【4500人の面接で気づいた 】中小・ベンチャー企業にありがちな採用の3つの落とし穴 |HR NOTE

【4500人の面接で気づいた 】中小・ベンチャー企業にありがちな採用の3つの落とし穴 |HR NOTE

【4500人の面接で気づいた 】中小・ベンチャー企業にありがちな採用の3つの落とし穴

  • 採用
  • 採用戦略・要員計画

※本記事は、特定社会保険労務士の持田さんより寄稿いただいたものになります。

「採用がうまくいかない」そんな課題を持つ中小・ベンチャー企業は多くあります。

応募が来ない、良い人が採用まで至らない、人材が定着しない・・・。その多くは、「採用の仕方」に落とし穴があります。

ベンチャー企業では10年で約9割の会社が廃業になってしまうと言われていますが、その原因は販路・売上拡大などの理由だけでなく、人材の活用にあると私は思います。

お金も時間も限られる中で、できるだけ良い人材を採用したい。その思いはどの企業も同じという中で、採用の勝敗はどこで分かれるのでしょうか。

多くの企業がやりがちな「落とし穴」、これを避けるだけでも、採用の勝率は上がっていきます。意識して頂きたいのは、採用は長期的な投資であり、計画的に進めることが大切です。

執筆者持田 敦美特定社会保険労務士 / マイナンバー管理士 / 個人情報保護士

神奈川県大和市在住。人材派遣会社で派遣登録希望者の採用面接業務や、ベンチャー企業では「ひとり人事」として採用から定着まで、人事全般の業務に従事。面接官として面接をした人数は累計4,500人を超える。社会保険労務士として独立後は、人数拡大フェーズにあるベンチャー企業を中心に、就業規則作成・コンサルティングや各種助成金の支援に取り組んでいる。

落とし穴1.欲しい人=必要な人でない

【A社の事例】

従業員約30名のベンチャーA社で、経理人材を募集することになりました。同社には、起業時から社内の事務全般を支えてくれている社員Bさんがいて、業務増のため伝票仕訳や売上管理、給与関係の処理をサポートしてくる人材を募集することになりました。

求人票には

  • 職種:経理業務全般、急成長の会社で担当者として業務を担ってくれる方
  • 必要なスキル・実務経験として伝票仕訳等の経理経験がある方

と記載し募集を開始。面接は社長とA社の事業部長が行い、今後の事業拡大を見据えて、決算書作成や経理の中核社員として活躍できる社員を優先しました。

結果、数ヶ月後に日商簿記2級持ち、経理経験5年を有する社員Cさんを採用することができ、高いスキルを持つ人材を採用できたことに満足していました。

ところが採用から半年たたずして、新規採用したCさんが突如退職してしまったのです。「良い人が取れた」と安心したところでの突然の退職。この採用の落とし穴はどこでしょうか?

【答え】

「現場で本当に必要なのは、経理の専門性ではなく、幅広い業務に手を動かしてくれる人だった。」

A社は30名程度のバイオベンチャー会社で、事務担当者はBさんと新規採用したCさんの2名です。事業拡大フェーズにある企業では、業務の専門性よりも垣根を超えて手を動かす社員の底力に支えられていることが多く、増員により解消したかったのは、増加する事務処理を分業し、効率化を図ることでした。

ところがCさんは経理経験を買われて、「事業拡大に伴う経理部門の担当者=専門性を高めたい」という意識で入社しており、そこに大きなギャップがあったのです。

このように「経営層が今後を見据えて欲しいと思う人材」と「現場が今必要とする人材」にギャップが生じ、早期退職に繋がる事例は数百名規模の会社でも起こっています。今回は経理の事例でしたが、他の職種でも散見されます。

いざ、人を採用しようと思った時のファーストステップは、「まず求人票を出す」事ではありません。欲しい人材要件を洗い出し、経営層と現場で認識の齟齬を起こさないよう共有することです。

