組織の多角化にどう挑む?エイチームが取り組んだ3つの施策とツール活用術

今回は、ゲームやWebサービスなどインターネットを軸に多様な技術領域・ビジネス領域において事業を展開するエイチームが実践する「組織改善施策」と「エンゲージメントツール活用法」をご紹介。

エイチームでは事業の多角化に伴い、短期間で事業数が一気に増え、従業員数も500人から1,000人の2倍になったとのこと。

そして、そのような急成長とセットで出てくるのが「組織のひずみ」です。エイチームでも例にもれず、さまざまな組織課題が出てきました。

それらを解消するためにエイチームは何をしたのか。

実際におこなった3つの施策や、同社が導入した組織改善ツール「モチベーションクラウド」の活用・浸透方法について、人事部の安井さんにお話をお伺いしました。

【人物紹介】安井 美穂|株式会社エイチーム 人事部人事企画グループ

2017年 株式会社エイチームに新卒入社。その後、株式会社エイチーム引越し侍に配属され、法人営業に従事。全国展開大手から地場の引越し会社まで幅広いクライアントに対し、コンサルティングを担当する。2019年 株式会社エイチーム人事部人事企画グループへ異動。グループ全体の人事制度の運用と、入社者向け教育施策の企画・実施、 モチベーションクラウドを活用した組織活性化、グループ内表彰制度などを幅広く担当。

組織の拡大・多角化で見えてきた、さまざまな課題

ー本日はよろしくお願いします。まずは、当時の組織状況とモチベーションクラウドを導入したきっかけについてお聞かせください。


安井さん
モチベーションクラウドは、2016年の年末に導入しました。

ただ、「明確な組織課題があって導入した」というより、「新しいツールの活用にトライしてみよう」という流れからスタートしています。

そして、ちょうどこのタイミングあたりから「組織の多角モード」に入っており、従業員が2016年から3年間で500人から1,000人と2倍になったり、事業や拠点もどんどん増えていったんです。

そんな急拡大に伴い、ヒトや組織における課題があらゆるところで散見されるようになってきました。


ーどのような組織課題が出てきたのですか?


安井さん
代表的なものとして、「パッと見て顔と名前が一致しない人が増えてきた」問題です。

それに伴って、誰がどの事業部でどのように活躍しているのか、経営陣・社員が互いに見えにくくなってきていました。

また、「マネージャーの育成が急務だ」という話も、経営会議の中でも頻繁に出てくるようになりました。

組織の拡大に伴い、経営陣の考えが組織の隅々にいきわたるまでに、時間と距離が長くなってしまったことが原因で、部門ごとに良いとされるマネジメント、行動規範、ルールなどが微妙にずれ始めてきました。

また、人が増えるにつれて新任マネージャーも増えていったのですが、エンゲージメントスコアを分析した結果、「上司に対する満足度」にも、大きなばらつきが出てしまっていました。

このように、徐々に事業や組織に対して、課題が見えはじめてきたタイミングでした。


ーなるほど。自社のカルチャーが薄れていくようなタイミングでもありますね。


安井さん
まさにそうですね。経営陣との距離が遠くなり、経営陣が考えるヒトや組織に対する考えや価値観が伝わりづらくなり、子会社や事業で「マネジメント」に対する考え方にばらつきが出るようになったと思います。

また、「既存事業疲弊症」という課題も出てきていました。


ー既存事業疲弊症とは、どのようなものでしょうか?


安井さん
:これは、リンクアンドモチベーション様が定義されている組織課題のひとつの考え方になります。

新規事業に投資を続けていれば、社内外からのスポットライトは新規事業に集まりやすくなりますが、売上や利益はまだまだこれからというところで、収益化していない事業も多いと思います。

そこに対する投資資金を支えるのは、既存事業です。

会社全体を支えるためにも、「前年比の120%、130%の利益を出してほしい」というような、強い期待を背負いながら、なんとかしてマネタイズをしていこうと励んでいるものの、注目や称賛は集まりにくい。

声援が集まりくにい縁の下の力持ちである既存事業に、疲弊や不満が出やすい状態が、既存事業疲弊症になります。

このように、組織が多様化する状況だったところに、タイミングよくモチベーションサーベイを導入しスコアをみたところ、肌で感じていたことがしっかりと数字としても見えるようになったんです。

その結果、優先して対応すべき課題や施策の対象が見えやすくなったので、そこは良かったポイントですね。

組織改善に向け、実施した3つの施策

ー組織の多角モードのフェーズに対応するために、どのような施策をおこなっていったのでしょうか?


