2つのリーダーシップ ~「人を導く」のか「人を率いる」のか|キャリア・ポートレート コンサルティング村山 |HR NOTE

2つのリーダーシップ ~「人を導く」のか「人を率いる」のか|キャリア・ポートレート コンサルティング村山 |HR NOTE

2つのリーダーシップ ~「人を導く」のか「人を率いる」のか|キャリア・ポートレート コンサルティング村山

  • 組織
  • キャリア開発

※本記事は、グロービス経営大学院の「グロービス知見録」より、語句などを一部修正したものを転載しております。(※本記事は、2021年3月5日に公開されたものになります)

東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会会長の後任人事をめぐり、メディアは連日大きな盛り上がりをみせました。

晴れて後任が決まったわけですが、後任の方には以降述べるように是非、本来の意味での「人を導く」形で集団を牽引されることを願っています。

さて、今日はそんなリーダーシップの原義に関わる内容です。

【執筆者】村山 昇|キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)をはじめ、管理職研修、キャリア開発研修、思考技術研修などの分野で企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。 GCC(グロービス・キャリア・クラブ)主催セミナーにて登壇も多数。 1986年慶應義塾大学・経済学部卒業。プラス、日経BP社、ベネッセコーポレーション、NTTデータを経て、03年独立。94-95年イリノイ工科大学大学院「Institute of Design」(米・シカゴ)研究員、07年一橋大学大学院・商学研究科にて経営学修士(MBA)取得。 著書に、『キレの思考・コクの思考』(東洋経済新報社)、『個と組織を強くする部課長の対話力』『いい仕事ができる人の考え方』『働き方の哲学』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

導くとは「道に手引きをする」ことで「自分についてこい」ではない

導くとは「みちびく」と読みます。そして漢字の構成も「道」+「寸=手」となっているように、手を引いて道に連れていくことです。道とは真理や理想へと続く物事の在り方、あるいはその実践をいいます。

したがって、導くとは人びとを道にいざなうということであり、「自分についてこい」ではありません。

そのため人を導くときに、指導者は必ずしも先頭にいるとは限らず、人びとの後ろから支えることもあります。「サーバント・リーダーシップ(メンバーに奉仕する形の指導力)」といった概念もそのひとつです。

「人を率いる」型リーダーシップの危険性

さて、英語の「lead/leadership」ですが、あらためてみてみるとこのような意味を持っています。

  • lead=人を率いる、導く
  • leader=統率者、指導者
  • leadership=人を統率・指導する能力や行動、作用、立場

「lead/leadership」はとても広く奥行きのある概念です。

綿密にみていくと、日本語では「人を率いる」と「人を導く」という2つのニュアンスを含んでいます。「率いる」と「導く」とではどういう違いがあるのでしょう。それをまとめたのが下の図表です。

「率いる」とは人を引き連れて行くことで、フォロワー(従う人)は統率者につきます。他方、「導く」とは人を道にいざなうことで、フォロワーはその道が内包している目的につきます。

フォロワーが「ヒト」につくのか、「目的(意味・価値)」につくのか、この違いが大きな点です。

したがって人を率いる場合、統率者の「権力や地位」「対人的能力」「人間的魅力」はとても重要です。

ただ、人を率いるのに「目的や理念」は必ずしも必要ではありません。保持する権力や大衆を扇動する能力、人気を集めるキャラクターで十分に人を率いることが可能です。

そしてその手のリーダーシップの危険なところは、統率者の隠れた野心がきれいな言葉で飾られ、集団の目的にすり替えられることです。

「ヒト」につくフォロワーは、往々にしてこうしたことを見破れません。歴史上、悪い野心を隠し持ったカリスマ的リーダーに率いられた集団が、悲惨な末路をたどる例を私たちは少なからず教科書で学んできました。

「人を導く」型リーダーシップのもとでは目的・理念が求心力となる

その点、人を導くためには、何より「目的・理念・ビジョン」がいります。権力や能力、人間的魅力は、あればなおよい程度です。

まず、その人自身が「道なるもの」を覚知・実践していく。そうした道に献身している人の姿、あるいはその人が目指す理想に人が感化を受け、そこに人が集まりだす。これが「指導者(リーダー)と従支者(フォロワー)」の関係性が生まれる本来的な姿といえます。

