「テクノロジーの解放で世の中を変えていく」を理念に、セキュリティサービスの「HENNGE One」など、独自のサービスを開発・提供しているHENNGE株式会社。
社内を見渡すと、エンジニアの半数以上が外国籍となっており、多様な価値観が混在しています。そんな同社の多様性を支えているのが、ユニークな制度たちになります。
本記事では、HENNGEのカルチャーや制度について深堀りしてご紹介。人事としての運用ポリシーや、制度が生みだされる背景、それが組織にどのような影響を与えているのか。
People Division 担当執行役員の髙須氏にお話を伺いました。
【人物紹介】髙須 俊宏 | HENNGE株式会社 People Division 担当執行役員
目次
HENNGEのカルチャーを支える「多様な価値観」を持つ社員
ー本日はよろしくお願いします。HENNGEは多様な価値観をもった人材が多くいる会社だと思いますが、髙須さんは自社の組織カルチャーをどのようなものだと感じていますか。
髙須さん:HENNGEは「ボトムアップ」「多様性」というワードがあてはまる会社だと感じています。
挑戦、失敗をみんなが恐れずに繰り返しやっていける環境で、それがボトムアップで能動的にできています。役職に関わらず「自分で自分をリードしていく」という意識が強いですね。
また、エンジニアの半数以上が外国籍ということもあり、多様な価値観に溢れていて、全員がそれを尊重しています。
髙須さん:もともとダイバーシティを掲げていたわけではありません。
諸般の事情で社内でも外国籍の人材が必要となり、そこから社内公用語を英語にして多国籍化していったのです。そうした結果、多様な価値観が増えていくわけです。
「上司に駄目って言われてもやる」「周りを気にすることなく自分のペースを大事にする」「仕事中にいきなりお祈りをする」など、いろんな国からいろんな人材が来て、いろんな価値観が生まれて、一人ひとりのコミュニケーションスタイルが全然違うんです。
そうなると、同質化する力もどんどん弱まっていって、「人と違うことをやるのが当たり前だよね」と空気を読まずに思ったことを発言したり行動したり、そのあたりのハードルがすごく下がってきたんです。
次第に社内の雰囲気も変わってきて、「失敗してもいいんだ」「挑戦してもいいんだ」といった心理的ハードルが一気に下がっていったんです。
個々人が主体的に動くようになり、ボトムアップで物事が進むようになり、組織の動き方が大きく変わっていきました。「多様性の力ってすごいな」と思いましたね。
髙須さん:HENNGEは1996年創業の会社ですが、その歴史の中では浮き沈みもあって、うまくいかなかったときの学びとしては、市場の変化にスピーディに適応できなかったことがあります。
それを二度と繰り返さないためにも、多様な価値観のもと、ボトムアップで主体的に動けるカルチャーができたことは非常に大きな部分です。
もともとは「そのようなカルチャーにしたい」という想いがあったわけではなく、「どんなカルチャーがHENNGEには必要なのか」という、時代の変化にあわせて模索し続けた結果、今の形に至っています。
長期でサバイブして成長し続けていくという観点で、カルチャーが最適化されてきた。それが実態だと思っています。
HENNGEの多様性を支える多くの制度とは?
ーそのようなカルチャーを支えているHENNGEの制度や施策についても伺っていければと思います。
髙須さん:まず、ご紹介したいのは、昇格・昇給制度の仕組みです。
HENNGEの昇格・昇給は自己申告制
髙須さん:一般的には「階級」「グレード」といったものがあると思いますが、HENNGEでは「ベルト」と呼ばれるものがあります。
柔道の帯をイメージしてもらうとわかりやすいのですが、白帯からはじまって、グリーン、ブラウン、ブラック、ゴールド、プラチナと色が変わっていき、それぞれに能力要件が定められています。
では、どのようにすれば色が変わっていくのか?
