スーパーフレックスとは、コアタイムの定めがないフレックスタイム制のことです。出社しなければならない時間帯がないため、従業員がより柔軟に出社日や出社時間を決めることができます。スーパーフレックスのメリットや導入事例を紹介します。
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「フレックスタイム制度を実現するための制度解説BOOK」をご用意しました。
「フレックスタイム制の導入手順を詳しく知りたい」「清算期間・残業の数え方や勤怠管理の方法を知りたい」という方は、ぜひダウンロードしてご覧ください。
目次
1.スーパーフレックス制度とは?
スーパーフレックス制度とは、「労働者が1日のうちで必ず働かなければならない時間帯」であるコアタイムが定められていないフレックスタイム制のことを指します。企業によって「フルフレックス制度」「完全フレックスタイム制度」と呼ぶ場合もあります。
スーパーフレックス(フルフレックス)制度は、通常のフレックスタイム制からコアタイムを取り除いた制度です。
参考:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省
1-1.フレックスタイム制度との違い
スーパーフレックス(フルフレックス)制度とフレックスタイム制度の大きな違いは、「コアタイムの有無」です。
例えば、フレックスタイム制度を導入している企業でコアタイムを10時から16時までに設定している場合、従業員は遅くとも10時までに出勤し、16時以降に退勤しなければなりません。
一方、スーパーフレックス制度にはコアタイムが存在しないため、業務状況に合わせて自身の裁量で好きな時間に出勤と退勤ができます。
また、労働基準法34条の一斉休憩の原則から、フレックスタイム制ではコアタイムに休憩時間をとりますが、スーパーフレックス(フルフレックス)制度では難しいため一斉休憩の適用除外を労使協定で結ぶ必要があります。
1-2.裁量労働制との違い
スーパーフレックスタイム制度と裁量労働制は、始業・終業時刻を従業員一人ひとりにゆだねられているという意味では、似た特徴をもちます。ただし、両制度には大きく分けて「対象職種が限定されているか」「報酬の支払い方」の2つの観点に違いがあります。
スーパーフレックスタイム制はどの企業・職種でも導入が可能ですが、裁量労働制は労働時間が変動しやすい、専門性が高い業務・事業場外での業務・マーケティングや企画などの業務などを担う職種など法律で定められた特定の職種のみ適用が認められます。
また、スーパーフレックスタイム制度は実労働時間によって報酬が定められますが、裁量労働制は実労働時間に関係なく、みなし労働時間で報酬が支払われる点も大きな違いの一つです。
2.スーパーフレックス制度の導入方法
通常のフレックスタイム制と同様に、スーパーフレックス制度を導入するには就業規則への記載と労使協定の締結の2点が必要です。
とくに出退勤の時間を自由に決められるスーパーフレックス制度では、労働基準法第34条の規定どおり、休憩時間を一斉に与えるのが困難です。休憩時間のルールをはじめとして、労働組合または労働者代表との話し合いの場を設けましょう。
ここでは、スーパーフレックス制度を導入するまでの流れを解説します。
2-1.スーパーフレックス制度の概要を就業規則に記載する
スーパーフレックス制度の導入にあたって、まず制度の基本的な枠組みを就業規則に記載しましょう。労働基準法第32条の3の定めにより、就業規則に「フレックスタイム制が適用される従業員の始業および終業の時刻については、従業員の自主的決定に委ねるものとする」と記述する必要があります。[注2]
また、スーパーフレックス制度では従業員に一斉休憩を与えるのが困難なため、休憩時間のルールも就業規則に記載する必要があります。例えば、就業規則に「休憩の取得は従業員の自主的決定に委ねる」と記載し、休憩の与え方を明記しましょう。
なお、休憩時間を一斉に与えない場合、労働基準法施行規則第15条の規定により、労使協定の締結が必要になります。
スーパーフレックス制度に関する就業規則の例
厚生労働省はフレックスタイム制度の導入の手引きを公開しており、就業規則の記載例を掲載しています。
フレックスタイム制度と異なりスーパーフレックス制度は、コアタイムとフレキシブルタイムを設ける必要がないため、下記のように「適用者の範囲」「清算期間および総労働時間」「標準労働時間」などを規定することが望ましいでしょう。
(適⽤労働者の範囲)
第○条 第○条の規定にかかわらず、営業部及び開発部に所属する従業員にフレックスタイム制を適⽤する。
(清算期間及び総労働時間)
第○条 清算期間は1箇⽉間とし、毎⽉1⽇を起算⽇とする。
