就活ルールの廃止により、新卒採用市場で注目されている「通年採用」。
採用担当者の方の中には、「自社でも通年採用を始めたほうがいいのではないか」と考えている方も多いのではないでしょうか?
本記事では、そのような人事担当者の方に向けて、通年採用をすでに実施している企業の「採用ページ」や「人事担当者のインタビュー記事」を参考に、各企業における通年採用実施の裏側をまとめてお届けいたします。
はたして新卒採用は通年でおこなうべきなのか、各企業の事例からわかることをまとめてみました。
【新卒採用】5分でわかる通年採用|ポイントや導入企業を紹介!
通年採用を実施している企業の事例
今回は、以下の5つの企業をご紹介いたします。
1.ソフトバンク
業界 | 従業員数 |
情報・通信業界 | 約17,100人(2019年現在) |
携帯端末やインターネットに関わるサービスだけでなく、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を運用して積極的な事業投資をおこなうなど、1986年の設立から現在までで日本を牽引する大企業となった『ソフトバンク』。
「情報革命で人々を幸せに」という経営理念を実現し「世界No.1」「300年続く会社」を作るため、人口知能など最先端のテクノロジーを駆使して成長を続けています。
ソフトバンクでは、通年採用として「ユニバーサル採用」を実施しています。
概要
ソフトバンクの「ユニバーサル採用」は、主体的に行動・選択ができる人材を採用することを基本としており、採用サイトには、以下の考えが記載されています。
将来を担う人財には、自分の可能性を限定せず、意思を持って主体的に進路を考え、選んでほしい。企業は、必要な時に、必要な人財を採用する。それを実現するのが、本来あるべき普遍的(ユニバーサル)な採用だと確信し、ソフトバンクは2015年より「ユニバーサル採用」をスタートいたしました。
採用形態
採用方式 | 30歳未満の新卒/既卒/就業者へのポテンシャル採用 |
入社時期 | 4月、7月、10月 |
新卒採用人数 | 300人~400人(20卒予定) |
30歳未満であれば選考を受けることができる点において、挑戦する意欲のある若手に広く門戸を開いて採用活動をしていることがわかります。
また、「No.1採用」や「就労体験型インターンシップ」など、通常の選考方法以外のユニークな選考にも力を入れています。
通年採用を始めた背景
「ユニバーサル採用」を始める前までは、大きな母集団を形成し、その中から効率的に求める人材を採用していたようです。大手求人サイトなどを活用したプロモーションを積極的におこなうことで認知度を向上させていました。
しかし、自社の採用力と認知度の向上に限界があることに課題を感じたことで、新卒採用においても「欲しい人材は企業側から採用しにいく」という姿勢にシフトしました。
そして、1年を通して優秀な人材と出会える可能性が高い通年採用に採用形態を変えることにしたようです。
①「大手だから…は言い訳でしかない」ソフトバンクが仕掛ける5つの採用手法とは?|HRNOTE
②【人事の挑戦】 ソフトバンクの「ユニバーサル採用」「No.1採用」「地方創生インターン」とは?|リクナビNEXTジャーナル
③企業の採用が変わる?大手4社が解説(2) ソフトバンクはAIを活用し、採用を効率化|マイナビニュース
2.ユニクロ(ファーストリテイリンググループ)
業界 | 従業員数 |
アパレル・小売業界 | 46,876名(2017年時点) |
「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」を理念として掲げる同グループは、素材調達から販売までのサプライチェーンを効率化することで、消費者に高品質でリーズナブルな衣服を提供しています。
海外展開も積極的におこなっており、現在ではアパレル小売業界世界3位の売上高になるまで成長しました。
そして、その傘下である『ユニクロ』は、LifeWear(究極の普段着)をコンセプトに世界中の全ての人々の日常を快適にする衣服を作り続けています。
ユニクロでは、採用方式を「グローバルリーダー社員」「地域正社員」の2種類の募集形態でおこなっており、その中の「グローバルリーダー社員」の採用が通年で実施されています。
概要
ユニクロのグローバルリーダー社員は、「世界に通用する実力を身につけグローバルで活躍したい人」と定義づけられています。
グローバルリーダー社員を通年で採用することで、応募者が「自分にとってふさわしい仕事とは何か」についてしっかり考えるチャンスを与える狙いがあります。
採用サイトには、以下のように記載されています。
