リモートワークを実施する中で、「社員の表情が読み取りにくい」「相手の気持ちが汲み取れない」「上手く伝わっているか不安」といった声を聞くことも多くなりました。
このような課題に対して、社員が自然体の自分をさらけ出すことのできる組織環境を作り、チームに「心理的安全性」を生み出すことのできるマネジメントが求められています。
今回のHR-Studyでは、心理的安全性に関する正しい理解や、心理的安全性が高い職場を作るための具体的な施策について各社のリーダーに語っていただきました。
- チームで気兼ねなく自由に発言したり行動したりできる雰囲気を作りたい。
- リモートワーク下におけるマネジメント方法を知りたい。
- 心理的安全性が高いチームを作りたい。
- 心理的安全性を確保するリーダーが理解すべきこと・身に着けるべきスキルを知りたい。
といった人事担当者や経営者、マネージャー層の皆様は、ぜひ参考にしていただければと思います。
※本記事は、2021年4月26日(月)13:00~14:30に実施されたイベント内容をもとに再編成したものです。
登壇者紹介
石井 遼介|株式会社ZENTech取締役
株式会社ZENTech取締役。一般社団法人日本認知科学研究所理事。慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科研究員。東京大学工学部卒。シンガポール国立大経営学修士(MBA)。神戸市出身。研究者、データサイエンティスト、プロジェクトマネジャー。組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究し、アカデミアの知見とビジネス現場の橋渡しを行う。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発すると共に、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進。2017年より日本オリンピック委員会より委嘱され、オリンピック医・科学スタッフも務める。2020年9月に上梓した著書『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)は現在14刷・7万部突破のヒットとなり、読者が選ぶビジネス書グランプリ「マネジメント部門賞」を受賞。
坪井 一樹|株式会社ディー・エヌ・エー ゲーム事業本部 組織開発部 HRビジネスパートナー
組織人事コンサルティングファームやIT系ベンチャー企業での勤務を経て、前職ではHRBP機能の立ち上げを経験。社員数と売上が3倍に成長した事業の戦略人事として組織開発・人材開発に従事。2018年にDeNAへ入社後は、ゲーム事業のHRBPを担当しながらHRBPに関する社外発信やイベント開催もフルスイング。個人活動ではマネジメントの進化を探求するnote「マネプロ」を連載中。
柳川 小春|Fringe81株式会社 COO室マーケティング戦略室室長
一橋大学経済学部を卒業後、Fringe81株式会社に新卒で入社。新規事業開発本部に配属されUniposの立ち上げ時のPRやカスタマーサポート、マーケティングを担当。2020年よりUnipos株式会社マーケティング執行役員に就任。2020年10月より現職。心理的安全なチームづくりを実践中。
モデレーター
西村 創一朗|株式会社HARES CEO/複業研究家/HRマーケター
新卒でリクルートキャリアに入社後、法人営業・新規事業開発・中途採用などを歴任。在職中の2015年に「二兎を追って二兎を得られる世の中を創る」をミッションに株式会社HARES(ヘアーズ)を創業後、2017年に独立。今回のテーマである「オンボーディング」を含め採用・人事領域を中心に多数の企業のアドバイザーを務めるほか、人事系イベントのモデレーター/ファシリテーターとしても活躍。著書に『複業の教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)がある。
[勉強会の内容をまとめたスケッチノート]
目次
LT1. 「心理的安全性=ヌルいチーム作り」ではない|ZENTech石井さん
ZENTechの石井です。
私自身の現場で苦労してきたマネジメントの経験や、『心理的安全性のつくりかた』という書籍のエッセンスも踏まえて、本日はお話できればと思います。
心理的安全性は、チームに「学び」をもたらす先行投資
心理的安全性とは、「地位や経験に関わらず、誰もが率直な意見や素朴な疑問を言うことができる組織・チーム」です。
学会でも、心理的安全性を高めることで、組織・チームの業績に貢献するという数々の証拠が報告されています。
心理的安全性が高いチームは“学習するチーム”になるため、未来のパフォーマンスの先行指標だと考えることができます。
「心理的安全性はGoogleの研究」だとご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、実は20年前のハーバード大学のエドモンドソン教授の研究が基になっています。
