試用期間とは、新たに採用した従業員の能力や適性を見極めるために設けられたお試しの雇用期間です。試用期間に解雇をする場合、合理的な理由や解雇予告手当の支払が必要など、注意点が多くあります。この記事では、試用期間の解雇ができるかどうか、実際の事例を踏まえてわかりやすく解説します。また、試用期間の解雇をする際の手順やポイントも紹介します。
労働者保護の観点から、解雇には様々な法規定があり、解雇の理由に合理性が無ければ認められません。
当サイトでは、解雇の種類や解雇を適切に進めるための手順をまとめた資料を無料で配布しております。合理性がないとみなされた解雇の例も紹介しておりますので、法律に則った解雇の対応を知りたい方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 試用期間でも解雇できる?
新たに採用した従業員の能力や適性などをチェックするため、試用期間を設ける企業も少なくないでしょう。試用期間中の解雇ができるのかどうか気になる人もいるかもしれません。ここでは、試用期間の内容や雇用条件を説明したうえで、試用期間中の解雇が可能かどうか詳しく紹介します。
1-1. 試用期間とは?
試用期間とは、新しく採用した従業員に実際の業務を任せてみて、本当に採用するかどうかを見極めるお試し期間のことです。短い選考期間で従業員の業務適性を見極めることは困難なため、一般的に1~3カ月ほど試用期間を設けて、お互いにマッチするか確認をします。
なお、試用期間の長さについて、法律で明確に示された上限はありません。しかし、1年を超えるようなあまりにも長い期間を試用期間として設定した場合、民法第90条の公序良俗に反する可能性があるので注意が必要です。
(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。引用:民法第90条|e-Gov
関連記事:試用期間とは?設定する際の注意点やよくある質問・トラブルを紹介
1-2. 試用期間の雇用条件
試用期間中の諸条件(給与・待遇・就労時間)は、本採用時と同じに設定することもあれば、本採用時と給与・待遇に差をつけることもあります。また、最低賃金法第7条により、試用期間中であれば、都道府県労働局長の許可を受けることで、最低賃金を下回ること(最低賃金から2割減)が可能です。
しかし、試用期間中も労働契約であることに変わりはありません。そのため、あらかじめ労働条件を通知し、雇用契約を締結したうえで、社会保険にも加入させる必要があります。ただし、パートやアルバイトなどで、労働時間などの要件を満たさないようであれば、社会保険に加入させる必要はありません。
(最低賃金の減額の特例)
第七条 使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。
(省略)
二 試の使用期間中の者
(省略)
関連記事:試用期間中の給料設定のルールを徹底解説!最低賃金以下の設定も可能なの?
1-3. 試用期間中でも解雇は可能?
試用期間中の従業員を解雇することは可能です。試用期間中は解約権留保付労働契約とみなされ、企業側が雇用契約を解除できる権利を保有している状態となります。ただし、試用期間だからといって正当な事由なく従業員を解雇することはできません。基本的には本採用と同じで、社会通念上相当であると認められなければ、その解雇は権利濫用になります。
そのため、実際に解雇が認められるケースや認められないケースを理解し、適切な順序を踏んだうえで、解雇の手続きをおこなうことが大切です。なお、本採用の可否に関する項目は企業によって異なりますが、おおよそ「勤務状況」「能力」「健康状態」の3点が挙げられます。労働条件通知書や雇用契約書には、試用期間中の労働条件に加えて、本採用の可否を判断する内容についても細かく記載しておきましょう。
関連記事:雇用契約書と労働条件通知書の違いとは?兼用可能?記載事項や作成しない場合の罰則を解説
2. 試用期間の解雇の種類
試用期間の解雇には、「試用期間中の解雇」と「試用期間後の本採用拒否」の2種類があります。ここではそれぞれの解雇の種類について詳しく紹介します。
2-1. 試用期間中の解雇
試用期間中の解雇とは、試用期間の途中で解雇することです。たとえば、試用期間を3カ月と設定している場合、1カ月や2カ月で解雇するのであれば、試用期間中の解雇に該当します。客観的に合理的な理由があり、それが解雇に相当するほどの理由であれば、試用期間の途中で解雇することもできます。
2-2. 試用期間後の本採用拒否
試用期間後の本採用拒否とは、試用期間が終了するタイミングで従業員として継続して採用するのを拒否することです。たとえば、試用期間を3カ月と設定している場合、3カ月経過後に試用期間中の能力や態度などを考慮し、解雇するのであれば、本採用拒否に該当することになります。
2-3. 試用期間中の解雇と本採用拒否ではどちらが認められやすい?
