「コロナ禍で“デジタルファースト”に」コラボレーションを推進するアドビのハイブリットな働き方

テレワークが浸透する中で、各企業で新しい働き方にあわせた人事制度の構築やアップデート、従業員のエンゲージメント向上に対する施策などが取り組まれています。

しかし、その一方で「コミュニケーションが上手くできない」「社員が何をやっているのかわからない」といったテレワークならではの課題を抱える方も多いのではないでしょうか。

今回は、全世界に約2万5千人の社員を抱えるアドビの、日本法人であるアドビ株式会社の高尾さんと赤木さんから、アドビが目指すハイブリッドワークな取り組みや施策内容についてお話を伺いました。

テレワークに対する考え方、新設したテレワーク関連の手当やモバイルアプリケーション、導入中のコミュニケーション施策など、教えていただくことができた実践的なテレワーク術をご紹介します。

取材対象者

赤木亜希子|アドビ株式会社 シニアHRビジネスパートナー

2001年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。労務管理、給与制度設計、ダイバーシティ&インクルージョンなど一貫して人事業務に携わる。米国本社赴任ののち、2010年からはHRビジネスパートナーを担当。リーダーに寄り添い、ビジネスに貢献する人事を目指す。2020年5月よりアドビ株式会社にて現職。シニアHRビジネスパートナーとして、日本の経営陣をサポートしている。

高尾秀明|アドビ株式会社 タレントパートナー

2015年株式会社リンク・アイ入社。人材紹介事業のキャリアアドバイザー、法人担当営業など一貫して採用に携わる。2019年5月よりアドビ株式会社に採用担当として入社。現在はアドビの働く環境のブランディングも兼任。

2万5千人同時!?全世界で一斉にテレワークへ移行

ーアドビがテレワークに移行した経緯や体制の現状をお伺いできますか。


高尾さん
「社員と家族の安全と健康第一」の視点から、アドビでは2020年3月16日から全社的にテレワークにシフトしています。

もともと、アドビは対面でのコミュニケーションを大事にするような企業文化がありましたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今回はデジタルファーストの運営をしてくことを明確に定めて、テレワークを導入しました。

そのため、デジタルファーストを進めるテレワーク支援のプログラムとして、従業員への金銭的な補助や特別休暇の付与など、新たな制度を整備しました。

特に、金銭的な補助に関しては、社員の心身の健康を守る目的のウェルネス補助プログラムと、テレワークに必要な備品を購入するためのWork From Home Fundの2種類を支給しています。

この支援プログラムは全世界共通の施策となっており、前者は年間で600ドル(日本円で6万円以上)、後者は1人当たり500ドル(日本円で5万円以上)を支給しています。

この補助金制度でテレワークに必要な設備を整えてもらい、原則としてオフィスの立ち入りを禁止する完全なリモート化を実現できました。

また、社員の健康が第一と考えた時に、段階的にテレワークを進めるのではなく、一斉に切り替えた方が良いと判断したので、全世界2万5千人の社員が同じタイミングでテレワークに切り替え、その後各国の状況を見ながら福利厚生や必要なサポートを1つずつ整備していった、というような流れです。

現在は感染状況によってオフィスをオープンする地域も出てきましたが、それ以外では、今も社員がフルリモート勤務を続けています。


ー採用活動もリモートでおこなっているとお聞きしましたが、具体的にどのような形でおこなっているのでしょうか。


赤木さん
:私は2020年5月入社なので、自分自身が全てリモートで入社した経験がありますが、アドビはフルリモートを前提としたオンボーディングサポートが整っていると実感しています。

入社前月には自宅にパソコンなど備品一式が届き、入社日にはパソコンのセットアップのセッションがあり、その日からすぐにTeamsでのチャットやミーティングにもスムーズに参加することができました。

また、システム面だけでなく、どの社員も気軽に面談に応じてくれるなど、フルリモートであっても新たな社員がすぐに既存社員とコミュニケーションを取れる環境が整っていました。

実際に昨年5月に入社してから今年7月まで、誰とも直接顔を合わせたことはありませんが、仕事にはほとんど支障を感じていません。

実は、初めてアドビの社員の方と直接お会いしたのは、ワクチンの職域接種のときでしたね(笑)。

赤木さん:このようなフルリモートでのオンボーディング体験は、 アドビに「デジタルファーストマインドセット」の考え方があったから実現できたのだと考えています。

デジタルファーストマインドセットとは、今後オフィスに戻ったとしても、場所にとらわれず最高のパフォーマンスで仕事ができるよう、デジタルでの業務を前提に環境を整備していこうという考え方です。

たとえば、「ドキュメントは必ずオンラインでシェアをしよう」とか、「新しいツールや働き方をどんどん試していこう」といった行動を示します。


ーテレワーク環境の整備については、新型コロナウイルス感染拡大前(2020年3月以前)より整えられていたのでしょうか?


