2000年代前半にSNSの代表格となる『mixi』を生み出し、インターネット上で仲間とコミュニケーションをとる文化を日本に作り出したIT企業、株式会社ミクシィ。
今回は、コミュニケーション創出カンパニーである同社が実践する、オンラインインターンシップの裏側をご紹介。
本記事では、ミクシィさんが考えるインターン運営方法、インターンにおけるコミュニケーションの重要性、インターン生と向き合うスタンスなど、詳しくお伺いしました。
【人物紹介】佐々木 忠輝|人事本部 人材採用部 新卒採用グループ マネージャー
ミクシィが各大学のTOP学生層にアプローチする独自の方法
ーもともと、オンラインインターンを取り入れる前は、どのようなインターンを実施していたのでしょうか?
佐々木さん:以前は、夏休みや春休みの長期休暇の時期に就業型インターンシップを実施していました。
弊社の就業型インターンシップは、社員の横に座って一緒に実際の実務をおこなってもらうもので、期間は2週間から、長い方だと約2か月間の実施となります。
「今週は〇〇のリリースを控えていて、今週はこのタスクがあるからやってみよう」と、本格的に社員と同様の業務を任せる点が特徴です。
参考:春のインターンシップ
ーそのような中、コロナの影響でオンラインに切り替わるわけですが、オンラインインターンはいつから実施しているのでしょうか?
佐々木さん:コロナの感染拡大が騒がれ始めた2020年の3月頃に、全社的に業務をオンラインへと切り替えました。そのタイミングで、リアルで実施した就業型インターンシップもオンラインに移行しました。
弊社のインターン生は主にエンジニア職です。
オフライン・オンライン関係なく、インターンの実施方法の特徴としては、「1つのサービスに対してインターン生は1人まで」としていることが挙げられます。
インターン生には濃い実務体験をしてもらいたいので、たくさんのインターン生を受け入れてしまうと、彼ら全員をフォローしきれなくなってしまう可能性が高いためです。
また、1対1のコミュニケーションを大切にしているため、むやみやたらにインターン生を集めるのではなく、15名前後の少数精鋭で実施しています。
ーインターン生が15名前後とは、学生にとって狭き門となっているのですね。
佐々木さん:たしかに、狭き門に感じられるかもしれません。
インターン生を厳選させていただく理由としては、参加いただくインターン生の皆さんに、良い体験を提供したいからです。
インターンに貴重な時間を費やしたにもかかわらず、たとえば「1か月間バグをつぶしていただけ」では、学生にとって意味がありません。
「既存の大きなサービスに対してこういう機能を実装した」というようなスケールの大きな経験は、学生1人では経験ができないものです。
ミクシィにしか提供できない価値ある体験を、就業型インターンシップの中で提供していきたいと考えているのです。
その中の、母集団形成で意識していることは、各学校で1番技術力のある学生の方々にどうやって興味をもってもらうかです。
そういった層の学生から応募していただくためには、「ミクシィのインターンは難しそう」「ミクシィのインターンは成長できる」という口コミを、歴代のインターン卒業生から広めてもらうことが重要です。
「〇〇大学の中で有名なあの先輩ってミクシィのインターンシップに行ったらしいよ、インターンの内容がすごく難しいらしいんだ!」「あの先輩が行ったということは、やっぱりミクシィってすごいんだね!」と言っていただけるように、意識してブランディングを実施してきました。
インターン生を募集する際に、逆求人イベントやナビ媒体はもちろん利用していますが、インターン卒業生や内定者経由での紹介割合が多くなっています。
「同じ研究室に良い人がいますよ」と、紹介してもらえることは、弊社独自の強みだと考えています。
ー各学校のTOPレベルの学生から、ミクシィインターンに興味を持っていただくコツはありますか?
佐々木さん:学生の要望を聞くこと1番大切にしています。
企業が想像で作ったインターンプログラムでは意味がありません。まず最初に、「どんなことをやりたいですか?」と質問をして、それに答える形でインターンプログラムをカスタマイズしていきます。
たとえば、「大規模なサービスに関わってみたい」と言われたら、「利用者数5,300万人のモンスターストライクの裏側って知っていますか?この巨大ゲームの開発の裏側を見るチャンスがあるので、インターンに参加しませんか」と話していきます。
また、インターンに参加いただく期間も、できるだけ学生のスケジュールに合わせて組んでいきます。
一般的にインターン時期は、企業都合でスケジュールが組まれることが多いですが、弊社は逆のスタンスです。
TOP層の学生たちが、何月にどのくらいの期間をインターンに費やしたいかをヒアリングをした上で、その希望に合わせてインターンを実施していくことにこだわっています。
ーインターンシップ参加者の選考見極めポイントはありますか?
