【取り組みステップ②】仕事と介護の両立における実態の把握と対応|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント#5 |HR NOTE

【取り組みステップ②】仕事と介護の両立における実態の把握と対応|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント#5 |HR NOTE

【取り組みステップ②】仕事と介護の両立における実態の把握と対応|人事ができる“仕事と介護の両立”支援の実践ポイント#5

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※本記事は、株式会社日本総合研究所様より寄稿いただいたものになります。

ここまで、介護と仕事の両立を支援するためのコミットメントを得ること、経営者のメッセージ発信と推進体制の整備することは、「介護両立支援を巡る負のサイクル」を断ち切るための第一歩となると説明してきました。

そこで今回の第5回では、効果的な仕事と介護の両立支援の取り組み方の第2弾として、経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」の「ステップ2:仕事と介護の両立における実態の把握と対応」についてご説明します。

寄稿者石田 遥太郎株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー

シンクタンクに勤務した後、2012年より医療福祉関連ベンチャーのスタートアップメンバーとして参画し、医療介護施設の開設及び運営のコンサルティングに従事。また管理部門の責任者として、経営管理全般(経営企画、財務、人事、システム等)を担当。2019年日本総合研究所に入社。リサーチ・コンサルティング部門にて、健康分野、医療介護分野における政策提言、調査研究、民間企業向けのコンサルティングに従事。

寄稿者小島 明子株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト

1976年生まれ。民間金融機関を経て、2001年に株式会社日本総合研究所に入社。多様な働き方に関する調査研究に従事。東京都公益認定等審議会委員。主な著書に、『「わたし」のための金融リテラシー』(共著・金融財政事情研究会)、『中高年男性の働き方の未来』(金融財政事情研究会)、『女性と定年』(金融財政事情研究会)、『協同労働入門』(共著・経営書院)。

寄稿者石山 大志株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー

日系コンサルティングファームを経て現職。入社後一貫して人事組織コンサルティングに従事し、近年は人的資本経営の推進、プロアクティブ人材の育成に向けた取り組み推進に注力。近時の執筆記事等として、「仕事と介護の両立を実現するビジネスケアラー支援」(共著、『労政時報』2024年/労務行政)「エクイティがダイバーシティ施策のカギ-〜人的資本経営とDE&I」(共著、「Power of Work-2023年/アデコ)等がある。

 

1. 現状の把握を行うための3つのポイント

経営層が仕事と介護の両立支援への意欲を示し、その実現へ向けた取り組みの基盤が整ってから、次のステップとして現状の把握を行うことが必要となります。

特に介護と仕事の両立については、育児の場合と比べ、問題が明らかになりづらい一面があります。それゆえに、現状把握のための方法には独自の工夫が求められるのです。

具体的には、厚生労働省の「企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル」にも示されているように、実態把握の手段としては様々な方法が考えられます。

その中でも代表的なものは、

  1. 全社規模でのアンケートやヒアリングにより仕事と介護の両立における実態を把握すること
  2. 人事面談などを通じた上司による把握を行うこと
  3. 制度利用者や介護経験者を対象にヒアリングを行うこと

という3つのポイントが挙げられます。

この3つのポイントをふまえて取り組むことで、会社全体で介護に関する意識や問題に対する認識を共有し、より具体的な支援策を検討していくための基礎を作ることができます。

そしてそれにより、経営層が示す強い意志と組織全体の方向性が一致し、仕事と介護の両立を現実のものとするための具体的な道筋が示されます。

介護という個々の課題を企業全体で支え、解決していくためには、これらの現状把握は必須のプロセスといえるでしょう。では3つのポイント及び人材戦略や具体的な両立支援施策・制度の設計の考え方を順番に説明します。

2. ポイント①|全社規模でのアンケートやヒアリングにより仕事と介護の両立における実態を把握する

実態把握は、すべての介護と仕事の両立支援施策の基盤となる取り組みであり、企業全体のデータやエビデンスに基づいて適切な制度整備や情報提供を実現するための重要なステップです。

全社的なアンケートの実施や、規模が小さな企業であれば一人ひとりにヒアリングを行うことなどが、具体的なアクションとして挙げられます。

具体的に、従業員の介護状況を把握するには、現在や将来の介護の可能性、介護が発生している場合の被介護者の具体的な状況(要介護度、同居の有無など)を確認することが求められます。同時に、プライバシーに配慮しつつ、各部署の管理職と連携し、普段の業務への影響を把握しておくことも必要です。

特に、介護の状況を明らかにする際には、自身のキャリアや業績への影響を懸念する声もあるため、心理的な安全性を確保することが重要です。明示することでその安全性を確保し、必要に応じて外部のサポートサービスを活用することも考えられます。

