社会保険料の滞納が続くと、会社の社会的信用低下につながるだけでなく、財産調査や差し押さえなどのペナルティが科されます。滞納状態とならないよう、納付が困難なときは事前に分割申請をするなどの対策を取ることが大切です。
本記事では、社会保険料を滞納する問題点と、罰則やペナルティ、滞納処分を受けないための対策を解説します。
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目次
1. 社会保険の滞納により発生する問題
社会保険料の滞納が続くと社会的信用の低下につながるだけではなく、従業員の離職や取引先との関係悪化など、多くの問題が発生します。ここではとくに、厚生年金保険料を滞納した際の問題点を解説しますのでチェックしておきましょう。
1-1. 督促が頻繁におこなわれる
厚生年金保険料の滞納から1カ月を経過すると、督促状の送付や電話連絡など、複数の方法で督促がおこなわれます。督促状には納付期日が記載されているため、すぐに対応しましょう。
なお、ペナルティや罰則については、後ほど詳しく解説します。
1-2. 延滞金の支払いが発生する
督促状に記載された期日までに納付しないと、延滞金も徴収されるため注意が必要です。延滞金の割合は、日本年金機構のホームページで確認できます。[注1]
「納付期限の翌日から3カ月を経過する日まで」「3カ月を経過する日の翌日以降」の2種類の割合が設定されており、遅くなるほど延滞金が高くなるため早めに対応しましょう。
[注1]遅滞金について|日本年金機構
1-3. 財務調査が実施される
社会保険料の滞納が続くと、年金事務所や労働局による財務調査が実施されます。財務調査は、企業の代表者や関係者に対しておこなうもので、預貯金や売掛金、不動産などの財産が対象です。
任意の調査として実施されますが、成果が出ない場合は強制力のある捜査がおこなわれるケースもあるため注意しましょう。本格的な捜査の場合、自宅への立ち入り調査や取引先へのヒアリングなどもおこなわれるため、滞納を避けることが重要です。
1-4. 従業員の離職につながる
督促が頻繁におこなわれたり、納付指導が続いたりすれば、会社に対する不信感から従業員の離職に発展する恐れもあります。
なお、滞納以前に、本来社会保険の加入が必要な事業所であるにもかかわらず未加入であれば、ハローワークで求人が出せないため注意しましょう。
1-5. 融資や取引が困難になる
社会保険料の滞納が続いた場合、日本年金機構は取引先金融機関や得意先に財産状況の調査をおこないます。当然、関係各所に社会保険料の滞納が知られるため、資金繰りの悪化を疑われるでしょう。
その結果、新規融資が困難になったり、取引規模を縮小・廃止されたりする恐れもあります。
1-6. 社会的信用の低下
社会保険料の滞納が従業員や取引先の知るところとなれば、社会的信用が低下するのは時間の問題です。従業員の口コミや、取引先から他社への情報提供など、悪い噂は瞬時に広がります。
企業としての信用が低下すれば、新規取引や人材確保なども困難となり、事業の継続が困難な状況になってしまいます。
1-7. 倒産の恐れもある
社会保険料の滞納を続けていると、最終的には財産の差し押さえがおこなわれます。差し押さえまで事態が発展していると、一括納付以外認められないため、現金を調達する猶予も残されていません。
差し押さえをおこなっても、保険料の納付が困難なら法人の破産しか選択肢が残っていない可能性もあります。
2. 社会保険の滞納により差し押さえられたときの影響
差し押さえとは、債務者の財産を自由に売却したり処分したりできないようにすることです。悪質な債務者に対して、債権者が確実に債権を回収するために実施します。財産を差し押さえられると、以下のような影響があるため注意しましょう。
2-1. 事業を自由に展開できなくなる
差し押さえが実施されると、事業を自由に展開できなくなります。会社が所有する不動産や預貯金など、ほぼすべてが差し押さえの対象となるからです。差し押さえられた財産は自由に使うことができません。
資金を動かせなくなり、新たな設備投資をしたり必要な人材を採用したりすることが難しくなるため、事業はストップしてしまうでしょう。
2-2. 従業員や取引先との関係が悪化する
社会的な信用を失うことも、差し押さえによる影響のひとつです。差し押さえの事実は、従業員や取引先へも知れわたってしまいます。
その結果、経営状況が悪化した会社では働きたくないと考える従業員が離職してしまうこともあるでしょう。取引先との関係も悪化し、契約を切られる可能性もあります。
3. 社会保険の滞納による罰則・ペナルティ
社会保険料を滞納すると督促状が届くだけでなく、ペナルティも科されます。以下、どのような罰則があるか解説します。
3-1. 遅滞金の支払い
督促状に書かれた納付期日までに保険料を支払わないと、その翌日から納付日の前日まで、日数に応じた遅滞金が発生します。なお、遅滞金の割合は遅延をしていた期間により異なり、さらに遅延が3カ月を経過すると割合も重くなります。
たとえば、令和6年1月1日から令和6年12月31日までの遅滞金の割合は以下のとおりです。
遅滞税特例基準割合 | 付期限の翌日から3カ月を経過する日まで | 付期限の翌日から3カ月を経過する日の翌日以降 |