Googleが自分たちの組織でも「検証した」と言う表現がフェアな表現でしょうか。
心理的安全性がなければ、メンバーは意見を言うことができない
ここで、心理的安全性について深く捉えるために、「心理的非安全な組織」について考えてみましょう。
たとえば、上長に「このような課題を発見しました!」と、報告したにも関わらず、「じゃ、やっといてよ」と被せ気味で返答されたらどうでしょうか。褒められも、評価されもせず、です。
また、チームのために良かれと思って取った行動が賞賛されず、新しいアイデアはすぐに否定されてしまう。
新しいことに挑戦しても、失敗したら「誰のせい?」と犯人捜しをされてしまう。
このような状態では、メンバーは自分の身を守るために、新しいアイデアを話してくれないようになってしまいます。
もう1つ例を見ていきましょう。
とある新人に、大ベテランの先輩が「この道を急いで行きなさい」と指示したとします。
しかし、新人がその道を進もうとすると、先に大きな穴が開いているのが見えます。
「危ないのではないか」「この道を行かない方が良いのではないか」と悩みますが、心理的非安全なチームでは、新人が大ベテランの先輩に何も言うことができず、そのまま突き進んで穴に落ちてしまいます。
さらに、それを見た先輩は「なんで言ってくれないのか?」「どうして危ないと気付いた時に報告しないのか?」と言ってしまうのです。
これが、多くの会社で起きている、心理的非安全な環境となります。
この例のように、皆さんも「上司に意見を言いたくても言えなかった」場面があるかと思います。
【ウェビナー当日に集まった視聴者の声】
- 先輩がここ3日間ほど忙しそうで、質問することができない
- 話を途中で被せてくる
- Zoomで自分以外ミュートになっていて不安だった
- 有給休暇の申請をしようと思ったが、上司が機嫌が悪そうだったので話しかけるのをやめた
- PCを見ながら話していて、顔を向けてくれない
もし心理的安全性が確保されていれば、メンバーは「この先に深い穴が見えるのですが、進んでも大丈夫ですか?」という質問をしてくれるでしょう。
このように、心理的安全性が高く、チームの誰もが率直な意見・素直な疑問を伝えられる環境を作ることは、本当は回避できるハズの落とし穴を避ける上でも、とても重要です。
心理的安全性を作るために必要な4つの因子
心理的安全性を作るために、フォーカスすべき4つの因子があります。
「①話しやすさ」「②助け合い」「③挑戦」「④新奇歓迎」の4つです。
まずは、自分の所属している組織に、この4つの因子を物差しのように当ててみてください。
たとえば、「私のチームは話しやすさは抜群だけど、助け合いは足りないんだよね」といったように、チームの特性が分析できると思います。
意見を言っても、助けを求めても、挑戦してみても、個性を発揮しても安全なのが心理的安全性のあるチームです。
私たちは、SAFETY ZONE®という心理的安全性を可視化・計測する組織診断サーベイで、多くの日本の組織・チームを測っていますが、上図のように、「イノベーション」とチーム名に入っているにも関わらず、挑戦が少ない組織もあります。
このように、ぜひこの4つの因子を物差しとして、自分のチームに何が足りないのか、どこを伸ばしていけばいいのか、確認してみると良いと思います。
心理的安全性は、決して“ヌルいチーム”を作るものではない
心理的安全性についてよくある誤解は、「心理的安全性=ヌルいチーム作り」と考えられてしまう点です。
しかし、以下の図のように、ヌルい職場とは「心理的安全性が高く、仕事の基準が低い職場」となります。
日本の組織は右下の、心理的安全性が低くて仕事の基準が高い「キツい職場」が多いと感じています。
ということは、この基準は維持したまま心理的安全性を上げるだけで、右上の学習する職場を目指すことができます。
誰もが挑戦することのできる職場こそ心理的安全性があります。「それ、おかしくないですか」「私は、こうした方がいいと思います」というような率直な意見や素朴な疑問を、チームの誰もが伝えられる環境を作っていく。よりよいマネジメント、よりよいチームづくりのためにも、いまこそ心理的安全性な組織風土変革が重要です。
LT2. 心理的安全性を高めるチームビルディングの実践事例|DeNA坪井さん
DeNAでHRビジネスパートナーをしている坪井と申します。
弊社でのHRビジネスパートナーとは、「戦略人事を実践するHRゼネラリスト」と定義づけています。
具体的には、事業・組織のリーダーとともに、事業の成功のためにどのような組織の課題を解決するのか議論しながら、課題解決に向けて並走していく仕事をしています。
今日は、HRビジネスパートナーの立場として、心理的安全性を高めたチームビルディングの実践事例をお話できたらと思います。
「良いチーム」は心理的安全性と成果意識が高い
はじめに、心理的安全性が高い「良いチーム」は、どんなチームだと思いますか?
