リクルートマネジメントソリューションズ「2025年新卒採用 大学生就職活動調査」などから見えてきた2025年卒の採用活動・就職活動の動向、学生たちの価値観の変化を紹介するとともに、採用コミュニケーションの新たな問題を取り上げ、今後の方向性を提案します。
第3回は、学生の声などから分かってきた、採用コミュニケーションをめぐる新たな問題について語ります。

執筆者飯塚 彩(いいづか あや)氏株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRアセスメントソリューション統括部 主任研究員
面接者・リクルーターを対象とする採用関連トレーニング(年間300件超実施)の開発・統括を10年以上担当。採用後の人材育成に関する企業向けコンサルティングも行う。

執筆者橋本 浩明(はしもと ひろあき)氏株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRアセスメントソリューション統括部 研究員
「2025年新卒採用 大学生就職活動調査」の実施・分析および面接者・リクルーターを対象とする採用関連トレーニングの開発を担当。
目次
1. 「一方的な動機づけ」は逆に学生の志望度を下げるかもしれない
採用コミュニケーションの新たな問題の一つと考えられるのが「企業による一方的な動機づけ」です。企業が新卒学生に向けて情報提供や動機づけを行い、志望度を高めようとするのはごく当たり前のことです。
しかし企業が、学生の志向や考え方などをよく理解しないまま、一方的な情報提供や動機づけをすると、逆に学生の志望度を下げる可能性があります。
なぜなら、一方的で画一的な動機づけは、学生に「なんだか強引で嫌な会社だな」「みんなに同じようなことを言っているんだろうな」「本当に自分のことを見てくれているのかな」などと感じさせてしまう可能性があるからです。
こうした事態を回避するためには、学生の志向や考え方をよく理解した上で、志望度を高めるコミュニケーションを心がけることが大切です。
では、今の学生は何を求めているのでしょうか。どのようなコミュニケーションが学生の志望度を上げるのでしょうか。まずは、今の学生の志向や考え方を知るところから始めましょう。
2. 今の学生は「安定」を求め、「自分に合った間違いのない選択」をしたいと思っている
連載第2回で紹介したとおり、「学生が仕事に求めること」の1位は「安定」です。この傾向は長期間続いていますが、近年その要因となっていると考えられるのはVUCAへの不安です。
現代は、「VUCA(変わりつづける予測困難な社会状況)の時代」と言われています。新卒学生には以前から安定を求める傾向がありましたが、新型コロナウイルスのパンデミック、不安定な世界情勢、生成AIをはじめとする急速な技術進歩などを経験してきた学生にとって、VUCAへの不安はより根源的なものとなっており、安定志向が強まっていると考えられます。
また、今の学生は、個性や多様性の尊重を重視しています。彼らは小さいときから、個性や多様性を大事にする教育を受けてきました。社会も個性・多様性重視を打ち出しており、サービスや製品などの多様化も進んでいます。こうした教育環境・社会環境で育ってきた彼らが、個性や多様性を尊重する会社を希望するのは当然の流れです。
それから、失敗経験が少なく、失敗を恐れて避ける傾向があることも昨今の学生の特徴です。そこにはさまざまな要因があると考えられます。
例えば、近年の教育が子どもたちを競争させたり、比べたり、叱ったりすることを避けるようになった影響があります。また、匿名で離脱可能なオンラインコミュニケーションの普及によって、他者との衝突を回避するのが簡単になったことも一因です。
さらに、ポジティブな情報にもネガティブな情報にもアクセスしやすい環境が、学生の不安や「周りに後れを取らずにうまくやりたい」という思いを強めていることが考えられます。
以上をまとめると、今の学生の多くは安定を求めており、自分に合った間違いのない選択をしたいと強く思っている、ということになります。
就職活動の場面に引き付けて言えば、不安要素や不確定な要素を減らしたい、キャリアを安定させたい、転職にも耐えうる経験・スキルを身につけたい、企業には自分の個性を尊重してほしい、対等に向き合ってほしい、自分に合う条件を自分で選びたい、押し付けられたくない、失敗したくない、無駄なことをしたくない、と考える傾向があります。
3. 「勤務地ガチャ」や「配属ガチャ」を嫌う心情が強まっている
ここまで説明してきた学生の志向をよく表しているデータを紹介しましょう。
私たちリクルートマネジメントソリューションズの調査によれば、2025年卒の学生の約6割が、「入社前に勤務地がわからない」「入社前に配属部門や職種を選べない」「入社後に転勤の可能性がある」場合、入社意向が低下する(少し下がる・大きく下がる)と回答しました(下図表)。
特に「大きく下がる」と回答した割合は、全項目で2024年卒よりも増加しています。学生にとって、いわゆる「勤務地ガチャ」や「配属ガチャ」を避けたい、つまり、不確定な要素を避けたい、勤務地や職種や事業部門を自分で選びたい、という心情がさらに強まっていると言えます。
4. 学生の声から見る「YES/NOキーワード」
以上を踏まえて、私たちが学生の声を集めて整理した、採用コミュニケーションにおける「YES/NOキーワード」を紹介します。
新卒採用では、人事や面接官などの採用関係者が、YESキーワードを増やすようなコミュニケーションを心がけることが学生の志望度向上につながります。
5. 志望度を上げる/下げる具体的なコミュニケーション
より具体的に、志望度を上げる/下げるコミュニケーションの例を紹介します。これから紹介するのは、いずれも「2025年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」(リクルートマネジメントソリューションズ)のフリーコメントで学生から回答のあった内容です。
ぜひこれらの具体的なコメントも、学生とのコミュニケーションを考える際のヒントにしていただけたらと思います。
- まったく違う2業界の選考を受けており、面接時に正直に話したときもみなさん温かく応援してくれた
- 面接後のフィードバック面談にて、どのようなところが良い評価に繋がったかをしっかり伝えてくれて、自分自身についてしっかり考えてくれていると感じた
- 自分のエピソードに耳を傾けて興味深く聞いてくださっている姿勢が感じ取れた
- 上から目線ではなく志望者と対等に話してくれた
- 面談の際に給与のことを聞いても回答していただき、誠実さを感じた
- 会社の強みだけではなく弱いところまで話をされていたので誠実さが伝わった
- その会社の良い面ばかり強調された
- リクルーター面談では、ぜひ来てほしいという雰囲気で好印象を抱いたが、周りの友人全員が同じ雰囲気の話をされたと知ったとき、誰でもいいんだなと感じた
- 定型的な質問ばかりの面接で自分に対して興味がなさそうだった
- 威圧的でこちらの言うことにすべて否定的な面接をされた
- リクルーターへ有休の取り方や異動について質問したところ曖昧な回答に留まった
- 弱みについてははぐらかされてしまった
学生の声などから採用コミュニケーションをめぐる新たな問題が見えてきました。では、これからの採用コミュニケーションはどうあるべきなのでしょうか。第4回でさらに詳しく解説していきます。