日本でも女性が活躍する機会が増えてきました。しかし、賃金については、労働基準法第4条「男女同一賃金の原則」という条文がありながら、男女間賃金格差は埋まっていないのが現状です。この記事では、労働基準法第4条の定義や意味をはじめ、男女間賃金格差の現状や原因、違反行為による判例、法律を遵守するためのポイントを解説します。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 労働基準法第4条「男女同一賃金の原則」の定義や意味
労働基準法第4条では、「男女同一賃金の原則」に関する定めがされています。封建的な慣習によって低かった女性の社会的・経済的地位の向上を目的として定められた条文で、女性という理由だけで、男性と賃金の差があってはならないことを意味します。
たとえば、労働者が女性であることを理由に、男性と比べて給与や手当などの賃金を低くするなど、差別的取り扱いすると違法になります。なお、差別的取り扱いには、不利に扱うことだけでなく、有利に扱うことも含まれるので注意しましょう。
(男女同一賃金の原則)
第四条 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。
1-1. 男女間賃金格差の現状
労働基準法第4条に定められているように、あってはならない男女の賃金格差ですが、まだまだ改善されていないのが現状です。厚生労働省は、労働者の職種別をはじめ、正・非の雇用形態やパートなどの就業形態別、性別、年齢別、学歴別、勤続年数別、企業規模別、経験年数別、役職別などに賃金との関係を調査し、現状を明らかにするため、毎年「賃金構造基本統計調査」をおこなっています。令和5年度の賃金構造基本統計調査の結果は、次の通りです。
月額:一般労働者(短時間労働者以外の労働者)の賃金 | 前年比 | ||
男性 | 350,900 円 | 年齢:44.6歳/勤続年数13.8年 | 2.6%増 |
女性 | 262,600 円 | 年齢:42.6歳/勤続年数9.9年 | 0.7%増 |
男女計 | 318,300 円 | 年齢:43.9歳/勤続年数12.4年 | 2.1%増 |
時間額:短時間労働者(パートやアルバイトなど)の賃金 | 前年比 | ||
男性 | 1,657円 | 年齢:41.9歳/勤続年数5.2年 | 2.0%増 |
女性 | 1,312円 | 年齢:46.6歳/勤続年数6.7年 | 3.3%増 |
男女計 | 1,412円 | 年齢:45.2歳/勤続年数6.3年 | 3.3%増 |
男性の賃金を100としたとき、女性の賃金は、前年度より0.9ポイント減の74.8で、時間額では、男性と比べて年齢も高く勤続年数が長いにもかかわらず、女性の賃金のほうが低いという結果でした。月額と時間額の両方から見ても、男女間の賃金に差がある現状は明らかです。
1-2. 男女間賃金格差の原因
労働基準法第4条で男女同一賃金の原則が定められているにもかかわらず、なぜ男女間賃金格差が生じているのでしょうか。男女間賃金格差の主な原因は、次のとおりです。
- 平均勤続年数の違い
- 業務の難易度の違い
- 女性の非正規雇用労働者の割合が多い
- 管理職以上の女性が少ない
- 諸手当の有無
- 日本での性別役割分業の固定概念
出産を機に退職後、一段落してから非正規雇用として働く女性が多いため、平均勤続年数が短く、非正規雇用労働者の割合が多くなります。また、住宅手当や家族手当などの諸手当は、男性が世帯主になっていることも多く、女性には諸手当が支給されていない点も男女間賃金格差の原因といえるでしょう。
2. 労働基準法第4条「男女同一賃金の原則」に違反した場合の罰則
労働基準法第4条「男女同一賃金の原則」に違反すると、罰則を受ける恐れがあります。ここでは、労働基準法第4条に違反した場合の罰則と、どのような場合に違法となるのか判例をいくつか紹介します。
2-1. 労働基準法第4条の違反罰則
男性労働者よりも女性労働者の賃金を低く設定するなど、差別的取り扱いをした場合、労働基準法第4条に違反することになります。この場合、労働基準法第119条に則り、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金の罰則が課せられる可能性があります。また、労働基準法に違反した企業として、厚生労働省ホームページやニュースサイトなどに会社名が公表され、社会的信用を損なうリスクもあるので気を付けましょう。
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
一 (省略)、第四条、(省略)の規定に違反した者
引用:労働基準法第119条一部抜粋|e-Gov
2-2. 労働基準法第4条違反と認められた判例
労働基準法第4条「男女同一賃金の原則」に違反があったと認められた判例は少なくありません。判例をチェックし、自社の雇用状況を見直すことで、労働基準法第4条違反を未然に防止することが可能です。
【1992年8月27日判決「日ソ図書男女賃金差別事件」】
日ソ図書男女賃金差別事件とは、女性社員と年齢・入社時期が、比較的近いとされる男性社員4名との基本給の賃金格差に対しての訴訟です。年齢と勤続年数を同じくする男女間の賃金格差が、合理的理由となりうるのは、その提供する労働の質及び量に差がある場合に限られるとし、労働基準法第4条違反として、不法行為に基づく損害賠償の支払いが命じられています。
女子社員と入社時期および入社年齢が比較的近接している男子社員四名との賃金格差につき、年齢・勤続年数を同じくする男女間の賃金格差が合理的理由となりうるのは、その提供する労働の質および量に差がある場合に限られるとし、本件については女子であることのみを理由とするもので労基法四条に違反するとされ、不法行為による損害賠償の支払いが命ぜられた事例。
【1975年4月10日判決「秋田相互銀行事件」】