試用期間中の解雇と、試用期間後の本採用拒否では、本採用拒否のほうが認められやすいです。試用期間は、その人の仕事に対する能力や適性を判断するために設けられる期間です。そのため、試用期間が終了してから、解雇すべき事由に当てはまっていたら解雇するのが妥当だといえます。
試用期間の終了を待たずに解雇すると不当解雇とみなされ、無効になる可能性があるので注意が必要です。また、試用期間の途中であっても、労働者が社内の秩序を乱す行為があった場合には、普通解雇や懲戒解雇などのように解雇することができます。ただし、このような相当の事情がないのにも関わらず、試用期間中に解雇をすると、解雇権の濫用とみなされ、解雇が無効になる恐れがあるので気を付けましょう。
3. 試用期間の解雇が認められるケース
試用期間に従業員を解雇したい場合、正当な解雇事由で解雇をしないと、後々従業員に「不当解雇だ」と訴えられ、多額な請求をされる可能性があります。そのため、どのような場合であれば解雇ができるかどうか確認しておくことが大切です。ここでは、試用期間の解雇が認められるケースについて詳しく紹介します。
3-1. 病気やケガで休職復帰後も就業が難しい場合
不慮の事故、病気やケガが原因で一時的に働けないときは、休職をすることが一般的です。労働基準法第19条により、業務中のケガや事故で休職をした場合、療養のため休業期間とその後30日間は従業員を解雇してはならないので注意が必要です。ただし、療養開始後3年を経過しても、傷病が治らない場合には打ち切り補償を支払うことで、解雇制限が解除されます。また、労災の傷病補償年金が支給されている場合も解雇可能です。
なお、「休職後に簡単な仕事から徐々に復職することも難しいだろう」と判断されたときのみ、やむを得ず試用期間の解雇を選択することができます。企業側に一方的な解雇の権利はなく、病気やケガで従業員が休んだとしても、まずは負荷のかからない業務から与えて復職できるようサポートしなければなりません。負荷の少ない業務がそもそも社内にないのであれば、わざわざ設けるべき義務などはありませんが、病気やケガからの復帰を目指す従業員のためを考えるのであれば、企業として可能な範囲でサポートすべきでしょう。主治医から「しばらく休職すれば復職できる」と言われているにも関わらず、配慮せずいきなり解雇すると、不当解雇になる可能性が高いので注意しましょう。
(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
② 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
3-2. 勤怠不良である場合
正当な理由がない早退・遅刻や欠席を繰り返し、企業が指導をしているにも関わらず改善しない場合は正当な解雇事由として認められます。ただし、何カ月の間に何回遅刻をしたら解雇できるなどと、明確な回数が決められているわけではありません。
遅刻や欠席を繰り返した人に対して指導をしても直らない場合のみ、正当な解雇事由となります。明確には、2週間以上の無断欠勤に関しては、解雇予告をおこなう必要がないと厚生労働省が認めています。企業が指導や教育を何もしていないのに解雇してしまうと、不当解雇にあたる可能性があるので注意しましょう。
3-3. 職務経歴書の内容や過去の経歴を詐称していた場合
企業に応募する際に提出した履歴書や職務経歴書の内容、保有資格などに嘘があった場合は経歴詐称となります。たとえば、資格取得していないのに資格が必要な業務にあたっていた場合は重大な経歴詐称として、試用期間の解雇が認められる可能性が高いです。
ただし、経歴詐称が発覚したとしても内容によっては解雇できない場合もあります。たとえば、学歴詐称があったとしても、そもそも学歴不問として採用したのであれば、解雇が認められない場合もあります。
3-4. 協調性がない場合
業務を進めるうえで協調性は大切な要素の一つです。企業が従業員に指導したとしても反抗をし続け、改善の見込みがない場合のみ、試用期間の解雇事由として認められます。「行為が繰り返しおこなわれている」「指導、教育をして本人が努力をしても改善しない」「協調性がないことで他の業務に支障が出た」といった点を加味しつつ、まずは協調性のない従業員に対してきちんと指導をする必要があります。会社から指導や教育をせず、試用期間の態度を見て一方的に協調性がないからと解雇をすると、不当解雇になる可能性もあるので注意が必要です。
3-5. 期待していた能力がなく一定の成績が出せない場合
