ビジネスパーソンがライフイベント後にぶつかる 3 つの壁 ~これからの組織に求められるサポートの方向性~ |HR NOTE

ビジネスパーソンがライフイベント後にぶつかる 3 つの壁 ~これからの組織に求められるサポートの方向性~ |HR NOTE

ビジネスパーソンがライフイベント後にぶつかる 3 つの壁 ~これからの組織に求められるサポートの方向性~

  • 組織
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※本記事は、株式会社NOKIOOの小田木朝子さんより寄稿いただいた記事を掲載しております。

こんにちは。株式会社 NOKIOO の小田木朝子と申します。

NOKIOO は、“多様な人材から最高のパフォーマンスを引き出せる組織づくり”をビジョンに、人材育成の観点から、企業のダイバーシティ推進、チームワーキングを支援する会社です。その中で私は取締役として、事業コンセプトや戦略を立案しながら、様々な企業人事の方々と現場の課題を探求し、人材育成の企画立案から教育プログラムの開発と展開・評価までを手掛けています(何でも屋ですね)。

今回 HR NOTE さんとご縁をいただき、「育休」をテーマに寄稿をさせていただきます。2022 年 4 月の改正「育児・介護休業法」の段階的施行がスタートし、多くの企業で男女に関わらず社員のライフイベントをサポートする流れが加速しています。

男性を含めた育休取得率の引き上げや、育休取得期間の長さを指標として推進する企業も多いでしょう。もちろん数値ありきではなく、そうした取り組みが“多様な人材の活躍”につながることを期待し、力を入れています。

当記事では、育休取得率が上がったとして、その一人ひとりが復職後に職場で良いパフォーマンスを発揮するために欠かせない視点を共有します。

題して、「ビジネスパーソンがライフイベント後にぶつかる 3 つの壁」(今回はライフイベント=出産を前提にしております)。

これまで 500 人以上の育休取得人材と関わる中で見えた課題を言語化し、そこから企業が推進する育休支援に活かせるヒントを提供します。

もともと女性を中心とした課題の探求から始まりましたが、男性育休取得者(特にまとまった期間育休を取得する方)にも応用可能な内容になると思います。

多様な人材が「いる」だけではなく、「最高のパフォーマンスを発揮できる」組織づくりに日々奮闘する人事の方々の、お役に立てば幸いです。

【執筆者】小田木朝子|株式会社NOKIOO取締役 RHR事業責任者

ウェブマーケティングの法人営業などを経て、2011年に株式会社NOKIOO創業に参画。新規事業開発に携わりながらグロービス経営大学院修了。2020年、オンライン教育サービス『育休スクラ』を立ち上げ、時間に依存しない仕事のやり方とチームワーキングのトレーニングプログラムを法人・個人に提供開始。“多様な人材から最高のパフォーマンス引き出せる組織づくり”をビジョンに、人材育成の観点から、企業のダイバーシティ推進、チームワーキングを支援。著書に、『仕事は自分ひとりでやらない』(2022年4月/フォレスト出版)。音声メディアVOICYで、チャンネル『今日のワタシに効く両立サプリ』を運営。ビジネスパーソン向けに、“気合・根性・長時間労働の働き方を変えるヒント”を毎日10分で配信中。

1.壁を知るビジネスパーソンがライフイベント後にぶつかる 3 つの壁

それでは早速、ビジネスパーソンがライフイベント後にぶつかる 3 つの壁をご紹介します。

ちなみに私自身は、2 回の育休を取得していますが、特に第 1 子出産後に仕事を続けることへの自信やモチベーションが急降下しました。さらに低迷期は 3 年ほど続きました。

今振り返ると、この 3 つの壁すべてにぶつかっていたのだと冷静に分析できますが、当時はその背景や要因も自覚できずに、ずいぶんもがいたことを記憶しています。

もちろんすべての方が 3 つの壁にぶつかるわけではありませんが、これまで多くの両立期ビジネスパーソンと関わる中で、ある程度“汎用性のある壁”としてとらえて良いと思います。

