就活ルールが廃止され、これからの新卒採用で注目されはじめている「通年採用」。経団連は、選考の時期が春に偏った一括採用を見直して、「通年採用」を広げていく方針です。
しかし、新しい取り組みのため、どのように通年採用に着手すれば良いのかわからないという企業も多いのではないでしょうか。
そこで今回、2016年から通年採用を実施してきたヤフー株式会社 人事部長の遠藤さんに、ヤフーが取り組む通年採用に関してインタビュー。
現在では18歳から30歳まで対象を広げ、新卒のみならず第2新卒、外国人留学生など、多様な人材を採用しています。
ヤフーが通年採用を始めた背景には、どういった考えがあったのでしょうか。また、通年採用を実施する中で、どのような困難を乗り越えてきたのでしょうか。
ヤフーが通年採用を始めた理由から、3年間続けて感じたこと、これから通年採用を始める企業へのアドバイスなど、遠藤さんの考えをご紹介します。
【人物紹介】遠藤 禎士(えんどう ただし) | ヤフー株式会社 ピープル・デベロップメント統括本部 コーポレートPD本部
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。
1|「より学生目線に立った採用を」役員の一言ではじまった通年採用
−はじめに、ヤフーさんが通年採用を実施した背景を教えてください。
遠藤さん:ヤフーの通年採用は、当時の執行役員であった本間の一言からはじまりました。
本間自身が、「新卒一括採用は、学生にとってデメリットがある」ことを課題に感じていたんです。
そこで本間が、「もっと学生目線に立った採用をするべきだ。一括採用から通年採用にしよう!」と社員に訴えかけ、その言葉に共感した社員たちによって、通年採用のプロジェクトが進んでいきました。
−新卒一括採用は学生にとってどのようなデメリットがあるのでしょうか。
遠藤さん:就職活動の時期が限定されてしまうため、学生は自分のやりたいことができなくなってしまうことですね。
学生の本業はあくまで「学業」であり、就職活動の時期でも学業に励みたい学生はいます。しかし「3月に一斉スタート」となると、この時期の授業に出ることができなかったり、学会での研究発表の時期と重なってしまったりします。
また、海外に留学した学生が帰国すると、多くの企業が新卒採用を締め切っていて、卒業を1年先送りにしなければならないといったケースもあります。
−では、新卒一括採用は企業にとってのメリットが大きいのでしょうか?
遠藤さん:採用活動を始める「就活解禁日」が決まっていると、その日までに会社説明会や面接の準備ができるので、企業にとっては効率がいいんです。また、入社後の研修を同時にできるというメリットがありします。
ただ、企業として効率的な採用をおこなうことも大事ですが、一番重要なのは学生の目線に立った採用活動をおこなうことですよね。
そこで私たちは、学生が学業に専念しつつ就職活動をおこなえるよう、「通年採用」を実施することになりました。
−ヤフーさんのような大企業で、従来のやり方から新しいやり方に変えることは大変だと思うのですが、通年採用を始める際に何か議論はありましたか?
遠藤さん:議論があったのは、「募集しはじめる時期と終了する時期」についてですね。
たとえば、今のヤフーは「2022年度の採用を開始しました」と宣言をしなくても、新卒学生を含めた30歳以下の方から応募が来ます。こういったときにどう対応するかという議論がありました。
通年採用といっても、1年間に採用する「人数」と「職種」は決まっていますから、どこかのタイミングで1年間の採用を終了させ、次年度の採用に切り替える必要があります。
ですので、採用人数に達し、次年度の採用に切り替えるタイミングで応募が合った際は、応募者に次年度の選考フローに乗ってもらうことになりました。
2|通年採用は事業部サイドの連携も欠かせない
−「採用人数」や「募集職種」が決まっているとのことですが、2019年度はどのくらいの新卒学生を採用されたのですか?
遠藤さん:2019年度の新卒は459人で、そのうちエンジニアとデザイナーが約360人、残りの約100人がビジネス職での採用になります。
−ちなみに、「採用人数」や「募集職種」はどのように決めているのですか?