「既存社員の営業職が、入社直後から月平均100万円売り上げているのに、数カ月教育をしても10万円も売れなかった」など、数値によって成績を把握できる職種はイメージが湧きやすいかもしれません。教育期間を設けて指導を実施し、配置転換を試みたにも関わらず成績が明らかに悪い場合は、正当な解雇事由とみなされます。「試用期間中に最低でも月3件のアポをとること」「試用期間の3カ月間で資格の試験に合格すること」など、明確な基準を設けて、その基準に達しない人材は解雇すると記載するケースもあります。
ここまで解説してきました通り、正当な理由がない限り試用期間中の解雇は認められず、最悪の場合は訴えられてしまうことがおわかりいただけたことと思います。当サイトでは、雇用契約の基本的なルールから具体的な解雇のステップについて解説した資料を無料で配布しております。不当解雇になることを避け、法律に則った形で解雇をおこないたいと考えていらっしゃる方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
4. 試用期間の解雇が認められにくいケース
試用期間でも正当な解雇事由があれば従業員を解雇することができます。しかし、企業側の努力もなく「能力がないから」「成果が出ないから」という理由だけの試用期間の解雇は認められない可能性が高いです。ここでは、試用期間の解雇が認められにくいケースについて詳しく紹介します。
4-1. 未経験入社・新卒採用者に対してスキル・能力不足で解雇をする
業界や職種未経験で入社した中途社員や、社会人経験が初めての新卒採用者は、始めは仕事ができなくて当たり前です。未経験採用を実施したにも関わらず、適切な指導・教育をせずに「能力不足なので解雇する」と判断するのは非常に危険です。新入社員や業界・職種未経験者に対しては、きちんと指導や教育を実施し、まずは能力を高められるよう努めることが大切です。
4-2. 業界経験者の採用だったとしてもプロセスを見ずに結果だけで解雇判断をする
業界や同職種の経験者を中途採用するとき、試用期間中も期待値が高くなり、本採用の判断基準が厳しくなるケースもあります。たしかに、同業経験がある従業員には優良な成績を期待することもありますが、プロセスに問題がないのに成果だけで解雇判断をすることは不当解雇となる可能性が高いです。
たとえば、営業プロセスは指導通りきちんとこなし、アポ数や提案数など企業が定めたKPIは問題なく達成したにもかかわらず、目標成績に到達しなかった場合、未達という結果だけで本採用を拒否してしまうと不当解雇に該当する可能性があります。「結果だけでなくプロセス行動に問題はなかったか」「試用期間中に成果が出なかったとしても、今後改善する見込みがあるかどうか」「成果を出せていない採用者に対して適切な指導、配置転換をしていたか」など、成果に対するプロセスや会社側の対応も踏まえて、慎重に試用期間の解雇を検討することが大切です。
4-3. 試用期間の途中で解雇をする
試用期間は従業員が新しい環境、業務に慣れるための猶予期間であり、企業と従業員が適切にマッチングするかお互いに見極める期間です。試用期間の終了を待たずして、一方的に解雇してしまうと、「企業が従業員に試用期間を十分に与えなかった」と判断され、不当解雇になる可能性があります。試用期間中に正当な理由もなく従業員が休み続ける、指導をしても一切態度を改めないなど、明らかな理由がない限り解雇はできません。まずは試用期間の満了時まで、企業努力として従業員に適切な指導、教育をしていくことが重要です。
ここまで使用期間中の解雇について解説してきましたが、解雇は妥当性が重視されるため、どのような手順を踏めば妥当と考えられるか理解しておく必要があります。そこで当サイトでは、3種類の解雇(普通・整理・懲戒)の違いや要件、妥当性のある進め方などを解説した資料を無料で配布しております。自社の対応が不正解雇に当たらないか不安なご担当者様は、こちらから「雇用契約手続きマニュアル」をダウンロードしてご確認ください。
5. 試用期間の解雇に関する事例
試用期間の解雇が認められた事例と、認められなかった事例があります。実際の判例と照らし合わせながら試用期間の解雇を検討することで、未然に不当解雇を防止することが可能です。ここでは、試用期間の解雇に関する事例を紹介します。
5-1. 試用期間の解雇が認められた事例|雅叙園観光事件
雅叙園観光事件とは、総務職として採用した従業員に対して試用期間を設け、実際に業務をおこなわせて能力や適性を確認し、退職勧奨や試用期間延長という措置も取ったうえで勤務成績が不良なため、試用期間の解雇を決定した事例です。
試用期間の終了に伴い、会社側は当該従業員を不適格と判断し、退職勧奨をおこないました。しかし、従業員が頑なに応じないために、配置換えを実施したうえで試用期間を延長して再度適性を見極めることにしました。結果として、当該従業員の不適格性が明確になり、解雇は合理的なものとして認められています。
