新型コロナウイルスの世界的な流行により、私たちの生活は一変しました。ワークスタイルも、オフィス出社から在宅勤務やテレワークへシフトする企業も増えてきています。
厚生労働省が掲げる「新しい生活様式」に沿った組織づくりはもとより、ポストコロナ時代における従業員のエンパワーメントや、組織へのコミットメントを醸成する社内文化がより大事になってくるのではないでしょうか。
そんな中、役職や部署を超えた「相互依存型」の組織が注目されています。
その背景には、社内コミュニケーションが十分にとることができず、パフォーマンスの低下や組織分断によるチーム力の欠如など、リモートワークが浸透することの弊害が取り沙汰されている現状があります。
今回は、健康食品の『すっぽん小町』や『高麗美人』でおなじみの「ていねい通販」を運営する株式会社 生活総合サービス(以下、生活総合サービス)がおこなう、相互依存型の組織運営や社員ファーストな取り組みについて、同社 ていねい通販 採用責任者の戸田さんにお話を伺いました。
【人物紹介】戸田 良輝 | 株式会社 生活総合サービス 採用責任者
チャレンジ推進の風土作りが売上に大きく貢献
ーまずはじめに、ていねい通販の事業について簡単に教えてください
戸田さん:ていねい通販は、主に女性向けの健康食品や化粧品を販売するEC事業です。
商品やサービスは『頑張る女性を応援したい』というコンセプトのもと、家事や子育てのほか、仕事や介護など、自分ではない誰かのために毎日忙しく過ごされている女性の方たちに、元気とキレイをお届けしたいという思いで事業を運営しています。
商品数は25種類ほどではありますが、フロント商品である「すっぽん小町」は販売累計19,00万袋を達成し、通販のアクティブユーザーも30万人を超えています。
健康食品に力を入れるようになってからおかげさまで10年連続売上50億円を達成できました。
ーていねい通販が10年連続で売上50億を達成できた理由はどういったところにあるのでしょうか?
戸田さん:売上増加の要因について説明すると、時流に沿った広告展開が功を奏したのが大きな理由です。
まず、2009年からテレビCMを始めたのですが、今までアプローチできなかった層のお客様にリーチすることができ、翌2010年には、創業初の50億を超える売上を達成しました。
その後、テレビCMの効果が落ちてきたものの、広告展開をTVからWEBへ注力するようになり、特にスマホシフトを業界内ではいち早く取り組んだことによって2017年にV字成長し、同年に過去最高の売上79億に達することができたのです。
直接的な要因としては、新規広告のおかげで売上が伸び、成長したのは事実です。
ただ一方で、その成功の背景には社内での「チャレンジ推進の風土作り」が大きく影響を与えたと思っています。
チャレンジ推進の風土作りは、WEB広告を中心に展開していく中で徐々に形成されていきました。
それは、テレビCMの時とは違って、WEB広告は広告の打ち出しや利用媒体が日毎に変わっていくからです。
そのため、部署間の連携をないがしろにすると、カスタマーサポートのアナウンスが上手くいかず、結果としてお客様に迷惑をかけてしまいます。
そういったこともあり、社内が一丸となってチャレンジを推進していく風土作りが必要となってきました。
特に重要になったのが、部署間のコミュニケーションを推進することでした。
非効率とも思えるぐらいの密なコミュニケーションが、それぞれのチームのパフォーマンスを最大化させるために必要だったのです。
ー部署間のコミュニケーションを密におこなうことが重要なんですね。
戸田さん:そうなんです。新たな広告施策が始まる時は、事前に広告チームがカスタマーサポートチームに情報共有をおこない、対応方法を一緒に考えます。
そして、実際に広告の運用が始まるとイレギュラーケースが出てくるので、それらも広告担当者が一緒にケアをおこない、今後の運用にも活かしていきます。
私たちの考えですが、広告担当と現場であるカスタマーサポートが連携を密に取れているかどうかで、広告戦略の成果が出るか否かが決まると思っています。
実際、コールセンターやSNSでの対応によって、購入に繋がったというケースは少なくありません。
