働く場所が離れても心が離れないテレワークの真髄#2|経営層の立場から取り組むべきこと |HR NOTE

働く場所が離れても心が離れないテレワークの真髄#2|経営層の立場から取り組むべきこと |HR NOTE

働く場所が離れても心が離れないテレワークの真髄#2|経営層の立場から取り組むべきこと

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※本記事は、グロービス経営大学院の「グロービス・ライブラリー」より、語句などを一部修正したものを転載しております。

「長期間にわたるテレワークは、ヒトの心やパフォーマンスにどのような影響をもたらしているのだろうか?」という疑問をきっかけとしてスタートしたこの連載では、「従業員一人ひとりが価値を最大限に発揮し、企業の持続的成長に貢献できるテレワークとは何か」を考えます。

第2回となる今回は、アンケート及びインタビューから分かった『心が離れないテレワークを推進する』ために経営者が取り組むべき点について取り上げます。(前回はこちら

※本連載はグロービス経営大学院に在籍した3名(中山、林、栗原)が、舞田講師の指導の下、研究プロジェクトとして取り組んだ成果をまとめ、この研究結果を広く世の中に還元することを目的としています。

舞田 竜宣 | グロービス経営大学院 教員

東京大学経済学部卒業(学位:経済学士) 世界最大級の組織人事コンサルタント、ヒューイット・アソシエイツの日本代表(社長)を経て、2008年にHRビジネスパートナー社を創業し現在に至る。著書は、「MBB:「思い」のマネジメント実践ハンドブック」(東洋経済新報社)、「行動分析学で社員のやる気を引き出す技術」(日本経済新聞出版社)、「行動分析学マネジメント」(同)、「社員が惚れる会社のつくり方」(日本実業出版社)、「10年後の人事」(日本経団連出版)、「18歳から読む就『勝』本」(C&R研究所)、「24時間の使い方で人生が決まる」(ファーストプレス)、「A&R優秀人材の囲い込み戦略」(東洋経済新報社)、「技術開発部門を活性化させ、創造力を高める『技術人材の開発とマネジメント』」(企業研究会)など多数。

舞田講師 研究プロジェクトメンバー(2021年卒)

中山 智弘
グロービス経営大学院2021年卒業(東京校セクションF所属)。重工業メーカーに新卒で入社し、主に人事・労政部門の業務に従事。現在はグループ会社の人事・総務マネージャーを務める。

林 亨
グロービス経営大学院2021年卒業(東京校セクションF所属)。半導体製造装置メーカーのIT部門に所属。

栗原 章二
グロービス経営大学院2021年卒業(東京校セクションF所属)。BtoBソフトウェアの商社に新卒で入社。データベースエンジニア、人事、カスタマーサクセスを経て、現在はプロダクトマーケティングに従事。

1.「意思決定」と「情報発信」のあり方が大きな影響を与える

今回、長期テレワークにおける課題について調査・研究を進めた所、わかってきたことがあります。

それは、一方的な押しつけに捉えられるような意思決定や、一見無策にみえる経営者からの情報発信を受けると、従業員は疑問や否定的な感情をもつということです。アンケートやインタビューからは、以下のような声があがりました。

  • 会社には長期的な視点でのテレワークについての方針が存在していないのではないか?
  • 経営者は既存概念で物事を考えていて、従業員や現場の声を聞かない、または反映していないのではないだろうか?

これらの点から、「自社の業務がテレワークに適した仕事であるかどうかを十分に検討すること」、その上で「従業員が納得感のある施策を打ち出していくこと」の2点は、現代の経営者にとって非常に重要なのです。

また、上記の2点につながる項目として、特に否定的なフィードバックが多かった事項は以下の通りでした。

  • 仕事の種類に関係なく一律に何割と決めて出社させるような、全社で縛ったテレワーク制度
  • 会社としての方針がない、その場しのぎ的なテレワーク
  • 従業員や現場の声を一切聞かない、反映されないと受け取られるテレワーク制度

