被保険者の家族や親族は、一定の要件を満たせば社会保険料の扶養に入ることが可能となります。また、社会保険の適用範囲は法改正によって今後拡大されていくため、加入条件を詳しくチェックしておくことが大切です。
本記事では社会保険料の扶養について、条件や適用範囲を詳しく紹介します。
目次
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
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1. 社会保険料の扶養とは?
社会保険料の扶養とは、どのような意味でしょうか。ここでは、社会保険料と扶養それぞれの定義を説明したうえで、社会保険料の扶養とはどのような意味なのか詳しく紹介します。
1-1. 社会保険料とは
社会保険料とは、社会保険に対してかかる保険料のことです。社会保険は「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「労災保険」「雇用保険」の5つから構成されます。
なお、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」の3つを狭義の社会保険として定義することがあります。また、「労災保険」と「介護保険」をまとめて「労働保険」と呼ぶケースもあるため覚えておきましょう。この記事では、狭義の社会保険を「社会保険」とみなして解説します。
1-2. 扶養とは
扶養とは、自分一人の稼ぎで生計を立てられない家族や親族に対して経済的な援助をおこなう仕組みのことです。援助する人を「扶養者」、援助を受ける人を「被扶養者」といいます。
たとえば、本業で生計を立てている人の配偶者や子、親などが被扶養者に該当します。また、扶養には「社会保険料の扶養」と「税法上の扶養」の2種類に分けることが可能です。なお、税法上の扶養を受ける人は「扶養親族」と呼びます。
1-3. 社会保険料における扶養の意味
社会保険料における扶養とは、社会保険の被保険者の配偶者や子、親族が、社会保険料を支払うことなく社会保険に加入できる仕組みのことです。収入のない専業主婦や専業主夫のほか、パートやアルバイトで短時間労働をしている家族であっても、一定の条件を満たしていれば扶養に入ることができます。
社会保険料の扶養に入る場合は、配偶者や親の健康保険に加入することになります。被扶養者本人が社会保険料を支払う必要がなく、3割負担で病院などを受診することが可能です。また、被扶養者は国民年金の第3号被保険者になることができます。第3号被保険者に該当する場合、国民年金の保険料を納付しなくとも、扶養に入っている間は保険料を納付したとされ、年金額に反映されます。
1-4. 【補足】税法上の扶養とは?
税法上の扶養とは、所得税を計算する際における扶養控除の対象になることです。納税者に控除対象となる扶養親族がいる場合、納税者の所得から一定の金額を控除することができます。
年末調整や確定申告で扶養控除を適用すれば、税負担を軽減することが可能です。このように、「社会保険料の扶養」と「税法上の扶養」は異なる意味を持ちます。また、扶養に入れるかの条件も異なるので注意が必要です。
1-5. 社会保険料は扶養人数で変わる?
社会保険料は扶養人数によって変わることはありません。社会保険料は、被保険者の標準報酬月額によって決まるからです。被扶養者の有無や人数では変わらないため注意しましょう。
介護保険料については、被扶養者の有無や年齢によって保険料が異なるケースもあります。
2. 社会保険適用拡大でどう変わる?