これらの取り組みを難しいと感じる企業さんも多いかと思いますが、シンプルに広告担当者と現場が顔を合わせて話す機会を増やすだけで変化すると僕は思います。
極端な話ですが、ランチに行くだけでもいいかもしれません。
なぜなら、顔を合わせて話すことが結果としてお互いのチームへの想像力となり、配慮が生まれるからです。
「自分たち」という主語に他の部署が含まれることで、自然と担当者が「これって現場が困るだろうからしっかり共有しよう!」や「今回の広告のチャレンジはいつもより私たちも協力できそうだ♪」となっていくのだと思います。
また業務連携という意味では、弊社は社内だけではなくビジネスパートナーとのコミュニケーションも大切にしており、施策の意図や企業の思いをしっかり共有しているのも特徴的だと思います。
あまりにも論理性を欠いていて申し訳ないですが、思いを共有しているかどうかで広告の言葉選びひとつ、色味ひとつ変わってくるものだと僕は思います。
昨今の世の中では、情報共有の場を面倒がらずに設け、しっかりと意思疎通を図る。これこそ、組織のチームワークを強固にするために必要なのではと考えています。
目指したい世界観は「優しさの連鎖」
ー「顧客第一」を掲げる企業が多い中、「お客様よりも社員を大切に」という社員ファーストな取り組みをおこなう狙いはどこにあるのでしょうか?
戸田さん:私たちていねい通販の価値観は明文化されていて、ひとりひとりがこの価値観に沿って日々仕事をしています。
『私たちは大切な人を大切にします。まずは、目の前いる家族や大切な人を大切にし、次に横にいる一緒に働く仲間を信頼し、大切にし、そして全国にいるビジネスパートナーの方々を大切にします。最後に、目の前にいるひとりひとりのお客様に寄り添います』
よく言われる「お客様第一主義」とはまったく逆の考え方であり、最後にお客様と表現しているのが特徴ですね。
ただ誤解しないでほしいのは、お客様をないがしろにしているという意味ではないこと。
自分の近くの人から大切にしていくことが、結果としてお客様を一番大切にできる。そう考えているからです。
つまり、自分たちが疲弊してまで、さらにはビジネスパートナーも疲弊してまでお客様に喜んでもらおうとはしない。
例えば、コールセンターをお客様第一主義で考えると年中無休が良いでしょう。ただ、そうするとお正月に家族と一緒に過ごせないスタッフが出てくるかもしれない。
それならば、スタッフやビジネスパートナー達の家族との時間を優先すべきであると、私たちは考えています。
人が他者に優しく誠実に向き合うことができるのは、自分が満たされてこそだと思っています。自分が大切にされていると感じているからこそ、顧客に全力で向き合うことができる。
シャンパンタワーのように自分の心が満たされるからこそ、隣の人に優しくすることができ、その人が満たされることでまたその先の人に優しくできる。
この「優しさの連鎖」を起こすことが、私たちが目指す世界だと考えていただければと思います。
ーノルマや売上目標がないとのことでしたが、ビジョン達成のための数字管理や働くスタッフのモチベーション維持は、どのようにおこなっているのでしょうか?
戸田さん:数字管理に関しては、売上目標やノルマを定めていませんので、スタッフの仕事を数字で管理することは基本的にないわけです。
では、どのように社員やスタッフのモチベーションを保つのかというと、まずは「仲間を大切にする」を体現することですね。
たとえばスタッフの健康や栄養面に配慮し、年間一度もメニューの被らない社内食堂を設けていたり、手紙を添えた給与明細を社長が自ら、スタッフに手渡していたりと、働くスタッフ自身が「大切にされている」と感じてもらえるような取り組みを多くおこなっています。
もちろん、それだけではモチベーションは維持されません。人には「人の役に立ちたい」という欲求があるからです。
この「人の役に立ちたい」という欲求をスタッフ自身が「相手が喜ぶことをする」という経験によってモチベーションを維持することが出来るのです。
つまりていねい通販では、働く中で他者に優しくするという経験をたくさん積むことで、相手に優しくする方が楽しいと理解し、自らの意思で仲間やお客様に優しくしていくという循環が生まれているのです。
ーそういった環境があるからこそ、ていねい通販では結果として顧客が喜ぶユニークな取り組みが多いのでしょうか?