遠藤さん:採用人数は、経営陣が事業の状況や中期計画を見て、おおよその数を決めています。しかし、事業の変化やビジネスの変化があれば、期中で採用人数が変わることもあります。
また、新卒採用だと夏前から応募数がガクッと減少してくるので、それを見越した計画を立てています。
−1年間の応募数に波はあるのでしょうか。
遠藤さん:そうですね。一括採用は決まった時期に応募が集中してそこで採り切るイメージですが、通年採用では1年間というスパンになるので応募数にも変動があります。
まず、学生からの応募数でいうと、年末に1度増加します。これは、早く就職先を決めて自分の研究に集中したいと考える学生がいるためです。
年末が過ぎた1月2月は国際学会の開催が増えるため、特にエンジニア職の応募数が減ります。学会が終わるまでは研究に集中し、終わった後に就職活動に専念する学生が多くいるんです。
そして、年度末の3月の応募数が非常に多くなります。この時期は就活ナビサイトがオープンする時期とも重なるため、すべての職種での応募が増加します。
4月に入ると、応募数は徐々に減っていくのですが、夏にあるインターンの直後に再び増加します。こちらは次年度入社の学生ですね。そして、年末までまた落ち着くといった波がありますね。
−応募数に波がある中で、どのような手法で母集団を形成されているのでしょうか?
遠藤さん:大きくは就職サイトや自社リクルーティングサイトを活用して母集団形成をおこなっています。
また、私たちは学会や大学の研究室に実際に足を運び、直接教授や学生と話をして応募につなげる動きもとっています。
「ヤフーの研究成果を、世界トップクラスの国際学会で発信したんです」といった内容を教授と話すと、教授がヤフーの学術的な側面に興味を持ってくださることがあります。
このように、積極的に大学の関係者とコミュニケーションをとることで、教授や学生とのつながりを増やしていっています。
研究室への訪問を地道に続けていると、研究熱心な学生が応募してくれたりするんです。
実際に、教授から生徒に「良い企業だよ」と紹介していただくこともありました。たとえば、東京大学には約200人の学生が所属する研究室があるのですが、そのうち17名がヤフーに入社しました。
ヤフーはこういった母集団形成の方法をとっています。
−一括採用だと決まった日時・期間で会社説明会をおこなう企業が多いかと思いますが、通年採用の場合はどのように開催していますか?
遠藤さん:会社説明会はオンラインで開催したり、動画サイトでライブ配信をおこなったりしています。ただ、もともと説明会は日時を決めて定期的に開催する方法はとっていませんでした。
また、現在ヤフーは選考を受けるうえで説明会の参加は必須ではありません。オンライン会社説明会に参加しなくても、ヤフーの選考を受けることはできます。
その代わりに、ヤフーを理解してもらうために力を入れている施策があり、それは選考の途中でおこなう「1on1」です。
−「1on1」とはどのようなものなのでしょうか?
遠藤さん:選考の途中で、社員から現場の話を聞くことができる面談です。
通年採用の間、さまざまな事業部の社員と学生が「1on1」をおこなっており、1年間で約1,000人の学生に対して約260人の社員が担当しています。
1年の間に何度も実施するため、「1on1」では事業部の方々にかなり協力していただいています。
−ー人の社員が約4人の学生と面談をおこなうわけですね。とても大変そうに思えますが、どのようにして事業部から協力を得ているのですか?
遠藤さん:事業部としては、「自分たちの文化に合う学生」「自社の仕事をまっとうしてくれる学生」など、将来の戦略になる人材を求めているわけです。ですので、事業部側が「やりたい」と手を挙げてくれるんです。
事業部が採用活動に前向きな姿勢であることが、「1on1」への協力につながっているのだと思います。
さらには採用の基準も事業部が決めたいと主張してくるほどです(笑)。
−採用の基準も事業部側から提案があるのですか?
遠藤さん:はい。「求める人物像」など、会社で統一している採用基準はありますが、それ以外の意見は事業部側から積極的にもらうようにしています。
採用するかどうかの意思決定や、採用方法の改善案など、どんどん意見が上がってきますね。通年採用は、事業部側との連携が鍵を握っています。
−新卒一括採用は、内定式や入社式、入社後の研修をまとめておこなうことができますが、通年採用の場合はどのように実施しているのでしょうか。
遠藤さん:入社のタイミングは、4月と10月の2回にわけています。それに合わせて入社式と入社後の研修も2度おこなっています。
入社後の研修は、一括採用をおこなっていたときと同様に集合研修をしています。入社後の研修は重要だと思っているので、そこは変わらずに手厚くしっかりとおこなっていますね。
−新卒向けに内定式はおこなっているのですか。
遠藤さん:内定式は実施していません。その代わりに定期的に懇親会を開いており、そこで内定者どうしで悩みや不安など、色々なことを共有し合ってもらっています。
−多くの新卒学生は4月入社になると思うのですが、10月はどういった学生が入社されるのでしょうか?