たとえば、僕が今グリーンベルトを保有しているとします。次はブラウンベルトを目指したいのですが、その際は基本的には自己申請になります。
マネージャーから声がかかるのではなくて、自分から申請していくことがポイントですね。
「自分は次のベルトの要件を満たす実績が十分ある」と思ったら、もうその瞬間に「次のベルトについて相談したいです」と申請をあげることができるんですね。
次に、審査会が開かれるのですが、直上のマネージャーをはじめ、先輩社員が呼ばれて、合計5人のメンバーに対してプレゼンをしてもらいます。
参加メンバー5人はプレゼンを聞いて、要件を満たしているか意見を出します。最終的には、直属の執行役員がその意見を参考にしつつ、ベルトが変わるか判断します。
このような運用になるのですが、自分で動いて自分で獲得していくあたりがHENNGEらしいなと感じています。
業務時間の20%が使える「インスパイア祭り」
髙須さん:今年で5年目になるのですが、インスパイア祭りというプログラムも毎年運営しています。
これは、新しいビジネスの種を見つける目的の新規事業コンテストです。
社内のメンバーは誰でも参加できるのですが、特徴的なのは、業務時間の20%をインスパイア祭りに使うことができるんです。
ーそれはすごいですね。でも、インスパイア祭りの準備に業務時間の20%を当てるとなると、本業の生産性が下がってしまうのではないでしょうか…?
髙須さん:そうですね。もちろん実際に会社としては、本業を伸ばす余地はまだまだあるので、そこにリソースを注力していきたい想いはあります。
開発チームもプロダクト開発しないといけないのに、その20%を取られるってなると大ごとじゃないですか。
事業における短期的なゴールと長期的なゴールを両立させていきたい、その間に生じるジレンマはたしかにあります。
ですが、「20%の工数取られるけど、それで仕事が進まなかったらどうするの?」みたいなコミュニケーションでなく、「どうなるかわからないけど、まずはやってみよう」と、まかり通るのがHENNGEらしさなんです。
HENNGEでは、会社運営をしていく上で必要な最低限の責任や裁量を定義していますが、そこまで明確に責任追及型でのオペレーションをしていません。
責任のスコープを明確に決めてしまったり、「責任を取らなければいけない」というモチベーションで物事を進めていったりすると、責任のスコープにこだわって自分の仕事にだけしか目がいかず、偶発的なアイデアが生まれにくくなります。
髙須さん:また面白いのは、この20%ルールはトップダウンではなく、インスパイア祭りの運営が各部署に「20%の稼働を取ってもいいですか?」と交渉して勝ち取ってできあがっていることです。
これもまたボトムアップでできあがった仕組みでして、運営が1人ひとりの部門長と話をし、膝を突き合わせて口説いていくわけです。
実際に、2022年4月には、インスパイア祭りから 「HENNGE Connect」というプロダクトが ローンチしています。現場で感じていたニーズをこのイベントを好機に提案し、見事実装するに至っています。
新入社員配属における「逆指名制度」
ー昇格制度もインスパイア祭りも、ボトムアップで推進されているのですね。
髙須さん:また、ボトムアップ文脈でいくと、「逆指名配属」というものもあります。
これは、新入社員の配属において、各部署を回ったうえで自分の配属されたい部署を自分で申請することができるものです。
自らの意思に合う部署を選択できることで、ミスマッチを避け、納得した形でファーストキャリアをスタートすることができます。
今までお伝えしてきた流れでいくと、会社の意向だけで配属を決めるのは、カルチャーに合わないわけじゃないですか。そもそもそんなことはしたくないですし、本人に熱意がないとパフォーマンスも上がりません。
ただ、本人の意思を優先して考慮しますが、その「意思の中身」はしっかりと見ます。ただぼんやり「挑戦したい」だけでは成立しません。
つまり、「この部署に行きたいです」と言われたから「はいどうぞ」ということではなく、意思を考慮するのは大前提なのですが、その上で「なぜその部署で頑張りたいのか、どこまでその熱意が本物なのか」。ここは細かくすりあわせして判断していきます。
実際に新卒1名の配属に対して、取締役や部門長が全員集まって20分〜30分かけて議論していきます。それぐらい、人に向き合って配属は考えていきます。
ー極端な話、一つの部署に配属が偏ってしまうこともあるのではないでしょうか?
