「“良い会社アピール”のためではない」ヌーラボがたった1週間でカスタマーハラスメント方針をつくった理由 |HR NOTE

「“良い会社アピール”のためではない」ヌーラボがたった1週間でカスタマーハラスメント方針をつくった理由 |HR NOTE

「“良い会社アピール”のためではない」ヌーラボがたった1週間でカスタマーハラスメント方針をつくった理由

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※本記事は、インタビューを実施したうえで記事化しております。

プロジェクト管理ツールの「Backlog」、ビジュアルコラボレーションツールの「Cacoo」、ビジネスディスカッションツールの「Typetalk」などのソフトウェアを開発・提供している株式会社ヌーラボ

この度ヌーラボ社は、改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)を受け、カスタマーハラスメントに関する方針を策定し、対応窓口を設置しました。

この方針発表は、ヌーラボ 社がカスタマーハラスメントに対して具体的な課題を抱えていることが理由ではなく、今後起こりうるであろうと予想して「予防」のために実施した取り組みとのこと。

さまざまなハラスメントの中でも、カスタマーハラスメントに対して具体的な対策をしている企業は、まだ多くないと思います。

ではそのような中、なぜヌーラボ社は問題が起きる前からカスタマーハラスメントに着目し、自社の姿勢を発信したのでしょうか。

しかも、なんと今回の方針の着想からプレスリリースの公開までかかった時間は、たったの1週間だったとのこと。

今回は、カスタマーハラスメント対策を実施した背景や、着想から公開までの1週間の裏側について、ご紹介します。

【人物紹介】橋本 正徳 | 代表取締役社長 

1976年福岡県生まれ。福岡県立早良高等学校を卒業後上京し、飲食業や劇団主催、クラブミュージックのライブ演奏などに関わる。1998年、福岡に戻り、家業であった建築業に携わたのち、プログラマーに転身。2004年、福岡にて株式会社ヌーラボを設立し、チームのコラボレーションを促進する3つのWebサービスBacklog、Cacoo、Typetalkを開発・運営中。

ヌーラボはなぜ、カスタマーハラスメント対策の表明を出すに至ったのか?

ー本日はよろしくお願いします。まずはカスタマーハラスメントの一般的な定義について教えてください。


橋本さん
カスタマーハラスメントとは、簡単に言うと「お客様からのいやがらせ」です。

『職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書』によると、顧客や取引先からの暴力や悪質なクレームなどの迷惑行為については、労働者に大きなストレスを与えることから、無視できない状況だと問題提起されています。

しかし、取引先顧客に対してハラスメント行為を指摘することは非常に勇気のいることです。実際に、社内向けのハラスメント対策と比較をしてみても、難易度が高いことだといわれています。

ちなみに、今回施行されたパワハラ防止法内では「カスタマーハラスメント対策は努力義務」とされています。ただ、努力義務であっても、社内全体にハラスメントの周知・啓発をおこなう必要があると思っています。

社会全体的にも、顧客からの迷惑行為に「カスタマーハラスメント」と名前をつけ、声をあげていくことが重要だと考えています。

また、カスタマーハラスメントと同様に、業務委託の方やインターン生、新卒の就活生を含む求職者の方に対するハラスメント問題も企業の努力義務となっています。

ヌーラボとしては、今回は努力義務とされている対象範囲も従業員と同様に扱い、会社としてのハラスメント方針を示すことが必要だと考えています。


ーカスタマーハラスメントという言葉は最近よく聞く印象ですが、注目されるようになってきた背景はどのようなものでしょうか。


橋本さん
近年、オンラインメディアやテレビなどで、カスタマーハラスメントに関するニュースが取り上げられることが増えました。

メディアで語られるカスタマーハラスメントは、中高年者によるものが多い印象ですが、実態を見てみると中高年者に限らず、私たちの身の回りで起きている事象だと思います。

たとえば、小売業の店員に対して「あなたの年齢はいくつ?」と執拗に聞く行為や、「お前新人だろ!」と罵倒するシーンは、日常的に起きているのではないでしょうか。

カスタマーハラスメントとは、相手に対して精神的な攻撃をおこない、人格を否定、相手が提供していないサービスを過剰に求めて、無理に複数回に渡ってサービス提供を求めることを指します。

カスタマーハラスメントは対社内ではなく対社外で起きることなので、「こういうことはハラスメントになるから気を付けてね」と、注意喚起を促すことが困難です。

改正労働施策総合推進法の中で、カスタマーハラスメント対策が義務化ではなく注意喚起に留まっているのは、こういった背景があるからでしょう。


ーカスタマーハラスメント対策が義務化されていない中で、なぜヌーラボでは表明文を出したのでしょうか?