先程、石井さんから説明があったように、ただ心理的安全性が高いだけでは“ぬるい職場”になってしまい、「良いチーム」ではありません。
私にとっての良いチームとは、「パフォーマンスを出すために機能しているチーム」ではないかと考えています。
心理的安全性と同時にパフォーマンスという成果にもフォーカスできているかが大事なポイントです。
しかし、リモートワークをする中において心理的安全性を担保するのは難易度が上がっており、良いチームを作ることも工夫が求められるようになりました。
弊社も、緊急事態宣言になってから社員の90%以上がリモートワークをしています。
そのため、これまでのようなコミュニケーションができなくってしまった壁をどのように乗り越えていくかは大きなテーマとなっています。
「MXシェア会(Management experience Sharing session)」とは
そこで本日は、昨年から開始した「MXシェア会」という独自の取り組みを通して、チームビルディングをおこなった事例をご紹介したいと思います。
「MXシェア会」は、DeNAで新しく統合されて生まれた6つの部署のマネージャー約20名が、組織におけるマネジメント強化を目的として一同に集まる場です。
新しく統合された組織では、Director(部長)とGL(課長)を兼務する人や新任GLも多く、マネージャー陣の経験値を最大化して組織の強化を図る必要がありました。
MXシェア会の設計では、「議論や対話によってマネジメントの強化を促す」という観点で、マネジャー同士がお互いの経験や視点から学び合えることをポイントに企画しました。
MXシェア会の構成は、主に次の4つです。
「MXシェア会」の運営で大事にしたポイント
議論や対話をする上で、役職・年齢・経験など関係なく自分の考えをフラットに話し合えるように、「学びに失敗はつきもの=Fail Safe」のスタンスを大事にしていて、MXシェア会の冒頭でも参加者全員にメッセージとして伝えていました。
また、1回きりの開催だと「研修」になってしまうため、実際の運営では「MXシェア会を継続的におこなう」ことを前提に開催することも大事にしていましたね。
MXシェア会の内容に関して、1回目は「キャリア」というテーマで5時間という長い時間を使ってお互いが自分自身をさらけ出す機会を作りました。
お互いに自己開示をすることはマネージャー間の心理的安全性を高めるのに効果的だからです。
そして、2回目~6回目は各回3時間で、何について対話するのが良いかを話し合って決めていました。
戦略や組織デザインなどのテーマを扱い、最後の7回目は「今期の振り返りと来期の所信表明」で締めくくりました。
結果として9か月で計7回、合計の開催時間は24時間となりました。
MXシェア会を実施した結果
このような運営を続けた結果、マネージャー20名ほどの組織における縦横のつながりができたと実感しています。
嬉しいことにマネージャー陣からは、以下のような声があがってきました。
- Fail Safeな環境で、切磋琢磨することができた
- マネージャー同士の横連携度はこれまで経験してきた組織の中で最高レベルだった
- 統括部全体の組織のコンディションは、類を見ないスピードで改善された
組織にとってポジティブな結果となり、リモートワークになってから新しく立ち上がった組織においてもチームビルディングを工夫すれば良いチームができるのだと私自身も学びにつながりました。
これからはマネジメントの知識や経験を持った人事が、チームづくりの場でファシリテーションをする機会が増えると思っています。
マネジメントの参考になる情報や話題について個人的にnoteで発信をしているので、よろしければ参考にしてみてください。
【坪井さんのnote マネプロ】
https://note.com/kazuki_tsuboi/n/ne1382ce7e598
LT3. 半径5メートルから心理的安全性を高める魔法の問い|柳川さん
Fringe81株式会社の柳川です。
石井さんからは理論としての心理的安全性の解説を、坪井さんからは人事目線での心理的安全性のお話を伺うことができました。
私からは、12名ほどのチームを抱えてマネジメントをしている立場から、心理的安全性への取り組みについてお話できればと思っています。
心理的安全性に関して困っていることは?