参考:地位保全仮処分申請事件(雅叙園観光事件)|労働基準判例検索 全国労働基準関係団体連合会
5-2. 試用期間の解雇が認められなかった事例|ファニメディック事件
ファニメディック事件とは、動物病院等運営会社から試用期間中に解雇された獣医師が不当解雇を根拠に未払い賃金を請求した事例です。当該労働者の業務上のミスや、学科試験の成績、勉強会の出席状況、診療件数の実績などを加味し、ある程度の事情は認められるとしても、獣医師の能力が不足していて、改善の余地がないとまで判断できないとして、留保解約権の濫用として解雇が無効と認められました。結果として、実労働時間にあわせて支払われるべき割増賃金に加えて、解雇が無効であった場合に支給されるべき賃金の支払いが命じられました。
参考:未払賃金等請求事件(ファニメディック事件)|労働基準判例検索 全国労働基準関係団体連合会
6. 試用期間の解雇を実施する場合の手順
然るべき理由があり、試用期間の解雇を実施する場合でも、慎重に手続きをしなければ違法になる可能性もあります。ここでは、試用期間の解雇を実施する場合の手順について詳しく紹介します。
6-1. 解雇理由を明確にする
まずはなぜ試用期間の解雇をするのか、その理由を明確にする必要があります。労働基準法第22条により、試用期間に解雇された退職者から請求があったら、会社側はその理由を含む証明書を発行しなければなりません。客観的に合理的な理由がなければ、試用期間に解雇された従業員が不当解雇だとして訴えを起こす恐れもあるので注意が必要です。
(退職時等の証明)
第二十二条 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。(省略)
6-2. 解雇予告を実施する
試用期間の解雇をすることが決まったら、当該従業員に対して解雇予告を実施します。労働基準法第20条により、解雇する日の30日以上前に解雇予告をする必要があります。30日以上前に解雇予告できない場合は、その日数に応じた賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
6-3. 退職手続きをする
実際に解雇する日になったら、通常の従業員と同様に、退職手続きをする必要があります。たとえば、雇用保険や健康保険、厚生年金保険に加入しているのであれば、資格喪失手続きが必要です。また、社員証やパソコンなど、貸与物もきちんと返却してもらい、預かっていた年金手帳や雇用保険被保険者証なども従業員に返しましょう。退職手続きをマニュアル化しておくと、抜けや漏れを防止し、スムーズに手続きができるようになります。
関連記事:会社側がすべき退職手続きとは?作業の流れを詳しく解説
7. 試用期間に解雇するときのポイント
試用期間の解雇にはいくつか重要なポイントがあります。ここでは、試用期間に解雇するときのポイントについて詳しく紹介します。
7-1. 本採用後よりは解雇しやすい
試用期間の解雇は厳しい条件があります。そのため、試用期間を設ける必要はないと考える人もいるかもしれません。しかし、試用期間の解雇は、本採用後の解雇より認められやすいとされています。実際に「三菱樹脂事件」の判例結果には、通常の解雇よりも、留保解約権に基づく解雇のほうが広い範囲での解雇の自由が認められるべきと記載されています。
(省略)、右の留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない(省略)
引用:三菱樹脂事件(昭和43(オ)932 労働契約関係存在確認請求 昭和48年12月12日 最高裁判所大法廷)|最高裁判所
7-2. 14日以内であれば解雇予告が不要
従業員を解雇する際は、基本的に30日以上前に解雇予告をする必要があります。すぐに解雇したい場合は、賃金の30日分の解雇予告手当を支払わなければなりません。ただし、労働基準法第21条により、試用期間がスタートしてから14日以内であれば、解雇予告や解雇予告手当は不要です。とはいえ、正当な理由なく解雇することはできないため注意しましょう。
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
(省略)
四 試の使用期間中の者
7-3. 離職票を発行する必要がある
試用期間に解雇をおこなう場合でも、雇用保険に加入している従業員の解雇をするのであれば、離職票を発行する必要があります。離職票を発行するには、雇用保険被保険者資格喪失届や離職証明書を期限までにハローワークに提出しなければなりません。また、離職票は退職者でなく、会社に届くので、受け取ったら速やかに退職者に送付しましょう。
関連記事:離職票の発行の流れとは?離職証明書・退職証明書との違いや書き方、義務について解説!