② 清算期間中に労働すべき総労働時間は、154時間とする。
(標準労働時間)
第○条 標準となる1⽇の労働時間は、7時間とする。
加えて、始業・終業の時刻を労働者の決定にゆだねる旨を記載する必要があるため、そちらも下記のように明記しましょう。
(始業終業時刻)
第○条 スーパーフレックスタイム制が適用される従業員の始業および終業の時刻については、従業員の⾃主的決定に委ねるものとする。
2-2.労働組合または従業員代表者と労使協定を締結する
就業規則への記載に加えて、スーパーフレックスの制度内容について労使協定を締結する必要があります。労使協定を締結する際は、労働組合または従業員代表者と次の6つの項目について定める必要があります。[注2]
- 対象となる労働者の範囲
- 清算期間
- 清算期間における総労働時間
- 標準となる1日の労働時間
- コアタイム(※任意)
- フレキシブルタイム(※任意)
コアタイムが存在しないスーパーフレックスの場合、コアタイムの開始時間や終了時間について労使協定を定める必要はありません。
ただし、深夜や早朝の時間帯に従業員を働かせない目的で、フレキシブルタイム(自由に出社してよい時間帯)の時間帯を指定する場合は、労使協定の締結が必要です。
清算期間が1ヵ月を超える場合は労働基準監督署長へ届け出る
清算期間とは、フレックスタイム制度において労働者の勤務時間を管理し、実労働時間を算出する単位です。
一般的には1ヵ月で設定されますが、導入企業の状況によっては2ヵ月や3ヵ月といった長期間を設けることも可能です。この場合、清算期間が1ヵ月を超えるため、管轄の労働基準監督署長に届け出る義務があります。
3.スーパーフレックス制度のメリット
ここまでスーパーフレックスと裁量労働制やフレックスとの違い、導入方法について解説しました。ここからは、スーパーフレックス制度を採用することで発生するメリットを紹介します。
3-1.柔軟な働き方が可能となる
スーパーフレックス制度では、コアタイムがないため、働く時間を従業員自身が自由に選択できます。これにより、朝の通勤ラッシュを避けることができるため、ストレスを軽減し、より快適な勤務環境を実現できます。
子育てや介護などのライフスタイルに合わせて働くことができ、さまざまな事情を抱える従業員にとっても非常に助かる制度です。この柔軟性は、従業員が仕事とプライベートを両立させるための大きな助けとなり、結果的に社員のモチベーション向上にも寄与します。
3-2.優秀な人材の採用と離職率低下に効果がある
スーパーフレックス制度を導入することで、生産性を重視して柔軟に働きたい優秀な人材にとっても、魅力的なアピールポイントとなります。既存の従業員に対する離職率低下にもつながるでしょう。
スーパーフレックス制度を採用している企業になることで、従業員のプライベートを尊重する側面や、計画性やタスク管理能力が高い従業員が在籍しているという印象を与えられることもメリットの一つでしょう。
この制度により、従業員は自らのライフスタイルや事情に応じた働き方を選ぶことができ、働きやすさが向上するため、仕事に対する満足度も高まります。
さらに、企業の労働環境が柔軟であることは、求職者からの注目を集め、採用活動においても大きなアドバンテージとなります。
このように、スーパーフレックス制度は人材の採用や離職率の改善だけでなく、企業全体のイメージアップも期待できます。
3-3.生産性が向上する
スーパーフレックス制度では、それぞれの従業員が自分の意思で始業時間を選べます。そのため、例えば海外との会議などで前日夜遅くまで仕事をしていても、翌日の出社時間を遅らせることで睡眠などの休息時間をしっかり確保できます。
また、通勤ラッシュが苦手な人の場合は、ラッシュ時間帯を避けた始業時間にすることで、余計なストレスを感じることなく仕事を始めることができるでしょう。
このように、スーパーフレックスでは、業務時間の制限によって生じるストレス要因を減らすことができ、生産性の向上につながります。
3-4.長時間労働の解消につながる
スーパーフレックス制度では、総労働時間の範囲内であれば実労働時間の調整が可能です。
そのため、定時制で起こりがちな「やるべき仕事が終わっているのに退勤できない」「周りが残業しているから帰りづらい」といった事態を避けられます。
企業にとっても無駄な長時間労働を防げぎ、残業代を削減できるというメリットがあるでしょう。
4.スーパーフレックス制度のデメリット
このようにスーパーフレックス制度は、従業員にとっても企業にとっても大きなメリットとなり得る制度です。ただし、適切に運用ができない場合、デメリットのほうが大きくなる可能性もあるため、注意が必要でしょう。
あらかじめデメリットとして発生しやすいポイントを理解し、自社に適用可能であるか見極めることが大切です。