佐々木さん:技術力を見るテストをおこなったりしますが、面接のときに「あなたの学校で、あなたよりも技術において強い人はいますか?」という質問をしたりしますね。
この質問をしてどのような返答がくるかを見て、参考にしています。
その他に見る点としては、ミクシィ以外の企業でどのようなインターンシップに参加したのか、技術者としてどのようなものを作ったのかを確認しています。
ミクシィのオンラインインターンで意識した取り組み
ーオンラインインターンの取り組みで、どのようなことを意識して実施しましたか?
佐々木さん:コミュニケーション機会を意識的に増やすようにしました。
オンラインに切り替える以前は、15名ほどの学生が各事業部に散らばり、出社をして、従業員の隣に座って働いていただいていました。
ポイントは、出社型のインターンシップと同じ質をどう担保するかです。
そのために、朝会・夕会の実施や、定期的な1on1の実施、インターン生同士がコミュニケーションをとることができるチャット部屋の用意などをしました。
1on1での質問内容では、「分からないことはきちんと質問できていますか?」と丁寧に確認をしていくことです。
いくらチャットルームを用意しておいても、学生はどのタイミングで社員に声をかけていいかわからない場合もあります。
「社員に話しかけにくかった」という声が上がってきたら、人事から現場社員に声掛けを実施して、コミュニケーションを促すことを心掛けました。
1日中、学生から質問が来ないからといって、業務がスムーズに進んでいるとは限りませんよね。
もしかしたら、タスクの難易度が高すぎて時間がかかっているかもしれません。どこかでつまずいて、1人で考え込んでいるかもしれません。
このように、コミュニケーションの量、質ともにこだわりながら、適宜話しかけることを大事にしています。
コミュニケーションをとる相手は学生だけではありません。
現場のマネジメント陣、メンターとなる社員には、インターン生受け入れの1か月ほど前に面談を実施します。
その他の取り組みとしては、オンラインランチ会の実施や、学生の発表の場を設けることなどが挙げられます。
約15名の学生は、それぞれのサービスに分かれてインターンをしていただいているので、各インターン生から自分の取り組み内容を発表してもらいます。
今どのようなサービスを担当しているのか、その中でどのような業務にチャレンジし、どのようなタスクが難しいのかなどをインターン生同士で発表しあうことで、全体の士気を上げる効果も狙っています。
加えて今年の春のインターンでは、3月末に全社で原則リモートワークとなったため、自宅での環境構築支援費としてモニターやヘッドホン、椅子など、上限2万円まで業務に必要な機材の購入費を会社が負担をする制度がありました。
これは直雇用の従業員が対象となり、アルバイトやインターン生も含まれるため、インターン生には喜んでいただけた施策でした。
このような取り組みを通して、リモートインターンでも全体のモチベーションを保つように意識していきました。
- 新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を受け、インターン終盤はリモートワークでの勤務となりました。「滞在先のホテルでリモートワーク」という状況、今後の人生で二度と発生しなさそう。最後の成果発表もオンライン上に場を設けていただき、リアルタイムでチームメンバーの方たちからリアクションをもらいながら発表するという、ある意味貴重な体験をさせていただきました。
- 交通費、宿泊場所を会社から提供していただきました。インターンに参加している時はいつもこのような援助を受けていますが、これを当たり前のことに思わず、感謝の気持ちを忘れないようにしていきたいです。上記のリモートワークに伴い、全社的に備品の購入援助がおこなわれました。ありがたいことにインターン生も補助の対象に含まれていたため、作業時に必要な備品を購入させていただきました。
- 実際のやりたかった開発、実務ができた。春に関しては、出社とオンラインどちらもできたので リモート支援で、こんなに手厚くていいのか、と感じました。
ーインターン実施後、本選考につなげるようなアクションもされるのでしょうか?
佐々木さん:インターンの最終日に、「ミクシィで働くイメージはできましたか?」とたずね、同意を得た方には本選考のご案内をします。
就業中の様子ももちろんチェックしますが、インターンに参加いただく時点でかなり厳選しているので、ベースとなるパフォーマンスレベルは非常に高い方が多いです。
単純に技術面が優れているかどうか、を見るのではありません。
インターン途中でパフォーマンスが優れなかったとしても、現場社員とのコミュニケーションをとりながら前向きにトライしている方は評価をしていきます。
技術面とマインドのバランスを見ながら、本選考へのご案内を実施していくスタンスです。
成功をおさめたオンラインインターンを振り返ってみて人事担当者が思うこと
ー今回のオンラインインターンを振り返ってみて、成功のポイントを教えてください。
佐々木さん:コミュニケーションの回数を積極的に増やしたことに尽きると思います。
インターン生は、いつどのようにアラートを上げたらいいのか、どのタイミングで質問をしたらいいか分かりません。
だからこそ、「現場の社員から積極的に声をかけないとだめだよ」と、新卒採用グループの担当から繰り返し話をしました。
新卒採用グループは現在、アシスタント含めて6名体制です。ですので、人事1人あたり2~3名のインターン生を見ている計算になります。
新卒採用グループとしてもちろん別の業務もありますが、インターン生にとって意味のある時間にしてもらうため、彼らとのコミュニケーションに比重を置いてきました。
これは、コミュニケーションを重要視するミクシィの社風を体現しているものだと思っています。
ーありがとうございます。今後さらに仕掛けていきたいことはありますか?