7-4. 就業規則や労働条件通知書に解雇の事由を明記する
労働基準法第89条により、就業規則には解雇の事由について明記する必要があります。また、労働基準法施行規則第5条により、労働条件を通知する際も、解雇の事由を明確に伝えなければなりません。就業規則や労働条件通知書に解雇の事由を記載せず、試用期間の解雇を実施すると、不当解雇になり、トラブルを生む恐れがあるので注意が必要です。
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
(省略)
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
(省略)
第五条 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。(省略)
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
(省略)
7-5. 解雇の前に退職勧奨を試みる
試用期間の解雇は、本採用後の解雇より認められやすいとはいえ、厳しい条件を満たさなければなりません。労働契約法第16条に則り、客観的に合理的な理由がない、もしくは社会通念上相当と認められない場合、権利濫用とされ、その解雇は無効になってしまいます。試用期間の解雇をおこなう場合、会社側から一方的に解雇するのでなく、まずは従業員に解雇の理由を伝え、合意を得た退職になるよう退職勧奨を試みるのも一つの手です。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
8. 試用期間の解雇に関するよくある質問
ここでは、試用期間の解雇に関するよくある質問への回答を紹介します。
8-1. 試用期間の延長はできる?
試用期間の延長は、合理的な理由があり、社会通念上相当と認められれば可能です。仕事に対する能力や適性がないと判断するのが難しいのであれば、いきなり解雇するのでなく、試用期間の延長も検討しましょう。ただし、労働条件に、試用期間の延長に関する記載がない場合、労働者の合意なく、試用期間を延長することはできません。そのため、試用期間の延長の可能性がある場合、あらかじめ就業規則や労働条件通知書・雇用契約書にその旨を明記しておくことが大切です。
関連記事:試用期間の延長が認められる条件とは?事例・延長の手続き方法も解説
8-2. 解雇の予告が不要な具体的な理由とは?
試用期間の解雇を実施する場合、通常の解雇の場合と同様で、解雇の予告や解雇予告手当の支払いが必要になります。しかし、災害などのやむを得ない事情により事業継続が困難になった場合や、「労働者の責に帰すべき事由」により解雇する場合は、解雇予告が不要です。なお、「労働者の責めに帰すべき事由」の具体例は、次の通りです。
ここで、「労働者の責めに帰すべき事由」について、監督署での認定は、解釈例規(昭23.11.11基発第1637号、昭31.3.1基発第111号)に示された認定基準により判断します。認定基準には、以下の事例が挙げられています。
① 会社内における窃盗、横領、傷害等刑法犯に該当する行為があった場合
② 賭博や職場の風紀、規律を乱すような行為により、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
③ 採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
④ 他の会社へ転職した場合
⑤ 2週間以上正当な理由がなく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
⑥ 遅刻、欠勤が多く、数回にわたって注意を受けても改めない場合
認定にあたっては,必ずしも個々の例示に拘泥することなく総合的かつ実質的に判断することとされ、就業規則等に規定されている懲戒解雇事由についてもこれに拘束されることはないものとされています。引用:解雇予告期間を置いたり解雇予告手当を支払わないで解雇することができる場合があるということですか、それは、どのような場合ですか?|厚生労働省
9. 試用期間でも正しい手続きで解雇しよう!
試用期間は新しく加わる従業員が、本当に自社に合っている人材か見極める期間ですが、企業が従業員を一方的に解雇できるわけではありません。何の項目を見極めるために試用期間を設けるのか、試用期間中に従業員がキャッチアップできなかった際に、誰がどのように指導・教育にあたるのか、社内で細かく決めておくことが必要です。むやみやたらに解雇をしてしまうと、不当解雇として訴えられ、企業が大きな損失を被ることもあるため、「何が正当な解雇事由として認められるか」を覚えておくことが重要です。
労働者保護の観点から、解雇には様々な法規定があり、解雇の理由に合理性が無ければ認められません。
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