厚生年金保険料は、厚生年金に加入している従業員の給与から天引きするものです。正しい金額を計算し、納付しなければなりません。
本記事では、厚生年金保険料の基本や計算方法、計算時の注意点などを解説しています。納付金額を間違えないよう、ぜひ参考にしてください。
給与計算業務でミスが起きやすい社会保険料。
保険料率の見直しが毎年あるため、更新をし損ねてしまうと支払いの過不足が生じ、従業員の信頼を損なうことにもつながります。
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目次
1. 厚生年金保険料とは?
まずは厚生年金保険料の基本を知っておきましょう。国民年金とは性質が異なる部分も多いため、違いもあわせて解説します。
1-1. 社会保険料のうちの一つ
厚生年金保険とは、適用事業所にて一定条件を満たして労働する70歳未満の従業員が加入すべき社会保険です。厚生年金保険に加入すると、毎月、厚生年金保険料を納付しなければなりません。
社会保険という言葉は、広義の意味では厚生年金のほかにも健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険を総称しています。(狭義の意味では、厚生年金、健康保険、介護保険のみを総称します。)
介護保険においては、40歳を超える場合のみ納付義務が生じます。
1-2. 厚生年金に加入するとかかる保険料
厚生年金保険料は、名前の通り、厚生年金に加入すると発生する保険料です。この厚生年金保険料は、所定の保険料率から求められた金額を事業主と従業員が折半して納付します。
納付は企業がおこなうもので、従業員が負担する保険料は給与から天引きするのが一般的です。
1-3. 厚生年金に加入することで受給できる年金
厚生年金に加入して一定の条件を満たすと、以下のような年金を受給できます。
老齢厚生年金
老齢基礎年金を受け取れる65歳以上の人は、そこに上乗せして老齢厚生年金を受給できます。老齢基礎年金は、厚生年金か国民年金に10年以上加入している場合、65歳以上になると受給可能です。保険料が免除されていた期間も、加入期間としてカウントされます。
障害厚生年金
障害厚生年金は、厚生年金に加入している期間中に、病気や怪我などが原因で障害を負ったときに受給できます。受給できる障害厚生年金の金額は、障害の程度によって異なります。
また、障害厚生年金を受給できないような軽い障害の場合、障害手当金を受給可能です。
遺族厚生年金
遺族厚生年金は、厚生年金の加入者が死亡したときに、その配偶者や18歳未満の子どもに支給されます。子どものいる配偶者や子どもだけが対象となる遺族国民年金とは異なり、遺族厚生年金は配偶者や親なども対象とされているのが大きな特徴です。
2. 厚生年金保険料と国民年金保険料の取り扱いの違い
同じ公的年金でも、厚生年金と国民年金では保険料の取り扱いに下表のような違いがあります。
厚生年金 | 国民年金 | |
加入対象者 | 70歳未満の従業員 | 20歳以上60歳未満の国民 |
保険料 | 給与や賞与額によって異なる | 国民全員で一律 |
支払い負担 | 事業主と従業員で折半 | 加入者全額負担(1号被保険者の場合) |
国民年金の保険料は、減免などを受ける場合を除けば、一律の金額です。対して厚生年金は加入者の給与や賞与によって変動するため、個々に計算する必要があります。
また、加入対象者にも注意しましょう。厚生年金は70歳未満の従業員が加入するものであるため、従業員が70歳を迎えた場合は保険料の天引きを停止しなくてはなりません。
3. 給与計算における厚生年金保険料の算出方法
給与計算時に厚生年金保険料を算出するには、基準となる報酬額や賞与額を正しく理解し、計算式に当てはめなくてはなりません。
厚生年金保険料の算出方法と計算例を確認していきましょう。
3-1. 標準報酬月額・標準賞与額で計算する
厚生年金保険料の算出には月収や賞与の金額が必要です。ただし、実際に従業員に支払っている報酬をそのまま使うのではなく、標準報酬月額と標準賞与額を基準にします。
標準報酬月額は、支払われた給与を一定の幅で区分した金額です。この区分は都道府県で異なることはなく、全都道府県共通のものです。
標準賞与額は、賞与額から1,000円未満を切り捨てた額に、保険料率をかけて算出します。標準賞与額の上限は月間150万円です。
