日本では度々長時間労働が問題視されています。長時間労働は従業員の健康に悪影響を及ぼし、最悪の場合には過労死に繋がります。こういった状況から、労働時間短縮を求める声が高まりつつあります。
本記事では、労働時間の短縮が推進されている背景や、労働時間短縮・年休促進支援コース、労働時間短縮を実現させるための取り組みについて解説します。
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目次
1. 労働時間の短縮が推進されている背景
労働時間の短縮が推進されている背景としては、主に少子高齢化による労働人口の減少が挙げられます。ここでは、より具体的な労働時間短縮が求められる背景について解説します。
1-1. 人手不足による長時間労働を改善するため
日本では少子高齢化が深刻化し、労働人口の減少が問題視されています。日本全体として労働人口不足が問題になっていますが、特に中小企業では状況が深刻化しています。
それに加えて、2019年以前では特別条項付き36協定を締結すれば実質、無制限に従業員を労働させられるという状況が相まって、長時間労働や過労死が深刻な社会問題となりました。
こういった問題を是正するため、特別条項付き36協定を締結しても「時間外労働は月100時間、年720時間まで」と罰則付き上限規制が設けられました。このように、日本では徐々に労働時間を短縮させる動きが強まっています。
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1-2. 日本の労働生産性向上のため
日本では労働人口の減少が深刻化していることから、労働生産性の向上が求められています。実際に日本の労働生産性はOECD加盟国36ヵ国の中で20位前後に低迷しています。そういった状況を受けて、労働生産性の向上を求める風潮を日本全体で高めていくために、労働時間の短縮が推進されています。
ここまで、労働時間短縮を推進されている背景について解説しました。しかし、建設業や運送業、医師業などの業界や職種においては長時間労働の文化が根強く、労働時間の短縮が難航しています。これらの業界では、それぞれ労働時間短縮に向け様々な取り組みが行われています。本記事では医師に対する労働時間短縮に向けた取り組みについて解説します。
2. 医師に対する労働時間短縮計画とは?
ここからは、医師労働時間短縮計画の概要について解説します。
2024年から、全ての勤務医に時間外労働の上限規制が設けられます。
各病院では「年間960時間以下」のA水準を原則として、地域医療における必要性等の理由がある場合については「BあるいはB連携水準」、一定の期間集中的に技能向上のための診療を必要とする場合については「C水準」として、年間1,860時間・月100時間未満の上限規制が適用されることが決定しています。
ここからは、医師労働時間短縮計画の提出に関する内容について解説します。
2-1. 計画提出が求められる医療機関
計画提出が求められる医療機関は以下の通りです。
・令和2年度~令和5年度までに、B・C水準の指定を受けていない状況下で年間時間外・休日時間数が960時間を超える医師がいる医療機関
・令和6年度以降は連携B・C水準の指定を受けている年間時間外・休日時間数が960時間を超える医師がいる医療機関
上記の通り、対象の医療機関は期間ごとに異なるため、注意が必要です。
2-2. 計画期間
令和5年度末までの計画の計画期間は以下の通りです。
・計画始期:任意の日
・計画終期:令和6年3月末日
令和6年度以降の計画の計画期間は以下の通りです。
・計画始期:令和6年4月1日
・計画終期:始期から5年を超えない範囲内で任意の日
引用:医師労働時間短縮計画作成ガイドライン一部抜粋|厚生労働省
また、労働短縮計画の提出後は実際に労働時間短縮に向けて取り組んでいく必要があるため、可能な限り早期の提出が望ましいとされています。
ここまで、医療労働時間短縮計画の提出が求められる医療機関と計画期間について紹介しました。
医療労働時間短縮計i画の記載事項には「共通記載事項」と「任意記載事項」の2種類があります。ここからは、両者について順番にご紹介します。
2-3. 医療労働時間短縮計画の共通記載事項
共通記載事項には「労働時間」「労務管理・健康管理」「意識改革・啓発」の3つがあります。
