新型コロナウイルスが起因となり、この1年で急速に広まった「テレワーク」。
通勤時間の削減や余暇時間の増加といった良い面がある一方で、社内でのコミュニケーションの取りづらさや業務環境の整備といった課題も生み始めているかと思います。
そのため、各企業ではテレワーク下においても働きやすい環境を整備し、従業員のエンゲージメントを高めるための施策を打つことが求められているのではないでしょうか。
今回は、先日開催された、株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社Emotion Tech、WeWork Japan 合同会社、ランスタッド株式会社の4社の有識者が集結したイベント内容についてご紹介。
【イベント概要】
■タイトル
「テレワークでも従業員エンゲージメントを高めるポイントとは?~調査結果から見えたテレワークに対する人事・従業員の認識ギャップ~」
■開催日時
2021年4月20日
■イベント内容
Part1
Salesforce流「エンプロイー・サクセス」とは?|株式会社セールスフォース・ドットコム 鈴木氏
Part2
テレワーク調査から見えた「人事・従業員の認識ギャップ」|株式会社Emotion Tech 須藤氏
Part3
テレワークでも従業員エンゲージメントを高めるには?|トークセッション
まず前編として、株式会社セールスフォース・ドットコムの人事本部長鈴木氏より、同社における人事部としてのあり方や従業員との向き合い方についてお話いただいたPart1の内容をお届けします。
目次
1. 「エンプロイーサクセス」と呼ばれる人事部が大事にしていること
鈴木 雅則 | 株式会社セールスフォース・ドットコム 常務執行役員 人事本部長
GEとグーグルで人事業務に携わり、人事コンサルタントとして独立。その後、QVCジャパン、ビー・エム・ダブリューを経て、2019年より現職。著書に『リーダーは弱みを見せろ(光文社新書)』
セールスフォースの人事部は、「社員の成功を後押しし支援する」というミッションを持っていることから「エンプロイーサクセス」というユニークな名前で親しまれています。
そして、このミッション実現に必要な要素として、自分たちがおこなう全ての施策が、同社の「コアバリュー」(信頼・カスタマーサクセス・イノベーション・イクオリティ)に基づいていることが第一に大切だと考えています。
また、それ以外の要素として、社員が安心・安全に働けていること、つまり、大切にされている環境と定義されている「働きやすさ」や、働きがいを感じる環境としての「エンゲージメント」が大事だと捉えています。
2. 社員のエンゲージメントを高める3つの要素
そして、セールスフォースでは
- カルチャー
- テクノロジー
- データ
の3つの要素を大事にすることが、エンゲージメント向上に繋がると考えています。
この3要素を掛け算ではなく、足し算で表現しており、それぞれが全て重要であると捉えています。
【エンゲージメント向上に重要な要素】
その1:カルチャー(企業文化)
まず、カルチャーについてですが、セールスフォースでは「企業戦略=カルチャー」と捉えています。
これは、どんなに素晴らしい戦略を描いても、それを実現するだけのカルチャーがなければ実現には至れないため、エンゲージメント向上にとても重要な要素の1つであると考えているからです。
セールスフォースのカルチャー醸成においては、次の4要素を大切にし、これらを根付かせる努力を日々行っています。
①OHANA(家族)
第一の要素は、OHANA(家族)という考え方です。
セールスフォースでは、社員だけでなくお客様やパートナーといった取引先も拡大家族と解釈し、これにより健全なエコシステムをつくろうと考えています。
②コアバリュー
第二の要素は、会社のコアバリューを大事にする、ということです。
セールスフォースのコアバリューは次の4つです。
- Trust(信頼)
- Customer Success (カスタマーサクセス)
- Innovation (イノベーション)
- Equality (平等)
また、大事なポイントは、この4つが相互に繋がっていることです。
多様なバックグラウンドを持った人々が自分らしくあることや自由に意見ができるといった平等性のもとでイノベーションは生まれますし、イノベーションが生まれれば良いプロダクト・サービスができ、顧客の成功支援が実現できることで、信頼を生み出すことができます。
③行動
そして、第三の要素は社員にどのような行動を求めれば良いかということです。
セールスフォースの社員が推奨されている行動について、いくつかピックアップしてご紹介します。
たとえば、これまでオフィスにいれば自然と入ってきたような情報も、意図して取りにいく必要性が求められているため、「責任」に関してはリモートワークになったことで、より一層重要度が高まりました。
また「初心を忘れない」という点も大事です。
環境や働き方はどんどん変化していきますので、その変化の中でも変わらない初心を忘れず、学び続けることの姿勢を大切にしたいということです。
他には、「ビジネスは社会を変えるための最良のプラットフォームである」という背景のもと、「社会貢献活動」も社員にとっての重要な行動として大切にしています。