標準報酬月額の対象となるもの
標準報酬月額の対象となるは、毎月の給与だけではありません。以下のような手当も含めて、標準報酬月額を求める必要があるため注意しましょう。
- 基本給
- 残業手当
- 宿直手当
- 家族手当
- 休職手当
- 通勤手当
- 住宅手当
基本的には、労働の対価として受け取る手当は標準報酬月額の対象となります。一方で、退職手当や見舞金など、臨時に受け取るものは対象とはなりません。
標準報酬月額の改定タイミング
標準報酬月額が決まるタイミングとしては、以下の3つが挙げられます。
- 資格取得時決定
- 定時決定
- 随時改定
資格取得時決定とは、新入社員の標準報酬月額を決める方法です。新入社員の場合、基本給や手当を支払った実績がないため、見込み額をもとに標準報酬月額を決定します。
定時決定とは、毎年9月に1年間の標準報酬月額を決めることです。4〜6月に支払われた基本給や手当をもとに標準報酬月額を決定します。
随時改定は、定時決定以外のタイミングで標準報酬月額を変更することです。昇格や降格などにより、標準報酬月額が大きく変更になった場合、随時改定をおこなう必要があります。
3-2. 厚生年金保険料を求める計算式
厚生年金保険料を求める計算式はとてもシンプルです。
標準報酬月額 × 保険料率 =毎月の保険料額 |
標準賞与額 × 保険料率 =賞与の保険料額 |
この2つの計算式を知っておけば、厚生年金保険料の計算は問題なくできます。
保険料率は、平成29年から18.3%に固定されています。
3-3. 厚生年金保険料の計算例
毎月の給与と賞与に対する厚生年金保険料の計算例をそれぞれ紹介します。厚生年金保険料は、給料の何パーセントほどを占めているのでしょう。難しい計算ではありませんが、標準報酬月額と標準賞与額に注意が必要です。
毎月の給与にかかる保険料を計算する場合
下記条件の従業員の厚生年金保険料を計算すると仮定し、実際に算出してみます。
- 標準報酬月額:32万円
- 保険料率:18.3%
計算式に当てはめると、以下のとおり計算できます。
32万円 × 18.3% = 5万8,560円
そのため、5万8,560円がこの従業員にかかる保険料となります。
厚生年金保険料は事業主と従業員で折半するため、実際に給与から天引きするのは半額の2万9,280円となります。
賞与にかかる保険料を計算する場合
賞与が発生した場合は、毎月の給与に加えて賞与の厚生年金保険料も計算する必要があります。
賞与は標準賞与額を元に算出しますが、標準報酬月額のような区分はありません。賞与額の1,000円未満を切り捨てた額が標準賞与額になります。
賞与額が45万1,200円だった場合は、標準賞与額は45万1,000円です。この金額に保険料率をかけます。
45万1,000円 × 18.3% = 8万2,533円
8万2,533円が賞与にかかる保険料です。
これを折半すると4万1,266円となり、この金額が給与から賞与に対する厚生年金保険料として天引きする金額になります。
4. 給与計算で厚生年金保険料を算出するときの注意点
給与計算で厚生年金保険料を算出する際は、個々の事情や保険料率の変化に気を付けることが重要です。ここからは給与計算で厚生年金保険料を算出する際に、とくに見逃しやすい5つの注意点を紹介します。
4-1. 保険料率は変わることがある
社会保険料率は改訂されることがあります。厚生年金保険料率は平成29年9月以降、18.3%で固定されていますが、変更される可能性もあります。計算する前に、念のため確認しておきましょう。
4-2. 報酬額が変わったら標準報酬月額も変わる
給与の増減があった場合や、パートから正社員に雇用形態が変わったときなど、給与に変化があった場合は標準報酬月額も改定する必要があるため、注意してください。
標準報酬月額の改定は、正しく保険料を算出して納付するために必要です。給与に変化があった際は見逃さず、標準報酬月額の確認から始めましょう。
4-3. パート・アルバイトも保険料が発生する
パートやアルバイトとして勤務している従業員も、以下のいずれかを満たすと厚生年金保険の加入対象になり、保険料が発生します。
- 労働日数・労働時間が常時雇用者の4分の3を超えている場合
- 以下の5点をすべて満たしている場合
- 1週間の所定労働時間が20時間以上ある
- 月額賃金が8万8,000円以上になる
- 2カ月を超えて雇用される見込みがある