1.4% | 2.4% | 8.7% |
遅滞金の詳しい料率は、以下を確認してください。
参考: 延滞金について|日本年金機構
3-2. 納付処分
督促状を無視して滞納を続けた場合、以下の流れで納付処分に発展します。
- 納付指導
- 財産調査
- 差し押さえ
- 換金
- 滞納整理(国税庁へ委任)
とくに、財産調査では預金残高や売掛金の確認、所有する不動産の有無など、財産全般が調査され、必要に応じ差し押さえられた後、換金されます。
3-3. 社会保険に未加入の場合はさらに厳しい罰則がある
なお、強制適用事業所であるにもかかわらず社会保険に加入しておらず滞納となっており、悪質と判断された場合は、以下のようにさらに厳しい罰則が設けられています。
- 過去2年まで遡って社会保険料を請求される
- 刑事罰を科される恐れがある
なお、遡って保険料を納付する際は一括払いとなる点に注意しましょう。さらに、従業員負担分も会社が支払わなければいけません。
社会保険に関する刑事罰は以下の2つとなっています。
【健康保険・厚生年金保険】
6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金
【雇用保険】
6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金
なお、これらの罰則はあくまでも滞納を続けたときや、未加入のときなど、悪質な場合に限られます。万が一、社会保険を滞納しても、督促状に記載された期日までに速やかに支払いをおこなえば遅滞金も加算されません。
4. 社会保険の滞納を防止する対策
社会保険料の支払い期日は、納付対象月の翌月末日です。末日が休日のときは、翌日以降の最初の営業日が期日となります。納付期日や納付方法を今一度確認するとともに、資金繰りの悪化などにより納付が困難な場合の対処法を確認しておきましょう。
4-1. 支払い方法を変更する
社会保険料の納め方には、以下の3つの方法があります。
- 金融機関の窓口納付
- 口座振替
- 電子納付
とくに窓口納付や電子納付では、毎月20日頃に送付される「保険料納入告知書」が必要です。郵便の事情によっては送付の遅延もあり、結果として滞納につながる恐れもあります。また、書類をなくすなどのミスにも注意しなければなりません。
支払い方法を口座振替に変更するだけでも、人的ミスによる支払い遅延の防止に役立ちます。
4-2. 猶予申請をおこなう
資金繰りの悪化などにより一時的に社会保険料の納付が困難な場合は、猶予申請をおこないましょう。納期限から6カ月以内であれば分割納付などに変更することが可能です。猶予期間中は遅滞金が一部免除されるほか、分割分を納付していれば滞納処分の対象ともなりません。
なお、申請に必要な書類は、猶予を受ける保険料額が100万円を超えるか否かにより異なります。詳しい手続き方法は、所管の年金事務所の徴収担当課にも確認しましょう。
4-3. 労働時間を正しく把握する
アルバイトからフルタイム勤務に変更する従業員がいるときなどは、社会保険の加入漏れが原因で滞納が発生する恐れもあります。短時間労働者を雇用する際は社会保険への加入条件を確認し、適用漏れのないようにしましょう。
そのためにも、労働時間や賃金を正しく把握する仕組みの導入が必要です。エクセルなどで勤怠管理しているなら、勤怠管理システムも活用してみましょう。より適切な労働時間の把握につながります。
関連記事:アルバイトも社会保険の加入が必要?! 社会保険加入条件と手続き方法
4-4. 業務の効率化
社会保険料が高額なために支払いの遅延が発生しているなら、業務効率の見直しも必要です。とくに、従業員一人ひとりの残業時間が長ければ、保険料の算定基礎となる標準報酬月額が上がってしまいます。結果として、当初想定していた以上の社会保険料の支払いが必要となっている可能性も否めません。
残業は許可制にする、業務効率化に役立つシステムを導入するなどして、残業時間の削減にも努めましょう。
関連記事:標準報酬月額とは
5. 社会保険料を支払えなくなったときはどうする?
社会保険料を支払えなくなったときは、以下のような対応を検討しましょう。
5-1. 関係各所に相談する
社会保険料を支払えない可能性があるときは、早めに相談することが大切です。それぞれの管轄へ相談し、対応方法を検討しましょう。
健康保険・厚生年金保険・介護保険については年金事務所、労災保険・雇用保険については労働局へ相談してください。
5-2. 破産申請をする
さまざまな方法を検討しても対応できない場合は、破産申請をすることになります。会社が破産すると、社会保険料や遅滞金の支払い義務はなくなります。経営状況がより悪化してしまう前に、破産を検討しましょう。
6. 社会保険の滞納がないよう管理を徹底しよう!
社会保険料を滞納していると、最初は督促などがおこなわれます。督促状に記載されている期日までに納付しないと、納付指導や財産調査、差し押さえなど処分方法も徐々に厳しいものとなってしまいます。
社会保険料の納付が困難なときは、事前に管轄の年金事務所などに相談し、分割納付の申請をおこないましょう。また、社会保険料は従業員の給料により支払い額が異なります。残業が多ければ標準報酬月額も上がってしまうため、業務の効率化を進めることも大切です。