つまり、経営者がどのように意思決定を行い、情報発信をしていくのかは、長期テレワークにおいて従業員の心に大きく影響を与えることが分かります。

2.経営上の課題とホラーストーリー 

以下のグラフは、我々が実施したアンケートにおいて会社への帰属意識について確認した結果を示しています。

ここからはテレワークを経て、自身の会社については良い点悪い点を含めて家族や知人に話す機会が増えた一方、転職について考えたり、会社への貢献意欲が下がった人が多くなったりといった様子を見ることが出来ます。

全体的に“ほどほど”に働けば良いと考える人が多くなり、会社への帰属意識が薄れている様子も見ることが出来ました。

テレワークにおけるマネジメントが十分に機能していない職場であっても、短期的には従来築いてきた様々な貯金(信頼関係、人間関係、仕事のやり方の知識、組織文化の理解等)があれば、仕事の方向性や仕事内容に大きなずれが生じることはありません。

しかし、中長期的な視点で考えていくと、特に何らかの施策をとらずにテレワークを続けていれば、従来築いてきた“貯金”がなくなっていく可能性が出てきます。

テレワークにおけるマネジメント上の打ち手を取らない場合に起こりうる、数年先のホラーストーリーとして、ふたつのケースを考えてみましょう。

ストーリー① エンゲージメントの低下に伴う中長期的な企業競争力の低下

エンゲージメントが低下すると、“ほどほどで働けば良い”という従業員が増加する可能性が高まります。

“ほどほど”の働き方をする従業員が増えた結果、会社全体としての仕事のクオリティや、効率、スピードなどが下がっていく可能性が出てきます。

そうした中で急速な市場環境の変化などにより、会社として大きな方向転換が必要となった場合は、従業員が変化への対応についていけない、または全社一丸となっての取り組みに対しての足並みが揃わなくなる可能性が出てきます。

すると、会社が世の中の変化についていくことが難しくなっていきます。

ストーリー② 短期的成果の追求による中長期的な企業競争力の低下

リモートでの働き方はプロセスが見えにくい一面があります。そこで従業員は可視化のしやすさから、評価されやすい短期的な結果を追い求めていく場合があります。

多くの従業員が、長期的な成果よりも短期的な成果を追い求めていくと、目に見えにくい改善活動や長期的な取り組みが必要とされる業務がおろそかになっていくかもしれません。

また、中長期的には、徐々に企業競争力が落ちていく可能性があります。

3.ビジネスモデルや仕事の仕方を変える心持ち、従業員への信頼が不可欠!

では、これらのホラーストーリーを回避するため、経営者に必要とされることはいったい何でしょうか?

単純に世の中の流れに従ったテレワーク施策をおこなうだけで良いのでしょうか?実は、それでは従業員側からの信頼を得ることが出来ません。

経営者は、自らの腹を据え、ぶれない心持ちで本気でテレワークを活用した施策を立てていくことが必要なのではないでしょうか。

何があってもぶれずにやっていくという心持ちから発せられたメッセージは、メッセージを受け取る従業員側にも、経営者からの確かなメッセージとして伝わり、意思決定そのものとそこから発される情報にまつわる本気度が伝播していきます。

長期テレワークの状況下で、従業員側が会社に対して真の意味で納得感をもつためには、『経営者側がどれほど本気で取り組んでいるのか的確に伝えること』、『テレワークを従業員の働き方をよりよくするための戦略として本気で取り組んでいることを伝えていくこと』が重要です。

今回、テレワークが与える影響についてのアンケート調査以外に、多くの方にインタビューをおこないました。

上記のような本気度の伝わり方という観点から注目すべき点として、長期テレワークにおいても満足度が高い、あるいは低い従業員からはそれぞれ、以下のような声が得られました。

テレワークをおこなっている会社の中で満足度が高かった人達からの声 

  • グローバル全体でアメリカ本社からテレワークについてのルールと会社としてやるべきことを発信している。
    また、会社としてもテレワークのサポートに対して、しっかりとお金をかけている。会社から5万円の補助金が出てテレワークに必要な備品(ディスプレイ、椅子等)を購入することが出来た。
    オフィスのフロアも半減して、その時に椅子やデスクを無償(送料込み)で渡す仕組みもあった。(外資系企業の事例)
  • リアルでの営業活動ができない分、テレワークを前提として業務や組織の設計をおこなっている。
    会社側が率先して、他の地域や他の部署とのコミュニケーション機会を増やそうとしている。
    ジェンダーや人種など多様性を広める機会をプロジェクトチームが主導しておこなっている。
    社内で困ったときに相談できる人を増やそうとしている。
  • 現場従業員に、どのように働くか、そして何のために働くのかについて自分達で考えさせることによって、セルフマネジメントの文化を醸成するようにしている。
  • 経営層からテレワークの方針について明確に情報を発信している。
    細かい内容は各現場の状況に合わせて権限移譲されていた。

