「介護離職」は従業員だけでなく企業にとってもデメリット|離職回避のために今すべきこと |HR NOTE

「介護離職」は従業員だけでなく企業にとってもデメリット|離職回避のために今すべきこと |HR NOTE

「介護離職」は従業員だけでなく企業にとってもデメリット|離職回避のために今すべきこと

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※本記事は、株式会社LIFULL seniorの小菅秀樹さんより寄稿いただいた記事を掲載しております。

初めまして。日本最大級の老人ホーム検索サイト「LIFULL介護(ライフルかいご)」の編集長、小菅秀樹(@kosugehideki)と申します。

小菅 秀樹|株式会社LIFULL senior LIFULL介護(ライフルかいご) 編集長

横浜市生まれ。老人ホーム・介護施設紹介業で主任相談員として1500件以上の施設入居相談に対応。入居相談コンタクトセンターの立ち上げ、マネジャーを経て、現在は日本最大級の老人ホーム・介護施設検索サイト「LIFULL介護(ライフルかいご)」の編集長。「メディアの力で高齢期の常識を変える」をモットーに、介護系コンテンツの企画・制作、寄稿、セミナー登壇などを行う。趣味はバイクツーリング、筋トレ、ウィスキー。

私は、高齢者の介護に関するコンテンツを制作したり、介護業界の状況をウォッチしたりしていますが、その中で最も大きな問題だと感じていることが、「望まない介護離職」です。

親への介護は40-50才代から始まることが多いですが、このベテラン層に離職されることは、企業にとっても大きな損害となります。

しかし、もし介護について人事担当者の皆様が正しい知識を持つことができれば、このような問題を少しでも回避することができるのではないでしょうか。

そこで今回は、介護離職の現状や従業員にとって介護が始まると負担になることについてご紹介しながら、介護離職をしてはいけない理由と、人事担当者の皆様ができる対策について解説します。

1. 介護離職は年10万人!男性も増加傾向に

図表出典:2019 介護離職の現状と課題 スライド4

そもそも介護離職とは、家族の介護を理由に仕事を辞めることであり、現在の介護離職者の数は年間10万人にも上ります。

政府は介護離職ゼロを掲げ公的介護施設の拡充、相談窓口の設置や企業向けマニュアル等の整備を進めていますが、抜本的な解決には至っておらず、離職者数も10年以上横ばいの状態です。

これまでは、親に介護が必要となった際に女性が離職するパターンが多くみられました。

しかし、最近は「自分の親の介護は自分でみる」という風潮もあり、男性が離職する割合も徐々に増加しています(2017年の東京商工リサーチによると2万人以上)。

これからは、男性も「介護とは無関係」と捉えるのではなく、自分事として捉える必要があります。

2. 介護はいつまで続く?介護にかかる期間とお金 

それでは、具体的に介護はいつまで続くのでしょうか。また、どれくらいのお金が掛かるのでしょうか。

生命保険文化センターが実施した介護経験者への調査によると、介護にかかる期間とお金については、以下の表のようになっております。

図表出典:生命保険文化センター「介護にはどれくらいの年数・費用がかかる?」

平均的な介護期間は4年7カ月、そして毎月の介護費用は平均7万8,000円という結果となっています。

これはあくまでも平均の値ではありますが、この期間と費用を掛け合わせると総額400万円以上にもなることがわかります。

また、実際には「10年以上も介護をした」という割合が14.5%。「毎月15万円以上もかかった」という割合も15.8%いることから、この介護にかかる費用を親の年金や貯蓄だけでまかなうことはとても難しいことがわかります。

つまり、介護を理由に離職してしまうことは、従業員にとって大きな経済的ダメージになるのです。

介護離職をしてはいけない理由
離職者のリスク

介護離職経験者の平均年齢は49.4歳(令和元年度「仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」スライド11より)であり、住宅ローンをかかえたり、ちょうど子供の教育費にもお金がかかったりする時期となります。また、一度離職して数年のブランクがあると再就職もしずらく、キャリアが分断されてしまいます。

企業側のリスク

マネジメント層やベテラン社員が離職することは、業績に大きく影響します。業務のノウハウが共有されておらず、属人的な会社ほど深刻です。全産業で人手が足りず、人材確保は急務となるでしょう。定年が引き上げられている今、企業側も離職者が復帰しやすいように、長期的な視点で制度を整える必要があります。

3. 介護者にのしかかる三つの負担

それでは、介護をする人は実際に何が大変なのでしょうか。

介護者にのしかかる負担は、「肉体的負担」「精神的負担」「金銭的負担」の三つに分類されます。 

3-1. 肉体的負担

親の身体機能の低下により、トイレや入浴など身体介助が必要になる場合があります。

特にトイレ介助は一日複数回発生し、親の身体を支えるための体力・筋力が必要です。

これが夜間に及ぶ場合は睡眠を妨げられ、寝不足で体力も回復しないまま翌日を迎えることもあることでしょう。

3-2.精神的負担

「親のためにも自分が頑張らないと」と自分を追い込んでしまう方も多くいます。

たまにしか顔を出さない親戚から「もっとこうした方がいいんじゃないか」と小言をいわれることもあることでしょう。

「いつまで続くのか」と途方に暮れ、精神的負担の蓄積により、“介護うつ”になる人もいます。

このようなことは介護をしていれば誰にでも起こる可能性がありますので、介護者がしっかり休息できる時間を確保することが大切です。

3-3. 金銭的負担

「親の介護は親のお金で」が基本ではありますが、毎月介護費用だけで数万円を捻出することは容易ではありません。

親の所得や貯蓄だけで生活できない場合は、子どもが金銭的な援助をする場面もあるので、誰かに負担が偏っていないか、不公平感の出ないように話し合って決めていく必要もあります。

介護離職すると介護負担はむしろ増える!