働き方改革の影響もあり、多様な働き方が推進されています。しかし、非正規雇用者が正規雇用者と同様の社会保障を受けられないことが問題視され、社会保険適用拡大が進められています。
ここでは、2022年10月と2024年10月の社会保険適用拡大による変化について詳しく紹介しますので、確認しておきましょう。
2-1. 2022年10月より社会保険の適用範囲拡大
令和2(2020)年5月に年金制度改正法が成立し、社会保険料の適用範囲が拡大されることとなりました。社会保険料適用拡大は、従業員数が501名以上の企業においてはすでにスタートしています。今後は従業員数の少ない事業所であっても、要件に該当している労働者を社会保険へ加入させる義務が生じるため、企業側は適切に対応しなければなりません。
2022年10月からは、下記のように社会保険の適用範囲が拡大されています。
|
~2022年9月(改正前) |
2022年10月~(改正後) |
従業員数 |
501人以上 |
101人以上 |
所定労働時間 |
20時間以上 |
20時間以上 |
賃金(基本給と諸手当) |
月額8.8万円以上 |
月額8.8万円以上 |
雇用の見込み |
1年以上 |
2カ月以上 |
対象外 |
学生(休学中や夜間学生は対象) |
学生(休学中や夜間学生は対象) |
今一度、自社が社会保険適用事業者であるかどうか、雇用している労働者が社会保険加入対象者に該当していないか確認しておきましょう。
2-1. 2024年10月からは「従業員51人以上」に変更
2024年10月からは「従業員51人以上100人以下」の組織も、社会保険適用事業者に該当することになります。新たに社会保険に加入しなければならなくなるケースが増えるため、十分な注意が必要です。
社会保険適用拡大は企業規模ごとに段階的におこなわれています。この法改正に対応するために、企業は社会保険の対象者が増えた場合の対応方法を確認しておかなればなりません。しかし、何をすればよいのかわからない方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのような方に向けて、当サイトでは、社会保険適用拡大をうけて企業がすべき対応をまとめた資料を無料で配布しています。
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3. 社会保険料の扶養範囲
社会保険における扶養には一定の範囲が定められています。以下、扶養範囲について解説しますので理解を深めておきましょう。
3-1. 配偶者と三親等内の親族
社会保険の扶養の対象となるのは、被保険者の配偶者と三親等内の親族のみです。配偶者には、事実上婚姻関係と同様の人を含みます。
三親等内とは被保険者の直系尊属、子どもや孫、兄弟姉妹のことを指します。制度上、両親と子どもは一親等、祖父母や兄弟姉妹、孫は二親等です。三親等内には被保険者のおじやおば、その配偶者、配偶者の父母や祖父母、子や孫などが含まれます。
3-2. 生計をともにしていること
生計をともにしていることも社会保険における扶養の判断材料となるため、亡くなった内縁関係の配偶者の父母や子どもであっても扶養の対象として認められます。扶養の条件はかなり広い範囲に適用されるので、手続きの際には詳しい条件を確認しましょう。
3-3. 同居の有無
扶養に入れるかを判断する際には、家族や親族の同居の有無が確認されます。直系尊属や配偶者、子や孫、兄弟姉妹については、同居していない場合でも扶養に入ることが可能です。それ以外の三親等以内の親族については、同一世帯に居住していることが扶養に入るための条件となります。
3-4. 日本国内に住民票を有する
社会保険の扶養に入れるのは、原則として日本国内に住民票を有する人です。一定期間海外で生活する場合でも、日本に住民票があれば問題ありません。短期間の出張や留学で住民票を移動させるときにも、生活の基礎が日本国内にあると認められれば扶養に入ることができます。
4. 社会保険料の扶養に入るための年収・年齢条件
社会保険料の扶養に入るためには一定の条件を満たす必要があります。収入や年齢などの条件について詳しくチェックしていきましょう。
4-1. 生計維持関係にあるか否か
被保険者が生活費を負担するなど、生計を維持されている人のみが社会保険料の扶養に入ることができます。年収などの条件を満たしているときでも、生計維持関係になければ扶養に入ることはできません。
生計維持関係は、同居の場合であれば扶養家族の年収が被保険者の年収の2分の1未満のときに認められます。別居のときには、扶養家族の年収が被保険者からの仕送り額よりも低い場合に生計維持関係があると判断されます。
4-2. 扶養に入る人の年収条件
被保険者の扶養に入るためには、年収が一定額未満でなければなりません。原則として、年収が130万円未満であれば扶養に入ることが可能です。ただし、60歳以上または障害者については、基準額が年収180万円に設定されています。