そして、壁の存在を認知することによって、個人も組織も適切な備えができるという考え方のもとに共有いたします。

1-1.「時間がない」の壁

ライフイベント後に起こることは、圧倒的な時間不足です。残業ができないなど、労働時間が以前よりも減る。さらに、家庭での時間も育児や家事で「やることいっぱい」状態です。

パートナーと協力し合ったとしても、初心者マークでスタートする育児と両立において、慣れない状況やライフタイムへの適応は、相当ハードな取り組みと見て良いでしょう。

特にここで問題になるのは、これまでの仕事のやり方(その人にとっては勝ちパターン)が、長時間労働を前提にしたものだった場合です。

私たちが自覚する以上に、長時間労働を前提とした仕事のやり方は根付いています。残業という武器を封じられ、それ以外の勝ちパターンを知らない。

これまでのやり方で成果を出そうと思うと時間が足りない。そして、今使える時間でナントカしようと思うと、これまでのような成果が出せない。圧倒的な時間不足の中、目の前の仕事に追われて疲弊する。

その中で、「これまでのような働き方は難しい」と希望を手放す。さらに、このままずっと頑張れるか不安になる。このスパイラルが、ライフイベント後も仕事を頑張りたいビジネスパーソンをじわじわ削るのです。

1-2.「キャリア迷子」の壁

上記の圧倒的時間不足状態は、「キャリア迷子」の壁にも影響します。(私もそうでしたが)ライフイベントなどの大きな転換点が来るまで、キャリアについて明確に考えていなかったという人は少なくありません。

そうした人は総じて、「任された仕事が終わる達成感」や、「やり切って感じる成長実感」など短期的な成果が仕事のやりがいになっているケースが多いです。

そうです。これまでの勝ちパターン(≒長時間労働に依存した成果の出し方)の上に成り立つ仕事のやりがいが、足元からぐらつくのです。

本来は、ライフイベントにより変動した環境に適応して、新しい勝ちパターンや、キャリア観の再構築をする機会なのですが、そうした発想をする前に「仕事とキャリアの両立は難しい」と諦めてしまい、モチベーションが低下してしまうことが多々起こっているのです。

1-3.「会社と握手できない」の壁

最後は、「会社と握手できない」の壁です。

これは会社(特に上司)と対話がままならず、相互信頼の関係を築けないことで陥る事象を捉えています。

上記のように余裕のない状態であれば、誰しも「自分ばかりが大変だ」と感じたり、「周囲は分かってくれない」と誰かを責めたくなったりします。

これは、そうなる人が悪いのではなく、逼迫した状況や、解決の糸口が見えない閉塞感がそうさせてしまうのです。

ライフイベント後、仕事への希望や、抱える事情は一人ひとり違います。

本来は、上司やチームメンバーなど関わる人と対話をしながら、仕事の役割や働き方、キャリアについての合意形成がとても重要になる場面ですが、それができずに「会社や上司に信頼を感じられなくなる」結果、頑張る意欲の低下や、退職による人材流出につながりやすくなります。

2.壁を越える~3 つの壁を越えるための“これからのサポートの形”~

今回ご紹介した「ビジネスパーソンがライフイベント後にぶつかる 3 つの壁」。

これは「両立が大変」「育児は難しい」というざっくりした課題の捉え方ではなく、ライフイベントによる環境変化が、ビジネスパーソンの仕事とキャリアにどんな影響を与えるかを言語化したものです。

かく言う私も、過去には「出産後に仕事の継続が大変なのは、育児が大変だからだ」と捉えていました。

しかし、「ライフイベント前の“仕事のやり方(=成果の出し方)”が、通用しなくなっただけ」だと捉えることにより、もっと多様で本質的な“これからのサポートの形”が見えてくると思いませんか。