従業員の中には「仕事を辞めて親の介護に専念すれば負担は減るのでは?」と考える人もいるかと思います。しかし、上述した三つの負担(肉体的、精神的、経済的)については、「かえって負担が増えた」という調査結果(令和元年度「仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」スライド11)が出ています。 離職することで収入が途絶え、経済的な負担が増えるのは当然ですが、親と関わる時間が増えるほど肉体的、精神的負担も増えていきます。収入が減少することで「介護サービスには頼らず自分が頑張ればいい」といった意識も働きがちなので、これが肉体的な負担を増加させる一因といえるでしょう。

4. 介護は「始まる前から備えておく」ことが大事

このように負担の大きな介護ではありますが、介護が始まる前から備えておくことで、その後の負担は大きく違ってきます。

たとえば、下記のような事柄を事前に考えたり話し合ったりすることが大事ですので、人事担当者としては従業員の考えるきっかけを設定することができると良いでしょう。

  • 親が倒れたら誰が介護をするか
  • 介護サービスの使い方を知っているか
  • 兄弟で介護の役割分担は決めているか
  • 親の所得や貯蓄で介護費用はまかなえるか
  • 介護に関する会社の福利厚生制度は確認しているか

また、既に多くのビジネスパーソンは、親の介護に対して漠然とした不安を抱えています。

人事担当者として従業員が抱える「介護の不安とは何なのか?」を知っておきましょう。

2017年に実施された調査(2017年「介護と仕事の両立支援のポイント」スライド7)によると、不安項目の上位には下記のようなことが占められています。

「介護保険制度の仕組みがわからない」 「介護がいつまで続くか分からない」 「介護と仕事を両立する仕組みがわからない」

これらは多くの方に当てはまるので、裏を返せば、これらに備えておくことで不安は和らぎ、親の介護に向き合うことができるようになります。

そのため、介護者がまずやるべき最初のステップは、次の3つとなります。

①老いていく親の状態変化を見逃さない。 ②相談機関を確認する。 ③介護に関する就業規則をチェックする。

まずは、上記のようなことから始めていきましょう。

ここからは、介護をする上での具体的なポイントについて確認していきます。

4-1. 親の状態変化を見逃さないためには

「フレイル」という言葉をご存知でしょうか。フレイルとは「虚弱」の意味で、要介護一歩手前の身体状態のことを言います。

人は、体力や筋力などの身体機能の低下、そして認知機能が低下することで認知症の発症リスクが高まります。親とコミュニケーションをとる中では、このような状態変化を見逃さないことが重要です。

フレイルは、健康的な生活を送ることで回復します。

しかし、まず予防することが大事なので、栄養のある食事、一日30分程度の歩行、月に一回以上他者と交流することなどをおこなうと良いでしょう(津島市民病院プレスリリース)。

また、特に食事で重視したいのは筋力維持に必要なタンパク質であり、肉や魚を意識的に取ることです。魚の水煮の缶詰などを常備しておくと便利かもしれません。

4-2.異変を感じたら早めに相談を

以上のように、親の変化を見逃さないことがとても大事ですが、離れて暮らしているのであれば、5分程度の短い電話でも構いませんので、毎日連絡を取り続けることをおすすめします。

ポイントはお互いが負担にならないことで、普段の連絡はメールやLINEでおこない、電話は週に一度といった頻度でも良いと思います。継続することが重要です。

そして、少しでも親の異変を感じたら、その様子をメモしておくようにしましょう。様子の変化を時系列で振り返ることができるからです。異変を感じた場合は、早めに専門機関に相談するように、従業員に伝えましょう。

4-3.相談先をあらかじめチェックする

親の健康に関する相談は、まず住所地にある役所の窓口(高齢福祉課など)か、地域包括支援センター(高齢者の健康・福祉の専門機関)に連絡するのがベストです。

すぐに対処が必要ではない場合でも、早めに相談することで、次に何をすれば良いか助言してもらうことができます。

これらの窓口や施設は、「親の住所地 地域包括」で検索すれば、すぐにヒットするはずですので、将来的に介護サービスを利用する可能性も考慮し、介護保険の申請方法などと合わせて確認しておくように伝えると良いでしょう。

4-4.「親の介護は子どもの努め」と思わなくて良い

従業員の中には、「親の介護は子どもの努め」と思い込んでいる人も多いかもしれません。

確かに、一昔前はそれが常識とされていました。しかし、現在は必ずしもそう捉える必要はありません。

昔は親と同居して生活することが一般的でしたし、人の寿命も介護期間も短かったため、家族介護が実現できました。 

しかし、現代は核家族で、親と離れて暮らすことも全く珍しくありません。

人生100年時代と言われるようになって久しく、寿命とともに介護期間も伸びているだけでなく、共働きも当たり前になるなど、時代とともにあらゆる価値観が変化しているのです。

家庭によって介護に捻出できるお金も違えば、必要なサービスも異なります。

「できる部分はサポートする」「できない部分はプロの介護サービスに頼る」といったように、ある程度割り切ることがとても重要です。

親は介護で子供が苦しむことを望んでいませんので、日頃から親とコミュニケーションを取りながら情報収集をおこない、来るべき介護に備えさせるようにしましょう。

5. 最後に

介護がはじまった従業員に降りかかる問題、心情など少し垣間見えましたでしょうか。

介護は突然はじまります。人事担当者の皆様には従業員の介護と仕事の両立ができるようサポートしていただきたいと思います。

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