戸田さん:まさにそうだと思います。普通は企業が効率化やコスト削減と銘打ってお客様第一にできないところを、私たちは率先しておこなうことを良しとしています。
たとえば、お客様に定期購買の商品を送る前に解約の意思を確認するメールがあるのですが、これは送るだけでも年間数千万の売上のロスに繋がりますが、お客様にとっては便利なので実施しています。
お客様への誕生日プレゼントも月初に一斉に送ることよりも誕生日当日に送るほうが、お客様には喜んでいただけるのでコストは跳ね上がりますが当日に送っています。
どちらもお客様が喜んでくれるからという理由でスタッフが発案してくれたものです。
このように自分たちがおこなったことで、喜んでもらえると、次はもっと喜んでもらえることを考え行動しようとします。
すごくシンプルな喜びの連鎖が起きていくわけですが、きっとそれは数字目標の達成以上の喜びだと私たちは考えています。
もちろん、コスト計算は必要ですが、それは経営陣が全体管理をすることで、スタッフは目の前のお客様に集中することが出来ますし、お客様が喜ぶものを生み出してくれるわけです。
つまり決裁権や企画の上流下流という認識ではなく、役割分担なのです。役割を分け合い、相互に依存することによって、私たちは最大の価値を生み出すことが出来るのです。
組織ができることは環境作りのみ。社員の自発性を促せるかが肝になる
ーポストコロナの時代における組織エンゲージメントを高める施策をどのようにおこなっているのでしょうか。
戸田さん:今、私たちも世の中の流れ同様、オフラインからオンラインコミュニケーションへと切り替わりました。
実際このような生活が起きるまでは、オフラインに強みを持っていたため、最初は戸惑いましたね。
ただ、驚いたことにオンラインでのコミュニケーションが想像以上に上手くいっているという事実があります。
その理由としては、スタッフが各々で率先し、オンラインコミュニケーションを実践してくれたからです。
例えば、代表が週始めに朝礼でスタッフ全員に向けてZoomで話をしたり、スタッフ1人ずつ順番に突撃Zoom雑談タイムを設けたり、2年目の社員が毎日15時に運動不足解消と銘打ってオンラインで一緒に体操をする時間を設けてくれたり。
そのほか、チームごとでのオンラインランチや、オンライン誕生日パーティー、新入社員によるラジオ番組など、様々な企画が自然発生的に立ち上がり、リモートだからこそできるコミュニケーションを積極的におこなおうと動いてくれました。
戸田さん:なので、どれが成果があったとかではなく、スタッフ一人一人が考え、行動してくれたことが全てだと考えています。
組織としてやるべきことは、オンラインコミュニケーションの活動をしやすい環境作り(設備投資や制度設計)だけだと思います。
一方で、今の成功がコロナ前の信頼残高の切り崩しによって上手くいっている部分もあるのが課題だと感じています。
今後は新入社員を中心としたこれから入社するスタッフに対しても、オンラインでのマインド形成や風土の浸透ができるよう、取り組んでいきたいと思っています。
ーありがとうございます。最後に今後の展望についてお伺いします。「新しい生活様式」が定着していく中で、どんな組織や企業文化を作っていく予定なのでしょうか。
戸田さん:消費者のニーズが変化するというよりも、よりニーズが多様になると考えて取り組んでいこうと思います。そして、多様なニーズに対応するためには多様な働き方を促進していくことが必要です。
そのため、今までの雇用形態や制度に捉われない仕組みを今後作っていく予定です。
それが結果として、スタッフの働きやすさや幸福度の向上に繋がり、結果としてその先にいるお客様の笑顔に繋がるのではないかと考えています。
これからも、ていねい通販の強み、職種・役職を超えた一体感のある組織づくりができるよう、チャレンジしていきます。