企業は従業員の労働の対価として賃金を支払います。賃金は企業が設定できますが、国が設定している最低賃金を守る必要があります。
今回は最低賃金について、基準や罰則、計算方法などを解説します。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
1. 労働基準法における最低賃金とは?
労働基準法における最低賃金とは、同法から派生して生まれた最低賃金法で定められた金額で、企業は最低賃金以上の賃金を従業員に支払わなければなりません。最低賃金は時給として定められていて、1カ月の諸手当を含む基本給が対象です。ただし、以下は最低賃金の対象外です。
- 皆勤手当
- 通勤手当
- 家族手当
- 結婚手当などの臨時に支払われる手当
- 時間外割増賃金
- 休日割増賃金
- 賞与
最低賃金には次の2つがあります。
- 地域別最低賃金:都道府県ごとに異なる(原則毎年改定)
- 特定(産業別)最低賃金:特定の産業が対象
なお、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金が同時に適用されることはなく、どちらか高いほうの最低賃金が適用されます。
1-1. 地域別最低賃金
地域別最低賃金は地域によって賃金の差はありますが、業種を問わず、正社員以外のパートやアルバイト、外国人労働といったようにすべての労働者と使用者に適用されます。
令和4年(2022年)度の全国加重平均額は961円で、前年の930円から31円上昇しています。[注1]
令和4年度の地域別最低賃金が最も高いのは東京で1,072円です。一方、最も低いのは沖縄、鹿児島を始めとした10県の853円です。最低賃金に地域差が生じてしまうのは、住宅や食料などの生活費の地域差を反映させているからです。
[注1]令和5年度地域別最低賃金改定状況
1-2. 特定(産業別)最低賃金
特定(産業別)最低賃金は特定の産業を対象にしていますが、同じ産業であっても地域によって最低賃金が異なります。たとえば令和3年(2021年)度であれば、鉄鋼業の場合、北海道では979円なのに対して、青森では929円となっています。[注2]
また、東京では鉄鋼業や業務用機械器具などの業種に対し、特定(産業別)最低賃金が設けられていますが、いずれも地域別最低賃金の1,072円を下回っています。そのため、最低賃金が高い地域別最低賃金が適用されます。
2. 労働基準法における最低賃金に違反したときの罰則
最低賃金を支払わないのは違反となります。そのため、もし最低賃金を支払っていなければ、差額を支払わなければなりません。それでも支払いを怠ると罰則が科せられます。
罰則は次のとおり地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金とで異なります。
- 地域別最低賃金:50万円以下の罰金
- 特定(産業別)最低賃金:30万円以下の罰金
従業員に最低賃金を支払っているか、新たに採用した従業員の賃金が最低賃金以上かを必ず確認しましょう。
2-1. 時給制の場合の確認方法
時給制の従業員であれば、1時間あたりの賃金が最低賃金以上であれば適法です。
2-2. 日給制の場合
日給制の従業員は、日給を時給に換算する必要があります。日給を1日の所定労働時間で割った額が最低賃金以上でなければなりません。
2-3. 月給制の場合の確認方法
月給制の場合、月給を時給に換算します。時給に換算するには次のような計算をしましょう。[注3]
- 月給額÷1カ月平均所定労働時間数
1カ月の平均所定労働時間数は、次の方法で求められます。
- (年間所定労働日数×1日の労働時間)÷12カ月
たとえば東京都で基本給が15万円、職務手当が2万円、合計17万円の月給で、年間所定労働日数が255日、1日の労働時間が8時間だった場合の時給は以下のとおりです。
- 1カ月の平均所定労働時間:170時間=(255日×8時間)÷12カ月
- 時給:882.3円=15万円÷170時間
時給は882.3円となり、東京都の令和4年度最低賃金よりも下回っているため、早急に差額を支払い、条件を変更しなければなりません。
2-4. 出来高払制ほか請負制の場合
出来高払制ほか請負制も時給換算を行います。時給は出来高払制ほか請負制で算出された賃金の総額を、総労働時間数で割って求められます。
2-5. 日給制と月給制の組み合わせなどの場合
賃金は日給制で手当は月給制といったように、複数の賃金支払い方法を組み合わせているケースもあります。そのような場合は、それぞれの時給を算出して合算した金額が最低賃金を上回っている必要があります。
3. 労働基準法における最低賃金の例外
最低賃金はすべての労働者に適用されるため、企業側は時給換算で最低賃金を上回る賃金を支払わなければなりません。ですが、以下のケースのように一部特例許可として地域別最低賃金を下回る賃金の設定が認められます。
- 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
- 試の使用期間中の方
- 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
- 軽易な業務に従事する方
- 断続的労働に従事する方
引用:最低賃金の適用される労働者の範囲|厚生労働省
具体的には、精神・身体の障害によって労働能力が低い、試用期間中、認定職業訓練を受けている厚生労働省令で定められている一部の労働者などです。
また、特定(産業別)最低賃金も同様に、次のようなケースは特例許可として最低賃金を下回ることが認められています。
- 18歳未満又は65歳以上の方
- 雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方
- その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方
引用:最低賃金の適用される労働者の範囲|厚生労働省
3-1. 最低賃金の特例許可を受ける場合は所轄の労働基準監督署長に届け出が必要
最低賃金の特例許可は、最低賃金を適用したことで雇用の機会が狭まってしまう方を対象としています。あらゆる方が社会で活躍できるようにするため、また人材育成のために最低賃金の特例許可が認められています。
ですが、企業側が独断で最低賃金を下回った賃金を設定できるわけではありません。自社を管轄する労働基準監督署長を経由して、都道府県労働局長に特例許可申請書を提出する必要があります。
最低賃金の特例許可を得るには必ず特例許可申請書を提出しましょう。
4. 計算方法を把握して従業員には正しく賃金を支払う
企業は最低賃金を上回る賃金を従業員に支払わなければなりません。最低賃金は時給で設定されているため、日給制、月給制、出来高払制などさまざまな働き方の時給換算方法を把握しておきましょう。時給への換算方法を把握しておくことで、従業員に最低賃金が支払えているかが確認できます。
なお特例許可として最低賃金を下回る賃金の支払いが認められていますが、その際は必ず労働基準監督署長に特例許可申請書を提出しましょう。
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