佐々木さん:オンラインインターンは成功したものの、学生からは出社したいという声も多くいただいています。
オンラインインターンであれば、全国各地の学生に居住地を問わず参画いただけることは利点である一方で、意外と地方の学生の方が「東京渋谷のオフィスに出社してみたい」と希望することも多いです。
弊社は2020年3月に渋谷スクランブルスクエアに新オフィスを構えたばかりです。せっかくコミュニケーションのためにオフィスデザインしたこともありますし、うまく活用していきたいと思っています。
また、仕事をする上で先輩社員が隣にいる方が安心感も強いでしょう。
どんなにオンラインでコミュニケーション頻度を上げても、リアルコミュニケーションが大切な場面もあると受け止めています。
今後は、世の中の様子を見ながら適宜出社をしてもらえるように、環境を整えていきたいと考えています。
※参考 オフィス移転について 「すべてはコミュニケーションのために」というコンセプトで新オフィスを構えたという。 https://www.businessinsider.jp/post-203998
ー最後にオンラインインターンを実施したい企業に向けてアドバイスをお願いします。
佐々木さん:企業本位でインターンプログラムを企画するのではなく、インターン生に合わせてカスタマイズしたインターンシップを実施することをおすすめします。
インターンシップの企画を考えはじめると、どうしても「弊社の良さは〇〇で…」と、自社の価値観を学生に押し付けてしまう設計をしてしまいがちだと思います。
自社の魅力を伝える前に、ターゲットとなる学生がインターンシップに何を求めているかを、しっかりくみ取ることが重要だと考えています。
まずは自社に呼び込みたい学生に「この夏、インターンシップで何をしたいですか?」と質問をして、出てきた要望に対して、自社で何が提供できるかを考えて設計することからはじめてはいかがでしょうか。
弊社は最初から各大学のTOP層だけに狙いを絞り、ブランディングを意識した採用活動をしていたわけではありません。
学生1人ひとりと対話をして、「どのようなことにチャレンジしたいですか?」と聞いていった結果、今の形に行き着き、参加した学生が「ミクシィには成長できる環境がある」と自然に周りへ広めてくれるようになりました。
対話した学生が「こんなことにチャレンジしたい」と教えてくれた際に、すぐ答えるためには「自社で提供できるものは何か」を言語化しておくことも重要です。
弊社であれば、「利用者数5,300万人を抱えるモンスターストライクの開発現場で、こんな就業機会を提供できます」といったものです。
もう1点、他社の皆さんにお伝えしたいことは、オンラインインターンは出来ないと決めつけていませんか?ということです。
出社型のインターンシップもオンラインインターンシップも、取り組むことはそこまで変わりません。毎週出てきた課題を1つずつ、つぶしていくだけです。
オンラインは無理と決めつけて、何もしない会社の方が圧倒的に多いと感じています。
私たちがこれだけ自信を持って工数を割いてでもコミュニケーションをとるべきだと発信しているのは、学生にとって就職を考える非常に貴重なタイミングなので、その機会を企業の立場として捻じ曲げてしまってはいけないと思うからです。
これだけやって「採用につながらなかったらどうするの?」と言う方もいらっしゃいますが、事実、今年の夏も数多くの優秀な学生から「インターンシップに参加できてよかった」という声をもらっています。
インターンシップに工数をかけて向き合っても、採用の成果につながらなければ意味がないと考える方もいますが、私たちはこれが無駄なコストだとは考えていません。
学生からは「このまま就職せず大学院に行くべきか悩んでいる」といった、業務以外の相談も数多くいただきます。
そこで無理に「ミクシィに入社しなよ」と伝えるのではなく、学生にとって本当に良い選択は何か?一緒に考えながらアドバイスをしていきます。
「採用のため、自社のため」というスタンスではなく、常に相手の立場に立ったコミュニケーションをとること。とてもシンプルですが、ミクシィで1番大切にしているスタンスです。
この積み重ねのおかげで学生の方々と信頼関係を構築することができ、IT企業の中でも成長し続けられている理由だと自負しています。