まず、皆さんに質問です。
心理的安全性に関して、ご自身のチームで一番困っていることは何でしょうか。
【心理的安全性で困っていること|視聴者から集まったコメント】
- お互いの課題点を指摘すると空気が悪くなってしまう
- 情報共有(と質問の機会)が全くない
- 新しく入社する方をどのように受け入れていくか
- 社長が自分の意見が正解前提でコミュニケーションをとってくる
- 意見や提案に対して「どのようにしたらできるのか」という話にならない
- 職場に感謝の声が無い
- トップが動かない
では、もう1つ重ねてご質問です。
皆さんからいただいたコメントを、さらに悪化させるなら何をしますか?
【更に悪化させるために何をするか?|視聴者から集まったコメント】
- 発言しろと言う
- 説教する
- 視線を合わせない
- ダメだしをする
- 無視する
- 任せるよ、といいつつ横から口を挟む
皆さん、ご自身の回答や、悪化させる行動をご覧になってどう感じたでしょうか。
<メンバーAさんの場合>なぜ議論で発言しなくなってしまったのか?
続いて、私がマネジメントしていたメンバーAさんに関する1つエピソードを交えながら、心理的安全性について一緒に深掘りしていきたいと思います。
Aさんは、議論をしていると突然発言しなくなってしまうことがあり、意見が無いから発言しないのか、そうではない理由があるのか、私は気になっていました。
しかし、先ほど集まった皆さんの心理的安全性に関する困りごとに照らし合わせると、「Aさんに意見がない」のではなく、「Aさんが発言しなくなる問題の一部に自分が関与しているのではないか?」ということに気が付きます。
実際に、Aさんにお聞きしたところ、「意見をしても先輩からすぐに『こういうリスクは考えたのか?』という突っ込みが入るため、経験のある先輩に任せて自分は引いたほうが良いと感じた」という回答が返ってきました。
このように「この観点は考えた?」とリスクに関する指摘から議論を始めてしまうことは、ついやりがちなアプローチ方法ですが、「意見を言うのはもういいや」という気持ちを生んでしまう可能性があります。
たしかに、意見に対する指摘は一時的なアウトプットの質の向上に繋がるかもしれませんが、リスクを並べて追求しすぎてしまうことで、メンバーが意見しづらくなっては元も子もありません。
チームメンバーが意見をしてくれた場合にリスクが思い浮かんだとしても、ぐっとこらえ、まずは「意見を伝えてくれてありがとう」と感謝の言葉を伝えることが大事です。
その上で、メンバーが考えに至った思考プロセスを丁寧に聞き出すようにしましょう。
心理的柔軟性を高めることが心理的安全性の土台作りに繋がる
そして、今回のAさんの話でお伝えしたいのは、私たち1人ひとりが状況に応じて適切な行動が取れる心理的柔軟性の存在が、心理的安全性を高める土台となるということです。
心理的柔軟性が高まると、組織やチームが困難にぶつかったとき、行動の選択肢が広がります。
今回の場合では、品質を追求する前に「まず行動自体に感謝する」「思考のプロセスに耳を傾ける」といったように、行動の幅が広がりますよね。
初めに皆さんに投げかけた「心理的安全性に関して困っていることをさらに悪化させるなら、皆さんは何をしますか」という質問は、反転の問いです。
反転の問いは、私たち自身の心理的柔軟性を高めて、心理的安全性を高める「行動の選択肢」を発見することにつながります。
ぜひ、反転の問いで得た行動の選択肢をチームに持ち帰り、心理的安全性の向上にお役立てください。
パネルトーク/視聴者からのQ&A
ここからは、視聴者の皆さんに投票で選んでいただいて、投票数が多かった質問に対してパネルトークを進めていきたいと思います。
Q.心理的安全性を高めていくために設けているNG項目とは?