社会保険料の扶養に関する収入を計算する場合、所得税の収入計算とは異なります。下記のように、所得税の計算では非課税に該当するものが、社会保険の計算では収入に含まれるので注意が必要です。
- 障害年金
- 遺族年金
- 雇用保険の基本手当
- 傷病手当金
- 出産手当金
- 傷病補償給付 など
年収130万円を超える場合は扶養に入れないので、勤務先の健康保険に加入するか、国民健康保険に加入するかを検討する必要があります。なお、年収106万円以上になる見込みの人は、社会保険適用事業者で働いている場合、社会保険の加入対象者に当てはまる可能性があります。その場合は、社会保険に入れるか勤務先に確認してみましょう。
4-3. 扶養の対象となる年齢条件
社会保険の扶養の対象となる年齢に条件はありません。しかし、社会保険の被保険者が65歳になると、国民年金の被保険者ではなくなります。そのため、60歳未満の配偶者(被扶養者)は第3号被保険者から第1号被保険者に切り替えて、自ら保険料を納めなくてはなりません。
また、被扶養者が75歳以上(寝たきりなどの場合は65歳以上)になると、後期高齢者医療制度に加入しなければなりません。この場合は、健康保険の扶養対象者から外れることになるので注意が必要です。
5. 社会保険の扶養に入るメリット
社会保険の扶養に入ると、どのようなメリットを得られるのでしょうか。ここでは、社会保険の扶養に入るメリットについて詳しく紹介します。
5-1. 家計の負担を軽減できる
家計の負担を軽減できることは、社会保険の扶養に入る大きなメリットです。社会保険の扶養に入ることで、自身で社会保険料を支払う必要がなくなります。扶養内で働けば、給与から社会保険料が控除されず済むので、家計の負担を軽減できる可能性があります。
5-2. 健康保険に加入できる
被保険者の健康保険に加入できることもメリットのひとつです。公的医療保険への加入は強制であるため、働いていない人などは基本的に国民健康保険へ加入しなければなりません。
国民健康保険料の支払いにより負担が大きくなってしまいがちですが、扶養に入れば自分で保険料を納める必要はなくなります。扶養に入っても被保険者が支払うべき保険料は変わりません。
5-3. 扶養手当を支給される
会社によっては、扶養手当が支給されるケースもあります。家族の人数や年収などの条件は会社によって異なりますが、扶養に入ることで手当が増えることは大きなメリットといえるでしょう。
6. 社会保険の扶養に入るデメリット
さまざまなメリットがある一方、社会保険の扶養に入ることには次のようなデメリットもあります。
6-1. 収入を調整する必要がある
社会保険の扶養に入る場合、収入の調整など、管理の手間がかかります。扶養に入ったまま働く場合は、収入を一定の金額以下に抑えなければなりません。やりがいを得るためにもっと働きたいと思っても、勤務時間を増やせないケースもあるでしょう。
6-2. 年金の受給額が減る
年金の受給額が減ることも、扶養に入るデメリットのひとつです。被扶養者は国民年金には加入できますが、厚生年金保険には加入できません。厚生年金保険に加入しないことで受け取れる年金額が少なくなるため、生活資金の不安を感じることもあるでしょう。
6-3. 傷病手当金をもらえない
扶養に入ると、傷病手当金を受給することはできません。傷病手当金とは、病気やケガで仕事を休んだときに支給されるものです。扶養内で働くとなると、休んだときに収入がなくなってしまうことを覚えておきましょう。
7. 社会保険の被扶養者になる手続き方法
社会保険の被扶養者になるには、いくつかの手続きが必要になります。被保険者は「健康保険被扶養者(異動)届」と「国民年金第3号被保険者関係届」を作成して、事業主を経由して年金事務所に提出しなければなりません。また、状況に応じて、下記のような書類を添付する必要があります。
- 続柄確認のための書類
- 収入要件確認のための書類
- 仕送りの事実と仕送り額の確認のための書類
- 内縁関係の確認のための書類 など
提出期限は「扶養の事実発生から5日以内」とされています。提出方法は「郵送」「電子申請」「窓口持参」から選ぶことが可能です。提出先は、事務センターもしくは、所轄の年金事務所となります。
参考:家族を被扶養者にするとき、被扶養者となっている家族に異動があったとき、被扶養者の届出事項に変更があったとき|日本年金機構
8. 社会保険の手続きをおこなう際は扶養の範囲をしっかり確認しよう!
社会保険においては、一定の条件を満たすことで親族を扶養に入れることが可能です。
扶養に入れるのは被保険者の三親等以内の親族で、関係性や同居の有無が問われることがあります。また、年収などの状況によっては扶養の適用外とされることもあります。
社会保険の手続きをおこなう際には、扶養の範囲内か否かを判断することが肝心です。