安井さん
多くの施策を実施していったのですが、ここでは私が実際に関わった3つの施策についてお話させていただきます。

1つ目は「Ateam AWARD」の実施。2つ目はマネジメントスタイルの明文化。そして3つ目はモチベーションクラウドの浸透・活性化です。

1、Ateam AWARD|活躍社員の見える化、先行事例の共有

安井さん「社員の活躍が見えにくくなってきた」という課題に対して、全社員で活躍している人へのスポットライトを当てる取り組みとして、2019年から「Ateam AWARD」を開催するようになりました。

この取り組みでは、成功・活躍・貢献の事例を共有し、共に学び、今後につなげることで、お互い高め合い認め合う文化を継承し、みんなで成長していくことが目的です。

内容としては一般的な表彰式のような形式で、最優秀クリエーター賞、最優秀マネージャー賞といった職能や役職による個人賞や、MVP(Most Valuable Player)やMVT(Most Valuable Team)などを表彰します。

事前に事業部ごとに各賞のノミネート者を選出し、「Ateam AWARD」当日にノミネート者の中から、エイチームグループ横断での受賞者を決めるという設計です。


ー以前は、このようなアワードはなかったのですか?


安井さん
事業部や子会社ごとにはありましたが、エイチームグループ横断でのアワードは今までなかったんです。

組織の「たこつぼ化」を緩和し、「会社全体としてこういう人が求められている」「どういう思考や行動が高い成果につながるのか」というメッセージや学びを共有するために、そういう場をつくりました。


ーノミネート者の評価はどういう形で決めるのでしょうか?


安井さん
事業部ごとにノミネート者を選出してもらうのですが、まずは社員一人ひとりからの推薦を踏まえ、各部門の部長やマネージャーが決定していく流れですね。

各部門のノミネート者が出そろったら、グループ全体での受賞者を決めるために、経営陣がそれぞれの賞ごとに審査会を開き、議論をして「Ateam AWARD」で表彰する受賞者を選出していきます。


ー社員一人ひとりの推薦から始まるのですね。


安井さん
そうですね。部長やマネージャーだけだと、どうしても細かいところまで見れていない部分がありますし、一方で、普段一緒に仕事をする仲間である社員たちがよく見れている部分もあります。

また、表彰においては、受賞者への評価の納得感がないと会社全社の文化として根付きません。

ですので、社員一人ひとりがノミネート者を選出する立場として、参加してもらうことを意識しています。


ー安井さんは第2回目のAteam AWARDでリーダーを任されたとのことですが、そこではどのようなことに注力しましたか?


安井さん
第1回目は、受賞した社員を称えることはできた一方で、「そもそもノミネートされたこと自体がすごいことだ」というメッセージをなかなか伝えきれないという反省がありました。

また、アワードに参加する社員には、受賞者に対して拍手を送るだけでなく、「明日からの学びを持ち帰ってほしい」という狙いもあったのですが、この点も改善の余地を感じていました。

そこで、第2回目からは、ノミネート者の情報を事前に展開しました。

「こういう人が今回ノミネートされて、評価ポイントはこういうものでした」という資料をつくり展開することで、ノミネート者の功績や評価への理解を促進し、「誰が、どのような行動で成果を出したのか」を伝えきれないままの状態で表彰式が終わってしまうことを防ぐ狙いでした。

加えて、Ateam AWARD当日は受賞者スピーチがあるのですが、スピーチ前に必ず「自分の成果につながるまでの工夫や学びを話してください」という働きかけをおこないました。

また第1回から継続して開催後日に、受賞者の成果に繋がった行動・思考、仕事の哲学などをまとめて、「knowledgeBook(ナレッジブック)」という社内報を発行しています。

ナレッジを共有・蓄積して、会社の財産として残していく取り組みもおこなっています。

当日だけだと「良かったね」と、盛り上がった感覚だけが記憶に残りがちなため、受賞者のノウハウをコンテンツ化し、再度認知できる状態にしていくことはすごく大事なポイントだと思います。

2、マネジメントスタイルの明文化|“マネージャーのストライクゾーン”を定義

安井さんエイチームでは、マネージャーになると、代表の林が自ら講師を務める研修を受けます。

そこでは、林の経験談をもとに要素を抽出して言語化した「良くないマネージャーの定義12カ条」というものを伝えていました。

これは例えば「感情の起伏が激しい」「メンバーを叱れない」などです。

そういう項目が11個あり、最後の1個は、「全ての項目において、『自分はあてはまっていない』と思い込んでいる」という話をするんです。

これを聞いて、受講者はハッとして、心にとどめて現場に戻っていきます。

良いでなく、“良くない”マネージャーを定義した背景は、エイチームは多くの事業を展開しているので、“良い”を定義することが難しく、でもファールゾーンであれば定義ができると考え、策定されました。