赤木さん
:コロナ以前からテレワーク制度自体は存在しており、就業規則にも在宅勤務に関する規定はありましたが、個別に所属長の承認が必要なプロセスとなっていました。

また、会社のカルチャーとして「人が集まるところにイノベーションが生まれる」という考えが強かったため、実際の使用率は低かったとも聞いています。


高尾さん
:大前提としてアドビはグローバル企業であるため、海外とやり取りするオンラインツールはしっかり揃っていました。

社員もビデオミーティングに慣れており、コロナ以前から「オンラインでファイルの共同編集をおこなう」「オンライン会議のビデオはオンにする」といったことは浸透していました。

この前提があったからこそ、スムーズにフルリモートに移行できたのかもしれませんね。

また、フルリモートの制度構築や浸透に際しては、定期的に社員の声を拾い上げ改善を進めていくアジャイル型で進めることを意識しています。

先ほどご紹介した補助金プログラムだけでなく、特別休暇の延長や子育て世帯へのサポートなど、社員の声をもとにあらゆる支援体制の拡充を現在も進めています。

当初は、一部の営業部などで「お客様先に訪問ができないから不安」と言った声もあったようですし、他の現場でも多少の迷いはあったかもしれませんが、これまでに大きなトラブルや不安の声はなく、結果としてコロナ禍でもビジネスは右肩上がりに成長しています。

アドビが実践するテレワーク中のコミュニケーション施策とは

ーテレワーク中の社内コミュニケーションを円滑にするために実践していることを教えてください。


高尾さん
:アドビでは、社内コミュニケーションを高めるために、デジタル社内報オンライン飲み会BUイントロセッションといった社員向けの施策を実施しています。

まず、デジタル社内報については、自社の Adobe Spark というデジタルソフトを使って、社員が有志で作成しています。

この社内報には、「我が家の犬猫の特集」や「グルメな〇〇家はコロナ禍でこんなものを食べています」といったカジュアルな内容から、社員表彰やコメント、新入社員の自己紹介ページなど業務と関連性の高いものまで、多様なコンテンツが掲載されています。

社員の多様な個性やクリエイティブなアイデアが活かされる、エンターテインメント性にとんだ楽しい読み物となっている点が特徴です。

社内報としては開封率が50%以上と非常に高く、クリエイティブの会社であるアドビの良さが活かされた取り組みだと感じています。

また、BUイントロセッションとは、「ビジネス・ユニット・イントロダクションセッション」の略で、新入社員が他部門のリーダーから部門・社員紹介を聞く内容となっています。

アドビには全部で10個の部門があるので、月2~3回ほどセッションに参加して一巡すると、アドビの全体像が理解できる仕組みとなっています。

最後に、オンライン飲み会は、社長が主催で月に1度実施しており、毎回100名以上が参加する大規模なイベントとなっています。


ーさまざまな施策を導入されているのですね。テレワークを推進する中では、特に「上司と部下」といった縦のコミュニケーションがうまくできなくなるケースが多いようなのですが、この点を活性化する目的でおこなっている施策などはありますか?


高尾さん
:縦のコミュニケーションには、トップから情報伝達をおこなうトップダウン型と、メンバーからの意見を吸い上げるボトムアップ型の2方向があると考えています。

それぞれで取り組みを実施していますが、前者においてはオールハンズと呼ばれる全社ミーティングを実施することで、部門を超えた社員が集って全体に発信する場を用意しています。

また、後者のボトムアップ型の施策としては、サーベイの一種として目安箱を取り入れており、その名の通り「こういう制度を作ってほしい」「こういう手当がほしい」といった意見を、経営陣に対して直接リクエストできる仕組みとなっています。

もちろん、この目安箱もオンラインで実施しているので、バーチャル目安箱ですね(笑)。

各施策ともに、非常にシンプルな作りを意識しているのですが、これらがしっかりと運用に乗って機能しているのは、アドビに「社員の声を集めるだけでなく、素直にフィードバックする文化がある」からだと考えています。