秋田相互銀行事件とは、扶養家族がいないとする同条件にもかかわらず、扶養家族がある者として賃金が支払われていた男性行員と支払われていない女性行員との賃金格差があったことに対する訴訟です。扶養家族がいないにもかかわらず、男性行員には、調整給によって扶養家族がある者と同等の賃金が支払われ、同条件でありながら女性行員には、扶養家族がない者の賃金が支払われていました。女性であることを理由とする賃金格差が認められ、労働基準法第4条に違反するとし、男性行員の給与基準との差額の支払請求が命じられています。
被告会社では基本給の中心をなす本人給を扶養家族の有る者と無い者とに分けた本人給表により支給すると定めていたが、実際には扶養家族の有無に関係なく、男子行員には前者が、女子行員には後者が適用されていたので、女子行員らが、男子に適用された基準による給与との差額の支払を請求した事例。(請求認容)
3. 労働基準法第4条「男女同一賃金の原則」を遵守するためのポイント
労働基準法の第4条「男女同一賃金の原則」を遵守するためには、男女間賃金格差の原因を解消することがポイントです。ここでは、労働基準法第4条「男女同一賃金の原則」を遵守するためのポイントについて詳しく紹介します。
3-1. 就業規則や雇用契約書を見直す
就業規則や雇用契約書には、労働基準法に基づき賃金や手当などの定めをすることが一般的です。労働基準法は改正が繰り返しおこなわれており、就業規則や雇用契約書の見直しをおこなっていない場合、気づかないうちに違法の定めをしている可能性があります。
とくに、「女性だから賃金を〇〇とする」などのように、男性と女性の間で賃金の差別的取り扱いをする規定を定めている場合、労働基準法第4条違反となります。このように、労働基準法を正しく理解し、定期的に就業規則や雇用契約書を見直すことが大切です。
関連記事:労働条件通知書とは?雇用契約書との違いや書き方・記入例をわかりやすく解説!
3-2. 女性労働者を守るための規定もチェックする
労働基準法第4条は、性別に関係なく、賃金を平等にすべきことを定めた条文です。しかし、女性は生理や妊娠などを経験することから、労働基準法では女性労働者を保護するための規定が数多く定められています。
たとえば、女性労働者は請求すれば、産前産後休業を取得することができます。また、生後満1年未満の子どもを育てる女性労働者は、授乳などのために育児時間を取得することも可能です。このように、男女同一賃金の原則だけでなく、労働基準法で定められる女性労働者を守るための規定も確認し、遵守するようしましょう。
関連記事:労働基準法による妊婦を守る制度についてわかりやすく紹介
3-3. 男女雇用機会均等法を確認する
男女雇用機会均等法とは、憲法第14条「法の下の平等」に基づき、雇用分野において男女の均等な機会・待遇の確保を図ることを推進するための法律です。つまり、「女性だから」という性別を理由で、賃金に限らず、採用や配置、昇進、退職、解雇など雇用に関して差別的取り扱いをすることは法律で禁止されています。このように、労働基準法だけでなく、男女雇用機会均等法もチェックし、性別に関係なく平等に働ける環境を構築することが大切です。
(目的)
第一条 この法律は、法の下の平等を保障する日本国憲法の理念にのつとり雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに、女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することを目的とする。
3-4. 同一労働同一賃金を遵守する
男女間だけでなく、正規・非正規の間で賃金の差別的取り扱いをすることも禁止されています。パートタイム労働法第8条では、通常の労働者と、短時間労働者(パートやアルバイトなど)や有期雇用労働者(契約社員など)の待遇に関して不合理な差を設けてはならないことを定めています。
つまり、同じ仕事をしてるのであれば、正社員やパート・アルバイトなどに関係なく、同じ賃金・待遇を設ける必要があります。このように、労働基準法以外にも、パートタイム労働法などの他の法律も確認し、同一労働同一賃金を遵守することも大切です。
(不合理な待遇の禁止)
第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
3-5. 女性活躍推進法も定められている
近年では少子高齢化による労働人口の減少や、グローバル化への対応などが国内全体の課題となっています。このような課題を解消するためには、多様な人材が活躍できる場を整備することが大切であり、女性労働者の雇用環境を整えることも重視されています。
女性活躍推進法とは、個性や能力を発揮して活躍したいと望む女性が活躍できる社会づくりを目指す法律です。労働基準法第4条に則り、男女の賃金を平等にするだけでなく、女性活躍推進法も確認し、女性がその個性や能力を発揮できる労働環境を整備することにも努めましょう。
(目的)
第一条 この法律は、近年、自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性がその個性と能力を十分に発揮して職業生活において活躍することが一層重要となっていることに鑑み、男女共同参画社会基本法の基本理念にのっとり、女性の職業生活における活躍の推進について、その基本原則を定め、並びに国、地方公共団体及び事業主の責務を明らかにするとともに、基本方針及び事業主の行動計画の策定、女性の職業生活における活躍を推進するための支援措置等について定めることにより、女性の職業生活における活躍を迅速かつ重点的に推進し、もって男女の人権が尊重され、かつ、急速な少子高齢化の進展、国民の需要の多様化その他の社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力ある社会を実現することを目的とする。
4. 労働基準法第4条 「男女同一賃金の原則」を正しく理解しよう!
労働基準法第4条「男女同一賃金の原則」とは、賃金に関して、男女間で差別的取り扱いを禁止する条文です。労働基準法第4条に違反すると、懲役や罰金などの罰則が課せられる恐れがあります。男女雇用機会均等法や、パートタイム労働法、女性活躍推進法などの法律もあわせてチェックし、女性労働者が活躍できる職場づくりを推進しましょう。
労働基準法総まとめBOOK