「1-1-1」は、セールスフォースの創業当初からの取り組みで、就業時間の1%、株式の1%、製品の1%を、社会貢献に充てています。社員の有給休暇とは別で、年間7日間の社会貢献休暇というのを付与しています。
また、「ウェルビーイング」も重要です。
特にリモート環境下では、仕事とプライベートを分けることが難しくなっており、今までよりも社員の心と身体の健康が求められてきていると感じています。
④経験
最後に、セールスフォースのカルチャー醸成にとって重要な4つ目の要素は、経験です。
これは、どんな社員体験をしてもらえれば、セールスフォースを卒業した後にもセールスフォースでの経験が良かったと思ってもらえるのか、という観点でカルチャーをデザインしているということです。
【エンゲージメント向上に重要な要素】
その2:テクノロジー
次に、エンゲージメント向上に重要な要素として挙げているのがテクノロジーです。
弊社はテクノロジーを生業とする会社であることから、自社製品はもちろん、様々なテクノロジーを上手に使っていくということも、エンゲージメント向上にとって重要な要素と捉えています。
昨今、プライベートで使うテクノロジーは日々進化しており、ソーシャルメディア、スマホ、AIなどを介して色々なことができるようになるなど、様々なものが繋がっていく時代に突入しました。
一方で、社内や仕事上で扱うテクノロジーについては、プライベートのテクノロジーと比較するとやや遅れています。そのため、このギャップをどう埋めていくのか考えることがセールスフォースでは重要だと捉えています。
この障壁を、「デジタル・ディバイド」と表現しています。
セールスフォースはCRMの会社であり、よりよいお客様との関係性を考えること、ご提案することを生業としている企業です。
人事部にとっての顧客は社員ですので、社員を中心に色々なテクノロジーを使ってエンゲージメントを高めてもらおうと、人事部としても日々志しています。
最も大事なことは、良い社員体験を社員自身が体験することができているか、という点です。
【エンゲージメント向上に重要な要素】
その3:データ
そして、最後のデータに関しては、何事においても意思決定をする際に主観に頼らず、必ずデータを元に決定していくことが重要であるということになります。
たとえば、社員Aさんのアンケート調査の結果やエンゲージメントスコアの点数、トレーニングの進捗状況、目標設定の内容などといったデータをもとに、正しい判断をしていくことが大事であるということです。
また、今、入社から卒業までの社員体験をカスタマージャーニーのように一連の体験としてデザインすることが求められてきているように思います。
入社をして最初の90日間のオンボーディング期間の体験から、その後の昇進や部署移動などの過程を経て、会社へのエンゲージメントやロイヤリティを高めてもらう必要があるため、人事もより社員の体験を考えるマーケティング的な思考が求められてきています。
3. セールスフォースの人事施策の一部をご紹介
それでは、セールスフォースが実際におこなっている従業員エンゲージメントを高めるための人事施策の一部をご紹介します。
◎V2MOM(Vision,Values,Methods,Obstacles)
V2MOMとは、セールスフォースの 目標管理の仕組みのことです。
セールスフォースでは、1年の始まりにリーダー陣から全世界にいる仲間に向けて、今年の一年の目標をライブストリーミング形式で同時放映します。
発表中はチャット機能などを介し、誰もが質問・意見をすることができます。
その後、個別のスモールセッションや「ここはこのように変えてほしい」といったコミュニケーションを経て、最終的な目標が決められていきます。
また、参加ができなかった方には、後で見ることができるようにビデオ収録もしています。
このように、リーダーからの説明とそれに対するフィードバックの仕組みによって情報の透明性を高めることができ、組織としての意向と個人・チームがやろうとしていることを重ねることができるのが、V2MOMの特長です。
◎全社員が“自分の言葉”で会社を語る「コーポレートプレゼンテーション」を実施
従業員が5万人いるセールスフォースでは、部署に関わらず全ての社員が「コーポレートプレゼンテーション」を実施しています。
これは全従業員が、会社の概要やビジネスモデル、コアバリューや成功事例などといったセールスフォースの事業を、自分の言葉で語ることができるようになるという状態を目指すものです。
毎年1度、 営業部などの特定の部署だけでなく、全部署全従業員が上司の前でプレゼンテーションを実施し、OKを貰う必要があります。
◎社員アンケートを年2回実施
セールスフォースでは、年に2回、社内向けアンケート調査を実施しています。
部下が3名以上いるマネージャーの結果については、全社員が見ることができるようになっており、これも全社の透明性を高めることにつながっています。
4. 最後に
社員の成功を支援する「エンプロイーサクセス」を実現するには、以下の6つを大事にしてください。
- 企業文化を意図的にデザインする
- 自社の戦略、ビジネスモデル、製品を全社員が理解する
- テクノロジーを有効活用し、デジタルディバイドを埋める
- データを検証し、次の施策に繋げる
- 従業員を中心に発想する
- マーケティング視点で人事を捉えなおす
以上、セールスフォース流エンプロイーサクセスについてご紹介しました。