労働基準法は、労働者の人権の最低限度を保障するという考え方に基づいて制定されています。しかしこの法律における労働者とは、仕事をしているすべての人が該当するわけではありません。
労働基準法に基づいた労務管理を行う際には、対象者が法律上の労働者にあたるか否かを判断する必要性が生じます。そこで本記事では、労働基準法の第9条に定められた労働者の定義について詳しく説明していきます。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 労働基準法の第9条による「労働者」の定義
労働基準法第1章の各項目には、労働基準法の原則をはじめとした総則が定められています。このうち、第9条では労働者の定義が以下のように記載されています。
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう
引用:労働基準法|e-Gov法令検索
つまり労働者とは、企業で働き賃金を得ているすべての従業員のことを指します。この条件に該当している場合には、職業の種類や雇用形態で労働者か否かを区別することはありません。
たとえば、正社員のほかにアルバイトやパートを雇用している企業では、正社員のみを労働者として扱うことは認められていません。アルバイトやパートも正社員と同じように労働者に該当しているため、同じような形で労働基準法を適用する必要があります。
対象者が労働基準法における労働者にあたるかどうかの判断を労働者性と呼びます。労働者性がある従業員に対しては、労働基準法の定めどおりに労務管理を行う必要があります。
たとえば、労働者に対して労働基準法で禁じられている働かせ方を強いることはできません。また、労働基準法に照らし合わせて勤務時間を決めたり、労災保険を適用したりといった対処も求められます。
2. 前述したとおり、労働基準法の第9条における「労働者」とは、企業に雇用されており賃金を受け取っている人のことです。
企業で働く正社員に限らず、契約社員やアルバイト、パートといった雇用形態であっても労働者とみなされます。派遣社員も労働者ですが、就業に関するルールは派遣元の企業によって管理されます。派遣先の企業が派遣社員に対して具体的な働き方を定めることはできません。
課長や部長といった管理職も基本的に労働者にカウントされます。役員報酬を得ておらず、企業から賃金を受け取っているという立場の管理職は、労働基準法の労働者に該当するのです。
ほかに、労働組合の専従職員、業務執行権や代表権を持っていない工場長や支店長なども、労働者に該当します。
3. 労働基準法の第9条による「労働者」に含まれない人
以下のような働き方をしている人は、労働基準法における労働者には該当しません。それぞれの項目について詳しくみていきましょう。
3-1. 事業主・法人や団体の代表者
労働基準法における労働者とは、企業と雇用契約を結んでいる人や企業から賃金を受け取っている人のことを指します。企業の経営を担っている事業主、企業の代表者や役員報酬を得ている役員はこれに該当しません。
業務執行権や代表権を持っていることや、企業の代表者との従属関係がないことが、労働者の範囲外とするための条件です。
3-2. 個人事業主
個人で事業を展開している個人事業主は、どこかの企業に所属しているわけではありません。そのため、労働基準法における労働者には該当しないということになります。
個人事業主はほかの事業者と業務委託契約や業務請負契約を結ぶことがあります。業務委託や業務請負といった契約は雇用契約とは異なり、使用従属関係が生じることがないため、個人事業主を労働者とみなすことは基本的にはないのです。
ただし、形式上業務委託や業務請負という形を取っているものの、実質は雇用に近い状態で仕事をしている場合には注意が必要です。残業や休日出勤をさせていたり、勤務時間や勤務場所を指定したりした場合には、たとえ業務委託や業務請負であっても労働者性が認められると判断されるケースがあります。
3-3. 家事請負人
企業が雇っている家事請負人は労働者の範囲外とみなされます。家事請負人とは、企業の役員や代表者の家庭において、家族の求めに従って家事一般に従事する者のことを指します。
3-4. 事業主の親族
事業主と同居している親族は労働者として扱わないのが原則です。とくに同居の親族が会社の役員となっているケースでは、労働者に含むことが認められていないので注意しましょう。
ただし、同居の親族であってもほかの従業員と同じ形で就労しているときには労働者とみなされることがあります。
就労実態がほかの労働者と同じであることが、同居の親族を労働者とみなす条件です。勤務時間や休憩時間、賃金などに関してほかの従業員と差がつけられている場合には、その親族を労働者に含むことができません。
さらに、事務作業や現場作業に従事していること、事業主の指揮命令に従っていることも、労働者とみなす条件となっています。
事業主と同居親族の間ではときに、仕事上の問題が生じるケースもあるものです。しかし、同居親族間で起きる問題は業務上のトラブルではなく家庭内トラブルとみなされ、労働基準法の適用範囲外とされるのが一般的です。
しかし、同居親族が労働基準法における労働者の条件に合致している場合、労働条件などは労働基準法に照らし合わせて判断します。なんらかの問題が起きたときには、たとえ同居親族であっても労働基準法の定めに応じ、ほかの労働者と同じような立場で問題解決を目指すことになります。
4. 労働者か否かを判断するためのポイント
対象となる人が労働者かどうかを判断するときには、拘束性について考えましょう。
企業が労働時間や労働場所を指定することを拘束性と呼びます。正社員や契約社員、パートやアルバイトといった労働者は労働時間や労働場所が指定されるため、拘束性があるとみなされます。
一方で業務委託や請負契約では基本的に勤務時間や勤務場所を指定することはありません。この場合には、たとえ企業と連携して働いている人であっても労働者として扱うことはできないのです。
また、労働者と企業には従属関係があり、労働者は基本的には企業の指示に従うことになります。しかし、業務委託や請負契約を結んだ個人事業主は企業の指示を拒否する自由を有しています。業務上の指揮監督が存在するか、指示を拒否できるかという点も、労働者か否かを判断するためのポイントとなります。
5. 労働者の定義を把握し、労働基準法に沿って適切な労務管理を行おう
労働基準法では、労働者とみなす人の条件を詳しく定義しています。企業が雇用しており、業務上の指揮命令を行い賃金を支払っている人は基本的に労働者として扱います。
ただし、業務委託や業務請負、代表者の親族などは労働者に含まないのが一般的です。
労働基準法の労働者にみなされる人を企業で働かせるときには、労働基準法のルールを遵守する必要があります。適切な労務管理を行うためにも、労働者の定義や労働基準法の定めを正しく把握しておきましょう。
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