所得税は年間の所得に対して課せられる税金です。給与所得者の場合、所得税は雇用主である企業が一括して納付しなければなりません。給与計算に携わる人にとって、従業員の所得税算出は重要な業務のひとつと言えるでしょう。
しかし、所得税を算出するためには税金に対する一定の知識が必要です。
今回は給与計算で所得税を求める方法や、源泉徴収など関連する項目の基礎知識を分かりやすく解説します。
関連記事:給与計算とは|概要から手取りの計算方法まで基礎知識を総まとめ
給与計算業務は税務リスクや労務リスクと隣り合わせであるため、
・税額が合っているか不安
・税率を正しく計上できているか不安
・自社に合った税金計算方法(システム導入?代行依頼?)がわからない
というような悩みをお持ちのご担当者様は多いと思います。
そのような方に向け、当サイトでは所得税と住民税の正しい計算方法、税金計算時によく起きるミスとその対策をまとめた資料を無料で配布しております。
本資料にて、税金計算のミスを減らしたり、効率化が図れる給与計算システムの解説もあるので、税金計算をミスなく効率的に行いたいという方は、「所得・住民税 給与計算マニュアル」をダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 所得税とは年間の所得に対してかかる税金
所得税は個人が1年間に得た所得にかかる税金です。本来、所得税は確定申告によって年に1回納付するものですが、給与所得者の場合は源泉徴収という形で毎月の給与から天引きされます。まずは所得税と源泉徴収の基本から押さえていきましょう。
1-1. 所得税の中でも申告所得税と源泉所得税がある
一口に所得税といっても、大きく申告所得税と源泉所得税の二つがあります。従業員が給与計算の際に天引きされ、納付される所得税を源泉所得税、個人で確定申告して納付する税を申告所得税と言います。また源泉所得税を払いすぎた場合、それを調整する手段として、年末調整があります。
1-2. 従業員の所得税は企業が一括納付する
給与所得者の場合、所得税は雇用主である企業が全従業員分を一括納付します。
そのため、企業に勤める給与所得者は、給与以外の所得がなければ自身で確定申告を行う必要はありません。これは全国民が個々に確定申告をおこなうことで税務署の業務を圧迫する事態を防ぐための仕組みです。
また、従業員の所得税の算出・納付は企業に課せられた義務です。納税額に過不足があると従業員に迷惑をかけるばかりか、法的な罰則が適用される恐れもあります。納税額を正しく算出することはもちろん、法令に従って適切な納税を実施しましょう。
そのため従業員の給与は額面と手取りで異なります。
給与所得の従業員が確定申告をする場合とは
また給与所得である従業員であっても、給与以外からの収入源があれば、個別に確定申告をする必要があります。
例としては下記のような所得です。
・株や不動産などの投資で得た所得
・個人事業主など給与所得は別に収入を得た場合
・給与が2,000万円以上の場合
1-3. 給与所得者の所得税は毎月の給与から源泉徴収される
源泉徴収とは、企業が従業員の毎月の給与から所得税や住民税に相当する金額を差し引き、納税者に代わって納付することです。企業は従業員の給与から徴収した税金を月ごとに税務署へ納めます。これは安定した税収の確保と納税機会の分散による納税者の負担軽減を目的とした仕組みです。
ただし、源泉徴収されるお金は正確な意味での所得税ではありません。ここで差し引かれる税金は、想定される年間所得から算出される仮の金額(源泉所得税)です。実際の年間所得は様々な要因によって変化するため、源泉所得税と本来の所得税には金額の乖離が生じることもあります。
そのため、企業は従業員の年間所得が確定する12月にこれまでに納めた源泉所得税と実際に納めるべき所得税の差異を洗い出し、納税額の修正を実施しなければなりません。この作業が年末調整です。源泉所得税は納税額が不足とならないよう余裕を持って徴収されるため、給与所得者の多くは年末調整により税金の返金が発生します。
1-4. 令和19年12月31日までは復興特別所得税も源泉徴収する必要がある
平成23年3月11日に発生した東日本大震災の復興支援に必要な財源確保のために、源泉徴収義務者は平成25年1月1日から令和19年12月31日までの期間の所得に対し、源泉所得税と同時に復興特別所得税を併せて徴収し、源泉所得税と同時に納付することが義務付けられました。
源泉徴収するべき復興特別所得税は源泉徴収すべき所得税の額の2.1%相当額とされており、これも、所得税と同様に年末調整や確定申告で差額を精算します。
1-5. 所得税の納税手順
所得税の納税は下記の流れでおこなわれます。
①給与計算に伴い源泉所得税及び特別復興所得税を源泉徴収する
②源泉徴収した所得税を翌月の10日までに納付する
納付方法
- 指定した金融期間の預貯金口座から振替納税
- インターネット等をつかって電子納税する