①労働時間
以下の全ての項目で、「前年度実績」「当年度目標」「計画期間終了後の目標」を記載する必要があります。
・ 年間の時間外・休日労働時間数の平均
・ 年間の時間外・休日労働時間数の最長
・ 年間の時間外・休日労働時間数 960 時間超~1,860 時間の人数・割合
・ 年間の時間外・休日労働時間数 1,860 時間超の人数・割合
引用:医師労働時間短縮計画作成ガイドライン一部抜粋|厚生労働省
また、目標値については自由に決めていいというものではなく、「医療労働時間短縮目標値ライン」を目安に設定しなければなりません。2035年度末の目標値である「年960時間」を着実に達成していけるよう、3年ごとの目標値を設定する必要があります。
「医療労働時間短縮目標値ライン」は以下の通りです。
2027 年:X-(X-960)/4
2030 年:X-2(X-960)/4
2033 年:X-3(X-960)/4
2036 年:9602024 年4月時点での時間外・休日労働時間数を年X時間として計算しま
引用:医師労働時間短縮計画作成ガイドライン一部抜粋|厚生労働省
例)時間外・休日労働時間数を年1200時間とした場合
2027年:1200-(1200-960)÷4=1,140時間
2030年:1200-2(1200-960)÷4=1,080時間
2033年:1200-3(1200-960)÷4=1,020時間
2036年:960時間
となり、上記の結果が各年の目標値になります。
②労務管理・健康管理
以下の全ての項目で、「前年度実績」「当年度目標」「計画期間終了後の目標」を記載する必要があります。
・労働時間管理方法
・宿日直基準に沿った運用
・医師の研鑽の労働時間該当性を明確化するための手続き等
・労使の話し合い、36協定の締結
・衛生委員会、産業医等の活用、面接指導の実施体制
・追加的健康確保措置の実施
引用:医師労働時間短縮計画作成ガイドライン一部抜粋|厚生労働省
③意識改革・啓発
以下の項目のうち、最低1つの取り組みにおいて、「前年度の取り組み実績」「当年度の取り組み目標」「計画期間中の取り組み目標」を記載する必要があります。
・管理者マネジメント研修
・働き方改革に関する医師の意識改革
・医療を受ける者やその家族等への医師の働き方改革に関する説明
引用:医師労働時間短縮計画作成ガイドライン一部抜粋|厚生労働省
意識改革・啓発とは医師の労働時間短縮を進める上で、管理者や医師の労働時間に対する意識変革を目的とした活動です。医師の労働時間に対する意識変革を促すため、管理者や医師の労働時間に関する十分な説明をすることが求められていることが伺えます。
2-4. 医療労働時間短縮計画の任意記載事項
任意記載事項は以下の通りです。ただし、任意記載事項は各医療機関に勤務する職員の状況や提供している診療業務の内容などによって、実施できる可能性が医療機関ごとに大きく変動します。
そのため、下記の項目のうち1つの取り組みを選択し、「取り組み実績」「計画期間中の取り組み目標」を計画に記載するという方式が用いられています。
・タスク・シフト/シェア[注1]
・医師の業務の見直し
・その他の勤務環境改善
・副業・兼業を行う医師の労働時間の管理
・C-1水準を適用する臨床研修医及び専攻医の研修の効率化[注2]
引用:医師労働時間短縮計画作成ガイドライン一部抜粋|厚生労働省
[注1]タスク・シフト/シェアとは、現在医師が行っている業務を他職種がカバーすることで、医師がより専門的な業務に注力しやすくし、業務時間の短縮に繋げようとする取り組みのこと。
[注2]C-1水準とは、研修医向けに設けられた水準のことでプログラムに沿って基礎的な技能や能力を習得する際に適用されます。
ここまで、医師労働時間短縮計画の対象となる医療機関や、計画の記載事項や任意記載事項について解説しました。長時間労働にお困りの医療機関の方々は、今回解説した計画を参考に、労働時間の短縮に取り組んでいきましょう。
しかし、長時間労働が問題視され、労働時間短縮への取り組みをしなければならないのは、医師だけではありません。企業ごとの規模によっても、労働時間は全く異なります。ここからは、特に長時間労働が問題視されている「中小企業」に対する労働時間短縮を目指す取り組みについて解説します。
3.労働時間短縮・年休促進支援コースとは?
