「人生100年時代」「働き方改革」「経済のグローバル化」など、さまざまな取り組みや社会の変化により、労働者の仕事や人生に対する価値観、そして労働者を取り巻くビジネス環境は、日々複雑化しています。
その複雑化し変化の多い社会環境の中でも適応して生き抜くことができる力として、近年注目を集めているのが「レジリエンス」です。
今回はそのレジリエンスの意味や、労働者を管理する人事やマネージャーにとってレジリエンスを高めるマネジメントの必要性について解説していきます。
目次
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。
1. レジリエンスとは
レジリエンス(resilience)とは、「反発性」「復元力」「弾力性」「回復力」という意味を持つ言葉です。
元来は物理学の分野で使用されていた言葉でしたが、個人や組織が「さまざまな困難や脅威に直面している状況に対して、うまく適応できる能力、生き延びる力」として意味される言葉としても使われるようになりました。
そのため、近年は心理学、経営学や組織論などの分野においても、広く使われています。
2. レジリエンスを構成する2つの因子
レジリエンスについて把握するうえで知っておきたい言葉に「危険因子」や「保護因子」といったものが挙げられます。これらの言葉は主に医療の現場で使われていますが、レジリエンスにおいては意味が多少異なります。
危険因子や保護因子については現在も多くの研究が進められています。研究の中で見えてきた危険因子や保護因子の具体的な事例には以下のようなものがあります。
2-1. レジリエンスの「危険因子」
レジリエンスにおける危険因子とは、ストレスを引き起こす要素や困難な状況の要因のことをいいます。
ビジネスにおいては、人間関係の問題や職場環境などが危険因子に該当します。ほかに、家庭環境や病気、災害や戦争、犯罪被害、貧困や虐待なども危険因子となり得ます。これさまざまな危険因子は、日常生活に暗い影を落とし、心身に重大なストレスを与えます。
レジリエンスにおける危険因子が多い労働者は心身に不調を感じやすくなり、思ったような力を発揮できないケースがあります。
レジリエンスの危険因子を減らすためには、マイナス感情をコントロールする対処法が有効です。周囲の事象や環境に関心を持つこと、将来に対する目標やビジョンを打ち立てるなどの対策が、危険因子を減らすことにつながります。
2-2. レジリエンスの「保護因子」
レジリエンスの保護因子とは、危険因子によるストレスや困難な状況からの立ち直りを促進する因子のことです。
個人の性格や特質、思考や問題解決能力といった内面の要因は保護因子に該当します。また、家族や職場の人など周囲の支援、地域の環境要因や対人関係なども重要な要素です。心身の健康を保護因子のひとつとする考え方もあります。
個々の性格や考え方といった保護因子は先天的な個人内因子です。
一方で、思考や問題解決能力、周囲の支援などは後天的な能力因子にあたります。
リラックスできる憩いの場を設けること、相談できる相手を見つけることなどがレジリエンスの向上につながっていきます。頼れる保護因子が多いほど、危険因子を減らしネガティブな状況を脱却する選択肢が増えやすくなります。レジリエンス向上のためには、保護因子の数や質を高めることが肝心です。
3.レジリエンスが普及した背景
まず、レジリエンスという概念が普及した背景と、日本でレジリエンスが注目されている背景について説明します。
3-1. 「レジリエンス」という概念は、戦後のユダヤ人への追跡調査の中で浸透
レジリエンスという概念は、第2次世界大戦下にナチス・ドイツによるユダヤ人の大虐殺により、ホロコーストで孤児になった子どもたちを追跡調査する過程で注目される概念となりました。
この調査では、「元孤児でありながら、トラウマを乗り越えて仕事に就き、幸せに生きている人たち」と、一方で「トラウマや恐怖の記憶から立ち直れず、生きる気力を見出せずに不幸な人生を送っている人たち」の双方を観察し、その違いが何によるものなのか調査したものです。
その結果、前者の人々には『逆境や困難に負けず、環境に適応していく力』や『状況に応じて生き抜く回復力』があることがわかり、この概念が普及していきました。
3-2. 「ストレス社会」日本においても注目が集まっている!