一人ひとりが仕事について真剣に考え、主体的に行動し、納得した将来が送れるように、ユニクロでは、一年中いつでも応募を受けつけています。
学年、新卒・中途、国籍を問わないオープンな採用方法にすることで、みなさんが、自分にふさわしい仕事とは何かを考えるチャンスを増やし、一人ひとりが主体的に、自由に応募できるようにしています。
採用形態
採用方式 | 新卒/中途を問わないポテンシャル採用 |
入社時期 | 3月、9月 |
新卒採用人数 | 200人~300人(20卒予定) |
大学1.2年生でも選考を受けることができたり、店舗でのアルバイトや長期インターンなどを積極的におこなったりしています。
また、選考を通過した者には、3年以内であればいつでも最終面接を受けることができる「ユニクロパスポート」を発行しています。
通年採用を始めた背景
ユニクロは、2013年度新卒の入社にあわせて2011年12月より通年採用を始めました。
「就職活動の主役は、企業ではなく個人であり、個人が自由に考え、将来の希望を選択する自由があるべき」という考えから、学生が就職活動を開始するタイミングに合わせて必要な情報を提供する、よりオープンな採用方法に切り替わった形です。
新卒一括採用という体制に対して疑問を感じ、また早くから優秀な学生と働くことができるシステムを作ることが目的であったようです。
①ユニクロは、「自分にふさわしい仕事は何か?」を考えるチャンスを増やす、通年採用を開始|UNIQLOプレスリリース
②世界の80億人に商品届けたい 「チームをまとめる力」ほしい|就活ニュースペーパーby朝日新聞
3.ヤフー
業界 | 従業員数 |
インターネット業界 | 6,515人(2019年現在) |
1996年に設立した『ヤフー』は、「UPDATE JAPAN」というミッションを掲げ、情報技術の力で日本をもっと便利にするさまざまなサービスを提供しています。
近年では、ポータルサイトの「Yahoo!JAPAN」の運営をベースに、「ヤフオク」や「ヤフーショッピング」などの購買データをビックデータとして活用することに力を入れています。
ヤフーでは、2016年から新卒一括採用を廃止し、「ポテンシャル採用」「キャリア採用」として通年採用を実施しています。
概要
ヤフーでは、新卒を主にポテンシャル採用の枠で採用します。
通年採用を実施することで各学生のスケジュールに合わせて選考をおこなうことができる体制を取っており、従来の一括採用よりも優秀な人材に出会う機会を増やしていることがわかります。
通年採用を始める際にヤフーが出したプレスリリースには、以下のような記載があります。
これまでの「新卒採用」と就業経験を重視する「中途採用」では、第二新卒や既卒などの方に対して平等な採用選考機会を提供できないことに加え、昨今、海外留学生や博士号取得者など就職活動の時期が多様化し、従来よりも柔軟な採用の枠組みが必要となってきました。
新卒、既卒、就業経験の有無など経歴に関わらず、30歳以下の方であればどなたでも応募できる「ポテンシャル採用」とこれまでの「中途採用」を踏襲した「キャリア採用」を開始することで、多様な人財に平等な採用選考機会を提供し、優秀な人財を採用していきたいと考えています。
新卒一括採用を廃止し、新卒や既卒、第二新卒など経歴に関わらず30歳以下の方を対象とした「ポテンシャル採用」を開始(ヤフー株式会社|プレスルーム|)
採用形態
採用方式 | 応募時30歳以下、入社時18歳以上へのポテンシャル採用 |
入社時期 | 4月、10月 |
新卒採用人数 | 459人(19卒) |
選考期間には、さまざまな事業部の社員から現場の話を聞くことができる面談「1on1」を実施しています。
また、1年間に採用する人数が決まっていたり、配属や研修をするためのコストを考慮したりした結果、入社時期は年に2回となったそうです。
通年採用を始めた背景
ヤフーの通年採用は、「新卒一括採用は学生にとってデメリットがある」「企業は学生目線に立った採用をすべき」という考えから始められました。
新卒一括採用は、限られた就職活動期間の中で会社を選ばなければなりません。また、「学業や研究に励みたい学生」や「海外に留学した学生」など、さまざまな学生のニーズに答える採用をすることが非常に重要だと考えているようです。
また、「就職サイト」や「自社リクルーティングサイト」を活用するだけでなく、実際に大学の研究室に足を運び、直接学生や教授と話をしながら母集団を形成しており、そういった観点からも通年採用という形式が最適な採用形態であると考えらているようです。
①ヤフーが実施する通年採用の裏側|3年続けて感じた「利点」と「難点」|HRNOTE
②人気企業担当者に聞く!「新卒一括採用」の見直しで就活はどう変わるのか?|AERAdot.