今回紹介した以外にも、大きなイベントを実施するたびに必ずサーベイを行いますし、サーベイのフリーコメント欄に書かれた内容は経営陣自らが目を通すことを徹底しています。

そして、サーベイを確認するだけでなく、1年かけて必ずフィードバックやアクションに繋げていくようにしており、必ずフィードバックがあると思っているからこそ、従業員から忖度ない意見を集めることができているのではないかと考えています。

実際に、冒頭でご紹介した手当や特別休暇制度についても、コロナ禍となった当初の半年間で集まった意見から生まれています。


ー従業員が能動的に企業や組織を良くする意見やアイデアを出してもらうために何を気を付けていますか。

高尾さん:アドビは中途採用で入社した方が多く、色々な仕事やバックグラウンドを経験した方でチーム・組織が作られるため、この多様性が自然にアイデアや意見を生むことに繋がっているのだと考えています。

年齢も、趣味も本当に多様で、プロレベルの音楽や芸術のスキルを持った方もいれば、ヨガのインストラクターの資格をお持ちの方もいます。

また、多様な人材の集まりに加えて、「多様なものを受け入れる」環境もあり、相手の意見を否定する文化がない点もポイントかもしれません。

どんな意見でもつぶさずに、「それって面白いね」「あなたの考えはいいね」と、認め合う基盤があります。

このような環境があるからこそ、サーベイや日々のアイデア出しの際に自然と声が集まってくるのだと考えています。


ーテレワーク中の社員のモチベーション・メンタル管理は行っていますか。


高尾さん
:メンタルヘルスについては、ストレスチェックを実施して、適宜改善策を練っています。

テレワークだからといって特別なケアをおこなっているわけではありませんが、各マネージャーレベルでは1on1を頻繫に取り入れるなどして、未然にメンタル不調を防いでいる現状です。

実例でもお話させていただくと、私の上司の上司は現在シドニーにいるのですが、月に一度1on1があり、アジェンダを決めず会話をしています。

そのときに、「ヒデが困っていることがあったら、何でもサポートするからね、何か(話したい事は)ある?」と、常に気にかけてくれ、親身にサポートしてくれる実感があります。

この積み重ねが、テレワーク中のメンタルケアにつながっていると感じています。


ーその他、テレワーク中に取り組み始めた独自施策はありますか?

高尾さん:新たな取り組みとして、従業員向けデジタルアプリ「Adobe Life」という、自社のモバイルアプリケーションも開発しています。

「Adobe Life」とは、デジタルファーストマインドセットをもとに起案されたアドビ社員向けのアプリで、従業員がハイブリッドな働き方を実現するために開発され、まだ日本ではソフトローンチの段階となっています。

今後のオフィス再開時には、アプリ上で会議室やオフィスの席が予約できるなど、ハイブリッドワークをサポートする機能を充実させていく予定です。

こういったモバイルアプリケーションなども活用しながら、オフィス再開時にスムーズにハイブリッドワークを実現できるよう、準備を進めています。

アドビが目指す未来、ハイブリッドな働き方とは

ー最後に、アドビが目指す今後の働き方について教えてください。


高尾さん
:私たちは、「テレワークか、出勤か」と二択で選ぶのではなく、フレキシブルでハイブリッドな働き方を目指したいと考えています。

対面でのコラボレーションの重要性を実感している社員も多く、完全にフルリモートではなく、オフィスへの出勤も取り入れたフレキシブルな働い方をする社員が主体になると考えています。

職種によっては、フルリモートで働く社員もこれまでより増えるかもしれません。このように、オフィスでも、家でも働くことができるフレキシブルワーカーを主体としながら、フルリモートのみの社員も混在した組織として運営していくだろうと思います。


赤木さん
:今、高尾が申し上げたような新しいハイブリッドな働き方を、私たちは「Future of Work」と呼んでいます。

アドビのFuture of Workは、「デジタルファーストマインドセット」「ハイブリッドでフレキシブルな働き方」「新しい働き方を学び続ける」という3つの要素で定義しています。

これからも社員の声に耳を傾け続け、より最高のパフォーマンスを上げるための方法を模索し、柔軟に対応していくことが大事だと考えています。

完全なフルリモートに移行するのではなく、オンラインとオフラインとの良いところ取りをしたハイブリッドな働き方によって、人と人が体験を共にすることで生まれる繋がりやクリエイティビティを活性化していきます。

それこそが、「アドビの文化」を継承し、私たちが最高にクールなソリューションをお客様にお届けすることを可能にすると信じています。

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