員には責任感が芽生えますし、具体的な効果が見えてくれば、意識の高いシニア層の方も「俺も使う」と乗り気になってくれるはずです。
3つ目のポイントは、ICT導入による効果を焦らないということです。ICTツールの場合、社員みんなが日々の業務の中で自然に使いこなせるようになってはじめて、生産性が少し上がった、早く帰れるようになった、お客様の評価が上がったなどの成果が見えてくるものです。
そのため、どうしても時間はかかります。その時間を見越したうえで導入していくべきでしょう。
ぶれないICTツール活用に必要な「見極め」と「割り切り」
-ICTの活用においては、自社の社員だけでなく、社外の関係者も巻き込んでいくなど、さまざまな視点から考えていく必要がありますね。
曽根原氏:そうですね。ICTツールに投資すべきかどうかの判断は経営戦略の根幹にも関わるので当然トップダウンで決まっていきますが、そこからより良いものにしていくためには、実際に活用する現場の意見を吸い上げて、ブラッシュアップしていくことが重要です。
また、セキュリティとコンプライアンスのバランスも大切です。経営、現場、情報システム、ベンダーとで、どのように、浸透・活用をステップアップ、フェーズアップして社内の違和感を減らしていくかも考える必要があります。
ただ、繰り返しますが、あくまでも目的をぶらさないことが重要です。そのために何が必要で何がいらないかの、「見極め」と「割り切り」をしていかなければなりません。
たとえば、仕事の上でもメールではなくチャットを活用している人が増えてきています。
その理由として、「メールの度にアドレス帳から相手のアドレスを選ぶのが手間」「スパムメールが多く、本当に読みたいメールが紛れてしまう」「『お疲れ様です。○○です』という挨拶が面倒、無駄」という、メール特有の手間を省きたい、ということもあります。
また、チャットを使うメリットには、「気軽なコミュニケーション」「素早い情報共有」といったことから、「絵文字による情報の簡略化」などもあるでしょう。
一方、チャットに対しては、「礼儀を欠いている」「絵文字は不謹慎」「こんなに緩いのはどうなのか」など、批判的な声があるのも確かです。
ただ、効率的な情報伝達や迅速な対応、コミュニケーションの活性化といったチャットの良さに目を向け、少しフランクになってしまう点は「割り切る」、といった考え方も必要になってくると思います。
トップダウンとボトムアップですり合わせをおこない、目的をしっかりと決めて、その目的に向かってぶれずにやっていく姿勢が、ICTツールをうまく活用するためには重要です。