
はじめまして。X Mile株式会社(以下:クロスマイル) 代表取締役CEOの野呂と申します。

執筆者野呂 寛之氏X Mile株式会社 代表取締役CEO
国際基督教大学(ICU)卒業後、Terra Motors株式会社のベトナム・カンボジア拠点にて海外駐在を経験。帰国後、FinTechスタートアップ・株式会社ペイミーの創業期に参画し、取締役COOとして事業拡大を牽引。2019年にX Mile株式会社を設立し、代表取締役CEOに就任。物流・建設・製造業などノンデスク産業の人材・組織課題を「HR」と「IT」の両面から解決するHRプラットフォーム「クロスワーク」および業界特化型の採用支援・経営支援SaaS「ロジポケ」等を展開し、ノンデスク産業のインフラ構築に取り組んでいる。
当社は、ノンデスク業界に特化したHRプラットフォーム「クロスワーク」を運営しており、これまで、特に採用難易度の高いとされる物流・建設・製造といった産業の人材支援に向き合ってきました。
これらの領域では、同じ職種でも求められる資格や要件が細かく異なります。たとえばドライバー職ひとつ取っても、扱う車両や業務内容によって必要な資格が変わり、求める人材像も大きく変わります。
人事の方の中には、ITエンジニアをはじめとする専門職採用に、難しさを感じている方は多いのではないでしょうか。
我々が複雑な前提の中で専門職採用を支援してきた経験は、他の専門職領域にも応用できるものだと感じています。本記事では、当社の現場のエージェントの経験も踏まえ、実際の採用現場で起きていることをまとめました。
専門職の採用に携わる方にとって、少しでもヒントになれば幸いです。
目次
専門職採用がうまくいかないのは、「情報の非対称性」が原因?
「現場の要件が理解できない」
「給与水準が高すぎて経営層の承認が下りない」
「エージェントに求人票を渡しているのに、なかなか良い候補者が来ない」
こうした相談を、私たちのエージェントは日々受けています。
課題の根っこはどれも似ていて、現場・市場・経営層との間に生まれる「情報の非対称性」ではないかと思っています。情報が正しく流通していないことで、採用がうまく機能しなくなっているのではないでしょうか。
「自社で育てる時間がない」という状況では、採用は単なる人員補充ではありません。外部から技術と経験を獲得する「投資」として捉え直すことが、まず必要なのではないかと思っています。
では、専門職採用をうまく進めている人事担当者は、実際に何をしているのでしょうか。私たちが現場で感じている4つのポイントをお伝えします。
①「現場ヒアリング」を捨て、「現場理解」へ転換する
専門職採用でまず直面するのが、「採用像が定まらない」という壁です。担当人事がその職種の経験を持たない場合、特にこの課題は大きくなりがちです。
現場に「どんな人が欲しいですか?」と聞いても、返ってくるのは「経験者」「即戦力」「コミュニケーションが取れる人」という言葉が中心です。
これは現場の協力姿勢の問題ではないと思っています。「自分たちが当たり前にやっていること」を言語化すること自体が、難しいのではないでしょうか。
そこで有効なのが、成功・失敗の「事例ベース」で人物像を整理するアプローチです。
「これまでに採用した中で、活躍した方にはどんな共通点がありましたか?」
「逆に、うまくいかなかった方にはどんな特徴がありましたか?」
こうした問いかけをベースに現場の声を集めていくと、採用像に具体的な輪郭が生まれてきます。活躍・失敗の事例を伴った具体的な依頼ができると、エージェントも人事側が想定していなかった候補者を提案しやすくなります。
- 即日から動ける人が必要なのか
- 多少時間をかけて育てられる環境があるのか
この点を人事側が整理しておくだけで、エージェントへの依頼条件が格段に明確になります。
②「社内給与テーブル」ではなく「市場の決定価格」で条件設計する
採用像が定まったら、次は給与条件の設計です。
多くの企業は「社内の給与テーブル」を基準に条件を決めています。それ自体は自然な判断ですが、市場相場との乖離に気づきにくいという側面があります。市場より低い条件のまま募集を続けると、母集団が形成できずに時間だけが過ぎていく——。私たちのエージェントも、そうした場面をよく目にしています。
専門職採用においては、「社内論理」ではなく「市場の決定価格」を起点に条件を組み立てることが、採用の成否を左右するのではないでしょうか。
市場相場を把握する手段としては、主に以下が挙げられます。
- 求人媒体(Indeed・dodaなど)に掲載されている類似職種の給与帯を調査する
- エージェントに直近の「内定実績」「求職者の希望年収帯」を直接ヒアリングする
- 同業他社の求人票を複数比較し、条件の分布を把握する