③企業の採用が変わる?大手4社が解説(4)ヤフーは新卒一括採用を廃止し、働き方改革を進める|マイナビニュース
4.リクルートグループ
業界 | 従業員数 |
人材業界 | 45,856名(2019年現在) |
人材紹介や人材派遣などの人材業からメディア運営やHRテックまで、さまざまな「不」を解決するサービスを世界で展開している『リクルート』。
「Follow your Heart」というビジョンのもと、グループ会社それぞれが“個人”と“企業”をつなぐビジネスをおこなっています。起業家を多く輩出することでも知られており、現在の日本を代表する企業の一つです。
リクルートは、2019年4月入社以降の新卒から国内グループ9社の新卒採用窓口を統合し、グループ会社である「リクルートホールディングス」や「リクルートライフスタイル」の採用方法を継承する形で通年採用を始めました。
概要
学生の応募先が株式会社リクルートに統合されたため、グループ全体としての採用プロセスが簡略化されました。
内定後の配属先も、各グループ会社の枠にとらわれず横断的な異動が可能になりました。各グループ会社の良い施策を取り入れることで、グループ全体として新卒採用をアップデートしようとしていることがわかります。
通年採用を始める際にリクルートが出したプレスリリースには、以下のような記載があります。
2012年の分社化以降、事業に必要な人材を迅速に採用し、事業の成長を実現するため、各社で新卒採用を実施してまいりました。その中で、リクルートホールディングスによる「30歳まで応募可能な新卒採用」やリクルートライフスタイルによる「365日通年エントリー」などの新しい取り組みが誕生しました。
こうした取り組みの適用範囲を広げることで多様な人材を採用し、さらに、各社の垣根を越えて新卒人材の適材適所をより迅速に行うことを目的に、2019年4月以降の入社予定者を対象とした国内9社の新卒採用を統合することにしました。
リクルート、国内9社の新卒採用を統合 より自由度の高い新卒採用へ ~30歳まで応募可、365日通年エントリー受付~|(リクルートホールディングス|プレスルーム)
採用形態
採用方式 | 既卒/就業経験を問わない 30歳以下へのポテンシャル採用 |
入社時期 | 4月 |
新卒採用人数 | 不明 |
通年採用に合わせてインターンシップの機会も拡大させており、優秀な学生に幅広く接触できるような体制を作っています。
また、リクルートの面接では学生の過去を掘り下げることで人となりを理解することを重視しています。
そのため、学生がやりたいことをやる(=過去を作る)ためには、就職活動の時期を固定化せず、通年化する方が望ましいと考えているようです。
通年採用を始めた背景
通年採用の原型は、グループ会社のリクルートライフスタイルが2017年より始めた「新・新卒採用」です。
この採用形式は、「就活の時期が決まっていると、本当はまだやりたいことがあるのに無理やり就活をしている人もいる。やりたいことを就活の時期が来たからやめるというのは非常にもったいない。」という考えのもと、学生の就職活動に対する窮屈さを解消し、働きたいときに働くという選択ができるようにする目的で始められました。
この考えは現在も受け継がれており、学業や部活動、留学など、各個人のスケジュールに合わせて選考をおこなうことで、学生にとって最適なタイミングで就活ができる環境を整えるようにしています。
①「あわてて決めなくていい」リクルートの採用大改革|出世ナビ|NIKKEI STYLE
②企業の採用が変わる?大手4社が解説(1)リクルートの採用は、AIと人によるハイブリッド方式に|マイナビニュース
③『新・新卒採用』の裏側を探る!/リクルートライフスタイル|ガクセイ基地
5.楽天
業界 | 従業員数 |
インターネット・サービス業界 | 17,214名(2018年時点) |
「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」という企業理念のもと、「楽天市場」や「楽天トラベル」などのインターネットサービスを中心に革新的なサービスを生み出している『楽天』。
