労働条件通知書を電子化するには、労働者本人の希望があることのほかに、労働条件を労働者本人だけが閲覧できること、労働者本人が自由に出力できることが求められています。
労働条件通知書の電子化をすることで、雇用契約に関する業務を効率化しコスト削減を図ることができるだけでなく、契約締結・更新までがスピーディーになるため、ぜひ導入を検討しましょう。
この記事では、労働条件通知書を電子化するメリットや手順、必要な要件などを解説します。
関連記事:労働条件通知書とは?雇用契約書との違いやそれぞれの役目と必要な理由を解説
「入社手続き・雇用契約の書類作成や管理業務を楽にしたいが、どうしたらいいかわからない…」とお困りの方におすすめなのが、入社手続き・雇用契約の電子化です。
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目次
1. 労働条件通知書の電子化が2019年4月から可能に
従来の労働条件通知書は、労働基準法第15条に基づき、書面での交付が義務付けられており、郵送か手渡しで交付する必要がありました。[注1]
しかし、2019年4月1日に労働基準法施行規則が改正され、労働条件通知書の交付方法についての規制が緩和されたことで、電子メールやファクシミリを利用した交付が認められました。[注2]電子メールにはチャットサービスなども含まれます。
この規制緩和によって、今までも電子化が可能だった雇用契約書に加えて、労働条件通知書をオンライン上でやりとりできるようになり、雇用契約の完全電子化が可能となりました。
なお、労働者に明示しなければならない労働条件事項は、書面で交付する場合と同じです。
ただし、原則は書面交付であるため、電子化が認められるのは労働条件通知書を交付する労働者が希望したときのみとなります。
1-1. 労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書と雇用契約書は似たような書類ですが、いくつかの違いがあります。2つの書類の大きな違いは、法律上の作成義務があるかどうかです。労働条件通知書は法律に従って作成する必要がありますが、雇用契約書の作成義務はないため、交付しなくても法律違反にはなりません。
また、雇用契約書に記載する内容についての法律上のルールもなく、雇用条件や福利厚生などの項目を企業が自由に記載できます。一方の労働条件通知書には、法律によって決められた項目を正しく記載しなければなりません。なお、2つの書類をまとめて「労働条件通知書兼雇用契約書」として交付することも可能です。
2. 労働条件通知書を電子化する4つのメリット
労働条件通知書を電子化することにはいくつかのメリットがあります。それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。
2-1. 契約に関する業務を効率化できる
派遣社員やアルバイトなど、従業員の出入りが激しい企業ほど、契約締結や更新時にかかる業務負担が大きいでしょう。労働条件通知書を電子化すると、書面の作成や封入・送付などの準備にかかる手間や時間を省けるため、業務負担を大幅に軽減できます。
2-2. 契約締結までがスピーディーになる
労働条件通知書を電子化することで、契約締結までをスピーディーに進めることができます。最近では人材採用のオンライン化が進み、雇用側・労働者側の双方に負担がかからないWeb面接をおこなう企業が増加してきました。
採用通知書や労働条件通知書を電子化することで、人材募集・面接・採用・通知書の交付までの流れを一貫してオンラインでおこなうことができます。
2-3. 印刷や郵送にかかるコストを削減できる
労働条件通知書を書面で作成した場合、労働者へ送付するために書面を印刷し、郵送しなければなりません。電子化すれば、印刷にかかるインク代や用紙代、封筒代、郵送にかかる送料が不要になり、コスト削減にもなります。
2-4. ペーパーレス化によって管理しやすくなる
作成した労働条件通知書は、一定期間保管しておく義務があります。従業員が多い企業であれば、膨大の量の書類を保管するための場所が必要です。電子化することで保管場所が不要になり、その分のスペースを有効活用することができます。
また、紙管理の場合、必要になったときに探し出すことにも時間がかかります。特定の従業員の書類が必要なときも、パソコン上で管理していれば、すぐに探し出すことが可能です。
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3. 労働条件通知書を電子化するときの注意点
労働条件通知書を電子化するときは、以下のような点に注意しましょう。
3-1. 書面と同様の内容を記載する
労働条件通知書を電子化する場合でも、書面で交付するときと同様に法律に従って決められた項目を記載しなければなりません。契約期間や就業場所、賃金などの項目を正しく記載することが大切です。
電子化によって作成を効率化することは可能ですが、内容を簡略化できるわけではないため注意しましょう。
3-2. 労働条件通知書は5年間保管する
労働条件通知書は、労働基準法により5年間保管することが義務付けられています。また、労働条件通知書を電子化した場合、電子帳簿保存法の「電子取引」に該当するという解釈もあり、7年間保管すべきという考え方もあります。
法律を遵守しつつ、従業員とのトラブルを防止するためにも7年間保管しておいたほうが無難でしょう。
3-3. 労働者に確認してもらう