ーなるほど。だから「良くない」項目を並べているのですね。


安井さん
はい。しかし、会社の規模の拡大に伴い、経営陣の考えや想いが隅々まで伝わりにくくなる中で、あらためてグループとして守りたいマネジメントの“ストライクゾーン”を定め、各々が立ち返り考える拠り所になるものが必要だと考えました。

そのために、良いマネージャーを言語化するところから動き出し、定義したものを「マネジメントスタイル」と呼んでいます。

これは、人事が中心で作ったものではなく、各子会社の役員を中心に、3カ月くらいかけて議論して形にしたものです。

人事はその運営を黒子としてサポートしていました。

マネジメントスタイルは、エイチームのマネージャーに求めることを、「はじめに」と「10の主文・副文・行動例」「おわりに」から構成されています。

 

ー「おわりに」は、どういった内容になるのでしょうか?


安井さん
「おわりに」は、マネージャーとしての心がけが記載されています。

「あくまでマネージャーは役割であって、人の優劣を決めるものではない」「自分は常に未熟であることを認識しながら、誰より真摯・誠実・謙虚に学び続ける」といった、メッセージで締めくくっています。

 

ー「マネージャーは役割であって、人の優劣を決めるものではない」。まさにそのとおりですね。


安井さん
そうですね。これはマネージャーに対してのメッセージでもあり、社員に対してのメッセージでもあると思います。

また、マネジメントスタイルの構築だけでなく、あわせてマネジメントサーベイという施策もおこないました。

これは、マネジメントスタイルに沿ってマネージャーがどの程度実践できているか、今後何に注力してほしいかについて、メンバーにサーベイを実施するものです。

その結果を匿名でマネージャーに公開し、「この半年で改善したいこと」「伸ばしていきたいこと」をそれぞれ考えてもらいます。

3、モチベーションクラウドの浸透・運用|全社員にサーベイの結果を公開

安井さんエイチームでは、組織の健康状態を測るためにモチベーションクラウドを活用していますが、半年に1回のサイクルで実施していて、その結果は経営陣だけでなく、全社員に全組織の結果を公開しています。


ー全社員が見ることができるのですね。


安井さん
はい、事業部単位からチーム単位まで、細かく見ることができます。自分たちの結果だけでなく、周辺や他事業部の同職種組織とも比較できるよう、全部オープンにしています。

また経営会議ではそれらに加え、入社年別、役職別の経年比較のデータなども確認しています。

安井さん結果をオープンにすることは、現場の組織長たちが自ら主導で組織改善に取り組んでいけるような基盤づくりを狙ってのことです。

ただ、その結果を受けて、どんなアクションプランを立てるとよいのか、組織の課題ごとに対処法が変わってくるので、そこは社内の中でもノウハウがなく手探り状態でした。

ですので、改善方法のセオリーを伝えたり、成功事例を共有し合えるような場所を設けたり、活用を促進する工夫など、モチベーションクラウドを導入した直後からやり続けてきています。

その中での具体的な取り組みの例としては、各組織長を対象にスコアの詳細の見方や、アクションプランの立て方を学ぶ勉強会を実施しています。

また、「現場で使われるデータ」になるように、活用しやすい・見やすい形で整理して開示するなどの工夫もおこなっています。

というのも、やはりエンゲージメントスコアを測ることに価値があるのではなく、測った上で改善行動を取ることに本当の価値があると考えるからです。

人事がやるべきことは、現場で使えるデータを普及させた上で、現場でそのデータを活用し、行動に落とすところまで、セットでサポートをしていくことが重要だと思います。


ーマネジメントラインへの働きかけはもちろんですが、メンバー個々人への働きかけも実施しているのでしょうか?