お互いの感じていること、考えていることを否定しないことです。
相手の考えに「正しい・間違っている」は無く、相手の「感情や考え方」を事実として理解できるかどうか。
相手の意見を否定せず、まずは受け止めたうえでフィードバックをしたり、自分の考えを伝えることが大切です。
日常の中で相手を否定しているマネージャーを目にしたとき、どのようなアクションを取られますか?
少し斜めの回答ではありますが、「否定するマネージャー」というキャラクターを立ててしまうのはどうでしょうか。
たとえば、「お、〇〇さん、また煽っていますね?(笑)」といったような形で、相手に煽りキャラを立てながら、上手く場をマイルドな雰囲気にするアクションですね。
また、その場とは違うシーンで本人にフィードバックするのも良いかと思います。
「あのときの言い方だと、ちょっと圧が強かったですよ」といったように、1on1の時に個別フォローすることはありますね。
シリアスなシーンに笑いを持ち込むのは、心理的安全性を高める上でとても効果的だと思います。
これに加えて、私のチームでは「『クレームが起きた』『体調を崩した』といったネガティブなことをすぐに言わないのはNG」というルールを設けています。
ただし、先輩が忙しそうにしていたら、ネガティブな報告をしたくても話しかけづらいのも事実です。
なので、毎朝「ぴえん玉コーナー」という会を実施して、ネガティブ情報を「ぴえん玉」としてシェアするようにしています。
坪井さんのお話にもあったように、少し表現を柔らかくして、ネガティブなことも吐き出しやすい環境づくりを心掛けています。
私のチームでも「ぴえんコーナー」というチャットツールのチャンネルがあります(笑)。
他にも、雑談をするためのチャンネルである「That’s談」など、遊び心のあるチャンネル名を付けたりしています。
「#general」のチャンネル名よりも自己開示がしやすくなると思いますし、取り組みやすい手法ではないでしょうか。
石井さんは、心理的安全性を高めるためのNG項目は何か設けていますか?
「問題が起きた時に、個人のせいにするのはやめる」ということです。
トラブルが起きたのは「仕組み・配置」の問題であることも多く、その人を責めても意味がありません。
意見同士をぶつけ合うのではなくて、問題に対してどう解決や再発防止を図るのか。そこにフォーカスして頂くように伝えています。
Q.心理的安全性に関する失敗事例はあるか?
続いての質問は、失敗談についてですが、柳川さんいかがですか?
心理的安全性を高めるためのワークショップを開催した時に、うまく進行しようと必死になって各チームに顔を出して回っていたら、とあるメンバーから「授業みたいでしらけるわ」と言われてしまいました(笑)。
主催する側と受ける側という関係性ができてしまったことで、メンバーの主体性を奪ってしまい逆効果でした。
話に火をつけるまでは主催側で頑張り、そのあとは全て任せるというさじ加減が大事ですよね。
ただ、お話を聞いて「しらける」と言ってもらえるだけの関係性を構築できていることが素晴らしいと思いました。
心理的安全性が低ければ、裏で陰口を言われて終わりになってしまいますよね。
私は、ワークショップやディスカッションをする前に「心理的安全性を高めるようなやり取りをしておけば良かった」と思ったことがあります。
分かりやすくいうと、「飲み会をして打ち解けてから話し合いの場を設けた方がもっとナチュラルに進められたのかな…」と思うことは多々あります。
事前に自己開示をして、お互いの歯車が合うかどうか知っておくことで、議論が円滑に進むことは多いです。
現在、なかなか飲み会などでコミュニケーションを取ることができない中で、オンラインでどのように関係性を構築していますか?
感情や価値観を伝え合うことができれば関係構築は飲み会でなくてもできるので、感情を伝えられる対話の時間を設けるのが良いと思っています。
たとえば、MXシェア会では、最後に「皆さんどうでしたか?」とアンケートを取り、その場で感じたことを聞いてシェアし合っています。そのような時間を積み重ねていくことで各個人が感情をさらけ出せる場だと認識し、心理的安全性の高いFail Safeな空気感を作ることができるのだと思います。
この他にも、ファシリテータが積極的に自らの感情をさらけ出して話したり、「ここの観点は詳しく書いてほしい」と具体的にリクエストして相手の考えを引き出したりすることも大事でしょう。
Q. 心理的安全性を高めるための第一歩は?
次のテーマに移ります。
今日から心理的安全性を高めるための第一歩として、どんなことに取り組んだら良いかアドバイスいただけますか?