「労働時間短縮・年休促進支援コース」とは、労働生産性の向上、労働時間短縮、有給休暇取得の促進に向け、労働環境整備に取り組む中小企業に支援を行う施策です。
ここからは、より具体的に「労働時間短縮・年休促進支援コース」について解説します。
3-1. 支給対象となる事業主
「労働時間短縮・年休促進支援コース」の支給対象となるのは、上記で述べた通り中小企業が当てはまります。ただし、以下の3つの基準を満たす中小企業が支給対象となるので注意しましょう。
①労働者災害補償保険の適用事業主であること。
②交付申請時点で、「成果目標」1から4の設定に向けた条件を満たしていること。
③全ての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること
引用:医師労働時間短縮計画作成ガイドライン一部抜粋|厚生労働省
3-2. 支給対象となる取り組み
支給対象となる取り組みに関しては様々な取り組みが当てはまりますが、総じて労務担当者に対する研修や労務用管理ソフトウェアの導入など、労働時間削減に関する取り組みが対象となります。
詳しい内容についてはこちらから確認することができます。
3-3. 成果目標の設定
成果目標の設定は選択式でおこなわれています。
以下の1~4のうちから1つ以上選択し、それを成果目標とし達成を目指します。
1:全ての対象事業場において、令和4年度又は令和5年度内において有効な36協定について、時間外・休日労働時間数を縮減し、月60時間以下、又は月60時間を超え月80時間以下に上限を設定し、所轄労働基準監督署長に届け出を行うこと
2:全ての対象事業場において、年次有給休暇の計画的付与の規定を新たに導入すること
3:全ての対象事業場において、時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入すること
4:全ての対象事業場において、特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、新型コロナウイルス感染症対応のための休暇、不妊治療のための休暇)の規定をいずれか1つ以上を新たに導入すること
引用:医師労働時間短縮計画作成ガイドライン一部抜粋|厚生労働省
3-4. 実施期間や申請期間、支給額について
実施機関や申請期間は以下の通りです。
・実施期間:交付決定の日から2023年1月31日まで
・申請期間:2022年11月30日(水)まで
申請期間は支給対象事業主数は国の予算額に制約されるため、2022年11月30日以前に締め切られる可能性があります。そのため、「労働時間短縮・年休促進支援コース」に興味をお持ちの方は、お早めに申請するといいでしょう。
支給額については、成果目標の達成度合いに応じて変動します。
詳しくは下記のリンクからご参照ください。
働き方改革推進支援助成金 一部抜粋 |厚生労働省
「労働時間短縮・年休促進支援コース」を上手く活用して、自社の労働時間短縮を促進していきましょう。
4. 労働時間短縮のメリット・デメリットとは?
ここからは、労働時間短縮のメリットとデメリットについて解説していきます。
4-1. 労働時間短縮のメリット
ワーク・ライフ・バランスの実現
労働時間を短縮することでワーク・ライフ・バランスを実現することが出来ます。仕事だけでなく私生活も充実させることができるので従業員の精神状態を健康に保ち、仕事への集中力の維持に繋がります。
企業のイメージアップ
労働時間を短縮することで、企業のイメージアップに繋がります。企業のイメージが刷新されることで、求人が増加し、人材不足を解決することができます。長時間労働は主に人材不足が原因として引き起こされるため、労働時間短縮に取り組むことで長時間労働発生の原因を解決することができます。
4-2. 労働時間短縮のデメリット
従業員の給与が減少する
労働時間が短縮されることで、今まで支給されていた残業代が減少するため従業員の給与が下がる可能性があります。
仕事が納期までに終わらないリスクがある
労働時間短縮により、単に労働時間を減らすだけだと仕事が納期までの終わらないというリスクがあります。また、今まで1週間で終わっていた業務を完了させるのに2,3週間かかってしまい、企業の資金繰りが苦しくなるなどのリスクがあります。そのため、自社の労働環境を見極めたうえで、労働時間短縮を取り入れましょう。
5. 労働時間短縮に向けた具体的な取り組み
ここまで、労働時間に関する規則や労働時間の計算方法について紹介しました。
これらの内容を踏まえて、ここでは労働時間の短縮に向けた具体的な取り組みについて解説します。
5-1. 業務環境の整備
企業によっては、「残業してでも成果を残せば、評価される」という風潮が従業員の間に広まっている事があります。こういった風潮が根強い企業では、長時間労働が常態化しやすい傾向にあります。
この場合、業務環境を整備する上で重要となるのは、人事評価に「短い時間で成果を上げる事」や「生産性」といった項目を加えることです。これにより、企業全体に労働時間を減らそうとする意識が芽生え、その結果、企業全体として労働時間の短縮に繋がるでしょう。
5-2. ノー残業デーの導入
「ノー残業デー」とは、残業をせず、定時で帰る日を設定する取り組みです。ノー残業デーを設定することにより、定時に帰るために仕事を終わらせなくてはいけないという意識が生まれ、結果として従業員の生産性が上がり、残業時間の短縮に繋がります。
5-3. 勤怠管理システムの導入
勤怠管理システムの導入も業務時間の短縮に繋がります。勤怠管理や給与計算を紙やExcelで行っていると、打刻ミスがあった際の対応や集計作業、法改正があった際に、長時間労働が発生しがちです。勤怠管理システムを導入していると、勤怠情報を自動で記録し、法改正にも自動で対応できるため、大幅な労働時間短縮を実現することができます。
6. 業務改善を行い、労働時間短縮を実現させよう!
本記事では、労働時間の短縮が推進されている背景や、労働時間短縮を実現させるのための取り組みについて解説しました。労働時間を短縮することは、企業にとってメリットもデメリットもあります。そのため、自社の労働環境と相談し、可能な範囲から労働時間短縮に取り組みましょう。