安井さん
そうですね。実はメンバーにも個別に働きかけています。

サーベイの結果が芳しくない組織の組織長に私からヒアリングをするのですが、それ以外にも現場のメンバーに状況を聞きにいくこともしています。

その中で、状況に合わせて「●●さんから働きかけてもらえると変わるかもしれないので、ちょっと一緒にやってみません?」といった風に、いろんな人を巻き込んでいます。


ーメンバーからボトムアップで動いてくれるのは大きいですね。


安井さん
そうですね。よくあるうまくいかない事例としては、マネージャーだけが集まって、改善に向けて動こうとして、結局、現場との温度差が埋まり切らずに改善施策が機能しないことがあります。

ですので、どうやってメンバーを巻き込んでいくかは大事なポイントだと思います。


ーアクションプランを立てたものの、全く実行されずに形骸化することもありますしね。


安井さん
よくありますね。より頑張って立てた崇高なアクションプランの方が、実行されずに終わることが多いですね。

夏休みの計画と同じような感覚で、最初はテンションも高くしっかり考えるのですが、結局、夏休み最終日の31日にまとめてやるみたいな、そんな感じですね。

意気込みすぎるとうまくいかないことが多いので、基本的には「アクションプランは見栄張らずに1個、2個でもいいですよ」と発信しています。

「リーダーだけが頑張っている組織」に対して伝えたいこと

ーこれまでにさまざまな施策を実施されてきていますが、その結果としてどのような変化がありましたか?


安井さん
まず、定量的なところでいくとサーベイのスコアに変化がありました。

モチベーションクラウドでは、スコアが60以上の組織を「Aランク」と表現をしているのですが、そのAランク以上の組織が施策前だと全体の70%くらいだったところ、今だと全体の83%に底上げできています。

また、肌感で思うところは、当時課題を抱えていた組織のリーダーを見ていると、すごくつらそうな様子だったのですが、今では課題があっても冷静に向きあい、適切に対処できる、頼もしい姿をよく目にします。

メンバーにおいても、組織改善などの活動に能動的に参加しているような雰囲気が伝わってきています。

その結果として、3年連続でリンクアンドモチベーション様のアワードで表彰もいただきました。


安井さんまた、経営会議や表彰の場面で、エンゲージメントスコアが意思決定に活用されていることも増えてきました。

例えばアワードの受賞者を決める際に、過去のエンゲージメントスコアを参考にして、V字回復をさせたか、高いスコアを継続しているかなども、評価のポイントとして加えたりしています。

また、事業撤退の判断をした際に、メンバーへの伝え方、伝えるタイミングに関して、エンゲージメントスコアを見ながら伝え方も慎重に検討したりしています。

スコアが高い組織だと、経営陣やマネージャーの意思を深く汲み取ってくれるメンバーが多いので「スピードを優先してすぐにメンバーに開示する」という判断もできたりします。

逆にスコアが低いと、“阿吽の呼吸”が難しく、なかなか言葉通りに伝わらないことがあるため、伝え方には注意が必要になります。


ーサーベイスコアを判断の物差しとして活用できているのですね。ちなみに、今後チャレンジしていきたいことはありますか?


安井さん
個人的に思っているのは、エイチームに所属している人、過去に所属していた人が、エイチームという会社を誇れる状態をもっと高めていきたいですね。

そのためにまずやっていきたいことが2つあります。

1つ目が、「マネジメントスタイル」をマネージャーや現場に浸透させていくことです。DNAに刻み込んでいくくらいの深さで、やっていきたいと考えています。

2つ目は、チャレンジングな部分ですが、組織の戦力を見える化して、組織や個人の成長促進ができる環境づくりをしていきたいです。

これは、タレントマネジメントの領域になると思いますが、まだまだ検討段階で具体的なところはこれから詰めていく段階です。

アワードで活躍している人は見えやすくなってきましたが、一人ひとりの粒度では見えにくい状態が続いているので、そこを解消していきたいですね。

ーありがとうございます。最後に今回の取り組みを通して感じたことを、読者に対して一言いただけないでしょうか。


安井さん
“組織改善屋”をやっている中で感じたこととしては、リーダー陣だけで頑張っているケースはあまりうまくいかないなと感じています。

どうしてもメンバーとの温度差が解消されなかったり、メンバーがリーダーに依存しやすい状態が続いてしまいます。

よくリーダーシップにフォーカスを当てた話を聞きますが、エイチームの良い組織を見ると、必ずそこには良いフォロワーシップを発揮しているメンバーがセットで存在しているように思います。

本当に大事なことは、良いフォロワーシップをメンバーから引き出すことではないかと考えています。

究極のマネジメントは、「何もしないでも組織が回ることだ」と言われることもありますが、それは、リーダーシップによって引き出されたフォロワーシップの結晶ではないかと思います。

もし、リーダーだけが頑張りすぎている組織がある場合は、ちょっと視点ややり方を変えてみると、うまくいくかもしれません。

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