「心理的安全性を高めること」を目的にしない方が良いのではないかと思います。
事業ではパフォーマンスを出すのが大事であって、いちばん揺るがない目標ですよね。
前提として、心理的安全性を高めるためにやるのではなく、会社で良い成果を出す過程の中で心理的安全性を高める、というスタンスで第一歩を取り組むべきだと思っています。
まずは心理的安全性というキーワードに引っかかった出来事を観察するところから始めると良いと思います。
坪井さんがおっしゃっているように、心理的安全性を高めることが目的ではありません。
従業員のパフォーマンスを高めることを妨げる事象がなぜ起こっているのか、じっと観察することで糸口が見えると思います。
Q. 部下のパフォーマンスが低い、また改善が見込まれない場合はどのように対応すべきか?
まずば、「あなたには、ここまでやってほしいと思っている」と相手に期待し、仕事を任せるのが大事だと思います。
その上で、心理的安全性を高めるためには、行動の「量」と「質」について整理して考えるのが有効です。
仕事の「質」が低い場合でも、まずは、「やってくれてありがとう」と「量」、つまり望ましいカテゴリの行動が起きていることを認めた上で、次は「こうやるともっと良い」と指導をして、質を上げていきます。
単に厳しい叱責をすることが、相手の仕事のクオリティを上げることはありません。厳しい叱責は、むしろ行動量を減らしてしまいます。質を上げたいなら、必要なのは冷静に質を高めるための指導やフォーマット、あるいはアイデアや施策・戦略を伝えることが重要でしょう。
Q. 転職したばかりで心の開示ができなくなっている人にどう接すれば良いか?
心の開示は、強要はできるものではありませんので、無理に本音を出してもらうのではなく、サポートをしながらその人らしさが現れてくるのを待つのが良いと思います。
実際に私のチームにもそういった方がいました。
過去の職場で何か発言すると必ず否定をされ続けていた方だったのですが、1o1で少しずつ歩み寄りながら「発言したら、何かしら良いことが起きる」とわかるようにレスポンススピードを高めて密なコミュニケーションを取った結果、今ではそのメンバーが何でも1番話してくれるようになりました。
まずは「話してもいいんだ」という小さな成功体験の積み重ねをつくるのが効果的だと思っています。
Q. 心理的安全性について上司に伝えたいが、どのように伝えるのが効果的か?
アプローチ方法としては、3つの選択肢があると思っています。
1つ目は、人事部門等の巻き込みが必要ですが、上司のさらに上司である役員や、外部の講師など、現場の組織やチームの外側から伝えてもらうことです。
私たちも上場企業の役員研修などを実施させて頂くことがありますが、トップから心理的安全性を目指すという方針が出ることで、内部メンバーから話すより伝わりやすい場合があります。
2つ目は、真正面から相談しに行くことです。
「なんとか今いるメンバー、限られたリソースの中でパフォーマンスを上げるためにも、心理的安全性を高めると良いと聴いてきたのですが、このチームでも心理的安全性で成果の出るチームづくりのため、課長のお力を貸してくれませんか?」のように頼ることで、動いてくれる可能性は高まります。
3つ目は、いちメンバーであったとしても、心理的安全性に関して自分のチーム・自分の身の回りから取り組んでいくことです。少なくとも、同僚や後輩に対して、心理的安全性が確保され、意見を言いやすい状況をつくる。その姿を上司が見ることや、パフォーマンスが上がった理由を聴かれた際に「心理的安全性という考え方がありまして…」とお話することで、上司側から興味を持ってもらうようにしていきます。
また、普段は全く動いてくれないような怖い相手でも、「先ほどの課長の会議の中でお話を振ってくださったの、話を切り出しやすく、大変助かりました。ありがとうございました。」のようにお礼を言いに行くことで、上司側も「こういったマネジメントが良いのか」と気づきやすいものです。
つまり、あなたが心理的安全性を感じられる上司の行動に対して部下からお礼やフィードバックを伝えることで、上司も良いマネジメントを学ぶ機会になるわけです。
ぜひ試してみてください。