試用期間を延長したい場合は、本人の勤怠不良や経歴詐称などの合理的な理由が必要です。また、試用期間の延長についてのルールをあらかじめ就業規則に記載し、労働者に周知する必要があります。本記事では、試用期間を延長できるケースやその必要条件、事例やよくある質問をあわせて解説します。
目次
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1. 試用期間とは?本採用の前に能力や適格性を見極めるための期間のこと
試用期間とは、本採用の前に一定の猶予を設け、自社にふさわしい能力や適格性を持った労働者かどうかを見極めるための期間を指す言葉です。独立行政法人労働政策研究・研修機構が2014年におこなった調査によると、86.9%の企業が試用期間を設定していることがわかっています。
試用期間の長さは「3ヵ月程度」の企業がもっとも多く、新卒採用の場合は66.1%の企業が3ヵ月の試用期間を設けています。
参考:従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
1-1. 試用期間は「お試し期間」か?
試用期間についてのよくある誤解が、「試用期間はお試し期間である」というものです。
試用期間は、労働契約上は「解約権留保付労働契約」にあたります。法律による定めではなく、過去の判例等から確立した考え方となっています。
つまり、試用期間は通常よりも解雇の自由が広く認められた労働契約であり、使用者には試用期間終了後に本採用を拒否する権利があります。
しかし、試用期間が満了したことを理由に、いつでも解約権を行使できるわけではありません。労働契約法第16条によると、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は解雇権の濫用に当たるため、使用者は本採用を拒否することができません。
過去の裁判例を確認すると、試用期間後に解約権を行使できるのは、採用後に新しく判明した事実により、労働者の能力や適格性に明らかな疑いが生じたケースに限られています。
本採用拒否が許されるのは、採用決定後における調査の結果や試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知った場合で、そのような事実に基づき本採用を拒否することが、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に相当であると認められる場合に限られる。
引用:試用期間|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
つまり、試用期間は「お試し期間」ではなく、合理的で客観的な理由がなければ労働者を解雇できない期間です。試用期間を延長する場合も、一定の条件を満たす必要があります。
参考:労働契約法 | e-Gov法令検索
参考:試用期間|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
2. 試用期間の延長は可能!そのための必要事項とは
試用期間の延長を規制する法律はありません。例えば、本採用の可否を決めるためにもう少し時間が欲しい場合や、労働者の能力や適格性に明らかな疑いがある場合、試用期間を延長できる場合があります。
ただし、過去の裁判例を確認すると、試用期間の延長が認められなかった事例も存在します。ここからは、試用期間を延長するための必要事項を解説します。
2-1. 就業規則で試用期間の延長について記載していること
試用期間を延長するには、あらかじめ就業規則に「試用期間が延長される可能性がある」旨を明記しておく必要があります。就業規則に試用期間の延長についての記載がないにもかかわらず、労働者の試用期間を延長する場合、労働者にとって明確な「不利益変更」です。
また、就業規則に定めのない延長は、仮に労働者の同意があっても、就業規則違反の労働契約としてその部分が無効となります。
労働者とのトラブル防止のためにも、就業規則に試用期間の延長についてのルールを記載しておきましょう。
2-2. 社会通念上妥当な長さの延長期間を定めていること
試用期間の延長期間は社会通念上、妥当な長さに設定する必要があります。もし延長期間の長さについての定めがない場合、試用期間の延長が認められない可能性があります。
試用期間を延長する場合は、以前の試用期間と合算して6ヵ月以内を目安にするとよいでしょう。
2-3. 試用期間の延長を通知し、明示すること
試用期間を延長する場合、あらかじめ労働者に知らせておく必要があります。試用期間の満了後に延長の申し出がない場合、本採用がおこなわれたとみなされるためです。
事前に告知をおこなっていない場合、試用期間の延長が無効になる可能性があります。
2-4. 客観的・合理的な理由があること