満足度が高かった人たちの声からは、会社側が率先してテレワークを実施していくための環境を整備すると共に、テレワーク実施の指針を発信していることを見てとることが出来ます。

テレワークを行っている会社の中で満足度が低かった人達からの声

  • 会社として全くテレワークに対する方針が無い中でスタートした。そのため、IT環境(ノートPCも無い)も整っておらずルールもあいまいだった。
  • 従業員を信用していないと感じ、経営層に対して不信感を感じる。経営層が本気でやっていないのではないかと感じる(悪しき経営層の思いが目に見えるようになった。本当に人を大事にしているのだろうか?)
  • 会社としての体裁を保つため、誰がみても一時しのぎ的なテレワークの推進をおこなった。

反対に満足度が低かった人の声からは、経営者が一時しのぎ的にしかテレワークを実施していない、または、従業員側を信頼しないことにより、従業員側が経営者側に対しての不信感を募らせてしまう様子を見て取ることが出来ます。

4.帰属意識を高めるべく、思い切って舵を切る

それでは、経営者の立場としては、どのような具体的な打ち手があるでしょうか?ここでは以下にいくつかの打ち手をあげていきます。

組織の自律的な行動を促す

職場(職種)ごとの事情を考慮し、全社ルールで縛らずに職場のマネジャー(ミドルマネジャー)に働き方を委任していきます。

オフィスで行う仕事を各職場で考えさせることにより、組織の自律的な行動を促すようなメッセージになります。

戦略的なテレワークの推進

テレワークを一過性のものと捉えず、新たな働き方として捉えて、戦略的にテレワークを推進していく姿勢を明確に打ち出していきます。

これには、オフィススペースとレイアウトの見直しも含まれ、オフィススペースを縮小していく代わりに、従業員にテレワーク業務に必要な机・椅子・モニター等の備品を提供したり、一部の業務に必要とされる費用を補助したりすることも会社としてのテレワークの方針が従業員に伝わり、効果的な打ち手です。

また、オフィスワークの意図を明確にしていきます。テレワークとオフィスワークそれぞれのメリットとデメリットを明確に従業員に伝え、シチュエーションや状況に応じてオフィスワークにも意味をもたせていきます。

普段はテレワークをしている人もオフィスでの作業が効率的な場合に活用できる場としてのオフィスワーク環境を作ることにより、バランス感の良い施策を打ち出していくことが出来ます。

従業員への信頼を前提とした新しい働き方への変革

「従業員はサボるもの」という性悪説的な考え方をなくして、信頼を前提とした性善説的な考え方を持っていきます。

経営者側が、施策を通して方向性をしっかりと出していくことにより、従業員は自分達が信頼されているという感覚を得て、結果としてエンゲージメントの向上、そしてエンゲージメントの向上に伴う会社全体のパフォーマンスの向上という結果に結びついていきます。

アンケートの結果からは、大手外資系企業の多くから、経営層が積極的にテレワークを推進して、更に従業員からの声を大事にしている姿勢を示している傾向がみられました。

そのような姿勢を示している会社においては、従業員の会社に対する帰属意識が高い傾向が見受けられました。

 

コロナによって人々の仕事の仕方は一気に変わりました。

その点から 「コロナは時代を加速させた」と捉えることができます。従来であれば十数年以上かけて変わったであろう仕事のありさまが大きく変わったのです。

経営者がテレワークをより効果的に活用する方向に舵を切るためには、相当の覚悟が必要になります。従来の価値観を一度捨て去り、新たな価値観を受け入れていくことが必要な時代になってきたのかもしれません。

次回は、マネジャー(ミドルマネジャー)の立場から長期テレワークに対してどう対応すべきかを説明していきます。

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