橋本さん
カスタマーハラスメントを予防することが、従業員と自社サービス・取引先のお客様を守ることになるからです。そのために、会社としての考えを発信しておきたかったのです。

繰り返しになりますがカスタマーハラスメントは対策が難しいものです。そこで、先に会社としての表明を出すことで、少しでも発生を減らしたいと考えています。

私たちはサブスクリプションモデルのサービス提供事業者なので、大前提として購入していただいたらお客様とのお付き合いが終わるようなビジネスとは違い、購入していただけたお客様と長期的にお付き合いをしていくことで私たちの価値を最大化できます。また、そうしていきたいと思っています。

その中で、カスタマーハラスメントをしてくる方とは、長期に関係性を保つことは難しいですよね。

その他にも、カスタマーハラスメント対策に関しては次の論点があると考えました。

  • ①カスタマーハラスメントをする人は、自分がハラスメント行為をしているとは気付いておらず、自分が言っていることは正しいと考えている
  • ②カスタマーハラスメントが1件でも発生すると、対応した従業員の仕事や、取引先の顧客全体に悪影響がある

ひとつ目に、カスタマーハラスメントをする人は正義感で物言いする方が多いということです。

これはもちろん間違った正義感なのですが、カスタマーハラスメントをしている本人は良かれと思って発言をしているため、お互いの理解をすり合わせることができずにハレーションが起きやすいのです。

ふたつ目に、カスタマーハラスメントが及ぼす悪影響の範囲が大きいことが懸念だったことです。

お客様からのクレームがたとえ100件に1件だったとしても、窓口対応しているカスタマーサポートはかなり精神を疲弊してしまいます。

さらに、飲食店で隣の席のお客様が大きな声でスタッフにクレームを言うシーンを思い浮かべてください。クレーム対応をしているスタッフだけではなく、周囲にいるお客様にも迷惑がかかってしまいますよね。これはオンラインで完結するサポートでも同様だと思います。

たった1件のカスタマーハラスメントが、自社の従業員にも、取引をしている別のお客様含め会社全体に悪影響を及ぼす可能性があります。

なので、カスタマーハラスメントが起きてから動くのでは遅く、予防することが大事なのです。

これらの論点から、有事の際に会社としての姿勢をすぐ示せるよう、エビデンスとして今回の表明を出すことを決定いたしました。

「良い会社」という評価が欲しくてカスタマーハラスメント対策を表明したのではない

ー今回、どのようなカスタマーハラスメント対策を策定されたのか、その詳細を教えてください。


橋本さん
まずは、カスタマーハラスメントが起きた際に相談できるホットライン(通報窓口)があることを改めて周知しました。今までも設けてはいたのですが活用されたことがなかったためです。

また、社内のカスタマーハラスメント対応するフローを作成し体制を強化しています。

対応フローの中にはメンバーの上長(課長・部長・チーム長など)をアサインしています。今後は、社外の専門家にカスタマーサポートのメンバーが直接相談できる外部の通報窓口も用意する予定です。

この窓口に通報したあとは、報告した内容がハラスメントかどうかを確認して、最終的に社内でどう対応するか検討を進めます。

ハラスメントは、主観が入るので線引きが非常に難しく、お客様に対して「あなたカスタマーハラスメントをしましたよね?」と聞いても「間違った正義感」のバイアスがあるので、話し合いは平行線になってしまいます。

落としどころとしては「お客様のサポートを止めるかどうか」で判断をする予定です。


ーカスタマーハラスメント対策をつくるにあたって、どのようなポイントを意識したのでしょうか?


橋本さん
重要なのは、“カスタマーハラスメントをしたらサービスのサポートに支障が出る”という、会社としての姿勢を示すことです。

カスタマーハラスメントは社会問題であり、こういったことを社会全体で声を上げていく必要があると考えています。

ひと昔前は、お客様は偉い立場にあり、どのような要望にも否が応でも対応しなくてはなりませんでした。しかし今後は、自社の従業員を保護する観点から、過剰なおもてなしは排除していくべきでしょう。