最近になってレジリエンスが日本で注目されている背景には、日本社会がストレスを抱えて働いている人が多いことが挙げられるでしょう。
2019年にチューリッヒ生命が発表した「ビジネスパーソンが抱えるストレスに関する調査」では、勤務先でストレスを感じている人の割合は約8割というデータが明らかになっています。
そして、その要因は、職場関係や人間関係、仕事内容が大きな割合を占めています。
部下を管理する上司や人事は、日々ストレスに悩む社員が「跳ね返す力」「回復できる力」であるレジリエンスを身につけることができるようなマネジメントをしなければならないため、注目されるようになっているのです。
日本では、2016年から自然災害やテロ、感染症のまん延などへの備えとして、事業継続に関する取組を積極的に実施している事業者を「国土強靭化貢献団体」として認証する「レジリエンス認証制度」を創設しました。政府が主導となってこのような制度を作った背景には、いかなる時でも人命を最大限保護し、また経済社会への被害を最小限にとどめ、迅速に回復することができる「強さ」と「しなやかさな回復力」を備えた社会システム備えた国を構築する目的があります。レジリエンスは個人の問題だけでなく、国という大きな社会の枠組みの中でも重要な要素であることがわかります。
4.「レジリエンス」と「ストレス」の関係性
レジリエンス(resilience)という言葉は、「ストレス(stress)」という言葉と共に、物理学の世界で広く活用されています。
ストレスには「外部から加えられた圧力による歪み」という概念があり、一方のレジリエンスには「外力により圧力を受けた歪みを跳ね返す力」という概念があります。
つまり、さまざまなストレスを跳ね返す力がレジリエンスであると言えるでしょう。
PTSDという心の病がありますが、これはショック体験や強い精神的ストレスが心のダメージとなり、時間がたってからも、その経験に対して強い恐怖を感じ、跳ね返すことができない状態のことを言います。
PTSDは不眠症や食欲不振などの症状が出てしまうなど、健康面やモチベーション面においても良くありません。
企業としては、社員の健康管理やモチベーション管理としての側面においても、各個人のレジリエンスを強化することが求められています。
5. レジリエンスが高い人材の特徴
それでは、レジリエンスが高い人にはどのような特徴が見られるのでしょうか。共通する特徴として、以下の5つが挙げられます。
①自己認識力が高い
まず、自己認識ができる人は、レジリエンスが高い特徴があります。
自分の強みや弱みを理解しているいるため、他人と自分を安易に比較せず、ありのままの自分を受け入れることができるからです。
②楽観的に考えることができる
つぎに、楽観性があり、自己効力感を持つ人が挙げられます。
楽観的であれば、困難なミッションや課題に対しても「自分は達成できる」と信じて挑戦することができ、たとえ失敗しても、それを糧に成長できます。
自分を否定せずに、「自分は困難を克服できる」「自分は現状を変えることができる」と考えることができる思考性や精神力を持った人は、レジリエンスが高い傾向にあるでしょう。
③人間関係が良好である
また、人間関係を大切にできる人もレジリエンスが高い傾向にあるでしょう。
ストレスの多くは人間関係から生まれますが、職場やプライベートでも、人と協力して何かに取り組んだり、問題があっても協力しながら改善したりすることができることは、レジリエンスが高い証拠と言えます。
④自制心が高い
最後に、自制心が高い人も、同様にレジリエンスが高いと言えます。
環境の変化が激しい現代においても、目の前の状況に一喜一憂せず、物事の本質と向き合うことができる人は、喜怒哀楽といった感情の起伏が激しい人に比べて、ストレスを受けにくく、しなやかな回復力を持ち合わせた人である傾向が強いと言われています。
6. レジリエンスを身に付けるメリット
実際にレジリエンスを強化し身に付けた場合、どのようなメリットがあるのか具体的に解説していきます。
ストレスがたまりにくい |
世の中に存在するストレス自体を減らすことは難しいが、受けたストレスに対する対処が変わることで、結果的にストレスを減らしていくことが可能となる。 |
人間関係が良好になる |
人間関係によるストレスで気を病むことが減り、柔軟な考え方のもと、人間関係を良くしていこうと前向きに捉えることができるようになる。 |
自己・組織の成長につながる |
物事を広い視野から考えられるようになるため、正当な自己評価や組織状態の把握ができるようになり、目標に向かって着実に努力をすることができるようになる。 |
満足度が向上する |
たとえストレスが掛かったとしても、「立ち直ることができる」「成長することができる」ので、仕事や人生に対する満足度が向上する。 |
現代社会で生きていく上で、日々さまざまなストレスに影響を受けてしまうことは避けられないと思います。
しかし、受けたストレスを「跳ね返す力」「回復していく力」があれば、ストレスを受けても精神的なダメージを受けることは減ります。
これらのメリットを享受するために、レジリエンスを強化し身に付けることが大事です。
7. レジリエンスを強化する方法
では、レジリエンスを強化し身に付けるためには、どのようなことをすれば良いのでしょうか。
レジリエンスはトレーニングにより後天的に身に付けていくことができるので、最後にレジリエンスを強化する方法を紹介していきます。
自分の思考を振り返り「癖」を発見する
人は「癖」となってしまっている思考があるため、過去の自分がどのような考え方をしているのか振り返ることが大切です。
- どうせチャレンジしても上手く行かない
- ミスしないでやるためにはどうすれば良いだろうか?
といった「ネガティブ思考」や「完璧主義思考」がある場合は、その癖がストレスの原因になっていることが高いでしょう。
こういった癖に気付くことで、少しずつ自分の思考を変えていくことができるようになります。
ポジティブ変換を繰り返す(ABCDE理論)
自分の感情をコントロールするために有効な考え方として、「ABCDE理論」というものがあります。
「目の前の状況は、自分の考え方一つで良いものにも悪いものにもなる」という前提に立って物事を考えることで、有効な心理療法の1つでもあります。
ある事象に晒されたとき、自己の思考パターンや解釈を「否定的なもの」から「肯定的なもの」に変えることで、自分の感情をネガティブな状態からポジティブな状態へとコントロールできるようになるというものです。
「レジリエンス研修」を実施する
もちろん、個人だけで取り組むだけでなく、会社や組織であれば研修として、一斉にメンバーに取り組んでもらうことも有効であります。
グループワークやディスカッションの過程で、「ネガティブな思考をポジティブ思考に変換する習慣」「柔軟な発想で復活する力」を身に付けることが可能です。
「企業の源泉は人である」とよく言われているように、個人だけでなく、組織としてもレジリエンスが高くなることで、結果として企業全体のレジレエンスを高めることにもつながります。
8. まとめ
日本人は、ストレス社会の中で生きており、そして自己効力感も世界と比べて見劣っていると言われています。
しかし、変化の速度が早く、不確実性が高い現代に置いて、個人、組織、国のレジレエンスを高めていくことは必要不可欠です。
まずは個人がレジリエンスを強化するために少しずつ変わっていくことが求められており、その過程の中で人事担当者やチームのマネージャーが研修を組んだりすることでレジリエンスを高めていく施策を実施することが大切かもしれません。
レジリエンスを構成する要素を正しく理解し、正しいトレーニングをすれば、後天的にレジリエンスは向上し、身に付けることはできるでしょう。
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。