4-1.取引先とのやりとりや社内会議の時間調整がしにくい
スーパーフレックス制度の場合、フレックスタイム制度とは異なりコアタイムがないため、より従業員同士の偶発的なコミュニケーションが起きにくい環境となります。そのため従業員一人ひとりの関係性が構築しづらく、職場の一体感が低下するかもしれません。
ほかにも、それぞれが異なる勤務時間帯に働くので会議のスケジュール調整が難しく、重要な意思決定の遅れや情報の行き違いが発生するリスクが高まります。
また、クライアントとの商談や打ち合わせも、都合の良い時間が見つけられずにスケジュール調整が煩雑になることが予想されます。
このような結果、企業によってはコミュニケーションの効率が落ちる懸念が出てきますので、事前に連絡手段や会議の進行方法を工夫しておくことが求められます。
4-2.有給の消化率が低下しやすい
勤務時間を自身で選択できることから、プライベートや体調に応じて柔軟な対応が可能となる制度がスーパーフレックス制度です。
ただし、その分年次有給休暇の取得割合が落ちてしまう可能性が考えられます。年次有給休暇の取得は、法律により義務付けられているため、取得を促す対応が必要となるでしょう。
特に、従業員が自分の時間を自由に管理できる環境においては、仕事が忙しいときには休暇を取りにくくなる傾向があります。その結果、仕事が落ち着いている時期にしか休めない、または「休暇を取る余裕がない」と感じるこ機会が多くなるかもしれません。 このため、企業は社員が有給を計画的に取得できるような施策を講じる必要があります。
例えば、有給休暇取得の計画をあらかじめ立てるた、または定期的に休暇取得についてのリマインダーを送信するなどが考えられます。
スーパーフレックス制度を活用しつつ、年次有給休暇の消化を促す仕組みを整えていくことが、企業としての責任とも言えるでしょう。
4-3.勤怠管理が煩雑化しかねない
スーパーフレックス制度を導入することで、従業員一人ひとりの出退勤の時間にバラつきが生じ、労働時間の集計・管理が煩雑化しやすくなるでしょう。
労働時間の集計に誤りがあると、給与計算にも反映され、賃金未払いへとつながるため注意が必要です。
また、各従業員が異なる時間に働くことになるため、勤怠管理システムなどを導入せずに手で管理するのは困難といえます。
労働基準法に基づく適正な労働管理が難しくなった場合は、企業としての責任が問われかねません。
スーパーフレックス制度を導入する際には、クラウドベースの勤怠管理システムを活用することで、リアルタイムでの労働時間の把握が可能になるほか、正確な給与計算ができるようになります。
4-4.顧客対応や店舗の営業時間などの観点から導入しにくいケースもある
スーパーフレックス制度は柔軟な働き方を提供しますが、顧客対応や店舗の営業時間を考慮すると、導入が難しい場合もあります。
例えば、日中に顧客と直接やり取りする必要がある職場や、店舗が営業している時間帯は従業員がその場にいなければならない環境では、制度がうまく機能しない可能性があります。
このような場合、過度にスーパーフレックス制度に固執せず、各部署や組織の特性に応じた適切な勤務体系を導入することが望ましいでしょう。
5.スーパーフレックス制度を導入する際のポイント
こまでスーパーフレックス制度を導入すると陥りやすいメリットとデメリットを解説しました。
ここからは、スーパーフレックス制度を導入するうえでの注意点や、デメリットを発生させないための対応策を紹介します。
5-1.顧客と連絡がとれる体制に整える
顧客との連絡体制を円滑にするためには、事前に連絡手段を整備することが重要です。
例えば、社内チャットツールや共有カレンダーを活用することで、各従業員の勤務状況をリアルタイムで把握できるようになります。
また、各チームのリーダーが定期的にスケジュールを確認し、顧客のニーズに応じた対応を予め話し合うことで、急な連絡が発生した場合でも素早く対応できる体制を整えられます。
このような準備を通じて、顧客からの信頼を保ちつつ従業員の柔軟な働き方を実現させましょう。
さらに、遠隔地での仕事や出張の場合にも電子メールやビデオ会議を駆使することで、顧客に対するサービスの質を維持できます。
5-2.クラウドの勤怠管理システムで勤務時間を正確に把握する
給与計算との連携が可能な勤怠管理システムを導入すると、従業員の出退勤の打刻集計・管理など煩雑化した業務に対応する手間が発生しません。
勤怠管理システムを利用すれば、打刻データから労働時間の集計はもちろん、割増賃金や諸手当を含めた給与計算が自動で完結します。
また、管理者は従業員一人ひとりの労働時間をリアルタイムで把握できるため、マネジメントがしやすくなり、過剰な労働を防ぐことにもつながるでしょう。