また、全ての従業員を対象にしたアンケートやヒアリングを通じて、従業員の介護の実態や抱えている課題、不安を的確に把握することが求められています。仕事と介護の両立支援策の取り組みが開始されてからも、定期的にアンケートやヒアリングを実施することで、その支援策による効果を評価し、改善するための情報を得ることができます。調査項目は、厚生労働省が発刊している「企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル」のP45以降に掲載されている実態把握調査票を参考にしていただいても良いでしょう。

そしてアンケートの結果を踏まえて、短縮勤務の導入や部署の異動の受け入れなどを行い、働き方改革の一環として仕事と介護の両立を実現する取り組みを実施していきます。

このように、実態把握は個々の従業員と企業全体の間の課題を明らかにし、具体的な解決策を見つけるための基盤を作ります。それにより、介護と仕事の両立が可能となる環境を実現し、企業全体としての生産性や働きやすさを高めることが期待できます。

3. ポイント②|人事面談などを通じた上司による把握を行う

介護に直面している従業員の支援ニーズを把握するのは上司の役割であり、日々コミュニケーションを取りながら現状を理解することが望まれます。

ただし、その際には通常の業務の話だけでなく、介護に関する項目も積極的に取り上げることが大切です。

そのため、上司からは「働き方への配慮が必要な時は何でも相談してください」という明確なメッセージを部下に伝え、介護についても気軽に相談できる雰囲気を作ることが求められます。

4. ポイント③|制度利用者や介護経験者を対象にヒアリングを行う

4で述べたように介護の状況は個々人によって多様です。加えて、介護に関するニーズは事前に認識しづらく、往々にして従業員が実際に介護の問題に直面した時点で顕在化します。

従って、実際に介護と仕事の両立を経験した従業員、あるいはその状況を終えたばかりの従業員の声を聞くことは、理解を深め、適切な対応をするためにとても有効な手段です。

しかしながら、こうした対話やヒアリングを行うには様々な配慮が必要となります。その中でも特に、その人自身が介護について話をすることをためらうかもしれないという点には留意が必要です。

そのため、ヒアリングの対象者を選定する際や、具体的なヒアリング項目を設定する際には、その人の思いや状況を尊重し、配慮する心構えが必要です。

このようにして聞き取りを行うことで、個々の従業員が面している現実の状況や抱える悩みを深く理解し、その上で適切な支援策を考えるための情報を得ることができます。

また、それはただ単に問題解決のための情報を得るだけでなく、介護に直面する従業員一人ひとりを個々の人間として理解し、その人たちが安心して働き続けられるようサポートすることにも繋がるのです。

5. 人材戦略や具体的な両立支援施策・制度の設計

介護問題に直面した従業員が最大限に活躍できるようにするには、実態把握を通じた人材戦略や具体的な両立支援施策の整備が重要となります。

特に4050代の従業員は、仕事と介護の両立の問題に直面する可能性が高い上、企業内でも中心的な役割を担っていることが多いです。そのため、こうした世代の従業員が介護と仕事の両立に悩んだり、最悪の場合、介護離職してしまった場合、それが事業活動自体に影響を及ぼす恐れがあります。

考えられる解決策として、企業は介護問題を個々の従業員の課題ではなく、組織全体の課題として捉えることが求められます。それに伴い、介護と仕事の両立支援を人材戦略の一部として位置づけ、実務面でのサポートや業務調整を行うための仕組みを検討する必要があります。

介護によるキャリアへのネガティブな影響を防ぐためにも、人事制度を見直すとともに、介護と仕事の両立を支える制度を整備することが重要となります。

両立支援制度を検討する際は、法定基準を満たすことはもちろん、実際の従業員の状況やニーズに基づいて、利用要件の明瞭さや手続きの簡易さも考慮することが必要です。このような観点からの検討を行うことで、実際の従業員が直面する問題に対する効果的な対策を講じることができます。

さらに、両立支援の充実を図るにあたり、KPI(重要業績評価指標)の設定が求められます。定量的に測定可能なKPIを設定し、その結果を基に組織全体でPDCAサイクルを回すことで、両立支援の浸透や必要な改善の実現を図ることができます。

KPIは具体的には、「従業員満足度」や「女性管理職比率」など既存の指標を活用することや、仕事と介護の両立に特化した指標を設定することが考えられます。例えば、「仕事と介護の両立に関する研修の受講率」、「仕事と介護の状況に関するアンケートの実施頻度」や「介護の両立支援施策が従業員のパフォーマンスに与えた影響の度合い」などが挙げられます。

介護と仕事の両立を達成するためには、従業員一人ひとりの状況を把握すること必要です。全社的アンケートや小規模な企業では個別のヒアリングにより、介護状況を明確し、それを基に適切な人材戦略と支援策を整備することは重要です。

特に中核人材である4050代の介護問題は全体の課題として捉え、キャリアへの影響を懸念する等の問題を理解しつつ、対策を進めることが求められます。組織全体の支援体制を強化するために、定量的な指標(KPI)を設定し、PDCAサイクルを回すことも重要です。

次回は、ステップ3として「仕事と介護の両立に関する情報発信や研修の実施」について説明します。

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