遠藤さん:主に海外の大学に通う学生や、留学していた学生が多く入社しますね。あとは博士課程の学生で10月に卒業が決まっている子や、外国人の学生も10月入社が多いです。
3月に卒業して、4月に一斉に入社することが当たり前なのって、日本だけなんですよね。
3|通年採用を3年間続けて感じた「利点」と「難点」
−ヤフーさんは通年採用を実施されて3年が経ちますが、一括採用をおこなっていた頃と比べて変化はありましたか?
遠藤さん:応募してくれる学生のタイプが変わったと感じています。
一括採用をおこなっていたときは、「就職活動を3ヶ月から4ヶ月で終わらせたい」と考える学生から応募が大半でした。
しかし、通年採用を始めてから、「研究に集中するために、早めに就職活動の準備をしたい」など、自由なタイミングで就活を始めたいと考えてる学生からの応募が増えたと感じています。
そういった学生は早期にインターンに応募して、会社をじっくり理解しようとしてくれます。そのうえで、入社を決め、後の期間は研究に集中するようです。
たとえば、「国際学会で入賞したい」といった考えを持ち、情報理工学の分野において豊富な知識を持つ学生を採用できるようになったことは会社としても嬉しいです。
一括採用をおこなっていた頃に比べて、多様な考えを持つ学生からの応募が増えたことは、大きな変化になります。
−その他、通年採用に取り組んできてよかった点はありますか?
遠藤さん:「やりたいことを実現するために、就職活動の時期を選びたい」と考える学生に、ヤフーが合わせやすいことはいいことだと思います。
たとえば、半年間の留学を終えた学生が、1年間卒業を遅らせることなく就職したいといった場合に、「今年度の採用は終了しました」とお断りせず、面接することができます。
−学生にとっても、いつでも面接をしてもらえるのは嬉しいですね。
遠藤さん:また、既卒の学生もいつでも応募することが可能です。
既卒学生には、経験を積むために卒業後にインターンをしていた学生などが当てはまります。一括採用では既卒学生の採用は受け付けていない企業も多いため、優秀な既卒学生の人材を採用できることは利点となっているではないでしょうか。
−逆に、通年採用で「難しい」と感じることはありますか?
遠藤さん:採用計画に対する進捗を確認する際に、ときどき混乱します。
「この人は何年入社の学生だっけ」「何年入社の学生は今何人オファーを出したんだっけ」といった疑問が生まれることがあります。
−たしかに、18歳から30歳まで年齢が幅広いと、入社年や時期が混乱しそうですね。
遠藤さん:また、人事の都合で、優秀な学生を受け入れることができなかったことがありました。
面接は通年でおこなっているものの、入社する時期については4月と10月の2回しかありません。現場の人たちが「この学生、優秀だから7月に入社させてほしい」と言っても、どうしても対応できなかったのです。
−どういった理由があって対応できなかったのでしょうか?