さらに、クラウド型の勤怠管理システムは、従業員がいつでもどこでもアクセスできるため、リモートワークが進む現代において非常に利便性が高いです。
このようなシステムを導入することで、従業員は自己管理の意識を高めながら、自分に合った働き方を実現することが可能になります。
また、働き方の多様性が求められる中、労働時間の透明性を確保できるため、企業の信頼性向上にも寄与するでしょう。
5-3.コミュニケーションの機会を設ける
社員同士のコミュニケーションは、社内SNSツール・オンライン会議ツール等を積極的に活用して、促していくことが重要でしょう。
業務上の情報共有はもちろん、他にも雑談ができるスペースを設けるなど、従業員一人ひとりが発言しやすい心理的安全性の確保が必要となります。
さらに、定期的に対面でのミーティングやチームビルディングイベントを開催することも、社員間の連帯感を高めるために効果的です。
互いの近況や業務内容を共有する機会を持ち、信頼関係を強めることで、業務の効率化やチームワークの向上にもつながります。
5-4.残業代の計算に注意する
スーパーフレックス制度では、清算期間中の総労働時間を越えた場合は時間外労働となるため、残業代が発生し、超過時間分の残業代を対象となる従業員に支払います。清算期間が1ヵ月を超える場合については、当月の実労働時間の週平均が50時間を超えた場合も残業となります。
さらに、22時~翌5時までの勤務は深夜勤務にあたり、25%以上の深夜割増が必要です。なお、法定休日に出勤した場合も35%以上の割増賃金が必要となります。
5-5.法定労働時間を超える場合は36協定を締結する必要がある
スーパーフレックス制度では、法定労働時間を超える労働が発生する場合、あらかじめ36協定を締結する必要があります。
従業員の労働時間を適切に管理するためにも、事前に協定を結んでおくことが重要です。
6.スーパーフレックスに関するよくある質問
ここからはスーパーフレックス制度に関するよくある質問を解説します。
スムーズに運用がおこなえるよう、以下の点をあらかじめ確認しておきましょう。
6-1.スーパーフレックスで中抜けはどう取り扱う?
そもそも中抜けとは、労働者の都合で労働時間の途中に一旦離席することを指します。スーパーフレックス制度で中抜けが発生した場合、清算期間内で所定の労働時間を満たしていれば問題ないため、給与計算にて賃金控除は発生しません。そのため通常の給与支払いで問題ないでしょう。
清算期間内で中抜けした分の労働時間を補えない場合には、法定労働時間の総枠を超えない範囲で翌精算期間へ不足労働時間分を繰越し対応することが可能です。
こちらも翌清算期間で上乗せ分を合わせた総労働時間を満たしていれば、賃金の控除の計算は必要ありません。
控除の対応をとる際には、給与を清算期間の総労働時間で割り1時間単位の賃金を出してから不足時間をかけあわせ、合計の賃金から不足労働時間分の給与を控除します。
また時間単位の年次有給休暇として処理することも可能です。ただしその際には、事前に時間単位の年次有給休暇取得の旨を、労使協定で締結しておく必要があります。
6-2.スーパーフレックスに遅刻・欠勤の概念はある?
スーパーフレックス制度に、遅刻の概念はありません。なぜならコアタイムがなく、始業・終業時間は従業員一人ひとりが自由に決定できるからです。
一方で欠勤の概念は存在します。労働時間は自由に決められますが、労働日を変更できる権限はないため、欠勤としての処理が発生します。
ただし、清算期間中に総労働時間を満たしている場合には、「欠勤控除」は不可能であるため注意が必要です。
6-3.スーパーフレックス制度の目的とは?
スーパーフレックス制度の目的は、働き方改革を推進し、従業員が自身のライフスタイルやニーズに合わせた柔軟な働き方を実現することです。
この制度を導入することで、従業員は労働時間を自由に設定でき、仕事と私生活を両立させやすくなります。さらに、組織全体の生産性向上にも寄与することが期待されています。
7.スーパーフレックス制度とフレックスタイム制度の違いを知り、自社に合った働き方を選ぼう
スーパーフレックスは、出社しなければならない時間帯が存在しないため、清算期間内で定められている労働時間の範囲内で出社時間を自由に決めることができます。
スーパーフレックスを導入すれば、従業員のワークライフバランスを改善し、家庭の事情に合わせて働けるようになります。個々人がパフォーマンスを発揮しやすい時間帯に働くことで、生産性の向上や成果アップにつながるケースもあります。
スーパーフレックスと通常のフレックスタイム制の違いを知り、自社に合った労働時間制度を導入しましょう。
[注1]フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省