髙須さん:そのケースもありますね。でも、組織全体の最適化みたいな観点で、セールスに配属が偏ったから、何名かはカスタマーサクセスに配属させよう、という意思決定はおこないません。
新卒の配属を期待していたけど、違う部門に希望が集中して配属となっても、熱意があるほうへの配属が優先されるべきなので、その際は中途採用に切り替えていく、という流れになります。
世界で唯一?「フリードクペ制度」
髙須さん:あとHENNGEでユニークなものとしては、「フリードクペ制度」があります。
これは、世界で唯一のドクタ ーペッパーデザインの自動販売機を社内に設置していて、無料で飲み放題となっています。
これは当社のCEOが、「優秀なエンジニアはみんなドクターペッパーが好きなはずだ」「社内に専用の自動販売機を置いておけば、優秀なエンジニアに興味を持たれるのではないか」という考えのもと導入されました。
ーちなみにドクターペッパーを置くことで、採用やエンゲージメントには何かしらの影響はありましたでしょうか?
髙須さん:来社されるお客様には面白がってもらえますし、海外のエンジニアメンバーの何人かは好んで飲んでいる姿を見ますが、実際の効果は正直わかっておりません(笑)。ただ、アイコニックではありますよね。
エンジニアのために設置したというバックボーンがあって、「テクノロジーの会社なんだ」という、アイコニックな存在としてわかりやすいものだなと思います。
最初はただの思いつきで設置したものだと思いますが、いつのまにか会社のイメージを支えるものになっています。
ちなみに、このような「なんとなくはじまって、いつのまにか形になっている」みたいなものは、社内を見渡すといくつか存在しています。
たとえば、コーヒータイムという、毎日15時になったら誰かがオフィスのカウンターテーブルでコーヒーを入れて振る舞ってくれるものがあるんです。
Slackで通知が流れてきて、コーヒー欲しい人は取りにいってそこで少しおしゃべりする、みたいな感じです。
これは、誰がはじめたものかわかっていなくて、会社もお金出していないですし、別に制度化しているわけでもないんです。
ですが、みんな自費でコーヒー豆を買ってきてつくってくれるんです。しかも、誰が入れるか順番も決まってないんですよ。
担当制でもないのに、毎日誰かが「コーヒーできたよ」って言ってくれて、それが形骸化せずに定着して続いてるんです。
ボトムアップでいつの間にかできていて、いつの間にか何年も定着してるみたいケースは、非常にHENNGEらしいなと思います。
制度・施策のポイントは、つくりこまないようにすること
ーありがとうございます。HENNGEさんならではのユニークな制度をお伺いしましたが、人事の目線として、これらの制度や施策を考えたり、運営していくうえで意識されていることはございますか?
