労働基準法には退職金の支払い義務の決まりがありません。つまり、退職金に関する決め事は企業によって違いがあるということです。
ここでは、退職金の支払い義務が発生するケースや退職金の決め方・計算方法についてわかりやすく説明していきます。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 労働基準法による退職金の支払い義務はあるのか
労働基準法には、退職金の取り決めがありません。よって、企業側も絶対に退職金を支払わなければならないという決まりもありません。
退職金の設定と支給金額は、企業側で自由に決めて良いことになっています。
ですので、企業が支払える範囲内で決めることができます。
1-1. 退職金を支払う場合と支払わない場合の違いは
退職金は「就業規則」に退職金が設定されているかどうかによって、支払う場合と支払わない場合に分かれます。
また、雇用契約書に退職金の取り決めが記載されている場合も支払い義務が発生します。
就業規則の記載 | 雇用契約書の記載 | |
退職金の支払い義務有 | 就業規則上で退職金が明記されている | 雇用契約書に退職金の取り決めが記載されている |
退職金の支払い義務なし | 就業規則上に退職金の明記なし | 雇用契約書に退職金の記載なし |
上記以外のケースとして、就業規則上で退職金が明記されていなくても、企業が退職者全員に毎回退職金を支払っていた場合は、退職金の支払いが生じます。
なお、「ずっと退職金の支給があったのに、自分だけ退職金が支払われなかった」という場合、実際に退職金を支払っていたことを証明できる証拠があれば請求が可能です。
2. なぜ、企業は退職金を設定するのか
企業が退職金を設定する理由は、以下のとおりです。
- 企業の強みを応募者へアピールすることができる
- 労働者の退職抑制
- 退職後のトラブル防止
- 労働者に規律を守らせる
- 人材の成長
2-1. 企業の強みを応募者へアピールすることができる
退職金制度は、企業の強みを応募者にアピールすることができます。
その理由としては、主に2点あります。
- 退職金制度を廃止する企業が増えている中、退職金制度があることで応募者に「企業の強み」を訴求できるから。
- 退職金制度を導入している企業は、財務状況が健全だと応募者に伝えることができるから。
退職金制度があることで、応募者から「魅力的な企業」と認識される可能性があります。よって、退職金制度は求職者に向けた大きな強みといえるでしょう。
2-2. 労働者の退職抑制
最近では外資系企業の考え方も一般的となり、転職に対する抵抗感が薄れてきているのが現状です。
しかし、退職金は基本的に長年勤めた労働者から高額支給になるので、労働者の退職抑制に一役買っています。
2-3. 退職後のトラブル防止
経営状況の悪化により、リストラなどで労働者を解雇する際は、金銭による補償をすればトラブルを最小限に食い止めることができます。
万が一、上記のケースで退職金による金銭の補償がなければ、トラブルの原因となる可能性もあります。
以上のことから、退職金は退職後のトラブル防止になるといえます。
2-4. 労働者に規律を守らせる
退職金制度があることで、労働者に企業の規律を守らせることができます。
その理由としては、労働者は企業の規律を守らなければ、懲戒などにより退職金が減額されてしまうと思うからです。
ゆえに、退職金制度があることは、労働者に規律を守らせることにつながります。
2-5. 人材の確保
企業が退職金制度の設定をするのは、人材の成長を願っているからだといえます。
なぜなら、人の入れ替わりが激しい企業では、技術やノウハウなどの継承がままならず、企業は衰退していくからです。
多くの労働者に長く勤めてもらい、サービスのクオリティを上げていくためには、退職金を設定して人材の確保をするのは有効な手段といえるでしょう。
3. 退職金はいつまでに支給すれば良いのか
労働基準法では、労働者から請求された場合、7日以内に支払わなければならないと決められています。[注1]
例外として、企業の就業規則で退職金支給日を選定している場合、選定日内に支給すれば良いとされています。
[注1]労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)|厚生労働省
3-1. 退職金はいつまで請求できるのか
退職金の請求の時効は、以下のとおりです。
- 退職金請求権の時効:5年間(労基法115条)
- 退職金以外の賃金などに関する請求権の時効:3年
なお、令和2年4月1日以降は当面3年となっています。
退職金については、所定の支払い日から5年以内に支払いを請求しないと消滅時効になり、以降請求ができなくなります。[注2]
また、残業代などの賃金の請求権の消滅時効は3年と退職金より短い期間に定められています。
[注2]労働基準法(第百十五条「時効」)|e-Gov法令検索
3-2. 退職金が控除されるケース(貸付金制度)
企業が導入している貸付金制度を労働者が利用し、借入金がある場合は退職金が控除される可能性があります。
退職金控除の条件としては、賃金控除協定が締結しているか否かです。
このように、企業に貸付金制度などがある場合、退職金の控除も視野に入れ、賃金控除協定に「退職金支給の際、貸付金残高の有無で控除される」という規定を設けておけば、トラブルを事前に防げるでしょう。
4. 退職金の決め方
労働基準法には退職金の取り決めがありません。そのため、退職金は企業が自由に決めることができるようになっています。
退職金の計算方法はいくつかあり、企業が導入している制度によって違いがあります。ここでは一般的な4つの計算方法を紹介します。
4-1. 退職金の種類と計算方法
退職金の種類 | 計算方法 |
定額制 | 勤続年数に応じて退職金の額を決定する方法。 |
退職金共済 | 退職金共済は「掛け金月額×支払った月数」によって決まります。 |
確定給付年金 | 確定給付年金も退職金共済と同じく「掛け金月額×支払った月数」によって決まります。 |
確定拠出年金 | 確定拠出年金も退職金共済と同じく「掛け金月額×支払った月数」によって決まります。 |
退職金の支給対象は、企業が独自に決めることができます。
東京都産業労働局の調べでは、勤続年数3年目から退職金を支給する会社は48%のデータを発表しています。[注3]
[注3]中小企業の賃金・退職金事情(平成30年版)|東京都産業労働局
4-2. 就業規則に退職金を定める際は3つの点を明記しなければならない
- 退職金制度を就業規則に定めるには、労働基準法89条により以下の3点を明記することが必須です。[注4]
①退職金を支払う社員の範囲
退職金を支払う社員の範囲は、最低限以下の内容を決めておく必要があります。
- 正社員・パート・アルバイトをどこまで含めるか
- 最低の勤続年数をどこに定めるか
②退職金の金額を決定方法および計算方法
退職金の金額を決める際、もっとも重要なのが支給額の基準です。
一般的な支給基準は、勤続年数から一定の金額を定める「功労加算」する方法です。
③退職金の支払い時期
前述のとおり、労働者から退職金を請求された場合は7日以内に支払わなければいけません。
ただし、就業規則で退職金支給日を決めている場合は、就業規則に則って支給すれば問題ありません。
実際に退職金を支払う社員の範囲や支払い額などが元で争論となることがあるため、詳細を決めておいたほうが良いでしょう。
[注4]労働基準法(第八十九条「作成及び届出の義務」)|e-Gov法令検索
5. 自社に合った退職金を選び、就業規則などを整備しよう
退職金規定は、労働基準法上定める義務はありません。しかし、労働者との争いを防止する・そしてモチベーションを高めるためにも、退職金制度を導入する意味は十分にあるといえるでしょう。
支払い範囲などを十分に検討し、自社に合った退職金の種類を選択することをおすすめします。
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