当たり前のようでいて、これができていない会社は起こすべくして採用後のミスマッチを起こしています。人を採用する上では人材要件の設定が欠かせません。

人材要件の設定4ステップ
  • 採用の背景を理解する(増員なのか欠員補充なのか)
  • どんな業務を任せ、将来的にどんなパフォーマンスを期待するのか
  • 今回の募集ポストに必要なスキルはどの程度か
  • 一緒に働きたい人はどんな人か(理念に共感など)

落とし穴2.「よく見ていないし、よく見せてない」

これは応募者の見極めと、自社も選ばれる立場であることを理解できているかという話です。労働者側、会社側、両者がよく見えないと言う状態は不安・不信感をあおり、入社後の「こうじゃなかった」というミスマッチに繋がります。

【求職者をよく見る】

根拠書類をよく見る(業務に必要な資格証明書や給与明細)

入社後に業務に必要な資格の更新期限が切れていることがわかり、その間資格者が不在になるだけでなく、更新にかかる費用を会社で持つことになった。

前職給与に合わせて基本給を決めたが、入社後に前職では残業が多く、基本給や能力給ではなく残業代の割合が高かったことがわかり、給与の設定が不適合だった。

こんなケースも非常に良く見かけます。

特に前職給与確認は、源泉徴収票を求める会社は多いですが、給与の内訳までは見えません。給与明細で基本給や手当、残業代を確認することは入社時の適切な給与設定や、前職での働き方を知るのに役立ちます。

面接の中で違和感を見る

採用前に非言語の情報を拾えるのは面接の場しかありません。

1時間程度の面接で、その人をわかった気になることは錯覚です。

確証バイアスと言って、「見たいものだけ見てしまう」事が無いように、面接の前に欲しい人材要件に照らし合わせて確認したいポイントをメモしておく、1次、2次の面接で見るべきポイントや面接官を変えて複数視点で見るだけでも、不要な情報に惑わされずに済む確率が高まります。

【どういう会社であるかを求職者に見せる】

自社が、働く会社として「選ばれる側でもある」ことを理解して、いろんな角度から会社を見せてください。自社の採用HPやSNSの活用は低コストで会社を「よく見せる」のに有用な方法ですが、そこまで手が回っていない会社も多いと感じます。

ただし、求職者側から見ると、リファラル採用などでは無い限り、会社を知るための情報は少なく、口コミやWeb検索で会社情報を集めようとします。

求人サイトが運営している口コミは入社や在籍年度が古い社員のコメントもあり、会社の現状と一致していない、自社の魅力の訴求が薄いなど求職者の懸念を増やしてしまう場合もあるため、求職者へのメリットや自社の魅力を自ら発信することは非常に大切です。

特にSNSで自社の日常を発信することは採用以外に顧客にもPRできます。長期目線で発信し続ける必要がありますが、低コストで自社の姿を見せることができます。

【求人票をよく見せる】

2024年4月から雇用契約書の記載事項が変更になり、就業場所や従事する業務内容について、入社直後だけでなく変更の範囲を記載する事になりました。

これにより、人材会社の求人票にも同様に変更の範囲を記載する流れが出てきています。

変更の範囲について「変更後の就業場所:自社の全ての事業所」、「変更の業務の範囲:自社の全ての業務」など「条件記載」のみと言う企業が多く見られます。

求人票は雇用契約書ではありません。配置転換や異動で紛争が起きるリスクを避けるための雇用契約書(労働条件通知書)とは役割が違い、求職者への入社意欲を高めるメッセージであることを忘れずにいただきたいです

たとえば、「自社の全ての事業所」、「全ての業務」の後に続いて、

「当社ではジョブチャレンジ制度を設けており、自ら多様なキャリアを切り開ける可能性があります。入社後に、英語のスキルを磨き現在海外で活躍している社員もいます」
「入社後は募集部署で経験を積んでいただきますが、適正や本人のやる気に応じて配置転換を検討することがあります」