2-1.必要なのは“仕事のやり方”のアップデート支援

まず当事者に向けての支援です。

ここでは、「働き方(=選択肢の話)」と「仕事のやり方(=成果の出し方)」を分けて考えます。

例えば、両立支援の各種制度や、リモートワークが使えるなどにより、個人の選択肢を増やし、自分に合った選択をできるようにする支援。これらは「働き方」の支援です。

それとは別に、「仕事のやり方」を対象にし、長時間労働で成果を出す方法から、チームで連携して 1 人で出す以上の成果を出すやり方へシフトすること。自分の強みや価値観を理解し、上司と対話するスキルを身につけること。

こうした支援があることで、個人にも組織にも大変有用なライフイベント後の活躍支援になるはずです。実際に、研修等の
形で、そうした機会をライフイベント前後の人材に提供する企業が増えています

≫上記のような「仕事のやり方」を、ヘルプシーキングとして書籍で体系化していますので、もし関心をお持ちいただきましたらこちらもご参照ください。
仕事は自分ひとりでやらない | 小田木朝子 | コミュニケーション | Kindle ストア | Amazon

2-2.上司を支援すると、当事者も支援される

次に、育休を取得する部下を持つ上司向けの支援です。チームの業績やマネジメントを担う上司こそ、具体的なノウハウを最も求めています。

チームのまとめる上司の視点でイメージしてみてください。組織的な育休取得推進の中で、男女ともに育休を取得する部下が急増。その中で当事者のキャリアを支援し、残ったメンバーと仕事を動かし、その双方をサポートする役割を担っているのが上司です。

ある調査では、育休取得する部下の仕事を「自分で担う」という選択をせざるを得ない上司が 6 割にも上るという結果もあります。

育休取得率の向上は上司にとって目的ではありません。本当に望んでいるのは、育休を取得した部下が“戻ってきてチームで良いパフォーマンスを発揮すること”、そうした状況を“残るメンバーと協力し合ってチームを適切に運営し続けること”なのです。

上司に必要なのは、育休というライフイベントを適切に捉えたマネジメントの知見。当事者フォロー、メンバーコミュニケーションを横断した具体的なノウハウです。

そうした上司に向けたノウハウの支援を組織がおこなうことで、当事者が現場で適切に支援されるサイクルができるのだと思います。

2-3.人事にしかできない!仕組みでサポート

最後に、セミナーなどのノウハウ提供を、実践につなげるための仕組みについても考えておきましょう。

例えば、「上司と部下でキャリアに関する対話をしてくださいね」と声をかけるだけでは、実践につながる可能性はそれほど高くありません。

必要なプロセスが、できる限り高い確率で実行される“仕組み”があることで、実践を後押しできます。

以下は実際の企業の例です。面談の仕組みを定めるだけでなく、その面談が上司と部下双方に有用なものとなるよう、プロセス全体が下記のように仕組み化されています。

    • 産休前に上司と面談するステップが定められている(名称:産休前面談)
    • 産休前面談で良い対話ができるよう、対話のフォーマットがある
    • 産休前面談で良い対話ができるよう、当事者向けの事前研修がある
    • 産休前面談で良い対話ができるよう、上司向けのノウハウ動画がある など

    どこに力を入れるべきか、企業によって異なると思いますが、仕組み化することで、実践や定着をより効果的に描くことができるようになるでしょう。

    3.壁を活かす~ライフイベントは、キャリアの制約ではなく好機!~

    最後に「壁を活かす」という発想を共有させてください。

    私は 10 年以上「育休」にかかわる企業・人材支援に関わってきましたが、どこか暗黙のうちに「ライフイベントは、キャリアにとって制約である」と考えてしまう個人や企業が多いように感じます。

    しかし、この 3 つの壁を誰もが越えることができれば、ライフイベントは仕事のやり方をアップデートし、個人にとってはこれからのキャリアを支える機会となり、それは組織にとっても大変望ましい変化につながるのではないでしょうか。

    ライフイベントへの適切な備えや支援が組織レベルで実践されることにより、「私にとってライフイベントはキャリアの好機だった」と言える人が一人でも増えることを願ってやみません。

    最後までお読みいただき、ありがとうございました。

    ▶女性役職者拡大に向けた 戦略的人材育成プログラム育休スクラ

     

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