労働条件通知書を電子化して送付したときは、従業員が内容を確認したことを企業側はチェックしなければなりません。仮にメールで送付したとしても、従業員がメールを確認しておらず内容を見ていない場合は、労働条件を通知できていないと見なされる可能性もあります。
労働条件を把握したことについてメールで返信させるなど、従業員が内容を確認したことの記録を残せるようにするとよいでしょう。
3-4. 内容を改ざんできないようにする
労働条件通知書を電子化する場合、内容を改ざんできないように配慮することが大切です。従業員や社内の関係者が簡単に内容を改ざんできるような状態では、トラブルが発生した際、労働条件通知書が証拠として役に立ちません。
必要に応じて改ざんを防止できるシステムや、電子署名を付与できるサービスなどを導入するとよいでしょう。
4. 労働条件通知書を電子化する手順
労働条件通知書を電子化するにはさまざまな方法がありますが、雇用契約を完全電子化する場合は次の手順が必要です。
4-1. 労働条件通知書兼雇用契約書を作成する
事務処理を効率化したい場合は、労働条件通知書と雇用契約書を兼用した書面を作成するのがおすすめです。
労働条件通知書だけを電子化して交付すると、就業規則などについて労働者の合意が得られているかどうかの証拠がないため、トラブルの原因になる可能性があります。
労働条件通知書と雇用契約書を兼ねる書類を作成してデータ化すれば、業務を効率化できるだけでなく、従業員とのトラブルを未然に防ぐことか可能です。
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4-2. 絶対的明示事項を記載した書類データを用意する
労働条件通知書の作成に定められた書式・様式はとくにありませんが、労働基準法によって定められた「絶対的明示事項」を記載する必要があります。[注3]
絶対的明示事項は雇用形態によって異なるため、アルバイトやパート、派遣社員など、雇用形態別にテンプレートを用意することが必要です。
絶対的明示事項を漏らさずに書類データを作成する際は、厚生労働省や各地方労働局の公式ホームページで公開されている労働条件通知書のテンプレートを参考にするとよいでしょう。
また、可能な限り相対的明示事項も文書で交付することをおすすめします。もし口頭でしか伝えていなかった場合、後々労使間のトラブルにつながりかねません。そもそもの「絶対的明示事項」や「相対的明示事項」で明示すべき事項がわからない、違いについて再確認したいという方もいるでしょう。そのような方に向けて、当サイトでは、雇用契約手続きや解雇の条件までをわかりやすく解説した資料を用意しております。雇用契約に関する基本を再確認したい方はぜひこちらからダウンロードしてご覧ください。
4-3. 労働者に電子メールかファクシミリで交付する
労働条件通知書を作成し終わったら、労働者に電子メールかファクシミリを用いて交付しましょう。電子メールのなかにはチャットサービスなども含まれます。ただし、本人だけが閲覧できるようにして交付しなければなりません。グループチャットで交付したり、第三者に労働条件がわかる状態で交付したりすることはできません。
そのため、第三者に見られる可能性があるSNSツールなどは使用しないようにしましょう。
5. 労働条件通知書を電子化するための3つの要件
労働条件通知書を電子化するには、次の3つの要件を満たす必要があります。
5-1. 労働者が電子化を希望していること
前述した通り、労働条件通知書の電子化は労働者本人の意思を確認し、希望しているときのみ認められます。労働者本人が希望しない、または同意を得ないまま、雇用主が一方的に電子交付することは労働基準法違反となります。
本人が電子化を希望しない場合は、書面で交付しましょう。
5-2. 労働者本人だけが閲覧可能であること
労働条件の明示は、労働者本人だけが確認できる状態でなければなりません。そのため、電子化した労働条件通知書を交付する場合は、第三者が閲覧できる個人ブログやホームページ、Twitterなどの公開されたSNSの使用は避けましょう。
5-3. 労働者本人が自由に出力できること
労働条件通知書を書面以外の方法で交付する場合、労働者本人が自由に保存・印刷できることが条件です。そのため、電子メールやビジネスチャットツールなど、書類データを添付ファイルで交付できる方法が推奨されています。安全性の観点から、企業サーバーにパスワードをかけてアップロードするのもおすすめです。
SMSなど添付ファイルが送信できないツールや、データを自由に出力できないツールを使用することは望ましくありません。
6. 労働条件通知書の電子化には電子契約サービスの利用がおすすめ
労働条件通知書を電子化すると、業務効率化やコスト削減など、さまざまなメリットを得られます。これまで負担が大きかった契約締結、契約更新についての業務が軽減されれば、そのぶん業務に割いていた人員や時間を採用や戦略人事に注力できるでしょう。
労働条件通知書を電子化し、適切に交付するためには、雇用管理システムや電子契サービスの利用がおすすめです。雇用契約に関するデータの一括管理やクラウド上へのアップロード、PDFでの出力などが簡単になり、より業務を効率化できます。
[注1]労働基準法 第十五条「労働条件の明示」|e-Gov法令検索
[注2]労働基準法施行規則 第五条第四項|e-Gov法令検索
[注3]採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。|厚生労働省