などの一文があるだけで、ポジティブメッセージに変わるのではないでしょうか。

入社後の働き方が絵になってイメージできることは、内定辞退防止や入社後の定着、ミスマッチの防止に作用します。

ちなみに、「見える化」が必要なのは入社後の働き方についても同様ですので、意識して取り組んでいただきたいと思います。

落とし穴3.「育成」を現場のスキルに依存する

人材不足の業界では、人材育成ができない・余力が無いことも課題になります。

「見て習え」は現場の人と教える能力に依存しますが、そもそも教育者となることを前提に採用しているわけではないので「教えるスキル」にはばらつきがあり、人が定着しない会社では、忙しい中で「何度も同じことを教えないといけない」ことが過度な負担になる事もあります。

離職が多くなると求心力が下がり、ベテランが辞めてしまう事態も招きかねません。

そんな時は、有期雇用から「育てる前提で人を採る」ことも解決策の1つです。

キャリアアップ助成金や人材開発助成金を併用して、外部のOff-JTなどで研修を行い教育し、無期雇用社員や正社員転換することで、研修費用の経費助成や賃金助成だけでなく、雇用区分転換に伴う助成金を受け取れる可能性がありますので、活用を検討されてみてください。

【キャリアアップ助成金:正社員化コース】

非正規社員(パート・アルバイト、契約社員など)を採用し、6ヶ月以上雇用した後に無期雇用・正社員化することで中小企業の場合正社員化する対象者1人あたり半年ごとに40万円(1年度80万円)の助成が受けられる可能性があります。(就業規則の整備等で加算要件あり)

申請には「キャリアアップ計画書」を作成し事前に労働局に申請する必要があり、賃金UPや就業規則の整備等、支給要件を満たすことで助成を受けることができるメジャーな助成金なのですが、要件が変更になることが多く、申請内容を満たすかどうかを事業者自身がマニュアルを読んで判断するのは骨が折れます。

社会保険労務士への委託をする事業者さんが多いですが、助成金を扱わない社会保険労務士も多く委託費用もかかるので、申請するハードルが高いと感じられている事業者さんも多いようです。

こうしたニーズを捉え、計画・申請をサポートするツールを開発するスタートアップも生まれています。

Scalar株式会社が提供する、補助金・助成金の支援ツール「Scalar Self」では、マニュアルを1問1答に置き換えて初心者でも理解しやすい設計になっています。対象者を登録することで申請時期にアラートのメールが送信されるため、申請漏れを防ぐことができるだけでなく、様式変更にも自動対応し、就業規則などの社労士相談にも連携しています。

社労士として計画書作成や申請をする際にもとても便利で、わたしも実際、キャリアアップ助成金の申請に使用しており、効率化に大変役立っています。無料でも一部の機能は利用できるため、キャリアアップ助成金の活用を検討している中小・ベンチャー企業の人事担当者は一度試してみては如何でしょうか。

【人材開発支援助成金】

事業主が雇用保険に加入している労働者に対して訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成してくれます。経費助成のみでなく、賃金助成もある上に、キャリアアップ助成金と併給が可能ですので、人材採用・育成の活用度が高い助成金です。

ただし、全ての教育訓練が対象となる訳ではなく、専門的な訓練を計画する必要があり、実訓練時間数の8割以上の受講の要件を満たす必要があるなど、要件確認や申請書の作成はポイントを押さえて計画・実施することが必要ですので、労働局の助成金センターや社会保険労務士への相談がお薦めです。

最後に

採用は、人事担当者の頭を悩ます負担の大きな業務の1つです。特に採用業務だけに人事のリソースを割くことができない中小・ベンチャー企業では、大企業の採用とは全く違った課題があり、自社独自の採用基準・フローを確立するのに苦労されていると思います。

そんな中で、今回は採用の落とし穴をテーマに、今日からでもなるべくコストをかけずに改善できる内容に絞ってまとめてみました。当たり前と思っていたけれど意外と忘れがち、出来ていない3つの落とし穴。継続的に解決に取り組んでいただくことで、皆様の会社の採用成功率が上がることを祈っております。

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