髙須さん:「なんか面白そうにするか」みたいな狙いを持ってつくっていることは全くなくて、何だったら我々の制度が生まれてくる背景は、とてもありきたりなものだと思います。
というのも、HENNGEは多様な価値観を持ったメンバーが多くいるので、変わった課題を持っているんですよね。
たとえば、社内は国際化していますが、ほとんどのお客様が日本企業ですし、社内公用語は英語ですが、社外とのビジネスでは日本語が主になります。
言語の壁や文化の壁もある中で、みんなで集まって一つのプロダクトの価値を上げていく。社内・社外と連携していくうえで多くの壁があって、それを突破していこうと試行錯誤しているのが、今のHENNGEになります。
当社ならではのユニークな課題が出てきて、その解消に向けてどうアプローチできるか考えていった結果、今のような制度が生まれています。
また、制度ありきで考えていなくて、事業があって組織があってその運営を最適化するために制度があります。当たり前ですが、その順番を間違えてはいけません。
人事は専門知識が求められるポジションで、特に昨今では働くニーズの多様性にあわせて個々に寄り添った動き方が必要となってきています。
その中で、外部の情報を取り入れていくことも大事ですが、情報のインプットのバランスは社内に偏っても良いと個人的には思っています。
組織や社員が働きやすくなるために制度や施策があるので、社内理解があってこそです。それで本当の意味で心を打った制度がつくれると考えています。
髙須さん:そのうえで、心がけているポイントは、「制度をつくりこまない」ようにすることです。
もうひとつは、社内メンバーを巻き込むことです。人事のみが集まって頭をひねって考えるのではなく、社員みんなのための制度なので、社員を巻き込まないと施策がずれたりするので、極力部門を巻き込んだり意見を反映したりしています。
今のHENNGEだと、多様性ゆえに画一化された施策の導入は難しい部分もあり、非効率な部分も織り込み済で、あえてあいまいな余白を残していたりしています。
「人事のほうでもっと定義を決めてくれよ」というクレームを受けながら、制度をつくりこみすぎず、何かしらの余地を残しておくことはこだわっている部分ですね。
現場からしたら迷惑かもしれませんが、その余地をどう埋めていくのか。ここに現場の想いを反映させて、現場に最適化した形で運用していきたいのです。
ーちなみに、さまざまな施策をつくったものの、いつの間にか形骸化しているケースはあるあるだと思うのですが、HENNGEではそのあたりはいかがでしょうか?
髙須さん:多分いっぱいあると思います(笑)。
その中でも、定着している施策の傾向としては、ボトムアップで立ち上がったものが多い気がします。
やはり、現場の意見をそこまで取り入れずに導入した施策だと、最初は使われるけど、結局定着しないケースが多くあります。
本当に定着したかどうかが重要で、定着した=フィットしてるということだと思います。
一方で、定着しないことは別に悪いことではないと思います。それは単純にニーズがそこまでなかったんだ、必要とされてなかったっていうだけのことです。
もうとにかく動いてみる。それがOKなのが、HENNGEのスタンスです。
ーボトムアップでできあがった施策に関して、人事はどこまで介入されるのですか?
髙須さん:正式に制度化するとなると人事が介入していきますが、制度化しなくても運用されるものであれば、できるだけ介入せずにそのままにしておきます。
重複している部分が目についても、それは必要な非効率だと捉えて、距離は置きつつちょっと薄目で見ながら、何か必要であれば介入するみたいなイメージです。
組織の拡大に応じて、最適な人事施策をつくっていく
ーありがとうございます。最後に、髙須さんがHENNGEのカルチャーや制度において、今後仕掛けていきたいことはございますか?
髙須さん:今まで200人ぐらいまでの規模感でやってきていますが、会社横断での一律の制度は極力つくらない形で運用してきています。
ただこれが、300、400人と増えてきたときに、今までみたいに部門最適だけで物事を決めていったり、部門最適でのカルチャーが広まっていくと、全社での一体感が失われていく懸念が生じます。そうなったときは、制度の出番だと感じています。
将来を見越して、今のHENNGEの価値観を体現しつつ、会社横断的で施行される制度を少しずつ仕込んでいければと考えています。
その中で、人事サイドとして「会社をこうしたい」みたいなWillは必要ないと思っていて、事業や組織をどう最適にしていくのかが重要です。
今は、多様性を重視して、ボトムアップで主体的に動けるようにすることが最適だと思います。でもそれは正解ではなく、常に変わり続けるものです。
事業と組織に向き合いながら、今の最適解に引っ張られすぎず、長期視点も担保しながら、今後起こり得る課題とどう向き合っていくのか。そのためのツールのひとつとして、制度をどう活用していくのか。
今後は、そのようなフェーズになってくると思うので、そこに対してHENNGEらしく、失敗を恐れずに挑戦していければと思います。