- クレジットカードを使って納税する
- コンビニエンスストアで納税する
- 納付書を添えて金融機関又は所轄税務署にて現金で納税する
③12月に従業員の所得と所得税及び特別復興所得税が確定したら年末調整の計算をおこなう
④不足分の追加納税、超過納税分の還付の手続きをおこなう
2. 給与計算で所得税を求める計算方法
所得税は年間の所得に対し一定の税率をかけて算出します。所得税の対象となる所得を「課税所得」といいます。給与から所得税を算出するための基本式は以下の通りです。
所得税は課税対象額によって税率が変わる累進課税です。平成27年以降、所得税の税率と控除額は以下のように定められています。
課税所得(※1,000円以下切り捨て) |
税率 |
控除額 |
1,000円~1,949,000円 |
5% |
0円 |
1,950,000円~3,299,000円 |
10% |
97,500円 |
3,300,000円~6,949,000円 |
20% |
427,500円 |
6,950,000円~8,999,000円 |
23% |
636,000円 |
9,000,000円~17,999,000円 |
33% |
1,536,000円 |
18,000,000円~39,999,000円 |
40% |
2,796,000円 |
40,000,000円以上 |
45% |
4,796,000円 |
上記の表を参考に、課税所得が300万円である場合の所得税を計算してみましょう。
300万円(課税所得)×10%(税率)-97,500円(控除額)=20万2,500円(所得税)
なお、特定の条件に当てはまる場合は上記の金額からさらに税額控除が適用される場合もあります。[注1]
また、所得税の税率・控除額は定期的に見直しが実施されるため、所得税の算出にあたっては必ず最新の情報を参照しましょう。
[注1]No.1200 税額控除|国税庁
2-1.特別復興所得税の計算方法
令和19年12月31日分までの所得には、特別復興所得税がかかるため、特別復興所得税もあわせて源泉徴収額を計算します。特別復興所得税は源泉徴収する所得税に2.1%をかけたものとなるため、下記の式で同時に計算するとよいでしょう。
源泉徴収する所得税と特別復興所得税の合計額の計算式
3. 所得税計算のベースとなる課税所得の算出方法
課税所得は総収入のうち所得税の対象となる金額であり、ベースの金額を確定できなければ所得税も計算できません。ここでは所得税計算で特に重要な課税所得について掘り下げて解説します。
3-1. 課税所得の計算式
まずは課税所得の計算式を確認しておきましょう。課税所得は以下の式を用いて2段階で算出します。
総支給額-非課税手当-給与所得控除=給与所得
給与所得-所得控除=課税所得
似たような項目が並びますが、各項目が示す内容は以下の通りです。
- 総支給額
企業が支給した年間給与の合計。基本給のほか残業代や諸手当も含まれる。
- 非課税手当
諸手当のうち、所得税の対象とならない手当。
例:通勤手当、住宅手当、旅費・交通費、食事代、記念品などの現物支給など。
- 給与所得控除
給与所得者の経費に代わり、収入の一定割合を差し引く控除。
- 給与所得
基本給や残業代、賞与など労働の対価に相当する所得。総支給額から非課税手当と給与所得控除を差し引いて算出する。
- 所得控除
一定の要件に当てはまる場合に適用される控除。
(例)社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除、ふるさと納税など。
- 課税所得
年間収入のうち、所得税の対象となる金額。
3-2. 給与所得控除はサラリーマンの経費
次に給与所得者の経費に相当する「給与所得控除」について詳しく解説します。給与所得控除とは、給与所得者の経費に代わって年間収入に応じた金額を控除する仕組みです。
給与所得者の場合、職務に必要な衣類(スーツなど)の購入や、スキルアップのための費用など、実際に支出する経費は多岐に渡ります。多数の従業員を抱える企業がそのすべてを把握し管理することは事実上困難です。そのため、給与所得者に関しては業務に必要な一定の費用を支出しているとみなし、年間収入から一定の割合を控除します。
なお、給与所得控除の金額は年間収入額によって算出方法が変わります。また、給与所得控除の算出方法は定期的に見直されるため、必ず最新の情報を参照しましょう。最新の改定である令和2年以降の給与所得控除額は以下の通りです。
年間の収入額 |
給与所得控除額 |
1,625,000円まで |
550,000円 |
1,625,001円~1,800,000円 |
収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円~3,600,000円 |
収入金額×30%-80,000円 |
3,600,001円~6,600,000円 |
収入金額×20%-440,000円 |