- 企業全体の被保険者数が100人を超えている
- 学生ではない
1か2の条件をどちらか1つでも満たしている場合は、常時雇用者と同じく厚生年金保険料が発生します。
また、該当するパート・アルバイト従業員を厚生年金保険に加入させることは義務です。未加入が発覚すると、未加入期間の保険料の支払いが発生するため、十分に注意してください。
4-4. 標準賞与額には上限がある
賞与に対する厚生年金保険料を算出する際に使う標準賞与額には、月間150万円の上限があります。同じ月に受け取った賞与が150万円を超える場合、超えた分の賞与額には保険料がかかりません。
うっかり150万円を超えた分も含めて計算してしまうと、厚生年金保険料を払いすぎてしまうことになります。賞与が発生する場合は、上限も意識して計算しましょう。
4-5. 厚生年金保険料の免除に注意
以下の条件に該当する従業員は、厚生年金保険料が免除されます。
産前産後の休業期間
産前産後の休業期間に入る従業員は、事業主が手続きをおこなうことで保険料が免除されます。
従業員本人はもちろんですが、事業主側の保険料も発生しなくなるため、誤って納付しないように気を付けましょう。
育児休業の期間中
育児休業期間に入る従業員も、厚生年金保険料が免除されます。この場合も事業主の手続きが必要です。
免除が適用される場合は、産前産後の休業期間と同様に、事業主側の保険料も発生しなくなります。
5. 給与計算や厚生年金保険料に関するよくある質問
ここからは、給与計算と厚生年金保険料についてよく生じる疑問について紹介します。
誤って厚生年金を控除しすぎた場合の返金や、70歳を迎えた従業員の控除の有無について解説していきます。
5-1. 控除しすぎた場合は返金される?
厚生年金保険料の計算間違いなどにより、従業員の給料から控除しすぎてしまうことも起こり得るでしょう。このような徴収金額のミスは、「翌月の給与で精算する」「すぐに現金で精算する」「企業側が負担する」の3つの方法で対応が可能です。
翌月の給与での精算・現金精算の場合には、会計処理上では「預り金」「法定福利費」などの社会保険料に関連した勘定科目に記載するように注意してください。年末調整時の計算を正しくおこなうためにも、徹底しましょう。
5-2. 70歳を迎えた従業員も給与から厚生年金を控除する?
70歳以上の従業員から厚生年金は徴収しません。なぜなら、70歳(厳密には誕生日の前日)になると、厚生年金保険の資格を喪失するためです。なお、企業は従業員の誕生日前日から5日以内に「厚生年金保険被保険者資格喪失届 70歳以上被用者該当届」を提出する必要があります。
郵送する場合には、各都道府県の日本年金機構の事務センターもしくは管轄の年金事務所に送付します。直接提出する場合には、所轄の年金事務所窓口へ提出します。
ただし、70歳を迎えても同社で労働を続け、以下の両方の要件を該当する場合は、資格喪失届の提出が不要です。
(1)70歳到達日以前から適用事業所に使用されており、70歳到達日以降も引き続き同一の適用事業所に使用される被保険者。
(2)70歳到達日時点の標準報酬月額相当額(※)が、70歳到達日の前日における標準報酬月額と同額である被保険者。
※ 70歳到達日時点において、70歳以上被用者に支払われる報酬月額(通貨・現物によるものの合計額)を、標準報酬月額に相当する金額に当てはめた額となります。
5-3. 厚生年金保険料の納付方法は?
厚生年金保険料は、日本年金機構へ納付します。従業員の給与から天引きした保険料と、事業主負担分の保険料をまとめて、翌月末までに納付しましょう。
たとえば、8月分の厚生年金保険料は、9月末までに納付する必要があります。納付方法は以下の3つです。
- 口座振替
- 金融機関の窓口での納付
- 電子納付
6. 給与計算で厚生年金保険料を計算するなら給与計算ソフトがおすすめ
厚生年金保険料の計算は難しいものではありません。とはいえ、国民年金と違い、従業員一人ひとりの給与額や賞与額によって変化する厚生年金保険料は、アナログな方法で計算すると負担が大きいです。
計算ミスや見落としも発生しやすいため、従業員数が多い場合は給与計算ソフトや人事管理システムを利用した方が便利でしょう。「人事労務の負担を大きく減らしたい」「保険料の計算ミスを防ぎたい」といった課題を抱える場合には、システムの導入を検討してみるとよいでしょう。