もう1点、カスタマーハラスメント対策の件でお伝えしたいことは、「良い会社になるために今回の方針を出したのではない」ということです。

経営者の立場としては、経済的に無駄なことは省かなくてはならないと思っています。

その“無駄なこと”のひとつに、「過剰にお客様をもてなすこと」があると思います。お客様の無理な要望に応えてサービス残業をすること、無駄なおもてなしのせいでサービス提供コストがかかりすぎてしまうこと。

これらの「理にかなっていないおもてなし」は、経済合理性を考えると、削減しなくてはならないのです。“過度なおもてなし”をなくし、無駄を省き経済を回すことは、働き方改革のひとつと言えるでしょう。

橋本さん実は、私たちがカスタマーハラスメントについてのプレスを出した後、「ヌーラボさんは良い会社だね」という反響を多くもらいました。

しかし、私たちは良い会社だと思われるためにカスタマーハラスメントの方針を表明したのではありません。大切な従業員が、精神的な問題で疲弊をして会社の利益が落ちてしまうことを危惧しているのです。

だから、良い会社になるためではなく、ある意味では「しっかり儲けるため」に、「経済的に合理的であるということを多くの方に知ってもらい、賛同される企業様に真似していただくため」に方針を発表したのです。

本来の正しいお客様に使うべき時間を、たった1回のカスタマーハラスメントに持っていかれることがとても嫌ですし、なにより社員に嫌な思いをさせたくない。これは創業したときからまったく変わらない気持ちです。

ですので、先ほども申し上げた通り、カスタマーハラスメントに耐えて対応することは“過度なおもてなし”であり、会社に経済的な損失をもたらします。

それを防ぐために、カスタマーハラスメント予防策として表明を出しました。

もちろん経済的な側面以外にも、「カスタマーハラスメントで人が傷ついている」ことに対して大きな疑問を持っていましたから、カスタマーハラスメントを見過ごしてはいけないという思いを社外にも発信したいと思いました。

<ヌーラボ カスタマーハラスメントの定義>  

2020年6月1日に会社法上の大企業に対して施行となった改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が定義する6種のハラスメント「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」に則り、下記についてを想定。


ー今回のカスタマーハラスメント策定にあたり苦労した点はありますか。


橋本さん
お客様に「ハラスメントをしないでください」と直接的に捉えられないような表現をすること、会社がなぜカスタマーハラスメントの方針を表明したのか背景を伝える点で苦労しました。

カスタマーハラスメント対策の書き方によっては、「本当にサービスを利用していただきたいお客様にも嫌がられるのではないか」という懸念がありました。

「カスタマーハラスメントは嫌ですよね、お客様とともに頑張りたいです。お客様と一緒にサービスを作っていきます」というように、ヌーラボのスタンスを伝えるよう心掛けました。

また、カスタマーハラスメントはお客様と接点を持つカスタマーサポートだけの問題ではありません。ヌーラボのサービスの開発メンバー、営業、カスタマーサポート全員に関わることだと考えています。

そのため、「お客様VSカスタマーサポート」ではなく、「お客様に対するサービス提供者」としての立ち位置でメッセージを伝えました。


ーカスタマーハラスメント対策を策定した結果、社内外で起きた変化ついて教えてください。


橋本さん
想像以上にカスタマーハラスメントのリリースを多くの方にシェアいただいたので、ヌーラボがどういう考え方の会社か周囲に伝わるきっかけになったと思います。

そして、カスタマーサポートのメンバーからは、「会社が発信してくれたことによって精神的な支えができた」という意見ももらいました。

このリリースを出したことで、成果が出たかどうかが重要ではありません。結果ではなく、「カスタマーハラスメントをとにかく起こさないこと・生み出さないこと」が大事なんですよね。

カスタマーハラスメント対策を表明することで、100あったものが0になるわけではなく、もともと少なかったものをキープして、予防できる方が良いと考えています。

今回はとくに、Twitterでのシェアに対して「すばらしい、いい会社」とコメントいただくことが多かったのですが、何度も言うように「良い会社」と見せるために発信したのではありません(笑)。


ーありがとうございます。最後に、今後に向けてブラッシュアップしていきたいことをお聞かせください。


橋本さん
まずは社内の体制構築を進めていきたいと思います。そして、お客様とのより良好な関係を追求していきたいですね。

体制構築としてカスタマーハラスメントに関する社内教育を実施して、会社として「品格良く」お客様対応ができるようブラッシュアップしていきたいです。

その他にも、パワハラ防止法に含まれていなかったインターン生向けのハラスメントについても考えていきたいです。

そして、社内に向けて教育・発信をするだけではなく、積極的に社外にもメッセージを発していきたいと思っています。

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