遠藤さん:人的リソースが不足していることと、仕組みに問題があることが理由だと思っています。
採用は、オファーを出すだけなので人的リソースはそれほど必要ありません。しかし、その後の受け入れの仕組みが大変なのです。多くの手続きが発生します。
さらに研修をおこなったり、配属先を決定したりするために、多くの社員を巻き込んで体制を整えなければなりません。そのため、毎月学生を受け入れようとすると、どうしても人手が不足してしまう現状があるのです。
−毎月の受け入れとなると負担が大きくなってしまうのですね。
遠藤さん:そうですね。
人手が足りないから毎月受け入れることができないと言いましたが、毎月新入社員の受け入れを実施している他社さんもあります。
それを考えると、仕組み自体を変えていき、年2回だった受け入れ体制を年3回、4回と増やしていきたいですね。
4|就活ルールが廃止され、新卒採用は変わる。今後の展望
−最後に、遠藤さんが考えるこれからの新卒採用についてお伺いできればと思います。まず、経団連が一括採用のルールを廃止するというニュースを受けて、どのように感じましたか。
遠藤さん:「やっと、国の主張と経団連の考えがかみ合ってきた」と感じました。
国としては、人口を増やすために、企業には積極的に採用に取り組んでほしい。一方で、企業が新卒一括採用を続ければ、優秀な学生や外国人人材を獲得することが難しくなってきます。この矛盾が、今回の就活ルールの廃止によってつじつまがあってきたなと思います。
−就活ルールの廃止によって、通年採用を始める企業が増えるかと思いますが、学生の考え方も変わるのでしょうか。
遠藤さん:就職先を早く決めたいと考える学生、やりたいことが終わってから就職先を決めたいと自分のペースで就活を考える学生が増えるのではないでしょうか。
今ヤフーに応募してくれているような学生のように、多様な考えを持つ学生が増えると思います。
−これから通年採用をはじめる企業に伝えたいことはありますか?
遠藤さん:仮にトップ層が「うちの会社も通年採用を始めよう!」と主張しても、安易に通年採用をはじめることはおすすめしません。
受け入れのタイミングや回数をきちんと決めてからはじめたほうがいいと思います。というのも、面接をおこなう期間が通年になっただけで入社のタイミングが4月のみだと、海外の大学に通う学生や留学生が卒業とともに入社することができなくなってしまうからです。
また、今後は外国人の学生の採用も強化する企業が増えると考えています。外国人を採用したいとなった際には、海外の大学の卒業時期に合わせて10月に受け入れる体制は整えていったほうがいいのではないでしょうか。
−最後に、今後の新卒採用について考えていることはありますか?
遠藤さん:これからは、転職が当たり前の働き方に変わっていくでしょう。この変化を受け、学生は「その企業でやりたいことが実現できるかどうか」を重視する考え方に変わりつつあります。
ですので、企業側も学生の考え方に合わせた採用をおこなう必要があると思っています。
これから新卒採用をする企業には、「この会社ではこんなことができるよ」「こういったことを実現できるよ」といった入社後のイメージを明確に示すことが求められるのではないかと思います。
−ヤフーさんが通年採用をはじめたきっかけとなった、本間さんの「より学生目線に立った採用をしよう」という言葉を思い出しました。ヤフーさんが3年前に気づいた変化に、日本が追いついたというイメージでしょうか。
遠藤さん:そうかもしれません(笑)。
「終身雇用」「年功序列」といった日本特有のルールにこだわらず、社会の変化に柔軟に対応していくべきではないでしょうか。政府が外国人労働者を増やそうしている中で、海外の大学を卒業した学生が日本の企業を受ける機会も増えると思います。
そのときに、「入社は4月まで待ってほしい」と伝えなければならない。学生にとっても、企業にとってもいいことがありませんよね。
今後は、「新卒採用」「通年採用」という概念自体も変わっていくのかなと思います。私の野望としては「新卒採用」「通年採用」の概念は無くしていきたいです。
新卒・キャリア関係なく、卒業した後に自分で勉強したい人や、世界を回りたい人たちが就職活動できるように、体制を整えていきたいですね。
【豪華ゲスト多数登壇!】変化に負けない「強い組織」を育むためにHRが果たすべき役割を考える大型カンファレンス『HR NOTE CONFERENCE 2024』
「人的資本経営」「ウェルビーイング」「DEI」といったトレンドワードが、HR領域だけでなく社会全体に拡がり始めた昨今。自社組織に漠然と"停滞感"を感じ、「うちは取り残されていないだろうか?」「何かやらないといけないのでは・・・」といった不安や悩みを抱える人事・経営者の皆様も多いのではないでしょうか。
本カンファレンスでは、HR領域の有識者の皆様に、様々な組織課題を解決するためのアプローチ方法について解説いただきます。強い組織を育む企業が実践している事例には、組織強化に必要な考え方や人事が果たすべき役割について学べるポイントが多くあります。ぜひ有識者の皆様と一緒に、組織を強化する「共通原理」について考えてみていただければと思います。