中でも、エージェントへの直接ヒアリングは特に有効だと感じています。今どの年代が転職市場に出ているか、どの年収帯の候補者が実際に動いているか。こうしたリアルタイムの情報を、人事側から積極的に引き出していただけると、提案の精度も上がります。
また、候補者の希望年収と自社の提示額にギャップがある場合は、上限をエージェントに正直に伝えていただくことをお勧めしたいです。「もしかしたら増額できるかも」という曖昧な状態で進めると、条件が合わない候補者の選考に時間を使うことになりかねません。
現実の上限を共有していただくことで、条件に合致した候補者に絞った提案ができ、結果的に採用が早まることが多いと感じています。
③経営層を動かす「ROI」のロジックを持つ
給与水準の引き上げや採用エージェントの活用を提案しても、「高すぎる」「費用対効果が悪い」と経営層に却下される——。こうした場面に直面している人事担当者の方は、多いのではないでしょうか。
根本には、見ている景色の違いがあるのではないかと思っています。
経営層は「人」を見ながら、同時に「売上や各種経費を含めた経営全体のバランス」も見ています。一方、人事は「この人が入ることで現場がどう変わるか」という具体的なイメージを持っています。
どちらの視点も正しく、対立ではなく、見えている情報量の差から生まれるすれ違いではないでしょうか。
それを踏まえ、経営層に伝わりやすいのは、「採用にかかるコスト」ではなく「採用できなかった場合のコスト」を数値で示すアプローチではないでしょうか。以下は、年収500万円の専門職1名を採用するケースの試算例です。
| 採用できなかった場合のコスト | 試算例 |
|---|---|
| 外注費(業務を外部委託している場合) | 月50万円 × 12ヶ月 = 年600万円 |
| 既存メンバーの残業代増加分 | 月5万円 × 3名 × 12ヶ月 = 年180万円 |
| 機会損失合計 | 年780万円 |
採用にかかる初年度の投資は、年収500万円+エージェントフィー約175万円で合計約675万円です。採用しないほうが年間100万円以上コスト高になる——という構図が見えてきます。
自社の数字に置き換えてこの試算を経営層に示すことで、「採用費は経費」という認識を「採用しないことこそリスク」へと転換できるかもしれません。
④エージェントへの情報共有が、人事の工数を減らす
エージェント活用において、私たちが最も動きやすくなるのは「社内の情報をオープンに共有してもらえること」です。情報共有が不十分なまま進めると、ミスマッチな候補者の選考対応に時間を取られたり、選考が長期化して候補者の意向が下がったりしがちです。
具体的に共有いただくと助かる情報としては、たとえばこんなものがあります。
- 採用予定ポジションの上長が40代で、それより年下かつ経験豊富な人材が必要だが、連携が取れる配慮のある方を求めている
- 年収の上限は◯◯万円であり、それ以上の提示は現実的に難しい
- 書類選考の返答に3日かかっているのは、担当者のリソース不足によるもの
「取り繕わなければ」と感じる必要はないと思っています。こうした情報を共有いただくほど、的確な候補者に絞った提案ができ、人事側が選考対応に割く時間も自然と減っていきます。
面接後の評価・懸念点も、具体的に伝えていただけると助かります。「何となく気になる点がある」ではなく、「具体的にどの点が課題だったか」を共有していただくことで、次回の推薦精度が上がり、選考サイクルが短縮されていきます。
複数候補者の並行選考についても、状況を事前に共有いただけると、連絡タイミングや伝え方をあらかじめすり合わせることができます。
まとめ
| ポイント | 内容 | 次のアクション |
|---|---|---|
| ①現場理解 | 事例ベースの人物像棚卸しと「負の連鎖」の可視化 | 現場に「活躍した人・しなかった人」を聞いてみる |
| ②条件設計 | 市場データを起点にした給与水準の設定 | エージェントに直近の内定実績を確認する |
| ③経営層への提案 | 「採用しない場合のコスト」を数値化して示す | 自社の数字でROI試算を作ってみる |
| ④エージェント活用 | 社内情報をオープンに共有し、採用効率を上げる | 次回の打ち合わせで「ぶっちゃけ話」を一つ共有する |
専門職採用は難易度が高いとされますが、これらのポイントを実践することで、再現性のある採用の仕組みをつくることは十分に可能ではないかと思っています。
クロスマイルでは、建設・物流・製造をはじめとするノンデスク産業の採用・定着・生産性向上を支援しています。専門職採用に課題をお持ちの人事・経営者の方々にとって、本記事が少しでも実務の参考になれば幸いです。