6,600,001円~8,500,000円 |
収入金額×10%-1,100,000円 |
8,500,001円以上 |
1,950,000円(上限) |
3-3. 所得控除は項目ごとのルールに従って控除額を算出する
所得控除とは、一定の要件に当てはまる場合に給与所得から一定の金額を控除する仕組みです。代表的な所得控除としては社会保険料控除や扶養控除が挙げられます。所得控除は項目ごとに控除額の算出ルールが異なるため、適用される控除項目を確認したうえ項目ごとに控除額を算出しなければなりません。
<代表的な所得控除の例>
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 配偶者控除
- 扶養控除
- ふるさと納税
企業に雇われる給与所得者の多くが該当するのは社会保険料控除です。社会保険は一定の要件を満たす国民すべてに加入義務がある保険です。企業に勤める給与所得者の場合、社会保険は以下の4つが該当します。
- 厚生年金保険料
- 健康保険料
- 雇用保険
- 介護保険
上記4つの保険料は、支払った全ての金額が控除の対象です。課税所得を算出する際は給与所得から年間の社会保険料合計額を差し引きましょう。
一方、生命保険や地震保険など個人の裁量で加入する任意保険の場合、控除の対象となるのは支払った保険料の一部のみです。任意保険の控除額には一定の計算式がありますので、規定に従って控除額を算出しましょう。[注2]
また、配偶者がいる従業員や、自身の給与で養う扶養家族がいる従業員に適用されるのが配偶者控除や扶養控除です。これらの控除は、控除を受ける従業員本人の合計所得者や、扶養家族の区分によって控除額が異なります。[注3][注4]
控除額を誤ると所得税の金額計算にも支障がでるため、慎重に確認をおこないましょう。
また、控除額以外にも税額表の改訂や課税項目の認識漏れなどで所得税の計算が正しく行われない可能性があります。所得税の計算方法を改めて基礎から確認したいという方に向けて、当サイトでは「所得・住民税 給与計算マニュアル」を無料でお配りしています。所得税を徴収するにあたっておこなうべき作業のタイムスケジュールや、計算の際の注意点についても図や表を用いながらわかりやすく解説しています。
所得税の計算が正しいか確認したい方は、こちらから所得税「・住民税給与計算マニュアル」をダウンロードして、ご活用ください。
[注4]No.1180 扶養控除|国税庁
4. 給与から源泉徴収額を計算する方法
最後に給与から源泉徴収額を計算する方法を解説します。
源泉徴収とは、想定される年間所得をもとに毎月の給与から源泉所得税を徴収する仕組みです。
なお、源泉徴収額の算出には計算式を用いる必要はなく、国税庁が交付する源泉徴収額の早見表で確認します。
これを源泉徴収税額表といいます。
企業が給与計算に用いる表は以下の2種類です。
対象の従業員が月払いの場合は月額表、日払いや週払いの場合は日額表を用いましょう。表は「甲」と「乙」に区分されていますが、原則として甲の列を参照します。乙列は対象の従業員が扶養控除等申告書を提出していない場合に参照する数値です。
4-1. 賞与の所得税を計算する方法
また、賞与も所得ですので、所得税を納付する必要があります。賞与計算の際も国税庁の賞与に対する源泉徴収税額の算出表を用いて算出します。
(1) 前月の給与から社会保険料等を差し引く
(2) 上記(1)の金額と扶養親族等の数を「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめて、所得税を算出する税率を調べる。
(3) 「(賞与ー社会保険料)×(2)で求めた税率」で計算する
参考:賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和 4 年分)|国税庁
5. 最終調整は年末調整でおこなう
源泉徴収で納付しているのはあくまで所得の見込み額であるため、最終的な所得とズレが生じていることがあります。そのため、年末調整をおこなって1年間の所得が確定した後で最終的な所得税の納付額とのズレを追納・還付をおこないましょう。住宅ローンの支払いや生命保険、地震保険なども所得控除の対象であるため注意しましょう。
12月に従業員の年間の所得が確定したら、翌年1月10日までに確定した所得税を税務署に納付し、1月31日までに年末調整の申告をおこないます。還付が発生する場合の申告期限は納税対象年の翌年から5年間です。
6. 所得税の仕組みを理解して正しく納税しよう
今回は給与計算における所得税について、その計算式や注意すべきポイントを解説しました。自社の従業員の所得税納付は企業に課せられた義務です。納税額の不足には法的な罰則も適用されます。所得税の仕組みを理解し、給与からの源泉徴収を含め適切な納税をおこないましょう。
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