試用期間後に本採用を拒否するケースと同様に、試用期間を延長するには「合理的な理由」が必要です。試用期間中に労働者の能力や適格性に疑いが生じた場合は、例えば「労働者の勤務態度などが改善された場合は本採用とする」として、解約権を行使する代わりに試用期間を延長することもできます。
具体的には、以下の2点が試用期間を延長するための「合理的な理由」に相当します。
- 試用期間を延長し、労働者の様子に改善がみられるか確認したい場合
- 労働者の能力や適格性を判断するのにより長い時間を要する場合
3. 試用期間の延長が認められた事例
試用期間の延長が認められるケースとして、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。例えば、「試用期間中の出社率が低い」「無断欠勤が多い」など、労働者に明らかな勤怠不良がみられる場合、試用期間を延長できる可能性があります。
また、採用後に労働者の経歴詐称が発覚した場合も、改めて本人の能力や適格性を見極めるため、試用期間を延長することが可能です。試用期間の延長が認められる事例を2つ紹介します。
3-1. 労働者に勤怠不良・勤務成績が著しく悪い場合
労働者に著しい勤怠不良がみられる場合、試用期間を延長し、改善がみられるかどうか確認することができます。
例えば、試用期間の延長が可能な勤怠不良の例として、次のようなものがあります。
- 試用期間中の出社率が低く、営業日の90%に満たない場合
- 試用期間中の無断欠席が多く、3回以上の無断欠勤がみられた場合
3-2. 労働者の法令違反・経歴詐称が発覚した場合
また、採用後に労働者の経歴詐称が発覚した場合も、改めて労働者の能力や適格性を見極めるために試用期間を延長することができます。
例えば、履歴書や職務経歴書に採用結果に大きな影響を与えるような虚偽の記載があった場合、経歴詐称に当たります。
4. 試用期間の延長に関してよくある質問について
ここからは、試用期間の延長に関してよく生じる疑問について解説します。
試用期間を延長する際に改めて注意しておくべきポイントや、試用期間延長時の上限、契約書の必要性、具体的な手続き方法について、おさらいしましょう。
4-1. 試用期間を延長する際の注意点は?
試用期間を延長する際は、試用期間を延長する理由や具体的な延長期間について、「従業員へきちんと説明すること」が大切です。
伝え方によっては、試用期間の延長を労働者に伝える際、相手方に申し出を拒否される可能性があります。試用期間の延長は労働者に不安を与え、「解雇されてしまうのではないか」というイメージを与えてしまう恐れもあります。
前述の通り、試用期間の延長は「合理的な理由」がなければできません。労働者とのトラブルを防止するため、「試用期間中の勤怠不良や経歴詐称により、合理的な理由によって試用期間の延長を決めたこと」「社会通念上妥当な長さで試用期間を延長すること」などをはっきりと伝えましょう。
また、今後勤務態度などに改善が認められた場合、本採用もありうることを相手方に伝えれば、試用期間の延長の申し出が受け入れられやすくなります。
4-2. 試用期間の延長は、最長何ヵ月まで?何回まで可能?
試用期間における延長の上限や、回数制限は定められていません。とはいえ、試用期間の無期限の延長は認められておらず、過去の判例にて無効とされています。
合理的な期間を超過した試用期間の延長は、無効となる可能性があるためご注意ください。
期間を定めずになす試用期間の延長は、畢竟何回にもわたる延長を認めることにひとしく、解雇保護規定の趣旨から到底許されないところであり、右期限を定めずになされた延長は、相当な期間を超える限度において無効というべきである。
4-3. 試用期間の延長に契約書は必要?具体的な延長方法(手続き)とは?
試用期間の延長をおこなう際に、契約書を作成する義務や特別な手続き等は必要ありません。
とはいえ、延長が認められるには就業規則と労働条件通知書への記載が必須となります。就業規則と労働条件通知書に内容の相違がないか確認した上で、交付しましょう。相違がある場合には、従業員にとって有利な内容が優先して適応されるため、その点も理解しておきましょう。
5. 試用期間の延長には合理的な理由が必要!必要事項を確認しよう
試用期間を延長したい場合は、「労働者に著しい勤怠不良がみられる」「採用後に経歴詐称が発覚した」など、合理的な理由が必要になります。また、試用期間の延長についてのルールをあらかじめ就業規則に記載することや、社会通念上妥当な長さの延長期間を設定すること、試用期間の延長を事前に労働者に知らせることも必要事項の一つです。
試用期間は単なる「お試し期間」ではありません。従業員とのトラブル防止のため、試用期間の延長に必要な条件について知っておくことが大切です。
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