その場合の従支者は1人1人が目的のもとに自律的に振る舞おうとします。たとえ指導者が途中でいなくなっても、その志を受け継いだ誰かが新しい指導者として現れます。

何か大きなことを成し遂げる集団は、「導く」形のリーダーシップによって力強く持続的に歩みを進めるものです。

さて、今回の東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会会長交代の一件。オリンピックは、その理念をオリンピック憲章の中で「オリンピズムの根本原則」として記しています。まさにこれが中核的価値を表した“五輪道”ともいうべきものです。

ここに運営者集団、競技者たちを導いて、そのもとで大会を成功裏に終わらせる。後任の会長にはそうしたリーダーシップを期待したいと思います。 

人事業務に役立つ最新情報をお届け!メールマガジン登録(無料)

HR NOTEメールマガジンでは、人事/HRの担当者として知っておきたい各社の取組事例やリリース情報、最新Newsから今すぐ使える実践ノウハウまで毎日配信しています。

メルマガのイメージ

関連記事

最終的にヒトを動かすのはデータではない|日本IBM藤森慶太さんの考える会社が人を育てる意味

最終的にヒトを動かすのはデータではない|日本IBM藤森慶太さんの考える会社が人を育てる意味

インタビュー企画第3弾。今回は、日本IBMのコンサルティング事業本部でハイブリッド・クラウド&データ事業を率い、ブランディングも担当されている藤森慶太さんにお話を伺いました。 急速に変化する社会において、企業が未来に責任 […]

  • 組織
  • 組織・その他
2025.10.07
金井 一真
定着率が変わる!成果と人を両立させるマネジメント設計|エッジコネクション大村

定着率が変わる!成果と人を両立させるマネジメント設計|エッジコネクション大村

近年、多くの企業で「人材の定着」は経営課題のひとつとしてクローズアップされています。特に、少子高齢化が進む日本では採用そのものが難しくなり、せっかく入社した人材が短期間で離職することのダメージは計り知れません。 現場から […]

  • 組織
  • 企業文化・組織風土
2025.10.03
金井 一真
社外メンターの導入は、企業成長を支える“戦略的な選択肢”|Mentor For 池原 真佐子

社外メンターの導入は、企業成長を支える“戦略的な選択肢”|Mentor For 池原 真佐子

「女性管理職を増やしたいが、社内にロールモデルがいない」 「研修だけでは個別のキャリア課題に答えられない」 人事担当者の方から、よくそんな声を伺います。人的資本経営やDEI推進が求められる今、企業には「多様な人材の力を引 […]

  • 組織
  • キャリア開発
2025.10.02
金井 一真
1on1の進化──“上司と部下”を超えて広がる対話のかたち 目的・関係性・活用の再設計が、組織と個人をつなぎ直す|KAKEAI皆川

1on1の進化──“上司と部下”を超えて広がる対話のかたち 目的・関係性・活用の再設計が、組織と個人をつなぎ直す|KAKEAI皆川

コロナ禍によって対面の機会が減り、組織の“つながり”が見えにくくなった時期、多くの企業が、対話の機会を補う手段として1on1を導入しました。私たちKAKEAIも、500社・150万回以上の1on1支援を通じて、この変化を […]

  • 組織
  • エンゲージメント
2025.10.01
金井 一真
「3つの壁」を乗り越えた企業事例|本人・上司・全社で実現する女性活躍推進

「3つの壁」を乗り越えた企業事例|本人・上司・全社で実現する女性活躍推進

2023年3月期の有価証券報告書から女性管理職比率の開示が義務付けられるなど、女性活躍を推進する機運が一層高まっています。一方で、「なかなか女性の管理職が増えない」とお悩みの企業は少なくありません。 本連載では「本人・管 […]

  • 組織
  • ダイバーシティ&インクルージョン
2025.09.30
金井 一真

人事注目のタグ