最近では、「楽天ペイのキャッシュレス事業」や「携帯キャリア事業への参入」など、日本のテクノロジー分野を牽引するグローバルイノベーションカンパニーとして存在感を示しています。
楽天では、2015年から開発部(エンジニア職)の新卒一括採用が廃止され、職種別通年採用になりました。
概要
イノベーションを起こし続けるために、楽天はたとえ学生であっても自分の強みや専門性を活かしてチャレンジすることができるエンジニアを採用する方針です。
採用サイトには、以下のような記載があります。
2010年に英語公用語化の方針を発表したことを契機に、世界中から多様な価値観を持つエンジニアが各業務・プロジェクトに参画するようになりました。世界では優秀な人材を採用するのに「新卒か、中途か」という区別は必要ありません。学生であっても自分の強みや専門性をいかし社会にチャレンジできる、これがグローバルスタンダードです。
採用形態
採用形式 | 就業経験は問わない既卒(学士・修士・博士)の職種別採用 |
入社時期 | 毎月入社可能/個々人に応じて対応 |
新卒採用人数 | 約300人(19卒) ※ビジネス総合職を含む |
採用は、応募の時点で希望の職種やサービスを選ばせ、各ポジション別で実施しています。個人の能力により給与が決まるようになっているなど、入社前の段階から即戦力となる専門性を持っている人材を求めています。
通年採用を始めた背景
楽天が通年採用を始めたのは、革新的なサービスを生み出すことができる優秀なエンジニアを世界中から採用するためです。
楽天では、2010年から海外進出や社内公用語英語化をはじめとした社内のグローバル化を進めています。
入社希望者の年齢や職務経験、入社時期を限定しないことで、留学生や海外の学生も応募しやすい環境を整えるとともに、多様な価値観を持つエンジニアを随時採用する目的があります。
新卒採用を通年でおこなうべきなのか?
ここまで、各社ごとに通年採用の概要やそこにいたるまでの背景を詳しく見てきました。実際に、多くの大企業が新卒採用を通年で実施しており、この流れは、今後も広がっていくことでしょう。
その中で、すでに通年採用を実施している企業で共通しているのは、それぞれの採用戦略が明確になっており、通年採用を一つの手段として利用している点です。
「エンジニアとしてのスキル持った学生にアプローチしたい」「海外留学をしていた学生でも選考に参加できるようにしたい」
など、それは企業ごとに少しずつ異なっていますが、通年採用に至るまでの背景やビジョンは採用戦略、および経営戦略にしっかりと結びついていることが伺えます。一口に「通年採用」と言っても、ただ始めるだけにならず、採用戦略を明確することが重要ではないでしょうか。
また、通年採用は、企業におけるメリットよりも学生にとってのメリットの方が大きいことも事実としてあります。
「通年採用」というワードに踊らされず、新卒採用でどのような学生と出会いたいか、自社で検討するところから始めると良いかもしれません。
最後に
最後に、企業側における通年採用のメリットとデメリットを簡単にまとめます。
【通年採用のメリット】
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【通年採用のデメリット】
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これからの新卒採用を勝ち抜くために、もはや「通年採用」は避けられないトピックの一つだと思います。
企業の人手不足が続く中で、新卒採用市場はレッドオーシャン状態です。そんな中でも、通年採用を実施することで優秀な新卒と出会うことができている企業が実際に存在しています。
また、これらの企業の通年採用を始めた背景から読み取れる新卒採用戦略には、その企業ならではの考えが色濃く反映されていました。
採用したい学生像をしっかりと定義し、その中で通年採用が一つの手段として適切に実践されれば、厳しい新卒採用を乗り切ることができるかもしれません。
通年採用をおこなう背景には、各社のさまざまな考えがあり、さらに新卒を採用した先のゴールがあります。
新卒採用の先にある皆様のゴールに向かって、本記事がその一助になれば幸いです。